中小企業経営者なら知っておきたい! インフレ時代に資産運用が重要な理由
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本シリーズ記事の第3回では、法人契約による変額保険の賢い活用法をご紹介します。経営者の退職金準備や、インフレ・経営リスクなど、中小企業でよく聞かれる代表的な課題への対応策として、実務の中でどのように変額保険を活かせるのか、そのポイントを解説します。
中小企業の経営者にとって経営環境の変化はいつも悩みの種です。特に近年はインフレや原材料価格の上昇、賃上げや社会保険料の負担増、漠然とした将来不安など、様々なリスクと要因によって、会社と経営者自身の「お金」に関する悩みがより複雑になっています。
多くの中小企業では、経営者自身が「売上」「金融機関対応」「人脈」などの中心的な役割を担っています。そのため、経営者が突然亡くなる場合や、重病などで業務の継続が困難な場合、事業そのものが立ち行かなくなるリスクを常に抱えています。
このような事態に備えるためには、経営者の万が一の際の死亡保障の確保が不可欠です。生命保険で死亡保障を備えておくことで遺族への生活保障はもちろん、後継者の確保や当面の会社の資金繰りに充てることもできます。保障があることで企業に「安心」を残すことができます。
なお死亡保障の確保に際して、原材料費やエネルギーコスト、人件費など物価の上昇が年々続くこと(インフレ)により、資産の「実質的な価値」が目減りしてしまう可能性がある、という点には留意が必要です。
また物価上昇が続く状態、つまりインフレは、将来支払われる予定の役員退職金の価値の減少にも影響を及ぼす可能性があります。退職金準備をしていても、数年後に「想定よりも価値が下がっていた…」という事態は、今や珍しくありません。
このような漠然とした不安に備えるには、資産価値がインフレに強くなるような準備を整えるのが効果的です。変額保険は、保障機能を備えながらも保険料の一部を運用に回すしくみであり、運用実績が好調な場合は将来の解約返戻金額などが増えることで一定のインフレに対応する効果を見込むことができます。退職金という重要な資金を守る上で有効な選択肢の一つとなりえます。
こうした経営者が抱える様々な課題に対して、変額保険は“リスクへの備え”と“資産価値の保全”という二つの側面から解決策をご提示することが可能です。
経営上の不安や将来の資金計画に対して、法人で契約する変額保険には多くの可能性があります。
中小企業の主な経営課題と変額保険の活用法をまとめると、図表1のようになります。
| 経営課題 | 変額保険の活用法 |
|---|---|
| (1) 万が一のリスクに備えたい |
基本保険金額が最低保証される死亡保険金で、いざという時の資金を確保。 また、運用実績が好調な場合には保険金額に上乗せ分が生じることも |
| (2) 手頃な保険料で大きな保障を得たい | 定期型・有期型でコストを抑えて効率的な備え |
| (3) インフレに備えて、資産価値を守りたい | インフレに強い設計で、「実質的な価値の目減り」を回避 |
以下では、課題別の活用法を詳しく見ていきましょう。
経営者の急な病気や事故によって、企業の意思決定や財務に混乱が生じるケースは少なくありません。特に中小企業では、経営者が会社の“屋台骨”や“顔”となっていることも多く、事前の備えが重要です。
変額保険には基本保険金額の最低保証があるため、万が一の際にも一定額の死亡保障が確保される安心感があります。これにより、後継者への資金の引き継ぎや、借入金の返済、急な資金繰りなどに対応でき、「企業の存続を支える資金面の“セーフティーネット”」となります。
保険の保障額を手厚くしたい一方で、毎年の経費はできる限り抑えたい…そんな声に応えるのが、保険期間が限定される定期型・有期型の変額保険です。
これらのタイプは保険料を抑えて設計されているため、限られた期間で効率よく大型保障を確保することも可能で、とりわけ定期型の変額保険は、満期保険金の設定を無くすことで、さらに保険料が抑えられた商品になっています。
たとえば、経営者が「勇退するまでの20年後までは死亡保障を厚くしておきたい」といったニーズにも対応できます。
変額保険の大きな特徴の一つは、インフレに強い設計です(図表2参照)。定額保険と異なり、変額保険では運用実績に応じて将来受け取る金額が変動します。
つまり、インフレによって物価が上がっても(即ち、資産の実質的な価値が下がっても)、運用実績が好調ならそれを上回る解約返戻金や保険金が得られる可能性があるということです。
経営者自身の長期的な退職金の準備や、万が一の資金を確保するために、“実質価値”を守る選択肢としての活用が期待できます。
| 項目 | 定期積立預金 | 定額保険 | 変額保険 |
|---|---|---|---|
| 元本保証 | あり | あり* | 基本なし |
| 金利・運用収益 | 低い(固定) | 低い(固定) | 運用実績に応じて変動 |
| インフレ対応力 | なし | なし |
一定あり (運用実績によってカバーが可能) |
|
保障 (万一への備え) |
なし | あり |
あり (死亡保険金額の最低保証あり) |
| 資産形成効果 | あり | あり* | あり* |
* 商品や条件に一部制限があります。
経営者の退職に備えて、原資を計画的に積み立てておくことは、企業の“経営品質”を高めるうえでも重要です。
変額保険を活用すれば、経営者の万一の際の死亡保障とあわせて勇退時の退職金を準備することが可能です。長期間にわたって保険料を拠出しながら、運用実績が好調な場合は解約返戻金額の増加も期待できるので、元本割れのリスクはあるものの終身型や有期型は退職金原資としての積立に適しています。
ただし、変額保険はあくまで変動商品ですので、解約時期や市場環境によって解約返戻金額が大きく変動する可能性もあります。そのため、退職予定時期とのバランスや、保有期間を意識した設計が重要です。
これまで法人向け変額保険の活用法を課題別に見てきましたが、目的によって適した保険のタイプや留意点は異なります。図表3に代表的な活用目的と保険タイプとの対応関係を整理しました。
■図表3 活用目的別の変額保険の使い分け
| 活用目的 | 保険タイプ | 想定される効果 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| (1)経営者の万が一に備える | 終身型・有期型・定期型 | 社長の死亡時に事業資金を確保する | 途中解約時の解約返戻金額には最低保証がないこと |
| (2)保険料を抑えて大きな保障 | 有期型・定期型 | 手頃な保険料で大きな保障を得る | 途中解約時の解約返戻金額には最低保証がないこと |
| (3)資金準備 | 終身型・有期型 | 非常時に活用可能な積立機能がある | 長期分散投資によりリスクを抑えた運用を行うこと |
| (4)インフレ下の資産価値を守る | 終身型・有期型・定期型 | 資産運用を行うことで物価の上昇に備える | 短期的な値動きに左右されず長期的な視点をもつこと |
| (5)退職金の積立・運用 | 終身型・有期型 | 原資の準備 | 満期保険金額、解約返戻金額に最低保証がないこと |
法人で変額保険を導入する際は、保障内容や保険料だけでなく、契約目的や税務上の扱いなど、複数の視点から慎重に検討することが大切です。
導入にあたっては、契約目的や経営計画と照らし合わせながら、専門家と相談のうえで慎重に判断することが、より効果的な活用につながります。
【著者】
國村 年(くにむら みのる)
公認会計士・税理士・香川大学大学院客員教授・日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格者・戦略MG インストラクター
関西学院大学経済学部卒業。1996年から監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)、2007年から小谷野公認会計士事務所に勤務したのち、2011年に香川県高松市で國村公認会計士事務所開業。贈与・相続、事業承継、M&A・組織再編、棚卸のコンサルティングを中心に行っている。著書・執筆は、『誰も教えてくれなかった実地棚卸の実務Q&A』(中央経済社)など多数ある。
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