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就業不能保険のしくみと、傷病別に見た治療にかかる期間

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この記事は9分で読めます

長期にわたり社長が働けなくなったら、会社はどうなるのか。就業不能保険に詳しい保険ジャーナリスト森田直子さんに、経営者が働けなくなった場合のリスクやその備えについてシリーズで解説いただきます。


もしも経営者が就業不能という状況に陥ったら…?
社長が入院したり、退院後も自宅で長期的に在宅療養が必要となったりした場合に備えて、近年流行となっている「就業不能保険」のしくみと概要をわかりやすく紹介する。

また、傷病別に異なる治療に必要な期間も合わせて紹介する。この機会に、就業不能保険の特徴と賢い選び方のコツを理解しよう。


就業不能保険のしくみと違い

近年流行している「就業不能保険」であるが、実は商品ごとに、そのしくみに大きな違いがあることをご存じだろうか。 同じように見えて実は結構違っている、そんな各商品の違いをどのように見極めるかを、まずは紹介していく。

 

「就業不能保険」と「収入保障保険」は全く違う商品

「就業不能保険」を知る前に、「収入保障保険」という保険商品との違いについて、最初に説明しておく。名称だけ見ると意味が似ているので混同されるケースが非常に多いが、実は全く異なる商品だからである。

就業不能保険と収入保障保険の違い

就業不能保険 生存保険、病気やケガで働けない時の保険 (生きている時に受け取れる)
収入保障保険 死亡保険

上記の通り、「就業不能保険」は、生存している時に保険金を受け取れる。そして「収入保障保険」は死亡時に遺族が保険金を受け取る死亡保険である。


就業不能保険は、日本ではここ数年で登場してきた商品である。一方で、収入保障保険は数十年前からあり、「死亡時の(遺族の)収入保障」という意味で、この名称がついている。当時としては、まとまった死亡保険金を受け取る死亡保険との違いを明確にするために、こうした名称がつけられたものと思われる。

就業不能保険のしくみと違い

さて、いよいよ就業不能保険のしくみと各商品の違いを知るポイントを紹介していこう。


現在、「就業不能保険」は多数の保険会社で取り扱われており、20種類以上の商品がある。その細かい仕組みを探ると、同じ商品は一つとしてないような非常に分かり難い状況になっている。そのため、詳細まで検証するのは返って混乱の元にもなるので、ここでは商品を選択する際に基本となるポイントを3つに絞って紹介する。


その1.商品の種類


商品の種類は、大きく分けて2種類の商品に分かれる。

一つは「就業不能保険の単体商品」、そしてもう一つは「死亡保険と就業不能保険のセット商品」である。このセットの商品には、前述した「収入保障保険」とセットになっている、という商品もある。 就業不能保険を選ぶ時には、このどちらを選ぶのか、ということを最初に考えるといいだろう。


死亡保障が不要な人は前者を選ぶことになる。またこの機会に死亡保障も見直す際などには、後者の方が効率的となる。


その2.保険金の給付期間


就業不能保険の保険金を受け取れる期間には3つの種類がある。

(1) 2年、3年、5年など、決まった期間に給付を受けられる。


(2) 各保険会社が定める就業不能状態が続く場合に給付され、回復すると給付が止まる。


(3) 一度給付されると、保険期間の残存期間までずっと給付される。65歳または60歳満了の保険であればその年齢まで給付される(2年または5年などの保証期間がある商品もある)。死亡保険とセットの商品などにこのタイプがある。

それぞれにメリットもデメリットもあり、どれが良い、あるいは悪いとは一概には言えないものがあるが、例えば、年数や金額が決まっている方がわかりやすいと思う場合には(1)、なるべく効率よく選ぶなら(2)または(1)+(2)、死亡保障とセットにするなら(3)など、それぞれの目的に応じて選ぶ時の参考にしてほしい。また同じ(1)でも、保障額を高くも低くも設定できるため、保障内容によって利用目的も様々に活用できることになる。


また、就業不能保険は主に「働く世代の間の保障」を中心としており、とくに個人向け商品では、老後の保障までは加味されていないことにも注意しておきたい。
経営者の場合は、働く世代の間だけではなく、異なる視点で保障を考える必要がある。この点については最後にまとめてお伝えする。


その3.保険金を受け取るための給付条件


実はこれが各社商品バラバラでわかりにくい一番の要因である。保険金の給付を受けるための条件は複数設けられている場合が多く、以下のような種類があり、例えば以下のうちの「③+④」としていたり、「①~⑦の全部」というように給付条件を幅広く設けていたりする商品もある。

① 60日以上などの継続入院または在宅療養(在宅患者診療・指導料の算定対象など)※

② 公的年金制度の障害等級2級

③ 身体障害者手帳の障害者等級3級(または4級)

④ 要介護2(または1)

⑤ 特定の疾病(五疾病、九疾病など)

⑥ 各社の独自基準

⑦ メンタル疾患保障がある商品とない商品がある(給付条件も異なる)


※30日、14日などもある

条件が多いほど保険金を受け取るための条件の幅は広がることになるが、反対に、あえて目的を絞るという考え方もあり、予算などに合わせて選ぶことが現実的と言える。


この給付条件の違いはかなり大きな違いと言えるため、この内容を商品をよく確認して選ぶことも大切である。


傷病別に見た治療にかかる期間

さて、次に治療にかかる期間について参考になる情報を紹介していく。
病気やケガで働けない状況になった時に、実際にかかる治療期間がどのぐらいなのか、これは同じ病気やケガでも、症状や進行度合いによって全く異なるため、一概には言えない面もある。それでも参考になるデータや情報もあるので、これらを紹介していく。

入院よりも通院期間が長い、がん治療の特徴

がんの入院日数は、平成8年には平均46.0日だったものが、平成29年には17.1日へと、この20年余りで一気に短期化されている。同時に、入院患者数よりも通院患者数が多い時代へと治療方法が変化している。

 

がんの治療方法には、「手術療法」「薬物療法」「放射線療法」の3種類などがあり、これを三大療法と呼んでいる。以前は「手術」ががん治療の中心であったが、近年は薬物療法や放射線療法が進歩しており、がんの種類やステージ(病期)によっては、手術と変わらない効果があり、治療の大半を通院だけで行う場合もある。


薬物治療には、飲み薬による方法と、点滴や注射による方法がある。点滴や注射による場合は、治療を行う日と治療を行わない日を組み合わせて、1~2週間の周期を設定し、これを「1クール」として数回を繰り返す。1クール目は入院しても、2クール目からは通院で行うなど、通院による治療が中心である。


例えば、手術または放射線治療などと併用して行う薬物療法の場合は、投与期間は2~12か月となる。再発転移のがんの治療は、効果と副作用などの様子をみながら投与期間を決める。

 

心疾患と脳血管疾患

日本の三大死因には、「がん」のほかに、「心疾患」と「脳血管疾患」がある。この「心疾患」と「脳血管疾患」について、平成8年と平成29年の数値を比べると、平均入院日数はこの20年間で両方とも減少していることがわかる。


心疾患と脳血管疾患における「入院日数」と「入院患者数・外来患者数」の変化

心疾患

(高血圧性のものを除く)

脳血管疾患
平成8年 平成29年 平成8年 平成29年
平均入院日数 38.9日 19.3日 119.1日 78.2日
入院患者数 66.4千人 64.0千人 215.9千人 146.0千人
外来患者数 183.8千人 134.2千人 173.9千人 85.9千人

心疾患は、平成29年の平均入院日数では19.3日となっているが、人数の数値を見ると、入院患者よりも通院患者が非常に多いことから、通院による長期間治療が必要となる可能性を示唆している。


脳血管疾患は、平均入院日数は20年間で減少しているとは言え、平成29年でも78.2日と、今も長期入院が必要な疾患の代表ともいえる。また外来による治療も一定期間かかることが予測される


筋骨などの疾患と骨折

続いて、「筋骨格系及び結合組織の疾患」と「骨折」について見てみよう。 「筋骨格系及び結合組織の疾患」とは、関節炎や脊柱障害などで、代表的なものでは「脊柱管狭窄症」や「変形性関節炎」などがある。こうした疾患は、経年による骨や組織の変形など、加齢により起こるものである。腰が痛い、首が痛い、関節が痛いなどの症状は、多くの人が抱えている。それが非常に悪化し日常生活に支障が出るような状況となると、働けない状況になり、治療のために手術や一定期間の入院とリハビリ期間を要する場合もある。


「骨折」はケガによるもので、例えば、思わぬ事故などで大ケガを負うリスクと考えて頂ければと思う。


筋骨格系及び結合組織の疾患と骨折における「入院日数」と「入院患者数・外来患者数」の変化

筋骨格系及び結合組織の疾患

(関節炎や脊柱障害など)

骨折
平成8年 平成29年 平成8年 平成29年
平均入院日数 55.2日 29.4日 46.1日 37.2日
入院患者数 76.3千人 71.3千人 73.1千人 97.4千人
外来患者数 959.7千人 877.2千人 78.8千人 98.6千人

これらの疾患の20年の変化を見ると、平均入院日数の減少はあるが、平成29年でも1カ月前後の入院となっている。また通院患者人数が多いことからも、これらの疾患やケガは、手術をした場合でも1カ月程度で退院し、その後は通院によるリハビリ治療へと切り替わるのが今の治療方法である。つまり、これらの病気やケガは、退院後も一定期間の在宅療養が必要となる代表的な傷病とも言える。


いくつかの傷病について、その治療期間に関する情報を見てきたが、その他の疾病についても、入院期間は短期化しているが、その分、通院治療期間が長くなっている傾向が強いと言える。


働けないリスクに備える就業不能保険選びのポイント

実際に手術などで入院することになると、退院したその後も一定期間の通院や在宅療養が必要となることが考えられる。入院などの医療費用は「医療保険」などで備えられるが、その後も続く長期治療や収入減というリスクに備えるのが「就業不能保険」の役目となる。


そして、個人の場合は主に、収入減に備えるための保障を準備することになるわけだが、経営者や個人事業主の場合は、自分の収入減というリスク以上に、事業そのものが停滞してしまうリスクにも備える必要があり、ある程度の高額保障や、早い段階でまとまった給付金を受け取れる商品を選ぶ方が、リスクをより回避しやすくなる。


なお、就業不能保険を効率よく準備する方法として、例えば会社員などの公的健康保険から、会社を休んで給与が出ない状況の時に、1年半までの期間は「傷病手当金」が出ることになっている。この公的制度で保障される分を差し引いて、一定期間分の保障額を抑制することで効率よく保障を確保できる商品もある。 また個人事業主などが加入する国民健康保険には、この傷病手当金がないため、その場合には抑制のない定額保障の就業不能保険を選ぶといいだろう。


最後に、自分に起こりうるリスクにしっかり備えられる保険を選ぶため、商品のしくみの違いを把握しておくことと共に、自社における事業存続に必要となる保障がどのぐらいになるかという、自社の経営状況を再確認しておくことも大切となる。


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森田 直子(もりたなおこ)

保険ジャーナリスト。経済誌や業界誌、保険・マネー情報WEBサイト、保険会社のご契約のしおりなど、保険に関する執筆実績多数。講師業など幅広く活動。

保険営業としての経験もあり、現場知識に強く、また2人の子を育てる母親として庶民感覚を重視したわかりやすい文体に定評がある。著書に『あなたの保険は大丈夫?』(ダイヤモンド社刊)、『就業不能リスクとGLTD』(保険毎日新聞社刊)など。保険業界メールマガジンinswatch発行人。

   

  

 ※ この記事に記載されている情報は2021年8月20日作成時のものです。

   

   

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