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事業承継

「兄の遺志を継ぎ、新たなフェイズへ」
町村農場 3代目 町村 均 氏

  • 40-50代
  • 卸売小売業
  • 製造業
  • 北海道・東北
  • 後継者

この記事は5分で読めます

北海道江別市にある株式会社町村農場は、農場経営に加え、乳製品の企画・製造・販売、農産品の販売、直営店舗・催事店舗の運営・販売等幅広く酪農業を営んでおり、一昨年創業100年を迎えた。町村家は代々酪農に携わり、米ウィスコンシン州で学んだ教えを基に北海道の酪農産業の歴史を作り上げてきた。農場主3代目で現在代表取締役を務める町村均氏に話を聞いた。

事業承継の経緯

農場に足を踏み入れるとひときわ目を引くカラフルな建物が目に飛び込んできた。自社の乳製品の直売所、「町村農場ミルクガーデン」だ。

町村氏は元々町村家の三男。すぐ上の兄が家業に入っていたので自分は関係ないと思っていた。


大学卒業後は東京の広告代理店に入社。時はバブル絶頂期。新卒後約8年経ち、媒体営業マンとして脂が乗り、バリバリ仕事をこなしていた。その時、悲しい出来事が町村家を襲う。事業を継ぐはずであった兄が交通事故で突然亡くなったのだ。


「実家の商売とは言っても、子どもの頃、断片的に手伝ったことはあるが、いわゆる体系的に全般を学んだことはなかった」


そんな町村氏にとってまさに青天の霹靂。何の心の準備もないまま、家業に飛び込んだ。

町村農場は平成4年4月、町村氏の兄の事業プランで、今の場所に移転してきた。しかし、兄はその年の8月末に急逝した。弟、町村氏は一から農場のことを学ぶしかなかった。まずは牛の世話等の酪農部門から始め、経営全般については父と協力しつつ、やりながら学んでいったという。


先代の社長がやってきたことに対して、自分なりに改革を加えようと思い始めた時はいつだったのか聞くと、「明確な何かあるきっかけがというわけではなかった」という答えが返ってきた。


無我夢中だったのだろう。町村氏は、時間をかけて少しずつ仕事を覚えていく中、経営的な課題に取り組んで行った。


社長になる前に亡くなってしまった兄は農場の運営方法を大きく変えようとしていた。そのために農場を今の江別市篠津に移転させたのだ。


それは牛舎と搾乳スペースを完全に分けるスタイル。町村氏が子どものころから慣れ親しんでいた方式は、牛を牛舎に繋ぎ、その中で搾乳する方式とは全く違うものだった。それがフリーストールという方式だ。

「フリーストールとは放し飼い牛舎のことで、一頭ずつ繋いでおかなくてよい為、牛にとってストレスが軽減される。閉鎖型窓も少なくした」という。


牧草にもこだわりがある。育てるのが難しく、コストも割高だが、あくまでアルファルファという品種にこだわる。どれもコストアップにつながるが、高品質な牛乳の品質を保つために妥協はしない。それが町村農場なのだ。

農場経営以外の酪農業

町村農場では様々な乳製品を作っている。商品開発はどのようにしているのだろうか。


町村氏は「私が音頭をとり、みんなと相談しながらやっている。個別のメニューは各店の店長に任せている」と述べた。社員にかなり権限委譲しているようだ。

一方、「乳製品は、アイデアを具体的にどういう形に仕上げて商品化する過程で意外と時間がかかる」という問題を明かしてくれた。


理由を聞くとなるほど、と思った。何故なら、ある程度の量を流通させようと思うと、パッケージへの充填作業に高額な設備を入れないといけないからだという。汎用性のある機械は得てしてオーバースペックで高額。それゆえ、購入に二の足を踏むことが少なくないという。


「搾乳している頭数が常時180頭から190頭、絞っている牛乳の生産量が大体1日5000~6000kgで、1アイテムあたりの生産量が非常に少ない。規模として中途半端だ」


商品のラインアップを拡大するには、規模を拡大しない限り難しい。

他業種との協業

大手コンビニとコラボし、北海道地区で期間限定でシュークリームを販売したことがあった。シュークリーム自体の売上は好調だったが、町村農場としては牛乳を提供しているにすぎず、結果的にそこまで収益に繋がらなかった。


今後は、直販店を増やしていく、もしくはWeb(eコマース(EC))での販売拡大が考えられる。


「直販店の売上は上がってきているが、コストや管理が大変だ。どういうやり方がいいのか今考えねばならない時期に来ている」

そうした中、町村氏は、ECの手ごたえを感じているようだ。


「まだSNSはあまりやっていない。オンラインショップは自社サイトのみ、いわゆる大手の通販サイトでは販売していない。通販は少しずつだが確実に伸びてきている。特にここ1、2年は伸びが増えているので、SNSでの発信を増やせばさらに伸びるだろう」

町村農場の後継者問題

株式会社町村農場にとって、万が一の時でも事業の継続に役立てることができる保険は欠かせないものとなっている。


特に現時点では血縁で事業承継できそうな人はいるものの、後継者は未だ明確に決定していない。


町村氏が事業を承継する際に親族と相続で揉めることはなかったが、それでも遺言がなかったので税の処理などは少し手間取ったという。

実は株式会社町村農場は、昨年春、札幌にあるお菓子の製造会社を買収した。「その会社は承継する人が身内にも会社にもおらず、銀行が間に入って斡旋してくれた。うちとしても初めての経験だった。その話があって、(事業承継者を)準備しておかないと思った」という。

今後の事業展開・ビジョン

農場の移転から約30年。町村氏は、今後の事業のビジョンを語った。


「酪農部門自体の規模拡大をそろそろ考えている。牛の頭数を増やして原材料の原価率を下げることを考えていきたい」とする一方で、製品のラインアップについては、「ほぼ全ての乳製品をつくっているので、商品数を増やすのではなく、収益率が高いものを考えていきたい」とした。

販売のスタイルに関して町村氏は、「ECや直販に力を入れることと、地元農家で出資した直売所『野菜の駅 ふれあいファームしのつ』とのタイアップを考えている。うちは宅配をやっているので野菜農家とくっついてお弁当や給食事業もできるのでは‥」と、夢を語った。


江別には、若い人も帰ってきていて、期待が持てる地域だ。市も地場産業の育成支援に力を入れている。


「試作品をいろいろ作れる小さな加工場みたいな調理施設を用意したり、廃校になった中学校の跡地を利用したりしている。町村農場だけではなく、地域を巻き込んだやり方があるのはでは」という。


江別は野菜、小麦、米と比較的バランスよく作物が作られている地域でもある。町村農場を始めとして農家が協力し合い、事業展開することで町全体の活性化も期待できるであろう。




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