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経営のヒント

『わかめの力』で作物の高付加価値化を実現する
有限会社うずしお食品 取締役社長 後藤 弘樹氏

  • 40-50代
  • 製造業
  • 中国・四国
  • 後継者
  • SDGs

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「もったいない」。

SDGsが叫ばれ始めるずっと前からこんな言葉があった。大量生産・大量消費をよしとしない文化があるはずの日本だが、食に関する深刻な問題は依然として解消していない。代表的なものが「フードロス」や「食料自給率の低さ」などだ。

こうした問題に危機感を抱き、いち早く行動をおこした人物が四国・徳島県鳴門市にいる。有限会社うずしお食品取締役社長後藤弘樹氏だ。

同社は1977年の創業以来、鳴門わかめ加工事業を行い、徳島のわかめ事業を牽引している。またわかめの加工・販売に留まらず、廃棄されるわかめを家畜の飼料にしたり、食品に加工したりと食料問題への取り組みを精力的に行っている。そんな後藤氏に、現在の取り組みや今後の展望について話を聞いた。

有限会社うずしお食品 取締役社長 後藤 弘樹氏の写真

わかめ事業

まずは同社が創業以来力を注いできた、わかめ事業について話を聞いた。

うずしお食品の創立者は後藤氏の祖父で、わかめ需要の大きかった当時は相当な規模を誇り、三陸でも事業を行なっていたという。

「(今の規模と比べて)こんなもんじゃないです」。

と後藤氏は語る。

有限会社うずしお食品

後藤氏の祖父は、現在では当たり前のわかめの養殖や、生わかめの販売の先駆者だ。わかめ加工にベルトコンベアを初めて導入したり、工夫も欠かさなかった。

また、一時は需要過多で生産が追いつかなかった。そんな時に産地を分散させるために三陸にわかめ作りを持ち込んだのが後藤氏の祖父の世代だという。三陸が選ばれた理由は、天然のわかめが存在し、さらに草木灰で海産物を乾燥させる「灰干し」を行なっていたためだ。ただ、三陸は会社のある徳島からはかなり遠い。三陸でわかめを取り、加工し、徳島に移して販売する、というルートが確立したのは80年ほど前だ。

しかし、後藤氏の父親が仕事を引き継いだ後、産地偽装問題などもあり、価格競争に巻き込まれて会社の経営も厳しさを増してきた。

状況を打開するきっかけとなったのが、フランスのブルターニュ地方で海藻養殖を手掛ける企業「アルゴレスコ」との技術支援契約だ。そもそもわかめを食べるのは日本や韓国などの数カ国に限られる。欧米にも流通はしているが、ほとんどが粗悪で味の悪いものだ。

なぜ、フランスの企業と協力することになったのか。

フランスには健康や美容に意識の高い人々が多く、日本食のニーズが高まっていた。その流れに乗って現地でわかめが販売されていたが、実際にそのわかめを口にした後藤氏は味に驚愕したという。

「本当にまずい。吐きそうになりました(笑)」。

後藤氏はそう振り返る。一方で、このように感じてもいた。

「まずいけど、もしかしてこの海に生えているわかめは、とてつもなく質が良いものじゃないかって思ったんですよ。子どもの頃からわかめ取りに行っていたので、直感ですね」。

何回かの視察を経て、2022年に正式にアルゴレスコ社と技術支援契約を締結。うずしお食品はアルゴレスコ社にボイル加工などの技術指導を行うとともに、フランス産わかめの輸入を行っている。今後、都市部の高級スーパーなどに並ぶ見込みだ。

アルゴレスコ社との協力の大きな利点は販路の拡大とともに、「フランスに輸出している」という大きな付加価値を自社製品につけることができる点にある。また、環境保護への意識が高い欧州の食品業界からは学ぶところも大きいという。さらに、鳴門では温暖化が進行しており今後わかめの生産ができなくなることもありえる。そんな事態に陥った時に、フランスにも事業の種を蒔いておくことでリスクを分散させることができる。伝統の継承にとどまらない経営者の姿が、そこにある。

有限会社うずしお食品

精力的に活動を続ける後藤氏の力の源は、どこから湧いてくるのか。

そう尋ねると後藤氏は、過去大病を患い、生死の境をさまよったことを話してくれた。その後奇跡的に生還し、回復したという。医者も驚くほどの生命力だった。

「自分は生かされている」。

その感覚が、後藤氏を新規事業へと駆り立てているのは間違いない。

新規事業

止まらないうずしお食品の挑戦。今、フードロス問題を解決に導く新規事業に真正面から取り組んでいる。

後藤氏が、目をつけたのは今まで廃棄されていた「わかめの根」だ。これまで固い根っこはただ廃棄されていた。その廃棄コストもさることながら、根は塩分濃度が高いため、塩害という環境汚染の原因にもなっていた。

「わかめの根」を廃棄することなく有効活用しようと考えた後藤氏。しかしこれは決して容易なことではなかった。最大の課題は、根に含まれた高い塩分をどう抜くかだ。長年の研究の末、彼らは微生物による「発酵」という手段にたどり着いた。根っこと微生物を掛け合わせたことで、わかめの根の塩分濃度を希釈することに成功した。

それだけではない。発酵させた液体に、豚の成長を促進する効果があることが分かったのだ。

有限会社うずしお食品

着目したのは「豚は何でも食べる」特性である。何でも食べる豚に、わかめの根を発酵させて作った液体を与えたところ、よく育つだけではなく、病気にもかかりにくくなることが分かった。

「海のミネラルで腸内活性がよくなって、その結果、免疫力が高まったのでは」と後藤氏は考えている。

従来与えた餌の量も減り、さらに以前餌に加えていた抗生物質も必要なくなるという副次的効果も得た。

後藤氏らは、このわかめの根から出来た液体を「わかめの力」と名付け、与えて育てた豚を「わかめ豚」と命名した。「わかめ豚」にわかめを併せ、「冷しゃぶセット」として今年販売したところ大好評。さらに、徳島県産のすだちもセットにして販売する計画も進行中だ。

「わかめの力」はあらゆる作物の成長にも効果があることが分かってきた。おりしも、近年オーガニックブームである。「わかめの力」をバイオスティミュラント資材(注1)として与えることで、無農薬のオーガニック野菜や果物を高付加価値化できるのではないか。四国内の知り合いの農業関係者らの協力もあり、わかめの力をさまざまな作物に試しているが効果が出ているという。これまでにいちごの虫が減ったり、柑橘類が大ぶりになっている。現在、稲も実験中だが、こちらもこれまでに良い報告を受けている。

「(わかめを用いた新規事業は、)いずれ四国の農水産物、ひいては全国の農水産業に大きな影響を与えると思う」。

有限会社うずしお食品 取締役社長 後藤 弘樹氏の写真

後藤氏はそう確信している。

「わかめの力」が持つパワーを最大限に活かし、様々な事業に発展させることが今後の目標だ。

事業承継と今後の展開

後藤氏の子どもは3姉妹。もう成人しているが、継ぐ気があるのかどうかは分からない。

「別に会社を承継するのに血筋は関係ないと思っています。むしろ新たな血を入れた方が発展する可能性が高いじゃないですか」。

社員の中から後継を選ぶこともあると話す。

そんな後藤氏、「事業のリスク」についてはどう考えているのか。

「最大のリスクは自然環境の変化ですね」。

有限会社うずしお食品

海洋汚染や温暖化の影響で、海産物の産出量も変わる。事業を守るためには、環境変化を念頭に、複数の産地を確保する事がリスクを分散することになる。

また近年、温暖化などによる「食害」が深刻化している。水温が上がり今までより魚の活動期間が長くなり、また魚の食べる物が減り、養殖種付けしたわかめが食べられてしまう。

「三陸にわかめの種を戻しに行ったのは、そういう意味もあるんですよ」。

フランスの会社との提携も含め、わかめを確保する場所を複数持つ事はリスクの分散になる。

温暖化によりライバルも増えている。北海道で長年昆布を作っていた業者が温暖化で収穫が減り、代わりにわかめ作りに乗り出した例もある。

競争相手は増えるが、後藤氏は、むしろ各会社が協力しあうことが重要だという。

「結局最後はチームなんですよ。企業同士組むことによってみんなが発展するなら、それはありだと思うんです」。

日本ではM&Aに今でも抵抗感が強い。しかし、協力し合いながら基盤を固め発展していく。これが後藤氏の描くわかめ産業の未来だ。

無論、課題もある。うずしお食品は、国際的な衛生管理基準である、HACCP(ハサップ:注2)に対応している。また、うずしお食品が第一号となった「徳島県鳴門わかめ認証制度」の認証も取得した。その結果、行政のバックアップを受けやすくなり、付加価値がつく。しかし、こうした情報が得づらい小さな企業がここに至るのは容易ではない。良い技術があるのに、他の会社との合併もうまくいかず、結果として廃業に追い込まれてしまうのは残念だ、と後藤氏は言う。

「中小企業でも時間をかければ我々のようにできるよ、という姿を見せたいんです」。

そのためには情報交換が欠かせない、とも。

「循環型経済」、「グローバル化」、「フードロス対策」、そして「環境保護」など、後藤氏が掲げる事業戦略はどれもハードルが高いが、後藤氏はひるまない。

今は「わかめの力」をただ信じ、挑戦し続けるのみだ。

有限会社うずしお食品 取締役社長 後藤 弘樹氏の写真
  1. バイオスティミュラント

    バイオスティミュラントは、植物に対する非生物的ストレスを制御することにより気候や土壌のコンディションに起因する植物のダメージを軽減し、健全な植物を提供する新しい技術です。 (出典:日本バイオスティミュラント協議会「バイオスティミュラントとは?」)

  2. HACCP

    Hazard Analysis and Critical Control Point の略。「危害要因分析重要管理点」と訳される。

    HACCPによる衛生管理は、各原料の受入から製造、製品の出荷までのすべての工程において、食中毒などの健康被害を引き起こす可能性のある危害要因(ハザード)を科学的根拠に基づき管理する方法。

    HACCPはコーデックス委員会で1993年に食品衛生の一般原則の一部として示され、わが国では1995年に製造基準が定められた業種を対象とした「総合衛生管理製造過程の承認制度」としてHACCPによる衛生管理がスタートした。

    (出所:公益財団法人日本食品衛生協会

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