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事業承継

テクノロジーと絆で中古車流通を変える
株式会社Ancar 代表取締役CEO 城 一紘 氏

  • 20-30代
  • 近畿
  • 後継者
  • 新規ビジネス
  • スタートアップ
  • DX

この記事は8分で読めます

70年以上の歴史を持つ自動車整備工場の3代目から、IT系ベンチャーのCEOへ。株式会社Ancar代表の城一紘氏は、中古車を個人間で売買できるプラットフォーム、そして自動車整備工場とユーザーを結ぶマッチングサービスを開発した。より安全で、より豊かなカーライフを、そして自動車整備業界の環境改善を目指して――新たな風を吹き込むべく疾走する城氏が語る。

株式会社Ancar 代表取締役CEO 城 一紘氏

株式会社Ancar
代表取締役CEO 城 一紘氏(じょう・かずひろ)

1981年生まれ。兵庫県加古川市出身。大学を卒業後、オンワード樫山、グリーを経て家業の東城自動車工業に入社。営業として整備工場の最前線で働く。整備業界、自動車流通の課題を解決すべく、2015年に独立。株式会社Ancarを起業する。中古車の個人間売買プラットフォーム「Ancar」、整備工場マッチングサービス「Repea」のサービスを立ち上げ、ITの活用によって消費者、自動車整備業界の支援を目指している。

中古車をネットで安心・安全にやり取りするために
家業の自動車整備工場がキーポイントになった

フリマアプリやネットオークションなど、個人間でモノ、情報などを売買するサービスが着実に浸透する中、「Ancar」は「中古車に特化した個人間売買」の場として注目を集めている。運営しているのは、サービス名をそのまま冠した株式会社Ancarだ。代表・城一紘氏が語る。

「車を売りたい人と買いたい人を直接結びつける。そのプラットフォームがAncarです。中古車の流通にはさまざまな業者が介在しています。当然、売る人から買う人の間で中間マージンが発生してしまいますよね。ところが、直接のマッチングは中間業者に支払う手数料などのコストをカットできます。おまけに個人間売買ですから消費税も非課税です。個人間売買って、車や不動産のように単価が高くなるほどユーザーのメリットは大きくなるんです」


しかし、このメリットは個人間売買全般に共通するものだ。著名なネットオークションサイトを見ても、中古車のカテゴリーには多くの出品が並んでいる。中古車に特化した個人間売買サービスもこれまで数多の大手企業が手がけてきた。そこで、Ancarは「安心・安全の担保」を優位性として打ち出す。存在感を発揮するのは「自動車整備工場」だ。城氏の実家は、兵庫県にある自動車整備工場を1948年から営んできた。

「車は単価が高いだけではなく、運転する人や乗る人が命を預ける商品でもあります。それまでどんなオーナーがどのように運転してきたのか?今はどのようなコンディションなのか?よくわからないまま、ネットを介して購入することができるでしょうか。ネットを介した中古車の個人間売買が市民権を得られていないのは、安心・安全が担保されていないからだと、僕は考えています」


「我々は、どうやったら車の個人間売買が広く使われるのか、先行サービスといかにしたら差別化できるかを考えました。そこで行き着いたのが、僕のバックグラウンドでもある自動車整備工場、そこで働く整備士たちとの連携なのです」


売り手が出品した車のチェックは提携する自動車整備工場が行なう。整備のプロの目線で、車の状態を隅々まで精査するのだ。この情報は買い手にも開示される。Ancarには、個人間売買のメリットを享受しつつ、車を安心・安全に購入できる仕組みがあるのだ。

承継すべく戻った実家の整備工場での
「くすぶった日々」から、起業にアクセルを踏む

「車の個人間売買をサービス化しようと考えたのは、実家の整備工場で課題を感じていたからです。業界を見渡すと、“車のお医者さん”として間接的に多くの命を守っている自動車整備士の労働環境、待遇がよろしくありません。3Kの労働環境で働き、社会的にも評価されていないのです。結果としてなり手も不足する悪循環があり、労働環境はなかなか改善できていませんでした」


「Ancarのモデルによって車の個人間売買が広まれば、整備業界に新しい仕事を回すことができます。新しい仕事が増えれば彼らの待遇も改善できますし、社会的な地位の向上も期待できる。その先には、車を売買し、整備に利用する消費者もハッピーになる未来が見えるでしょう」


創業の思いを熱く語る城氏。長男として生まれ、家業を承継する未来を当然のように考え、育ってきた。大学卒業後はアパレル専門の商社オンワード樫山、IT企業のグリーを経て、実家の東城自動車工業へ。承継を見すえて入社したが、「代表の父は複雑な思いがあったのではないか」と振り返る。

「自動車ディーラーがアフターケア、メンテナンスも囲い込みを始めており、町場の整備工場は苦境に立っています。車の保有台数もピークアウトし、3Kの職場というイメージから若者には敬遠されがちで、整備業界は慢性的な人手不足に悩まされているという現実もあります。今の整備業界に往年の勢いはない。先行き不透明な現状では、『家業を継いでほしい』とストレートに言いづらいところはあったでしょう」


オンワード樫山では法人営業で社内トップの営業成績をたたき出し、グリーではスマホゲーム黎明期の営業部隊で濃密な時間を過ごす。商社、IT企業で磨いた営業手腕を家業でも発揮するはずだったが…入社した家業では、城氏曰く「くすぶった日々」が待っていた。

「若気の至りというものでしょうか。根拠のない自信はあったのですが…昼に住宅街を回りながら営業をかけても、顧客がつかまるわけではありません。ネットを駆使したら、ITの力を活用したら、もっと効率よく進められるんじゃないか?そんな思いが僕の中では渦巻いていました。しかし、整備業界はアナログな部分が多く、現場にはITがあまり活用されていない。中から改革を進めるのは簡単なことではありません」


「2年ほどくすぶった日々をおくる中、現場の整備士たちの現実を目の当たりにし、何とかしなければ…という思いも強まっていきます。これは外に出て整備業界、そして自動車流通を変えるしかない。そう決意したんです」


中古車を個人間で売買するためのプラットフォームへ。その時点で、Ancarの原型は城氏の中で固まっていた。休日には兵庫から東京へ足を伸ばし、グリー時代の人脈を生かして出資先を確保。資金調達の目算が立ってから、家族に独立を宣言する。「わかった…やると決めたなら頑張れ」。父のシンプルな答えを受け止め、城氏は起業する。

家業を離れて起業独立
祖父の足跡が助けにもなった

個人間売買のサービスは車と同様だ。走り出しのローギアはスピードが出ない。まずは一定数の利用者を集めなければ、モノを流通させるための環境が整わないのだ。2015年の株式会社Ancar設立後、ユーザーの集客、ITサービスを構築するためのエンジニアの確保、サービスを走らせるための組織づくり、そして中古車の安心・安全を担保するための整備工場ネットワークの構築に追われる日々が続いた。

「共同創業者もいましたが、その時はどこか自分を抑えている部分もありました。だけど、現在は役員も僕一人。社員の支えはありますが、サービスづくりも組織づくりも、最後は自分で巻取って舵取りをしています。経営者として腹をくくるしかない。そう開き直ったら、不思議なことに頼もしい社員が集まり、いいチームができてきました。実現したいことを格好つけることなく打ち出せば、共感してくれる人が集まってきてくれるんです」


個人間売買のプラットフォームAncarに加え、「Repea」というサービスも立ち上げた。これは自動車のドライバーと整備工場を結ぶマッチングサービスだ。ユーザーはサイト上から最寄りの整備工場を探し、車のさまざまなトラブル、問題解決のアシスト役を探すことができる。Ancar、そしてRepeaを支える強固な整備工場ネットワークの構築には、意外にも実家の存在が大きなアシストになったという。


「前述の通り、整備業界はまだアナログな世界。『ITのサービスが…』と営業をかけても門前払いがいいところです。しかし、ある工場に営業をかけた時のこと。そこの代表が『あなた…城さんって兵庫県の城さん?東城自動車工業の息子さんかい?』と聞いてきたんです。ええ、そうですが…と答えると『いやいや、それは言ってくれないとこっちが困るよ!』と代表は困惑していました。伏せたつもりはないんですが、実家の工場の名前が強みになるとは思っていなかったんです」


「実は、整備業界は横のつながりが非常に強い。全国の整備工場をネットワークする『ロータスクラブ』という組織がありますが、僕の祖父はそのロータスクラブの創業メンバーの一人でした。知っている工場の息子なら、門前払いなんてできないよ、ということですね。以来、実家の名前を出すようにしたら、そうそうむげに扱われることはなくなりました(笑)。老舗業界ならではの草の根の連携が、少なからぬ後押しになったのは確かです」

地道なネットワークづくり、そしてユーザーの集客が結実。中古車を売買するためのAncar、そしてアフターケアからメンテナンスを担うRepea。城氏が自ら立ち上げたデジタルサービス、そして家業である整備工場のアナログが融合し、他に類を見ないサービスが全力で走り出そうとしている。


「車との出会いと別れをサポートするのはITの力。そこは僕たちがしっかりと力を発揮しつつ、ユーザーにとって車は乗っている時間が大事です。その時間の安心、安全を担保できるのは整備業界のバックアップがあってこそ。デジタルとアナログ、この両輪をしっかり回しながら、今後もサービスを拡充していきたいと考えています」




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