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経営のヒント

夫婦二人三脚で『循環型社会に貢献する』山陽製紙株式会社代表取締役 原田六次郎氏

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創業昭和3年、山陽製紙株式会社3代目社長、原田六次郎氏。 2007年に次の100年に向かって経営理念を専務である奥さまと見直した。環境問題を意識したCSR活動の推進、新製品の開発や新規ビジネスの開拓をはじめ急成長を遂げている。原田夫妻の歩んできた道のりと、今後目指す姿とは。

(聞き手: 安倍宏行 ジャーナリスト ”Japan In-depth”編集長)

正直なところ「製紙業」と「イノベーション」という言葉はあまり結びつかない。どちらかというと成長性も高くなく、大手企業の寡占が進んでいるイメージだ。中小の業者が生き残る余地は小さいのでは、との先入観があった。が、それは山陽製紙の3代目、原田夫妻によって大きな間違いだと気づかされた。

山陽製紙株式会社

なにしろ、山陽製紙の経営理念がすごい。「山陽製紙は、紙創りを通してお客さまと喜びを共有し、環境に配慮した循環型社会に貢献します」とある。

創業昭和3年の山陽製紙、会社設立は昭和32年の老舗に似つかわしくないこの先進的な経営理念、一体いつ作ったのか原田社長に尋ねた。

山陽製紙株式会社

「昭和32年から山陽製紙が50周年を迎えた今から12年前のことです。次の100年に向けてどんな会社にしていくか、理念を考え直そうと考えたのです。『循環型社会に貢献する』という文言をきちっと入れ、環境に良い製紙会社になろうと決断しました。そこから作るものも変わってきたと思います。」

製紙業界は環境に負荷をかける産業だとの認識を持っていた原田氏。山陽製紙の本業である、「古紙の再生」というビジネスはどちらかというと陽の当たる商売ではなかった。それではいけない、会社も変わって従業員にも仕事に誇りを持ってもらわないといけない、そう奮起したという。

山陽製紙株式会社

しかし、事はそう簡単にはいかない。理念を変えたからと言っていきなり新商品が生まれるわけでもない。市場が縮小している中、生き残りをかけて暗中模索の日々が続いていた。そんな時だ、思いもかけないオファーが来た。

「ちょうど経営理念が新しくなるちょっと前に、梅の加工業者から排出される梅の種が、ロンドン条約で海洋投棄できなくなるということで、和歌山の梅の業者さん達は非常に困って、備長炭の窯で炭にして売ろうか検討しているという話が新聞に載ったのです。2003年の4月、とあるタオルメーカーから梅炭パウダーが紙に入れられないか?というオファーがあって、開発をしたのが、今の『スミデコ」という炭の紙なんですね。」

梅炭(うめずみ)

写真)梅炭(うめずみ) 出典)山陽製紙株式会社

 

まさに偶然だった。炭を混ぜる紙というコンセプトは、後に作る『循環型社会に貢献する』という理念に合致したものだったのだ。

「この紙は私の考えている理念そのものだ。お客さまに喜んでもらえる機能性もある。これを売っていこう、そう思いました。私たちは素材メーカーでしたが、この時、『加工した商品をお客さまに直接届けられるようになろう!』そんな動きが始まったんです。」

そこから商品化に向けて試行錯誤が始まった。「梅炭」クレープ紙を作るのは容易なことではなかった。実際に商品に加工できるようになったのは実に2007年10月だった。

山陽製紙株式会社

梅の種の炭は備長炭より消臭効果や調湿効果が優れている。そこから、足の消臭グッズをノベルティ用に商品化した。脱いだ靴の中に入れておけば朝になったら臭いは取れているという優れもので、好評を博した。

Sumideco kukku

写真)Sumideco kukku 出典)山陽製紙株式会社

 

これらの商品はノベルティとしての利用、すなわち企業向けに売ることが前提だったが、原田氏が同時に考えていたのが直接消費者に届けることだ。目を付けたのは工業用の電線の包装材料の端材だ。裏側にラミネートがしてあり、とても丈夫なことから、これまでは棄てていたものを、表面にプリントをしてレジャーシートとしてよみがえらせたのだ。3年前のことだ。

鉄鋼、電線の梱包用クレープ紙

写真)鉄鋼、電線の梱包用クレープ紙 出典)山陽製紙株式会社

 
レジャーシート「crep」

写真)レジャーシート「crep」 出典)山陽製紙株式会社

 

「従来のレジャーシートは重いですよね。これは紙で軽いというので子どもさんがいるお母さん方に好評です。撥水加工しているので水にも強いですし。」

こうした商品開発には女性の感性が必要だ、と原田氏。男性社会だった会社を女性中心でやらないといけない、と考えている。この10年の間、会社は大きく変わった。今や事務職員の半数の8人が女性だという。

山陽製紙株式会社

ここで原田氏の奥さま、千秋さんに登場してもらおう。原田氏とは同級生同士だ。先代、つまり原田氏の父親が急逝したため家に戻り、しばらくして経理部長が退職したのを機に、給与計算を手伝ってくれと原田氏に言われ、会社に入った。45歳の時だった。千秋さんはもともと国語教師。計算など全くできなかったという。数字を見るとじんましんが出るくらいだというからかなりのものだったらしい。

山陽製紙株式会社

しかし、そこからの千秋さんの踏ん張りが凄い。まず、簿記の学校へ通い始めた。次に総務の仕事もやることになり、社会保険労務士の資格まで取った。そして10年。55歳の時には、中小企業向けの人材育成で知られる会社の経営者研修に通うことにした。勧めたのは原田氏だった。その研修に通い始めて千秋さんは考えが大きく変わったという。

「後継者を育成しないといけないなぁと思って入ったんですけど、入ったら経営にのめり込んでしまったというか。長年継続している会社はOBたちのご苦労があって今に繋がっているんだということがだんだんわかってきて、ちゃんと次の世代に繋げないといけないし、そういう会社を作っていかないといけないということがわかったんですね。会社って放っておいたらそのままいくんだろうと思ってたけど、そうではないんだということがわかって、ちゃんと働かなくちゃと思うようになりました。」

山陽製紙株式会社

これまで経営ペディアでは、中小企業における社長の奥さまの役割について取り上げてきた。夫婦二人三脚で経営しているケースは山陽製紙さんが初めてだ。千秋さんが経営に深く関与するようになったのはやはり夫である原田さんの考え方にあるようだ。

「自分ができてないところはどんどん補って欲しいなと思うようになりました。そのうち2人で一緒に勉強しようということになったのです。考え方とか理念ではお互いに共通のところはあるけれども、能力的な面や戦略的な面は違うんですね。だから2人で一人前の経営者やなっていうのをお互い話したりしています。」

山陽製紙株式会社

さらに千秋さんの話を聞いてみた。この会社において千秋さんの果たしている役割の大きさが分かる。

「もともと経営理念を変えた50期の時に、幹部社員を入れて考えたのです。50年後にわが社はどんな会社になっているのだろう、と。いわゆるバックキャスティングですよね。わが社の存在価値というのを皆で考えました。経営理念に書いてあるわが社の使命を日常のしきたりの中にまでに落とし込んでいきました。原田の価値観が理念を通して日常の取り組みの中まで染み込んでいるという感じです。」

社長の価値観が自然と企業文化や社風になっている山陽製紙。千秋さんの果たしている役割は大きいと感じる。千秋さんはこんなことも話してくれた。

山陽製紙株式会社

「サービサイジングっていう考え方があって、ものを売る代わりに物の持つ機能をサービス化して売るんだと教わったことがありました。ビジネスにならないエコはありえないと思って、では紙の機能をサービス化して売ることを考えたのです。」

そして生まれたのが「KAMIDECO(カミデコ)」だ。紙でエコを実現するという意味が込められている。会社で不要になったコピー用紙を100%再生紙にし、元の会社に封筒やメモ用紙などにして返したり、一般にも販売するシステムだ。環境に配慮する企業姿勢をアピールする新しい戦略として多くの企業に採用されている。

「結局、紙は使い捨てられるものですが、製紙会社に帰ってきたら再生してもう一回使えますし、それが『機能を使ってもらう』ということにつながるのではないかと考えて始まったのが『KAMIDECO:カミデコ』だったんです。」

その発展形が「PELP:ペルプ」だ。袋に使用済みの紙を溜めてもらい、袋が一杯になったら(約15キロ)になったら山陽製紙に送ってもらう。その紙を再生して商品を作るシステムだ。ネーミングは、「Paper Help Project」から来ている。

 

「(再生したものを)名刺や封筒の形で購入していただけば、紙をシェアできる、と思ったんですね。紙は捨てないで循環させるものに変わっていったほうがいいんだなと思って、リブランディングしたんです。」(千秋さん)

PELP動画 https://www.youtube.com/watch?time_continue=59&v=OuvlBKhLKr0

そんなお2人だがやはり後継者問題は気になるようだ。率直に伺ってみるとまだはっきりと考えを固めてはいないとの返事が返ってきた。

「もう結論出さないかん時期に近づいているんですが、次はこれだよというのは示してないのが1番辛いとこといいますか。何とか思いを伝えていくような人がいればなぁと。そういう人を育てないかなあかんなと思っているんですけどね。」

山陽製紙株式会社

お2人にはお子さんが2人いるが、今現在山陽製紙には入っていない。話を聞くと、多くの中小企業経営者と同じで、子どもの意思を尊重するがゆえに子どもには好きなことをさせており、将来事業承継してくれるかどうかはわからない、という状態の様だ。

経営者にとっていつ何が起きるかわからないが、いざ自分のこととなると、目先のことで頭が一杯で、後継者問題は先送りしてしまいがちだと原田氏はおっしゃった。

『循環型社会に貢献する』という理念の元、新商品開発に二人三脚で走る原田夫妻。その理念を次の世代につなぐ為に、今、後継者問題に向き合うことが必要なのかもしれない。そんな思いをお二人は抱いたようだった。

山陽製紙株式会社