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社長がうつ病!就業不能保険で保障されるの?

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この記事は7分で読めます

長期にわたり社長が働けなくなったら、会社はどうなるのか。就業不能保険に詳しい保険ジャーナリスト森田直子さんに、経営者が働けなくなった場合のリスクやその備えについてシリーズで解説いただきます。


社長がうつ病で働けなくなったら?そんなメンタル面のリスクについて検証していく。 精神疾患にかかる人はどのくらいいるのか?そして経営者や個人事業主でも、精神疾患になることがあるのかなどを、事例を含め紹介する。気になる就業不能保険の精神疾患保障については、どこまで保障されるのかなど商品による違いや選び方のコツを抑えておこう。



精神疾患にかかる人はどのぐらいいるの?

2015年12月に施行された「労働安全衛生法改正」により職場におけるストレスチェック制度が義務化されるなど、今や、メンタルヘルスと働く環境の問題は切っても切れない関係とも言える。

 

実際に精神疾患により働けなくなる人はどのぐらいいるのか?気になるデータを見ていこう。次の円グラフの数値は「傷病手当金」を受け取った人の傷病別の割合を示したものである。

 

傷病手当金とは、会社員や公務員などが加入する公的な健康保険の被保険者が、病気やけがのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給されるものである。自営業などの「国民健康保険」加入者にはこの制度はないので、この数値は、会社などに正社員として勤めている人のうち、病気やケガで働けなくなった人の数値となっている。

 

傷病手当金の受給状況

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見て頂くとわかるように「精神及び行動の障害」が3割以上を占めており、また2位の「がん」と比べても1.5倍以上となっている。それだけ、精神疾患で働けなくなるリスクが深刻であることがわかる。今やメンタルリスクは他人事ではなく、誰しも罹患する可能性があるものとして認識すべきとも言える。

 

次に、精神疾患における年齢別の平均入院日数を見ていく。このグラフは、精神疾患のうち平均入院日数が30日以上となっている3つの疾患について示した図である。なお実際の治療期間や働けない期間は、入院期間だけとは限らず退院後も在宅療養を余儀なくされるケースが非常に多いことも知っておいてほしい。

主なメンタル疾患の平均在院日数(年齢階級別)


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とくに入院日数が長期化しやすい「統合失調症,統合失調症型障害及び妄想性障害」では、若い世代でも平均入院日数が100日~200日となっている。また、うつ病などの「気分障害」での平均入院日数も、20歳代の人でも40日を超えるなど長期化しやすくなっている。また年齢が高いほど長期化するという傾向もある。

 

社長が精神疾患になるのか?

ここまでの数値はあくまでも全体的なものであるが、「経営者」または「個人事業主」という立場の人にとってはどうなのだろうか?

社長と一般的な会社員とでは、立場も環境も異なるわけだが、とはいえ経営者や二代目などの継承者が、精神疾患で苦しむ事例は意外と耳にする機会がある。そこでここからは、実際に経営者に起こった事例をいくつか紹介していく。


なおこれらの事例は、筆者による実際の取材や、経営者の悩み相談を受けているコンサルタントに取材をした内容を元にしたもので、その一部を、抜粋して紹介する。


事例1.資金繰りが苦しくなると思考停止と現実逃避に陥る

経営者にとってメンタルリスクが起こりやすくなる要因として一番多いのは『資金繰りの悪化』に伴うものである。とくに、予想外の出来事で一気に資金繰りが悪化するなど急激な変化が起こった時に、思考停止や逃避行動という精神状態に陥るケースがある。


またこれは人間の本能によって引きこされる現象、という心理学的な見解もある。それによると、人は何か危機的状況に陥った時に「生存本能」が最も強く働くため、今日を生き延びることだけに能力を持っていかれて、将来に目を向けた戦略的な思考を持つことや、決断や行動を起こすという事ができなくなる、とのことである。リーマンショックやバブル崩壊などの時に、そうした心理状況に陥った経営者は、少なくなかったように感じる。それが人間の本能によるものであるなら、これは誰しも起こりうるメンタル疾患の一つとも言える。


このままではいけないとわかっていながら何も出来ないというような、堂々巡りの精神状態が長期に及んだ場合、そこから脱出するには治療や休息も必要となる。


事例2.若手三代目跡取りの悲劇

跡取りとなる二代目や三代目には、一定期間を大手企業等で働き、その後に親の会社に参加するという例も多い。大手企業にいる間は成績優秀な社員として脚光浴びた人が、親の会社に意気揚々と入った途端に、思うように仕事ができず一気に自信を失い、会社に来られなくなってしまったという事例で、これは起こりがちな事とも言える。


大手企業では仕事が分業されているため、営業は営業に、管理は管理に集中できるが、中小企業の場合はそうはいかない。パソコンの設置や配線、パンフレットやボールペンの準備から自分達でやる必要があるということや、会社全体を俯瞰的に見る事なども求められる。こうした仕事へのスタンスのギャップからストレスを引き起こし、自信を失い失意に苛まれ、会社に行くことが困難となるケースがある。そこからやり直すためには、心や体を休める期間が必要となる。


事例3.二代目に反発する社員

親の会社を継いだ二代目経営者が、ある日、自分は社員たちにあまり好かれていないと感じて、分ってもらおうとひたすら努力を続けたり、ひとり奮闘をしたが、しかし極度のストレス状態が続いたことでメンタル疾患に陥り、会社に行くことが困難となって退職まで追い込まれてしまった。


事例4.今思えば、あれはうつ病だった

社員同士にあつれきができてしまい、その間に挟まれた経営者。なんとか間を取り持とうと努力し、解決をしようとして双方に心を尽くしたが、結果としてどちらからも責められるということになる。双方から批判されて孤立状況が続いた時期に、駅のホームで電車に飛び込みたい衝動にかられることが何度かあり、あとから「あの時、自分はうつ病だった」と実感することになる。


事例5.家族を失った悲しみ

家族を失うのは誰しも辛い。経営者でも同じである。家族を失った悲しみが深く、だんだんと会社に行くことが困難な状況となる。そんな時期が1年以上続いたが、この社長は数年後に復帰を果たしている。休んでいる間、助けてくれる社員たちがいたからである。社長不在の時期があっても、社員たちの助けによって乗り切ることができた事例の一つでもある。このように、社長不在でも会社が回る状況を作っておく事は、リスクを回避する大きな要因となる。


5つの事例を紹介したが、このようにメンタルヘルスの問題は、経営者であっても他人事とは言えないものがある。そのための保障を確保しておくことで、もしもの時でも、しっかりと治療した上で再起を図るという選択肢が広がることになる。


精神疾患保障がある就業不能保険の選び方のコツ

そんな、経営者のメンタルリスクに備えるものとして、就業不能保険の精神疾患保障がある。その選び方やポイントについて紹介していく。


現在販売されている就業不能保険には、精神疾患保障があるものと、ないものとの両方がある。経営者が就業不能保険を選ぶ時には、なるべく精神疾患保障があるものを選ぶ方が望ましいというのが第一のポイントである。


次に、精神疾患保障の給付条件は商品によって異なっているため、給付条件や保障範囲を事前によく確認することが第2のポイントとなる。


とくに給付条件の違いについては、同じ疾患でも給付金が出ると出ないとでは大きな差、となるため、確認することが大切である。例えば商品によって、以下のような給付条件がある。

  • 特定の精神疾患による60日以上(※)の入院
  • 60日以上(※)の、継続入院と医師の指導など一定条件のもとでの在宅療養
  • 国民年金法の障害等級1級または2級
  • 精神障害者保健福祉手帳の2級


※ 14日、30日、180日とするものなどもある

比較的範囲が広いものとしては、「在宅療養」を含めるものや、「精神障害者保健福祉手帳の2級」などがある。参考にしてほしい。


そして、実際の給付金については、精神疾患の場合には給付期間(回数)を限定している商品が多い。そして、その期間(回数)も商品によって異なっている。また、前倒しや一括で受け取れるなどの、まとまった金額を受け取れるかどうかということも重要となる。 そのため、これらを確認することが第3のポイントとなる。


最期に、ポイントをまとめておくので参考にしてほしい。


経営者のための、就業不能保険の選び方のポイント

  • なるべく精神疾患保障のある商品を選ぶ。
  • 給付条件の範囲が広い商品を選ぶ。
  • 給付期間(回数)がなるべく多いもの。前倒しや一括受け取りが可能なものを選ぶ。

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森田 直子(もりたなおこ)

保険ジャーナリスト。経済誌や業界誌、保険・マネー情報WEBサイト、保険会社のご契約のしおりなど、保険に関する執筆実績多数。講師業など幅広く活動。

保険営業としての経験もあり、現場知識に強く、また2人の子を育てる母親として庶民感覚を重視したわかりやすい文体に定評がある。著書に『あなたの保険は大丈夫?』(ダイヤモンド社刊)、『就業不能リスクとGLTD』(保険毎日新聞社刊)など。保険業界メールマガジンinswatch発行人。

   

  

 ※ この記事に記載されている情報は2021年8月11日作成時のものです。

   

   

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