中小企業と経営者のリスクに備える「変額保険」③ 法人向け変額保険の賢い活用法
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資産運用とは、今ある資産をさらに増やす『手段』のことです。
| 金融商品の特性 | リスクを抑えるための投資方法 |
|---|---|
| ①安全性 | ①長期投資 |
| ②収益性 | ②積立投資 |
| ③流動性 | ③分散投資 |
中小企業の場合、以下のような理由で資産運用が重要です。
インフレとはインフレーションの略で、物価が継続して上昇する状態のことです。
例えば、預金金利の上昇局面で物価がそれ以上に上昇すると、預金の実質的価値は目減りします。
しかし、物価上昇分以上の利回りの資産運用や外貨建ての資産運用で、インフレによる資産の目減りを防げる可能性があります。
中小企業の業績は経営者依存のことが多く、例えば経営者が急病で入院すると、売上が激減し、当面の固定費の支払いが現預金だけでは不足することがあります。
しかし、資産運用をしていれば、資産運用によって得られる収益、資産の売却や解約、運用資産を担保にした一時的な借入れなどで、資金不足の危機をしのげる可能性があります。
費用を変動費と固定費に分けて考えている企業もありますが、近年、収益についても、サブスクリプション(いわゆるサブスク)という言葉が一般的に使われるようになっています。
これは、安定収益(継続的に得られる収益)というものが重要視されるようになってきているということでしょう。
資産運用で、安定収益を構築できるのが、例えば賃貸不動産などです。
資産運用は、必ずしも元本保証ではないため、損失が発生するリスクがあります。
この損失リスクを検討するにあたって、課税(税率)や資産運用で損失が生じた場合の処理について見てみましょう。
個人で運用する場合は処理等が複雑なので、下表に箇条書きでまとめてみました。
| 運用収益に対する課税(税率) |
・不動産譲渡所得は、短期(その年の1月1日現在所有期間が5年以下/税率:所得税と住民税を合わせて39%)と長期(5年超/税率:所得税と住民税を合わせて20%)で異なる。 ・不動産所得は総合課税の対象(税率:累進税率で、所得税と住民税を合わせて15~55%)。 ・株式等の譲渡所得は、申告分離課税もしくは申告不要(特定口座/税率:所得税と住民税を合わせて20.315%)。 ・株式等の配当所得は、原則として、総合課税の対象(税率:累進税率で、所得税と住民税を合わせて15~55%)だが、上場株式等の配当等(大口株主等が支払いを受ける上場株式等の配当等を除く)については、申告分離課税を選択可(申告分離課税の選択は、確定申告する上場株式等の配当所得の全額について必要/税率:申告不要の場合を含め、所得税と住民税を合わせて20.315%)。なお、大口株主等が支払いを受ける上場株式等の配当等及び上場株式等以外の配当等については、総合課税の対象(税率:累進税率で、所得税と住民税を合わせて15~55%)。 |
|---|---|
| 資産運用で損失が生じた場合の処理 |
・不動産譲渡損失は不動産譲渡所得から控除はできるが、控除しきれない損失については他の所得と損益通算はできない。 ・不動産所得が赤字のときは、原則として、他の所得と損益通算でき、それでも控除しきれない損失については最長3年間、繰り越せる。 ・上場株式等に譲渡損失が生じた場合には、上場株式等の譲渡所得と損益通算ができ、また、上場株式の配当金や投資信託の分配金等とも損益通算ができ、それでも控除しきれない損失については最長3年間、繰り越せる。 |
これに対して、法人で資産運用する場合、運用収益に対する課税(税率)は、所得の発生源は問わず一律(実効税率は約30%)となります。
法人による資産運用で損失が生じた場合については、所得税のように所得の区分により税率が異なったり、損益通算ができないということはないため、資産運用で損失が生じたとしても事業でそれ以上の利益が生じていれば通算されます。
また、青色申告の場合、所得がマイナスのときは最長10年間、繰り越せます。
これらを比較すると、個人で運用する場合より法人で運用する場合の方が、税務上有利なケースもあるといえるでしょう。
事業承継を検討する際、後継者候補が企業の将来性に不安を感じ、後継者とならないことがあります。
しかし、資産運用によって将来的にも収益を得ることができれば、企業の将来性に対する後継者候補の不安を取り除けるかもしれません。
資産運用で重要なポイントは、次のとおりです。
まず、例えば「いつまでに、毎月(年間)いくらの安定的な収入を確保できるようにする」など、投資の目的を明確にしたうえで、リスクをどれだけ許容できるかを考えましょう。
投資対象には様々なものがあるため、特徴を把握したうえで、上記(1)に合うものを慎重に選びましょう。
すぐに資産を増やそうと思うとハイリスク・ハイリターンとなりがちなため、長期的な視点で運用すべきです。
投資対象が少ないと、価格変動リスクが高くなります。
投資する資産・国・業種、投資タイミングなどを分けて投資すること(分散投資)で、価格変動リスクの軽減を図りましょう。
代表的な資産運用商品として、投資信託・不動産・生命保険があげられます。
資産運用商品は数え切れないほどあります。
投資信託でも安定的に高い利回りの実績を残している商品もありますので、安全性・収益性・流動性のバランスを考慮して選択しましょう。
不動産は一物多価といわれ様々な価格があるため、選択の際には、購入価格や賃料の適正な水準を把握することが重要です。
生命保険は、変額保険の受取保険金額が運用実績に連動するので(基本保険金額は保証されます)、契約時に約款や資料等で保険商品の特別勘定の種類や運用方針を確認しましょう。
以下のような長期運用のメリットを把握して時間を味方につけましょう。
「資産運用で得た利益を再投資することで利益が利益を生み、さらに資産が増える」という複利効果を最大限に活かせます。
時間の分散(積立投資)により、決まった金額を続けて投資することで、価格が安いと相対的に購入数量が増え、逆に価格が高いと減るため、購入単価が平準化され、投資期間が長くなればなるほど購入単価変動リスクを軽減できます。
例えば、アメリカ株式のチャートを見ると、上昇と下落を繰り返しながら右肩上がりで成長しています。
将来は不明ですが、過去の実績から考えると、上下動はするものの、長期的には右肩上がりなので、(短期では下落する場面があっても)長期運用するのであれば短期運用よりも安定した収益を得やすいと考えられます。
【著者】
國村 年(くにむら みのる)
公認会計士・税理士・香川大学大学院客員教授・日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格者・戦略MG インストラクター
関西学院大学経済学部卒業。1996年から監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)、2007年から小谷野公認会計士事務所に勤務したのち、2011年に香川県高松市で國村公認会計士事務所開業。贈与・相続、事業承継、M&A・組織再編、棚卸のコンサルティングを中心に行っている。著書・執筆は、『誰も教えてくれなかった実地棚卸の実務Q&A』(中央経済社)など多数ある。
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