インボイス制度導入でどうなる? 税務調査の方針と留意すべきポイント
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「農作物を作りながら太陽光発電を行う」。一見、困難にも思えるが、それが実現できる仕組みがあるという。それが「ソーラーシェアリング」と呼ばれるものだ。「営農型太陽光発電」ともいう。
具体的には、「農地に支柱を立てて上部空間に太陽光発電設備を設置し、太陽光を農業生産と発電とで共有する取組み」である。(出典:農林水産省)農業を行いながら発電した電力を農業設備に使ったり、電力会社に売電したりすることによって収益を増やすことが可能になる。
「ソーラーシェアリング」という名前は、太陽光のメリットを分け合うという意味で付けられた和製英語であり、海外では「Agri-Voltaic」と呼ばれている。
実際に太陽光発電設備の下で農業を行うことに支障はないのだろうか?ソーラーシェアリングの実情を知るため、実証実験を行っている埼玉県東松山市の「ふみさん農園」の関根文男氏に話を聞いた。
関根氏の耕作地面積は約19ヘクタール。東京ドーム約4個分だ。同地域では2番目の規模を誇る。
関根家は代々農業を営んでいて、文男氏で7代目くらいになるという。くらい、というのは、はっきりとした記録が残ってないからで、どうやら江戸時代から農業を営んでいたことは間違いないらしい。
実は文男氏はもともと農業をやっていたわけではない。母親と兄である長男が農業をやっていたので、四男の文男氏は大学を中退後、設計事務所に勤めてから独立し、設計の仕事と不動産売買の仕事をしながら、ラーメン屋も手がけた。どれも順調で28歳で結婚、その時点では農業には手を出さなかった。そのあと何と市議会議員になったのだ。周囲から押し上げられ、5期20年も務めた。その間、国会議員に請われ、特別秘書もやった。結果的に政治の世界にどっぷりつかることになった。そして50歳になろうというとき、長男が農業を辞めると言い出した。次男と三男は会社勤めをしていたこともあり四男の文男氏が引き継ぐことになった。
期せずして農業に手を染めることになった関根(文男)氏。当時地元の農家は代々家業を継いでいる小規模なところばかり。ところが後継者がいないことから面倒見てくれないか、という声が関根氏にかかり始めた。気が付いたら自身が耕す農地は広がる一方。すっかり農業にのめり込んだ。
農業に使うさまざまな農機具を見せてもらったが、もはや農業は工業だという感想を持った。とにかく機械化が進んでいるのだ。トラクター、コンバイン、田植え機、乾燥機など、あらゆる農作業が機械化されている。稲の種まきはドローンで行う。空中散布する時、種もみが散逸しないように、鉄粉でコーティングして重量を増やし、効率的に田んぼに落ちるようにするなど、農法の進歩は想像以上だ。齢70才を超える関根氏がこうした最先端機器を使いこなしていることに驚いたが、それがまた若さの秘訣なのだろう。
次に実際にソーラーシェアリングの実証実験を行っている現場、「リエネソーラーファーム東松山太陽光発電所」に向かった。ここでは再生可能エネルギー事業に力を入れている東急不動産株式会社がソーラーシェア事業実証パートナーのエクシオグループ株式会社と組み、去年12月から実証実験を行っている。
効率的な開発及び運営の手法の研究や、最適な発電量を確保するための検証、作物の生育データの収集 · 分析を通した収穫高や栽培品質に影響の少ない営農の実証など、様々な実証実験を行う。
関根氏はこの場で稲作を行っている。5月末から田植えを始めるという。柱と柱の間を耕運機で器用に耕す。ソーラーシェアリングは太陽光パネルによる日照の減少により、農作物の収穫高の減少が課題とされている。しかし、関根氏によると実際にやってみるとそうでもないらしい。
「去年実験的にやりましたが、収穫高は想像していたよりもよかった。全面的に太陽光パネルを設置してやるのは今年初めてなので、今準備をしているところです」。
今回の実証実験で集まるデータは、ソーラーシェアリングに興味のある農業従事者にとって有用なものとなるだろう。
こうしてみると、ソーラーシェアリングは農業従事者にとって、収益向上のための有望な選択肢に見える。今後普及していくのだろうか。
その問題に答える前に、関根氏は米の買い取り価格が下がっている現状を指摘した。
「今米価が非常に安い。そのため農業を辞める人が増えてしまっている。水田を守るためには米の買い入れ価格を60㎏(1俵)当たり1万4000円から1万5000円くらいにしないと無理だと思います」。
米価が下がっている原因は複合的だ。人口減、米離れ、コロナ禍による外食産業における米需要の低迷などが挙げられる。さらに追い打ちをかけるように昨今エネルギーや肥料が高騰している。
そうした中、関根氏はソーラーシェアリングに可能性を感じているという。先に述べたように、太陽光発電設備が田んぼの上にあっても米の収穫量は思ったほど落ちない見込みだからだ。加えて、太陽光発電設備の借地料が収益として入る。
「ただ、自分の土地ならいいけれども、他人の土地を借りている場合はどうなるかわからないけどね」と関根氏は続けた。太陽光発電設備を建設するにあたり、支柱部分の農地転用許可を農業委員会に出す必要がある。その農地が借地の場合、自分の土地の場合と比べ、手続きが複雑になると思われる。
いずれにしてもまだソーラーシェアリングは実証段階。太陽光発電設備の投資額は高額だ。ソーラーパネルとそれを支える構造物以外に、災害時に自律運転機能というものが義務付けられており、パワーコンディショナーや給電用コンセントなどを設置する必要がある。それらの投資負担をどうするか。また、太陽光発電の売電収入をどう分配するのか、という問題もある。農業従事者が実際にソーラーシェアリングを行うにはそういった問題をクリアしていかねばならないだろう。
一方で、太陽光発電事業者がその資本力を背景にソーラーシェアリングを普及させることは、再生可能エネルギーの拡大と共に、農業耕作地の減少に歯止めをかけることにもなる。行政の後押しがあってもよいだろう。
関根氏は自身の事業承継についてどう考えているのか聞いてみた。
実は関根氏は農業以外にも設計事務所を経営し、ホテル事業も行うなど多角化経営を行っている。長男がホテル経営、2人の娘たちはそれぞれインテリアデザイナーと薬剤師の仕事をしている。したがって後継者はいない。「事業譲渡」も考えているという。
「80歳くらいまでが限界かな。今73歳だからあと7年。後を継いでくれる人がいたら、機械とかもそのまま無償で貸してもいいと思っています」。
「そういう人が現れたら、自分はボランティアで農業を手伝ってもいいよ」とも。
随分と思い切った考えだが、後継者がいないとなるとそうした決断をせざるを得ないこともあるのだろう。
「農業にもっと補助金を出してあげないと、農業やる人いなくなっちゃうよ」。
最後の関根氏の言葉に深く考えさせられた。
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