その光の先を見つめて
エヌエヌ生命が照らす、未来へつなぐコラボレーション
第7回京都インターナショナル・ギフト・ショー2026トークイベントから
日本のものづくりの担い手と、オランダのクリエイターがオンラインプラットフォーム上で出会い、新たな商品を生み出す日蘭協業支援プログラム「MONO MAKERS PROGRAM(以下、MMP)」。昨年に続き、2025年も2組のペアが新たな協業に挑んだ。
MONO MAKERS PROGRAM
オランダにルーツを持つエヌエヌ生命保険株式会社(以下、エヌエヌ生命)が2023年からJapan Cultural Exchange(以下、JCE)とともに実施しているMMPは、JCEの中條永味子氏とエヌエヌ生命の保谷友美子の二人が、異なる文化的背景を持つ両者の協業を支えている。
3年目となる今回は、小嶋織物株式会社の小嶋恵理香氏とデザイナーのサミラ・ブーン氏、そして、京都染元しょうび苑の上林央佑氏とデザイナーのレナ・ウィンターリンク氏がタッグを組んだ。
海より低い土地に暮らし、環境を再設計しながら風力発電など新たな仕組みを生み出してきたオランダ。一方で、日本には長い時間をかけて技術を磨き続けてきた伝統産業がある。異なる背景を持つ両者が交わるとき、脈々と編まれてきた技術の中に、新たな展開が見えてきた。
小嶋織物 × サミラ・ブーン
1932年創業の小嶋織物株式会社(https://www.kojima-orimono.com/)は京都府木津川市が拠点。天然素材の麻や綿、そして木(パルプ)から生まれるレーヨン糸・紙糸を使用し、織物壁紙と織物ふすま紙を糸から一貫生産している。粗い目の織りが特徴で、風を心地よく通す。ラグジュアリーホテルやアパレルブランド、美術館、皇居などへの導入実績を持つ。
一方、オランダと東京に拠点を置くサミラ・ブーン氏(https://www.samiraboon.com/studio)は、テキスタイルを建築的に用い、アートや科学、テクノロジーを融合させた空間デザインを手掛ける国際的なデザイナーだ。代表作は国際空港やハイブランドのファサードを彩る。
そんな二人のコラボレーションは、小嶋氏の幼少期の記憶が鍵になった。粗い織り目の間から差し込むキラキラとした光を見るのが好きだった小嶋氏。家業に戻った今、父の姿勢を受け継ぎながら、4代目として新たな価値を生み出したい。そんな強い想いをブーン氏と共有し、協業がスタートした。
小嶋氏「長い年月をかけ、いいものを作っているけれど新たな一歩が踏み出せないでいました。アイデアはあるもののどう形にしていいか分からない。後継ぎという立場で、見通しの立たない投資を会社にさせるわけにもいかない。そんな時にMMPのプロジェクトを知りました。オンラインプラットフォーム上でのデザイナーとの出会いから協業のハンズオン支援まで手厚くサポートしてもらい、これまで参加したことのあるプロジェクトと比べて非常に心強く感じました。サミラさんが、小嶋織物としての将来の市場を見据えた商品提案をしてくれたのも大きかったです」
ブーン氏「小嶋織物が持つ技術と匠の知識は素晴らしく、新しいインテリア製品の開発に多くの可能性を与えてくれました。小嶋さんは開拓されていない道を探ることに非常に熱心で意欲的でした。またMMPのサポートもあり、多角的な視点から開発を進め新たな繋がりを築くことができました。7ヶ月という短期間で、分析、戦略策定、コンセプト開発、プロトタイピング、そして最終デザイン提案までを完了することができたことに非常に満足しています」
協業商品「バーチカル・ブラインド」
粗い織りの透過性を活かし、光を遮るのではなく、やわらかく通す設計となっている。空間をゆるやかに仕切る商品として仕上がった。
京都染元しょうび苑 × レナ・ウィンターリンク
布に職人の手でアウトラインを描き、その内側に熱した蝋(ワックス)を刷毛で塗り込む。蝋が染料を防ぎ、覆われていない部分に色が広がっていく。ろうけつ染めと言われるこの技法は8世紀から伝わる防染技術だ。京都染元しょうび苑(https://shobien.norenya.jp/)は、1200年の歴史を持つろうけつ染めの技法を守り、創業から63年を経た今も数々の銘店の暖簾を手作業で染め上げている。3代目に当たる上林氏は現在大学在学中の22歳だ。
オランダ・アムステルダムを拠点に活動するレナ・ウィンターリンク氏(https://lenawinterink.com/)は、2019年にアカデミーを優秀な成績で卒業し、2023年には才能育成助成金を受けた新進気鋭のデザイナー。数々の企業と共同研究を重ね、持続可能性のある繊維の再利用などを作品として提案している。
二人の出会いはとてもユニークだ。上林氏がオンラインプラットフォームに登録したその翌日にウィンターリンク氏から連絡が届いたそうで、両者の協業はスピーディに進み、オンラインでのやり取りから始まりオランダ現地でのディスカッションと実験を重ね、ブラインドの製作へと進んでいった。
上林氏「ありきたりな商品は作りたくない、という想いが二人の間にありました。同時に僕らの若さがプレッシャーでもあり強みでもありました。既存の延長にあるものではなく、新しいかたちを生み出すには……。欧州のデザイン開発では、デザイナーの提案が命で、その要望にどう答えるかをメーカー側は考えるのですが、レナさんはろうけつ染めという技術を基準に、どのようなデザインができるのかという可能性を探してくれました」
ウィンターリンク氏「今回のコラボレーションで、ろうけつ染めの美しい特性と、しょうび苑の制作方法を深く掘り下げることができました。模様の精密さと、染色過程で予期せず現れる有機的なひび割れの効果を、新たな方法で応用できないか探りました。コントロールと偶然による美しさを、伝統的な技と現代的な視点でバランスを取りながら製作する。この過程はとても刺激的でした」
協業商品「ブラインド」
プリーツの折すらも染めの段階で作られ、均等にひび割れを入れるよう計算されている。光を単に遮断するのではなく、光そのものが表情を持つ構造を実現した。
協業において大事なこと
非常に対照的な2組の協業だが、偶然にも同じ窓周りの商品開発へとつながった。二人はエヌエヌ生命が主催するオランダスタディツアーにも参加し、スタジオ訪問ではデザイナーと膝を突き合わせてディスカッションした経験が、今回の協業に役立ったという。プログラムに参加してどのような気づきがあったのか伺った。
小嶋氏「まず、このプログラムがなかったらオランダのデザイナーと組むことはあり得ませんでした。サミラさんは常に販売やマーケットのことを考えてくれました。それに、実は父がちらっと’’ブラインドをやってみたかった’’と応援をしてくれました。父ができなかった一歩を踏み出すことができたのではと、とても嬉しく思っています」
上林氏「日本の職人は世界一だと、ずっと口にしているのですが、オランダでもそれを実感することができました。オランダのデザイナーさんは日本の職人への強いリスペクトがある。デザイン視点だけではなく技術として考えてくださることが印象的でした。B to Bで暖簾を作ってきましたが、B to Cで展開できる可能性を持つことができて、良かったなと思っています」
保谷「私たちは、メーカーとデザイナーの立ち位置が常に対等になるよう心がけています。このプログラムに参加されるにあたって、事業者さんの紡いできた歴史や伝統、技術をデザイナー側にしっかりと伝えること、そしてデザイナー側が大切にしていることも事業者さんに伝えるなど、相互のリスペクトを丁寧に編んでいく。それこそが協業の秘訣なのでは、と考えています」
次なる未来へ
それぞれの成果を踏まえ、次は販売へと歩みを進めていく段階に入った。協業による商品開発をひとつのスタート地点として、これからの展望を伺った。
小嶋氏「もともと弊社が取り扱う織物は高級ラインです。それもあって、ホテルやハイクラス空間へのカスタマイズを考えています。今回、出展(第7回京都インターナショナル・ギフト・ショー2026)してみると、女性向けECサイトに載せないかとお声がかかり驚いています。念願でもあるB to Cの展開も見えてきました。日本の基準、海外の基準など私自身も勉強を重ねて行きたいです」
ブーン氏「これは長期的な協業の始まりだと考えています。まだ関係は始まったばかりですが、小嶋織物の技術には新たなインテリアへと展開できる大きな可能性があります。この技法や工程を深く理解することで、その中にある価値を見出し、それを現代のニーズに適応させたデザインとして提案していく。そうしたアプローチで事業の成長につなげていくことを重視していけたらと思います」
上林氏「僕たちも、ラグジュアリー空間としてホテルやラウンジ、レストランなどに置かせていただけないかと考えています。海外では暖簾がインテリアとして注目されています。僕らの商品に注目してくださる1人が、確実に1になるよう、そしてその1が10になるよう、しっかりとやっていきたいです。そのためにも防煙・防火性能といった課題を一つずつクリアしていこうと思います」
ウィンターリンク氏「現在もプロジェクトの継続に取り組んでいます。今後はしょうび苑の工房で滞在制作を予定しており、京都を訪れて共同作業をさらに深めていきます。技法の精度を高め、色彩を定義しながら、プリーツによってパターンが立ち上がる。ろうけつ染めの特性そのものを体現したコレクションの完成を目指します」
小嶋氏は、木津川市の織物文化を広め、より多くの人に木津川市を訪れてほしいと語る。一方上林氏は、日本の職人技術をいかに世界に広め、その未来を切り拓いていくかに挑戦している。海外を視野に入れながらも、二人の根底には常に地域産業や自らの業界を次の世代につないでいくという強い思いがある。
2組の協業は、やわらかな光と共に未来を照らし出していく。
NN