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「承継しても辞めなくていい」
Yamatoさわかみ事業承継機構 吉川明代表取締役

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これまで多くの中小企業経営者を紹介してきた。今回話を聞いた株式会社 Yamatoさわかみ事業承継機構の代表取締役吉川明氏は、野村證券、さわかみ投信、日本政策投資銀行を経て、Yamato Capital Partners株式会社を創業、代表パートナーを務めている。これまでに1000社以上の企業の「目利き」を行ってきた吉川氏の話は、事業承継に悩む多くの中小企業にとって極めて示唆に富むものだった。

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事業承継の問題点

去年からのコロナ禍において、打撃を受けている中小企業は多い。ビジネスをどう立て直し、再び成長軌道に乗せていけば良いのか。その難しい命題に直面し、事業承継を真剣に考え始めた経営者が最近増えているという。

 

そうした中、吉川氏は、日本の事業承継は100以上の問題が複合的に絡み合っていると指摘、事業承継を行う上で考えねばならない点を3つ挙げた。

 

1つ目は、「連帯保証」。日本では、銀行が社長に個人保証を求めるのが普通だ。政府の調査だと、自力で連帯保証を外すことができた会社は1割しかない、と吉川氏は指摘する。

 

2つ目は、「中小企業が社会の土台になっている」ということだ。日本は、雇用の8割とGDPの7割を中小企業が担っている(米国はその半分程度で、重要度が違う)。中小企業の事業承継問題というのは、日本の雇用や経済にもろに響く。

 

3つ目が「文化の問題」。日本では、事業承継する場合、他の地域からのお金や人を受け入れない傾向が強い。特に地方の中小企業には文化的障壁がある。

 

まさに日本的な問題ばかりだが、事業承継が進まない現状を放置していたら廃業が相次ぎ、その結果、日本経済全体がダメージを受けることになる。どうしたら歯止めをかけることが出来るのだろうか。

 

吉川氏:まさに資本主義の歪みが顕著に出ています。(事業承継を)営利優先で解決しようとすると、ほとんどが解決できません。たとえば、M&Aやファンドが対象にするのは中小企業のうち2%くらいの会社です。一方、残りの98%の中小企業はM&Aで仲介したり、ファンドが買って転売してもそんなに利益がでないこともあり、対象外なのです。資本主義が行きすぎていて、儲からないからと、世の中に必要なことを誰もやらない。しかも、地方の中小企業のオーナーは、儲け目的の他地域のお金や人をすごく嫌がります。だから、資本主義の論理で儲け目的で行くと、相手に受け入れてもらえない。これは日本特有です。

 

9割以上の事業承継は、儲け目的ではうまく解決できないと断じる吉川氏。そこで、「営利ビジネス」ではなく、「ソーシャルビジネス」としてやろう、と考え

 Yamatoさわかみ事業承継機構(以下、機構)を2年半前に立ち上げたという。

ソーシャルビジネスとしての事業承継

「ソーシャルビジネス」とはどのような概念か、それがどう事業承継と結びつくのだろうか?

 

吉川氏:私的なカネ儲け目的ではなく、公的社会に必要なことをビジネスとしてやる、という概念です。日本の企業の数は385万社、その中で事業承継が必要な中小企業は127万社です。約3社に1社は事業承継問題を抱えている。この事業承継問題を放置すれば、日本が沈みます。だから、カネ儲けにならなくても、誰かがやらなくてはならないのです。ただ、最初から全部解決するのは現実的に困難なので、優先順位をつけねばならない。ファンドの業界全体で事業承継をやった件数は、20年かけて1000社。うちは10年で5000社やろうとしています。だからファンドと全然違うビジネスモデルを作ったうえで、優先順位をつけて取りくんでいます。

 

では従来のファンドと全く違うアプローチとはどのようなものなのか?

 

吉川氏:ファンドと我々が一番違うのは、主役が違うことです。ファンドは投資家の為に、3年か5年後に一番儲かるように行動せねばならない。だから、長期的にマイナスでも、短期的に利益が出るコスト削減やリストラをしたり、強引な企業統合をしたりする。一方、我々はその会社を「永久保有」します。創業者よりも長い目線で会社の経営を考え、お付き合いしていくのです。その上で我々は、承継を考えている企業の社長さんに「株主利益を最優先して経営しなくていいですよ」と言います。我々は「中小企業自身を主役にする」のです。中小企業自身が主役として生き残っていく仕組みが今の資本主義の中にはないので、我々はそれを提供できるようにビジネスモデルを作ったのです。

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図)利益よりも社会問題の解決を優先するSDGsソーシャルビジネス

出典)Yamatoさわかみ事業承継機構

事業承継問題は「人口問題」

「永久保有」するといっても、その中小企業が潰れてしまえば、債務になってしまう。全てを引き受けるのは不可能では?そんな疑問をぶつけてみた。

 

吉川氏:理想論的には全て残せたらいいと思っていますが、事業承継問題の根本は人口問題なので、それは困難です。過去150年で日本の人口は4倍になった。3300万人の人口が1億2700万人になり、12年前にピークになった。だが、これから150年経ったら3300万人に戻ってしまう。かつては、1人の創業者の下に3人の後継者候補がいて、事業承継問題は出てこなかった。でも今は、3人の社長の元に1人の後継者候補しかいない。人口減の中でどんな企業を優先的に残していくのか、工夫していかねばならないのです。

 

ではその優先順位をどうやってつけていくのか、という疑問がわく。

 

吉川氏:我々は「生活者投資家」だと言っています。生活者にとってこの企業が必要かどうかを素直に判断する。その「生活に必要な企業」が現場で一生懸命やってくれているから、私たちは安全かつ便利に生活できている。カネカネを離れて生活者の目線で企業を見ると、その企業が本当に必要かどうかは意外と簡単にわかります。

「永久保有」を宣言

地域の金融機関にとっても、「生活に必要な企業」は地元に残って欲しい。ファンドに転売されて他国や他地域に移転してしまっては元も子もない。そこで機構は、その企業を「転売しない」のだという。

 

吉川氏:ファンドの対象にならず、M&Aもダメなら、自分たちで残していくしかない。だから、地域金融機関にとっても「一緒に地元にこの企業を残しましょう。我々は転売しません。永久保有します」というのは、受け入れられやすいのです。

 

ファンドでもM&Aでもない、中小企業にとって第3の道を開くわけだ。その上で、先に出た「連帯保証解除」のためにどのようなアドバイスを行なっているのか。銀行の預金保護責任は重い。簡単ではないだろう。

 

吉川氏:連帯保証の解除は、企業側と金融側の共同作業が必要です。銀行の預金保護責任に耐えられるだけの財務諸表の透明性や適時性を、中小企業がきちんと準備しなくてはならない。上場企業のようにとは言いませんが、せめて銀行が信用してこの数字なら成績表として認めてあげられますね、ということができないと連帯保証は外れません。

 

つまり、連帯保証を解除するために、機構が適正な財務諸表の作成を支援するということだ。これを「財務諸表の適正化」と呼んでいる。機構が、財務諸表、税務申告書、ローン計画書、キャッシュフロー表、さらには中長期経営計画書も作る。

 

ほとんどの中小企業オーナーは協力的だという。彼らの目的が自分の会社を地域に残すことだからだ。

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図)Yamatoさわかみ事業承継機構 中小企業を引き継ぐための独自の3つの仕組み

出典)Yamatoさわかみ事業承継機構

人材不足を解消するには

そしてもっとも深刻なのは、「人材不足の問題」だろう。吉川氏は「経営者不足」と、「経営者以外の人材不足」を分けて考える。

 

吉川氏:確かに中小企業の後継者は足りませんが、大企業のシニア層は余っています。今の60代70代はまだまだ元気です。知識もあるしやる気もあるし能力もある、社会貢献したいが仕事がない。一方で優秀な中小企業には後継者がいない。このギャップを埋めれば解決できます。

 

しかし、大企業のシニア層も、1人で6人分働いている創業者と比べたら、力不足は否めない。そこで機構では、この6人分の仕事を分業し、見える化、仕組み化している。それを、「経営シェアリング」と呼んでいる。また、6人分の仕事の内、経営者としての仕事以外の部分は、機構が丸受けすることで、負担を減らしながら「経営を強化」する。

 

吉川氏:当機構の専門部隊がやったら、1ヶ月分のパートの仕事が2、3日で終わります。法定調書の財務諸表や、経営管理、財務分析、KPIも、早く低コストで出します。データの精度と速さがぐんと上がり、大企業に近い環境を整えることができます。

機構の人員体制

現在機構の人員体制は約20名、協力アドバイザー約30名で現在増強中だ。そして、経営者候補が実に300名おり、その数も日々増えているという。

 

吉川氏:5000社を承継するには、経営者候補を10万人規模にしていく必要があります。1000社超の大企業と組んでいかないと10万人規模にはなりませんが、日本全国でいろんな業種の後継者のニーズに応えていくためには、その位の人材プールが必要です。

 

経営者候補に対し機構は、シニア向けの教育プログラム「後継社長塾」をやっている。主なコンテンツは3つ。まず、「大企業と中小企業の違い」と「創業者と後継者の違い」を知り、最後に、そのギャップを埋めるために機構が提供する「事業承継プラットフォーム」という仕組みを学んでもらうものだ。

 

機構が想定している経営者候補は、大企業の課長くらいをやったシニア層だ。5000社を目標に掲げているので、相当数集めねばならない。その上で吉川氏は経営者候補に必要な資質について語った。

 

吉川氏:中小企業の事業承継で大事なのは、新しいものを出してぐんぐん伸ばしていくというよりも、今ある事業を今あるように残していくことです。人間的成熟度とかコミュニケーション能力の高さとか、常識がちゃんと身についているかとか、地元の人たち・地域の人達にちゃんとリーダーとして認めてもらえるかとか、そういった人間的な能力が、ITやAIの力よりもずっと大事な要素です。

社長候補へのメッセージ

最後に、吉川氏に中小企業の経営者候補の方に対してメッセージをもらった。

 

吉川氏:第2の人生で社長(や経営幹部)になりませんか?子や孫の未来のために、我々と一緒に挑戦しませんか?残る人生の有意義な使い道になると思いますし、大きな社会貢献にもなります。挑戦の場を我々は提供しています。関心があったらぜひ当機構のHPから登録してください。そう言いたいですね。

 

そして、承継を考えている経営者の方にはこう言うという。

 

吉川氏:機構は、死ぬまで経営者として残るという選択肢も提供できる。事業承継しても、辞めなくてもいい。最後の最後まで、ずっと一緒に残って、ともに企業を残していく第3の道があるんですよ、と広く皆さんに知っていただきたいです。

 

 

話を聞いて、機構は中小企業が抱える問題をよく理解していると感じた。「企業は人なり」という。承継の問題はすぐれて「人の問題」そのものだ。地域の中小企業のニーズと、大企業をリタイアし第2の人生を模索する人のニーズをマッチングするビジネスモデルが軌道に乗れば、事業承継問題の出口も見えてくるだろう。


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