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家業をテクノロジーで再建 ~チャレンジへの勇気とその可能性を探る~(イベントレポート)

  • 後継者
  • イベントレポート

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現在の日本経済において中小企業の占める割合は99%。まさに日本経済を支える屋台骨といっても過言ではない、その中小企業の経営者たちが2020年には平均年齢70歳に到達するといわれています。日本経済にとって「後継者不足」は昨今の緊急を要する最重要事案です。この後継者不足の解消と共に、次なる時代に向けて新しい家業の基盤を強化するきっかけになればと、2人の若き経営者を招いたイベントが、「家業イノベーション・ラボ」主催で2019年10月6日(日)に開催されました。


テーマは「家業をテクノロジーで再建~チャレンジへの勇気と可能性を探る~」。今回、登壇いただいたミツフジ株式会社の三寺歩さんとプランティオ株式会社の芹澤孝悦さんは、祖父の代から続く家業の本質を見極め、そこにIoT(Internet of Things)やAI、さらには最先端のテクノロジーを組み合わせることで、家業の本質をより進化・発展させています。彼らにご自身の生い立ちから経歴、そして事業継承後に立ちはだかった課題や先代との関係性、そこから得たチャンスの活かし方を話していただきました。 さらにイベント後半では、Forbes Japanの編集長である藤吉雅春さんをモデレーターに迎え、三寺さん、芹澤さんの家業再建への試みをもっと詳しく紐解いていただきました。

一人目の登壇者であるミツフジ株式会社の三寺さんは、祖父が立ち上げた西陣織の帯工場を家業に持つ3代目。2代目の父親がアメリカの会社から独占販売権を得たあと、長年の研究開発から誕生した銀メッキ導電性繊維を、三寺さんがシャツの内側に電極として織り込んだ「シャツ型ウェアラブル端末」の開発に着手し、今年の日経ビジネスが発表した「世界を変える100社」に選ばれた、国内外で最も注目されている企業です。


三寺さんが家業を継いだのは2012年のこと。 父親から「資金ショートするから会社を継いでくれ」と連絡があり、それまで勤めていた外資系企業を退職しました。しかし、家業を継げと言った両親から発せられるのは諦めの気持ちばかり。そのことに危機感を抱いた三寺さんは「最初からダメだと諦めていたら何も生まれない」と奮起し、まずは否定的な思考を変えること=意識改革から始めました。

そして、次に着手したのが、家業の中にある(眠っている)「宝物」を見つけることでした。三寺さんは、この「宝物」を日本の「桜」に例えましたが、日ごろ、身近に接していると当たり前と思っていることも、少し視点を変えてみるとその重要性は大きく違ってくることがあります。ミツフジ株式会社にとっての当時の「桜」は、最も利益率が高く、問い合わせも多かった銀メッキ繊維でした。さらに、三寺さんは「ヒントは顧客の声にあるはず」と、大企業から研究所まで一つひとつ訪ね歩き、そこで銀メッキ繊維に寄せられた高い評価に家業復活への道筋を見つけたのです。


その後、銀メッキ繊維の更なる研究開発への取り組みを決意した三寺さんは、「多くの企業がウェアラブル産業への参入を試みるものの成功しないのは、衣類やデータ集積、クラウドの構築などすべて社内でまかなえることができないからだ」と気づき、自社内にウェアラブルに関してすべてに対応できる一気通貫型の体制を構築しました。

ミツフジ株式会社のウェアラブルは、着るだけで事前に体調の変化やストレス数値が可視化できる画期的なものとして、医療業界も大いに期待を寄せています。そして、ミツフジ株式会社の強みは、最も綺麗な心電データを取得できる技術と、それを解析する独自のアルゴリズムを持っていること。これが世界に名だたるIT企業やアパレル企業からオファーが届く理由の一つになっています。


「ITは効率化や生産性を高め、業務の基礎を固めるツールだと思うのですが、IoTは産業の壁を破壊するツールだと思う。今はいかに顧客の課題や社会の課題を解決できる企業であるかを訴求していくことが大事で、そのために世界中で産業の壁が次々となくなっています。私はその最先端にあるのがIoTじゃないかなと思います」


続いて登壇されたのは、プランティオ株式会社の芹澤さんです。

「僕も三寺さんと同じような境遇でした」と話し始めた芹澤さんは、「みんなでたのしく野菜を育てる世界へ」をビジョンに、食と農にフォーカスをあてたアグリテーメントを提案しています。


芹澤さんが開発したのは、センサーや通信モジュールを搭載したIoTプランターと専用アプリを活用したシェア型コミュニティファームです。野菜の種まきや収穫の時期はもちろん、その野菜の情報や調理方法、さらには位置情報と連動してどの野菜がどの場所で収穫できるのかを瞬時に把握でき、またカメラ機能の搭載により、野菜の成長を日々見守ることができます。SNSツールとしても活用できるので、野菜を通して利用者間でコミュニケーションを育むことも可能となります。

この取り組みは「育てるという行為を可視化した」もので、野菜栽培のみならず、昨今の環境問題を解決する道しるべとなり、人類による自給自足へとつなげていくアーバンアグリカルチャーです。

当初は、祖父が70年前に開発したプランターに最先端のテクノロジーを組み合わせる「第2のプランター」の開発に取り組んでいた芹澤さんでしたが、ある日、祖父がプランター開発への想いを綴った手記を読み、それまでの開発をすべて取り止めました。

モデレーターの藤吉さんはこの決断に驚いたそうで、のちのトークセッションで「コストもかなりかかっていると思うのに、よく決められましたね」と芹澤さんに尋ねたほどです。

「今、世の中にはガジェットを含め、IoTデバイスがたくさん出てきていますが、実は生活に根づいているものはとても少なく、そこから生まれるカルチャーもあまりないことに気づきました。でも、祖父が開発したプランターは“誰でもどこでも楽しめる”というアグリカルチャーでした。そこに家業の本質があったと気づいた僕は、コアテクノロジーを使ったIoTファームを作ることに方向転換しました。僕は家業の本質を時代に見合う形でアップデートすれば必ず活路は見いだせると思っていたので、そのための手段やツールがITやIoT、AIだったというわけです」


お二人の実体験をもとに語られる、テクノロジーを用いた家業の再建・進化への取り組みに会場を訪れた参加者たちも熱心に耳を傾けていました。後半では三寺さん、芹澤さんに加えて、Forbes Japan編集長・藤吉さんにも登壇いただき、何とも貴重なトークセッションが行われました。

藤吉 三寺さんは「IoTは産業の壁を壊す」とお話していましたが、導電性繊維から一気通貫型のIoTウェアラブル事業の拡大のポイントはどこだったのでしょうか?


三寺 ウェアラブルには、繊維からクラウドまで7つのパーツがあって、それぞれに携わるプロがいます。これまで参入したいとアパレルやアウトドアメーカーが戦略を立てても、どこに頼めばいいのかわかりませんでした。服のウェアラブルってちょっと特殊で、データは採れるけど着心地が悪ければ売れないし、その反対に着心地が良くてもデータが不正確であれば売れません。ようはシーズがいくつも分かれているために、ニーズをマッチさせることができませんでした。シーズとニーズを繋げる接着剤のような会社が必要だと気づき、最初はその役目を担っていたのですが、次第に繊維からクラウド、トランスミッター、メディカルもアルゴリズムも全部やってくれと発注が来るようになり、結果的にすべてに対応できる企業になりました。

藤吉 業種が広がっていったのは、クライアントからの要望だったのですね。


三寺 ウェアラブルは体の状態をアラートで知らせることができるのですが、例えば、熱中症で倒れたとしましょう。そうなると保険も必要になりますし、熱中症対策のための専用の飲料水も必要になってくるかもしれません。そこでまた違う企業が参入できます。私たちはクライアントと共に実証実験を進めていく過程で必要なものが見えてきています。

藤吉 芹澤さんは創業者であるお祖父さんの理念を理解したことで家業の本質に辿り着いたわけですが、最初に家業を継いだときは大変だったのですか?

芹澤(以下、芹) 祖父はガーデニング事業でしたが、父はフラワー事業をメインに経営していました。バブルのときまでは好景気だったのですが、その後は赤字も続いて。そこで僕は祖父のプランターで原点回帰しようと思ったんです。祖父が開発した当時は100%のシェアを誇っていたプランターが、今は日本で3%を切るほどになってしまったのですが、その限られた出荷先が農業試験場と小学校だったんです。その試験場の方から『精度が求められる植物栽培にはこのプランターでなければだめだ』と聞いて、これは絶対に活路があると思いましたね。


三寺 私の会社も銀メッキ繊維は黒字でした。高くても買ってくれる人がいたんですよね。その技術の価値が認められていると知って、そこだけを伸ばしていこうと。それでだめだったら辞めるしかないと思っていました。

藤吉 芹澤さんのファーミングの考えはどこから生まれたのですか?


芹澤 海外視察で見てきたことも大きいですね。海外ではすでに「自分たちで野菜を育てる」というカルチャーがあります。ニューヨークではビジネスにしているスタートアップの企業もあると聞きました。日本ではレンタルファームやレンタル菜園はありますが、これも限界があります。そこを打破するにはアーバンファーミングしかないと思いました。僕たちが開発しているシステムには、カメラやモニターがあるのでアーバンファーミングの課題であるセキュリティーも対策できます。管理しつつも管理していることが目的ではなく、そこから得られる楽しさを共有できたら、それが僕らのアグリカルチャーになると思いました。

藤吉 お二人ともお祖父さんから教訓を受けたようなのですが、お父さんでなかったのはなぜだと思いますか?


芹澤 父の代は高度経済成長期で何もしなくてもモノが売れる時代だったので、景気が悪くなったときに対応するノウハウは持ち合わせてなかった。それが前提としてありながらも、やはり人間は社会通念の常識に捉われすぎると変化を恐れます。これは仕方のないことかなとは思いますが、それをどう打破していけばいいのか、本質を見極めてアップデートしていくことが勝負なんだと思いますね。


三寺 時代背景は当然ありますよね。父の代は裕福でしたから。祖父がいなくなって自分が家業を継いだものの、追い込まれたときの思考回路はあまり働かないかもしれないですね。あと祖父への反発はあると思います。祖父と父の間は距離が遠すぎるんです。比べて、私と祖父の間には力関係はなく、祖父を超えてやろうとは思わない。父を超えてやるとは思いますけど(笑)。メンタリティな面もやっぱりあるんだろうなと思います。

時には笑いを交えながら、終始なごやかな雰囲気で進められたトークセッションは、基調講演とはまた違う、2人の経営者の新たな一面を垣間見ることができる貴重な機会になりました。そして、家業承継後、決して順風満帆ではなかったはずなのに、三寺さん、芹澤さんから発せられる言葉には、終始、ワクワク感が伝わってきます。こうして周囲の人たちから「楽しそう」と思わせることも、経営者には欠かせない重要なポイントなのかもしれません。

これからの時代、伝統ある技術とIoTやAI、テクノロジーの融合は避けては通れない課題といってもいいでしょう。それを三寺さん曰く「ポジティブな思考」で捉え、芹澤さん曰く「アップデート」していく。「変化」を恐れず、「進化」するための手段として大いに活用する。そこには自身が培ってきた経験と俯瞰的に見られる視野は不可欠ですが、同時に周囲の意見に耳を傾ける柔軟さもお二人のお話から伺うことできました。

今回のイベントが一つのきっかけとなり、IoTやAIなど最先端のテクノロジーを駆使して世界に挑む、若き家業イノベーターの誕生に期待が寄せられます。


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