中小企業経営者の資産形成 資産形成が必要な理由と実施時のポイント
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写真)SANU 2nd Homeのキャビン外観
出典)SANU
2021年のサービス開始直後から人気が沸騰している別荘のサブスクリプションサービス、「SANU(サヌ)」。会員制で現時点(2022年12月)ではウエイティングが数千を超している。なぜそれほどまでに多くの人を引き付けるのか。創業者に聞いた。
まず、「SANU」という一風変わった社名だが、聞いてみるとサンスクリット語だという。意味は、「山の頂(いただき)」、「太陽」、「思慮深い人」だ。同社は、ブランドコンセプトとして「Live with nature./自然と共に生きる」を掲げる。どのようにして都会で暮らす人と自然をつなぎ合わせることができるかということをサービスのテーマとしている。
創業した理由は、札幌の大自然の中で育った福島氏の生い立ちにあった。原体験は家の裏山のスキー場。それが当たり前だった。しかし、東京に出てきて、都会の子ども達はそうではないと知る。「人と自然の糸が切れている」と感じた福島氏は、30代半ばになり、「どうしたらこの切れた糸を紡ぎ直していけるのだろうか」と思うに至った。
「私の人生のテーマは2つ。ひとつは、自分が幼少期から得てきた自然の中での喜びをより多くの人に伝えたいという思い。もうひとつは、事業を通じて昨今の気候変動の影響で傷ついている自然を、次世代に向けて豊かにしていくことができないかということです」
その2つが重なり合って人と自然をテーマにした会社を立ち上げた。
別荘を買おうと思ったら数千万円はかかる。実際、別荘を保有している人は60代以上がほとんどだ。ホテルとも違う、都会の人がもっと自然と触れ合うサービスはないものか。
そしてSANUが誕生した。
SANUのサービスはシンプルだ。入会費はなく、毎月55,000円(税込)の会費を払えば、各地の環境配慮型木造キャビンの利用が可能だ。SANUでは、「自然の中にもう一つの家」を持つセカンドホーム・サブスクリプションサービスと呼んでいる。
2021年11月にサービス開始、 2022年7月に、八ヶ岳、白樺湖、山中湖、河口湖、北軽井沢など7拠点に50棟を完成させ運用を開始した。現時点で、静岡県伊豆高原や千葉県一宮町などにリノベーション棟3カ所が追加された。
メンバー(会員)は、月曜から木曜までは宿泊費はフリー(ピークシーズン除く)、金土日、祝祭日は1泊1部屋5,500円(税込)、ピークシーズンは16,500円(税込)となっている。その他、1滞在当たり清掃料金が3,300円(税込)かかる。
予約は2カ月前から可能で、1滞在あたりの最大連泊数は4泊、同時予約可能件数は2件(ただし同月内は1件)という制限がある。
キャビンは、国産木材を活用し、土地の生態系への負荷が少ない高床式基礎杭工法を採用した。実質再生可能エネルギー電力の利用など環境負荷を最小限にしたキャビンを独自開発。収益の一部で7,500本の木(SANU CABIN 50棟分に相当)を東北・釜石地方の森林に植林する計画で、建設で排出するCO2を超えたCO2吸収(=カーボンネガティブ)を実現するとしている。キャビンを作れば作るほど自然環境にとってプラスになる「リジェネラティブ(自然再生)」な仕組みを目指している。
収容人数は最大4名(セミダブルベッド2台)だ。小学生以下の子どもがいても問題無く泊まることができるだろう。食事に出かけなくてもキャビン内で調理できるようにアイランドキッチン周りは充実させた。
写真)キャビン内部 セミダブルベッドが2台。
出典)SANU
SANUを語る上で、福島氏と本間貴裕氏の出会いに触れないわけにはいかないだろう。本間氏は福島氏と共にSANUを立ち上げた創業者(ファウンダー)であり、ブランドディレクターである。
それは2013年頃のこと。共通の友人の結婚式がハワイのカウアイ島であり、その前夜祭の浜辺で2人は初めて出会った。
「お互い20代後半ぐらいでこれから一気にいろんなことをやっていくぞ!というタイミングで出会い、意気投合して自然の中で遊ぶ仲間になったのが始まりでしたね」
当時福島氏はコンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーにいて、本間氏はホテルやホステルの企画及び運営、プロデュースを行うBackpackers' Japan という会社の創業代表をやっていた。
「本間さんは有難いことに『一緒に仕事しよう』って、2013年から2019年まで6年間、ずっと僕に言い続けてくれたんです」
その間、福島氏は、ラグビーワールドカップ2019日本大会の運営に参画していたため、タイミングが合わなかった。
転機が訪れたのはワールドカップが終わった後。
「この男と組んで何かを作ると、これまでなかったものが作れるんじゃないかという感覚をお互いに持っていたのかもしれません」
写真)左:SANU ファウンダー兼ブランドディレクター 本間貴裕、右:CEO 福島弦
出典)SANU
2019年創業、2021年の11月にサービスを開始。コロナ禍のまっただ中でサービスをスタートさせることに躊躇はなかったのか。
「全くなかったです。コロナで活動も時間も停止したおかげで、空白のキャンバスに絵を描ける『ゼロの状態』になったのです。タイミング的にはむしろ恵まれていました」
福島氏はむしろコロナをチャンスととらえた。
「コロナが経済活動やライフスタイルに大きな影響を与えたことで、みんなが生活様式を見直すタイミングになりました」
確かにこの3年間は、私たちにとって、働き方、住環境、子育て、介護など、従来のライフスタイルについて見直す時間だった。
「都市の生活か田舎暮らしかの2択ではなくて、第3の道として、都市生活を維持しながら、軽やかに自然の中に行ってみませんか?」
そんな提案が受け入れられる素地は固まりつつあった。
実際、初期に50億円の資金を集めたことで、垂直立ち上げができた。
「レガシー産業である建築や住宅は変化が起きづらかった。そこに僕らのサービスの唯一無二性、タイミングの良さ、SANUに入りたいと手を挙げている人数などを示すことによって、投資家の皆さんにご支援いただいたことが大きかったです」
サービス開始から1年。メンバーの反応は上々だという。
「1万人のLikeではなく、10人のLoveを作ることが重要だと思っています。ありがたいことに、SANUを愛してやまないメッセージをいただくことが多いですね」
ホテルや旅館は一期一会の感覚が強いが、別荘のサブスクは「長く付き合うことが本質」と、福島氏。
「ある家庭にとって、10年後にアルバムを振り返った時に、少し違う人生を彩るきっかけになればいい」
そう思っているとも。
そのうえで、福島氏は「ウィズコロナでも変わらないものは、『都市の便利さ』と同時に『人間が動物として自然を求めること』です」と語る。
人は都市に集まる。一方でその反動もある。
「自然の中で空気を吸うと気持ちいいな」という動物的な感覚だ。
「今後、そのニーズはもっと大きくなっていくと思っています」
福島氏と話をしていて面白いと思った言葉があった。
「家族の時間の中の勝負」というものだ。
結婚して子どもができ、少し生活にゆとりが出てきた層にとって、家族の子育ての時間に何を取り入れるべきなのかが重要になってくる。その時、子どもを自然の中に連れて行くことに重きを置いてもらえるかどうかが大事だというのだ。
「我々は『SANUをライフスタイルにどう必要不可欠なものにしていくか』という考え方で勝負しています」
SANUの課題のひとつは、「どう裾野を広げていくか」だという。
「月額5万円のサブスクでも一定の所得の人に限られてしまうものを、どうやってもっと多くの人に“Live with nature.”を提供できるかを考えています」
その先に、社員のウェルビーイング(心身共に満たされた状態)を重視する企業との連携なども見据える。
もうひとつは、「サステナビリティ」。
SANUが広がれば広がるほど自然を豊かにすることを考えている。
「環境負荷を減らすのではなく、マイナス100からプラス50にする、『リジェネラティブ(Regenerative:再生)』の発想が僕らが目指しているものです」
SANUは、千葉県一宮町で初めて海のそばの拠点と、4つのリノベーション拠点を今年から順次オープンさせる。来年ぐらいまでに、20拠点200棟まで増やす計画だ。今の約4倍の規模になる。現在のウエイティングも徐々に解消されていくとみる。
写真)千葉県一宮町のSANU Apartment
出典)The Boundary for Sanu Inc. ©︎ Sanu Inc.
その先には海外も見据えている。
東南アジアや北米でもセカンドホーム需要が台頭してきていることを踏まえ、福島氏はできれば5年以内くらいでSANUブランドを国外に持っていきたいとしている。海外スタートアップとの連携も視野に入れる。
海外進出に際してのSANUの強みは2つ。
1つはハード面、知的財産としての建築だ。ミニマルで機能的でかつサステナブルなキャビン。
2つ目は、分散するキャビンを管理するオペレーションからユーザビリティに優れたアプリケーションまで含めたソフトウェアだ。
この2つを組み合わせながら海外のプレイヤーとの関係をどう構築していくかが今後の課題になる。
ベンチャーであり、立ち上がったばかりのSANU。福島氏自身まだ30代ではあるが、事業承継に関する考え方を聞いた。
まず前提として、「豊かな自然を次世代に繋いでいくという意味での承継」を意識してビジネスをしているという。
「僕らなりの理念が残るような枠組み、自分という存在がなくなってもきちんと自然資本を大切にしながら経営が行われる仕組みはどうあるべきか、まだまだ探っています」
東日本大震災を経験した日本。世界的にも自然災害の猛威はとどまることを知らない。そうした脅威に向き合いながらも、と前置きして福島氏はこう最後に語った。
「根源的には人が自然と触れ合うことの喜びを再実感していくことが、自然災害のような深刻な事態に向き合うきっかけになると思う。ライフワークとしてやるべき仕事だと思って取り組んでいます」
お客さまの声をお聞かせください。
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