自分が実現したいビジョンの答え合わせが 確かにできる「オランダスタディツアー」
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写真)株式会社リナイス 代表取締役中野英春氏(左)と共同創業者の鳴海正樹氏(右)
株式会社リナイスは、コラーゲンやヒアルロン酸などに続く期待の素材、「プロテオグリカン」を製造している。国立大学法人弘前大学などが高純度に抽出する技術を開発した。その原材料はなんと鮭の鼻軟骨。それを薄くスライスして、甘酢で和えたものが「氷頭(ひず)なます」。古くから東日本ではお正月などに食していたという。
今回話を聞いたのは代表取締役中野英春氏。中野氏と共同創業者の鳴海正樹氏は2人とも北海道出身。医療や健康美容の分野で大きなポテンシャルを持つこの「プロテオグリカン」をビジネスにしよう、と2人は北海道で奮闘している。そのポテンシャルについて中野氏に語ってもらった。
写真)鮭の鼻軟骨
中野氏も共同経営者の鳴海氏もUターン組だ。まずはそのわけを聞いた。
大学卒業後は名古屋のメーカーに就職した中野氏。幹部に登用され、海外プロジェクトも任されるなど、仕事は充実していたが、39歳にして会社を辞める決断をした。知り合いの大学の先生に声をかけられたことがきっかけで釧路の半官半民の研究機関に転職したのだ。既に結婚して2人の子どももおり、家族にとっては青天のへきれき、当然反対もあったが、なんとか納得してもらい北海道へ戻る。その研究所で仕事をしている時、中野氏は鳴海氏と出会い、意気投合する。
プロジェクトリーダーとして仕事をしているうち、鮭の鼻軟骨から採れる「プロテオグリカン」に出会った中野氏、これはビジネスになる、とひらめいた。そして鳴海氏と会社を立ち上げることになるのだが、この決断の速さというか、思い切りの良さには驚く。当然、家族は・・・
「妻にはこの時も大泣きされましたね」
そう述懐する中野氏。しかし、もう後には引けない。
一からのスタートアップ。当然資金集めには苦労した。まず工場を建てねばならない。しかし、金はない。中野氏の母方の祖父が長万部出身でわずかながら土地勘があったため現地の水産会社に飛び込みで
「鮭の頭、分けてもらえませんか」
そう頼み込んだという。相手も面食らったことだろう。
が、なんとラッキーなことにその水産会社社長は中野氏の子ども時代を覚えてくれていた。チルド室をただで貸してくれたばかりか、鮭の頭も二束三文で卸してくれた。地元の銀行にも知り合いがいて、築55年のボロボロの工場なら紹介できる、と言われた。それが今のリナイスの長万部工場だ。実際古かったが文句は言えない。手を入れてなんとか形にした。
それが今では、仕入れ先も15社に増え、魚体ベースで2000トン相当の鮭の頭を買うまでに成長した。その量は、国内の水揚げの3割に相当するという。国内だけでは足りず、今後は海外からの調達も考えている。
「海外から鮭の頭を買い付けるとなると運送費が大変なことになるので、鼻軟骨だけにすることを考えています。しかし今度は、その技術を誰に見せるのか、などの問題が出てきます」
そう、技術は盗まれるもの。どこをブラックボックスにするかが悩ましい。海外で原料確保といってもことはそう簡単ではないようだ。
現在はBtoBがメインのリナイスだが、将来的にBtoCビジネスも考えているという。
「(BtoCビジネスは)3年後、2025年くらいですかね。今、長万部工場の一部を化粧品の製造場所として保健所の認可を取ろうとしています。 最終商品を作るまでのプランの準備をしているところです。今は原料ビジネスだけですが、OEM(注1) にまでステップを広げて、相手先ブランドを作りたいですね」
既にいくつかの化粧品会社には原料を供給しており、そうした話が進行中だ。
そして、中野氏は海外市場にも目を向ける。
「アメリカで膝の痛みに効果のあるサプリメント市場の1割を取れば、日本の今の年間売上以上は取れます。ディストリビューターも決めて3年前からやり取りはしており、その先の営業を今進めているところです」
コロナ禍で止まっていた歯車が今まさに動き出した。これからは大車輪だ!そんな意気込みを肌で感じた。
プロテオグリカンは医療分野でもさまざまな応用が期待されている素材で、現在研究中のものも多い。
例えば軟骨の欠損の修復を早めるとか、手術の痕を早く治す、とかだ。
実は、プロテオグリカンは、コンドロイチン硫酸が100個ぐらいくっついた大きなもので、なかなか消化されず腸まで届く。それが大事な特徴なのだ。
「腸にはパイエル板という免疫細胞が集まっているところがあり、情報のやり取りをして体の悪い所へ改善の指令を出すのです」
つまり、腸内フローラ(注2)の改善に役立つらしい。
「肌荒れも膝の痛みも、特異的な腸内の状態が原因だとしたらそこを直してあげればいい。まだ名前もついてない腸内細菌がいっぱいあるんですよ。つまり、疾病と腸内フローラを一対一で紐付けできれば画期的なことができるわけです」
話を聞いているとプロテオグリカンのポテンシャルは無限大のような気がしてくる。これからの研究開発に期待がかかる。
中野氏は57歳、そろそろ自身のリタイアを視野に入れている。
「私はもうあと10年位で引退です。鳴海はまだ47歳なので、この5年で彼の右腕も作らなくては、と思っています」
とはいえ中野氏、まだ50代。引退を考えるのは早すぎるのでは?
「まだいてくれって言われるぐらいがいいかなと。老害入っている人たちの様子を見聞きしているので、そうならないようにしたいなと思ってね」
そう中野氏は笑った。
コロナ禍が終息しつつある今、国内、国外のマーケティングに向け、中野氏はよりいっそう奔走せねばならないだろう。そう簡単にリタイアはできなさそうだ。
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