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事業承継

熱中症対策を掲げた世界初のスポーツキャップを開発。 知財戦略で承継を進める
ビルマテル株式会社 専務取締役 白井 龍史郎 氏

  • 20-30代
  • 関東
  • 後継者
  • 新規ビジネス

この記事は8分で読めます

環境緑化・知財コンサルティングを柱として事業を展開するビルマテル株式会社。発明家の2代目社長が打ってきた布石を、次の後継者として期待がかかる息子が形にしていく、理想のバトンリレーとは。スポーツキャップ「Airpeak」、世界初のレザーシートブランド「Maison yukizna」のブランディングを手がけるビルマテル株式会社 専務取締役の白井龍史郎氏に、「中小企業の新たな承継のかたち」を聞いた。

ビルマテル株式会社 専務取締役 白井龍史郎氏

ビルマテル株式会社
専務取締役 白井龍史郎氏(しらい・りゅうしろう)

1988年生まれ。東京都出身。1966年に創業したビルマテル株式会社(創業当時は白井商事株式会社)2代目社長・白井庄史氏(現代表取締役会長)の次男。大学卒業後に大手監査法人のグループ企業に入社し、中小企業向けのコンサルティングを手がけた。2015年にビルマテル株式会社に入社し、知財コンサルティング事業部で新規事業立ち上げに携わっている。

中小企業ながら知財戦略を柱に
意欲的な商品開発を続けてきた

気温30度、湿度70%。ペルシャ湾に面した砂漠気候のドーハで行われた、2019年世界陸上の50km競歩競技。4時間4分20秒でゴールテープを切ったのは、鈴木雄介選手だった。46人中18選手が棄権するという過酷なロード。トップで歩き通した彼の頭には、一風変わったキャップがあった。

これは、ビルマテル株式会社が開発した高通気性のスポーツキャップ「Airpeak」。帽子のサイドとツバの隙間から風を取り込み、頭頂部から空気を排出するFlow Systemを採用。帽子内の温度を最大で-13.6℃、湿度を30%もカットできるという驚異のキャップだ。


この商品展開を主導するのが、ビルマテルの専務である白井龍史郎氏。現在はAirpeakのほか、革をピース状に裁断し、糸を使わず繋ぎ合わせる世界初の技術を使ったブランド「Maison yukizna」の立ち上げに携わっている。

「当社は他社がマネできない事業しか行っておりません。現在2つの事業部を展開していますが、屋上緑化や造園用資材を手がける環境緑化事業部は100%リサイクルの人工土壌というモノと、製造~物流まで一気通貫で行えるサービスで差別化。知財コンサルティング事業部は名前の通り知的財産権で差別化を図ります。中小企業ながら社内に弁理士がおり、新しいアイデアは常に権利化が検討されています。代表的な特許は総流通量が250万個を突破した『通気性を有する二層構造ヘルメット』です。弊社は常に世界で戦えるアイデアを形にしているため、中小企業ながら国際特許の取得も基本としています」

知財コンサルティング事業部を立ち上げ、知財戦略を推し進めたのは、龍史郎氏の父であり、2代目社長の白井庄史氏(現代表取締役会長)。通気性を向上させるヘルメット、そこから派生したAirpeakの原型も創り出した無類の発明家である。


「2代目が開発した保護ヘルメット、さらにヘルメットを片手で簡単にフィットできるアジャスターが成功し、ライセンス収入を獲得できていました。ただ、そのライセンスも取得から20年に近づき、有効期限が切れました。新たな知財の柱として期待を集めているのがAirpeakとMaison yukiznaなのです」

中小企業を元気にしたい!
そんな思いで入社した

先代の思いを、次代へつなぐ後継者として期待がかかる龍史郎氏だが、同社に加わったのは2015年のこと。大学卒業後は大手監査法人のグループ会社で中小企業のコンサルティングに従事した。当時は家業を承継するつもりはなかったという。

「私は次男ということもあり、継ぐという意識はまったくなかったですね。父も家庭では仕事の話は一切しなかった。『好きなことをやれ』という方針で、就職活動の際も私に何か言ってくることはありませんでした。私は『日本の中小企業を元気にする』という理念に共感して他社に就職し、さまざまな経営者と触れ合っていきました」


ところが、入社から5年後のことだ。就職先の経営方針が変わり、会社の方向性と自分自身の方向性にズレが生まれた。これからのキャリアを考えていた龍史郎氏に、父・庄史氏が声をかける。


「ビルマテルという会社の魅力を改めて話してくれました。実は数年前に一度は断った私ですが、ビルマテルは日本の中小企業の新たな活路を見いだすのではないか。そしてその活路は『日本の中小企業を元気にする』起爆剤になるのではないか。――そのように感じ、父の会社ではなく、1つの会社として考えるようになりました」

「メインの屋上緑化は非常に社会性があり、意義がある事業です。Airpeakも熱中症対策に有効なものになるのではと感じましたし、Maison yukiznaは環境問題の解決や雇用の創出に繋がります。バラバラのように見える事業は『やさしい環境を創造する』という筋が通っています。更に会社として新たなことに挑戦する風土があります。外から客観的に見てみたら、こんなにすごい中小企業はありません。自分もこの中で一緒にチャレンジをしたい。新しいことを生み出し続けたいと思い入社させて欲しいとお願いしました

広告費をほとんどかけず
さまざまなコラボに活路を見出す

入社後の龍史郎氏はAirpeakとMaison yukizna、ビルマテルが新たな事業として期待をかける2製品に注力する。特にAirpeakはサンプルが出来上がったばかりで、市場や販路も決まっていなかった。ものづくりで初めてのチャレンジ。手探りの苦闘が続く。


「どうやって売ったらいいか試行錯誤。海外のゴルフ関連の展示会に出展してもまったく反響はなく、頭を抱えていました。2層構造になっていて、風が抜けていく。熱中症対策には有効なはずだ、という感触はつかんでいましたが、打開策が見つかりません。何か手はないか…とリサーチし、いろいろな論文を閲覧していたところ、一人の教授に行き当たりました」


その教授こそ、熱中症対策を研究していた京都女子大学教授の寄本明 氏である。打診してみたところ、寄本教授も快諾。実証実験が行われる。こうして、Airpeakは「熱中症予防に効果がある」という医学界のエビデンスを手に入れたのだ。


2017年には「世界トライアスロンシリーズ横浜大会」の公式キャップに採用。トライアスロンを皮切りにスポーツ選手の開拓に注力し、競歩・鈴木選手との共同開発も始まった。帝人フロンティア株式会社の高機能素材「ナノフロント」を採用して遮熱性を高めるなど、さらなるブラッシュアップにも余念がない。ドーハの世界陸上金メダルから東京オリンピックの金メダルへ向け、「陸上版下町ロケット」への期待は高まる一方だ。

「マス広告を打つなど、資金を投入したらいくらでもアピールはできるでしょう。だけど、私たち中小企業はどうやって頭を使い、ブランドにしていくかが大事です。Airpeakも広告費はほとんどかけず、いろんなスポーツ選手、企業とのコラボレーションで活路を見いだしてきました。帝人フロンティア株式会社も素材の提供先ではなく、コラボ先として考えています。中小企業はどうしても自前主義に陥りがちですが、自社の長所を生かしつつ、いろんな企業といかに組めるか。そこに力を入れていきたいと考えています。Maison yukiznaは海外の展示会で高評価をいただいており、百貨店の催事でも好評。建築家との協業も進んでおり、Airpeakと同様にさまざまなコラボレーションを企画しています」

会社としては更に新たなアイデアを創出し続けており、2020年の夏に向けて紙製の帽子も開発。この帽子は武蔵野美術大学の学生と共同で作った帽子で、特殊な構造が通気性と遮光性の両立を実現させた。東京オリンピックに合わせて展開できないか模索中と常に開発の手は止めていない。

目指すは「良きナンバー2」
中小企業の新しい承継を展望する

「がんばってるんじゃないか」


Airpeakを軌道に乗せるための苦闘を見て、父・庄史氏がかけてくれた言葉だ。発明家の父と、販売・マーケティングに注力してきた息子。ビルマテルならではの理想的な承継を目指し、まずはAirpeak、Maison yukiznaをしっかりと事業化することを目指す。

「コンサルティングに携わっていた頃、私も多くの企業承継を目の当たりにしてきました。そこでは、『先代を越える』ことを意識しすぎてはいけないように感じています。会長が築き上げてきた組織・商品は宝です。更にビルマテルという会社には無限の可能性があります。『先代を超えたい』というエゴは会社の成長の役には立ちません。今は目の前の事業を成長させること。可能性を実現させるために『自分が代表だったら』という視点で頭と足を動かし続けることが私の大事な役割だと思っています。承継はその結果、会社の状況やその時々の要因の中で決まることだと考えています。そういう意味ではまずは『良きナンバー2』を目指すということなのかもしれません」


ビルマテル株式会社も、もともとは初代が生コン・コンクリート工場に向けた砂・砂利販売会社として起業した経緯がある。2代目の庄史氏が屋上緑化を事業化し、さらには新感覚のヘルメットで知財事業の柱を築いてきた。時代と共に変化する市場、情勢を踏まえ、今後も新たな事業を模索し続けていく。


「事業のかたちが変わってきた会社ですが、軸にある理念はブレたことがありません。また社内の人材は変化に柔軟で、新しいチャレンジをし続ける人ばかりです。私も自身の枠を作らず、皆と一緒にチャレンジし、動き続けていきたいと思っています」




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