制度を活用する企業が急増!企業版「ふるさと納税」のしくみとメリット
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長野県長野市で建具屋を創業し、住宅や店舗の施工を経て、古民家や古木を活用した設計施工を手掛ける株式会社山翠舎は、93年の歴史をもつ。3代目の山上浩明氏は、「温古」「創新」「循環」を使命とし、古い家や木から教えられた“もったいない精神”を大切にしながら、スピード感をもって事業の多角展開をしている。「捨てるもの」に新たな価値を与える「思いやりの循環」から生まれる数々のプロジェクトの背景を探ってみた。
祖父が創業した木工所を住宅施工会社へと舵を切り、商業建築施工へと発展させたのは、山上浩明社長の父、山上建夫会長だ。
「このとき父は、アパレル店舗に古木を使ったのが認められ、この店舗が全国展開した際の施工を手掛けることができました」
山翠舎が定義し、商標登録をした「古木(こぼく)」とは、80年以上前に建てられた古民家の解体から出た柱や梁(はり)、板などを指す。
「しかし父の時代には、輸入した古い木材を使ったりもしていました」
今では、専用の倉庫に常時5000本以上の古木を保管し、木の入手経緯や由来をデータベース化しながら、店舗や住宅の設計、施工に生かしている。
「古民家を丁寧に解体し、専門の職人が手を加えることで、家主の思いを次の建物につなぐことを大切にしながら、施工しています」
このようにして手掛けた店は、全国に500店舗以上にもなる。
「味わいのある古木を生かした唯一無二のトータルデザインができることがわが社の強みです。これら8割以上の店の経営が今も続いています。つまり手間暇かけて空間づくりをした店は、古木についてお客さまとの会話が生まれ、感動を呼び、それがリピートにつながり、繁盛店になるのです」
2020年、山翠舎の「日本の建築技法と文化を守る取り組み」が評価され、「古民家・古木サーキュラーエコノミー」でグッドデザイン賞とウッドデザイン賞を受賞した。
山上氏は、幼いころから工場から出る廃材で遊んでいたこともあり、環境問題に関心をもって育ってきた。
「大学では、省エネルギーに関する論文を2本書きあげました」
卒業後は、得意だったIT知識を生かしながらソフトバンクで営業を担い、社長賞まで受賞するが、4年目で退職することにした。
「一人一人のお客さまと顔を合わせて信頼関係を作るのが自分の営業スタイルでした。でも会社の営業方針が変わりつつあったので、退くことにしました」
小さいころから職人が働く自社工場で遊ぶのが大好きだったこともあり、ずっと父親の会社を意識してきた。
「外から山翠舎を見ながら、すごく可能性がある会社だなと感じていました」
その息子が入社したいという打診を、父は3度断ったという。
「建築業界は人間関係を大切にし、気持ちで物事を左右する慣習がまだ色濃く残っている世界なので、IT系の私には務まらないと思ったようです」
しかし、小さいころから職人と接してきて、かわいがられてきた感謝の気持ちや、下請け会社のまま終わらせたくないという考えがあり、父を説得して入社を果たした。
「ある日、古民家を解体する場に立ち会ったときに、味のある古木が処分されていくのが、なんとも悔しく、もったいないと思いました」
同じ頃、父もこれらの古木活用を考えていた。2人で話し合うなか「古民家から出る廃材を活用した新機軸」の事業構想が練られていった。
「でも新規事業を立ち上げる資金面で課題が残りました。そこで長野県の補助金事業などに応募することにし、採択されたのです」
その後、古木を大切に保管するための倉庫や職人が古木を加工する工場を開設したり、会社を古木専門の施工会社として特化していった。
「古木を活用した店舗デザインを数多く手掛けながら、東京にショールームを設け、事業を拡充しました」
2012年、35歳の時に古木を軸とした設計施工事業をやりたいと社長に本気で訴えたことがきっかけとなり「そんなに強い気持ちがあるなら、お前がやれ」と事業承継を受け、社長になった。そして、この20年で次々に新しいプロジェクトを立ち上げ続けている。
「2021年には、小諸の町おこしのために古民家をリノベーションしたコワーキング施設の運営を始めました。お声をかけていただいた案件は、基本お断りしません」
行政の支援策やビジネスプランコンテストには、知りえる限り「これもご縁」と応募してきた。
「たくさん受賞したり、採択されているように見えますが、同じくらい落ちてもいるんですよ」
しかしそれを営業戦略の一環とし、次につながればよいと考えている。メディアや企業からの取材にも積極的に応対する。
「テレビ出演したり、新聞や雑誌などに取材され、雑誌やWebで広報されることで仕事も人材も相談ごともどんどんオファーがくる良い流れになっています」
日経新聞社主催の「スタ★アトピッチJapan」に応募したのも、長野市のスタートアップスタジオ関係者からの声がけがきっかけだった。
「本当は全国大会にまで行ける自信がある内容だったので、ブロック大会どまりは残念です。山翠舎の取り組みをより理解していただけるように、もっとわかりやすいプレゼンや広報をしなくてはと思いました」
そのような場などで、まだ社長になっていない後継ぎの方に会い、アドバイスを求められることがあるという。
「とにかく社長になってみなければわからないことがたくさんあると答えています。悩んでいても仕方ないですよね。まだ知らないことばかりなんだから」
一日も早く決裁権を持つ社長になる覚悟をもつこと。そして事業承継をして社長になってから、考えたり、相談してほしいのだという。
「みなさん一日も早く社長をやるべきです。私も早く社長になったことで、失敗をたくさんさせてもらい鍛えられました。ありがたいですね」
二代目三代目社長には、創業者にはない苦労があると思っている。山上氏自身も事業への思いが強すぎて、社員の同意が得られずに、目指したい方向を理解してもらうまで空回りした苦い経験がある。
「自著の『“捨てるもの”からビジネスをつくる』でも書きましたが、先代の人脈に感謝しながら、ベテラン社員を味方につけ、新しい時代にあった事業に軌道修正していくのが本来の姿。そこにすべてをかけて取り組み、がんばって少しずつでも結果をだせば、それを見て、ついてきてくれる人が必ず増えるんです」
今、目が向いているのは海外だ。
「この夏、ニューヨークに古木を使ったカフェが開店します。また来年の今頃には、パリのサンジェルマンに事務所兼ギャラリーができているかもしれません」
日本での古木の価値は、建築材料の域を出ないが、ヨーロッパでは古木の歴史や日本の職人の手仕事に高付加価値を認めてくれる市場があるという。
「パリの老舗セレクトショップ、レクレルールには、店のインテリアとして古木を使ったベンチが既に置かれています」
正社員20人、協力してくれる職人たちを合わせても60人くらいの会社だが、この規模を拡大しつつ、協業でもどこまでやれるか挑戦をしたいという。
「空間づくりのプロフェッショナルである丹青社さんと業務提携をし、さまざまな施設づくりにおいて古木の提案や導入を行い、環境に配慮した空間づくりを進めていきます」
ここ数年の売り上げは年々右肩上がりを記録している。
「これは、社員みんなの善戦のたまもの。コアな人材で会社を運営するほうが、変化に強いのです」
固定費を増やさずに成長していくスタイルは、山上会長から教えられた会社経営のツボのひとつだ。
「そしてやはり、長野に恩返しをしたい。地元を大切にしながら活性化したいという気持ちは強いのです」
長野市大門や善光寺下にあるコワーキングスペースFEAT.spaceでは、長野スタートアップスタジオの運営を手伝うなど、人を呼び込み新しい価値を生み出している。また、同じエリアに個性的な店をたくさん作ることによって、経済を循環させる試みも始まっている。
「目指すはスペイン・サンセバスチャン。ここは世界的に有名な美食で知られる歴史ある美しい街です」
この「サンセバスチャン構想」を実現するために、飲食店の開業支援事業「OASIS(オアシス)」をスタートさせた。
「飲食店を開業したい人のために、開業時の物件探しのサポートや保証金などの初期費用軽減、事業計画書作成や補助金、助成金申請をサポートしています」
すべては、街に「未来の老舗をつくる」ためだ。「OASIS」を利用すれば、飲食店の開業準備がワンストップで済むので、料理人は本来の仕事「よい味づくり」に専念できるというわけだ。
「今、あらゆる事業チャンスにすべて種をまいている段階です。これからしっかりと芽が出て、花が咲いていくと思うので、今後はもっと面白いですよ。結果がすべてなので、真剣勝負です」
お客さまの声をお聞かせください。
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