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事業承継

「空気環境対策を世界のインフラに」
エアロシールド株式会社 会長 木原 寿彦氏

  • 20-30代
  • 製造業
  • 九州・沖縄
  • 後継者
  • 新規ビジネス

この記事は8分で読めます

コロナ禍以前から花粉症などに悩む人は家に空気清浄機を備えていることも多いのではないか。それが最近は花粉やハウスダストだけでなく、ウイルス抑制・除去などを謳う製品が増えてきた。


中には紫外線(Ultraviolet Rays:UV)を抗菌フィルターに照射するものもある。理化学研究所などの研究によると、紫外線は新型コロナウイルスを不活化(感染性を失わせること)することがわかっている。


そうした中、大分県にその紫外線を使って空間の浮遊菌・ウイルスを減少させる装置を開発した企業があると聞いて早速取材に向かった。


その企業の名は、エアロシールド株式会社。今年3月に株式会社富士通ゼネラルと資本提携した。同社の製品は大分空港をはじめ、病院、介護施設、商業施設など、人が集まるところに続々と設置されている。

大分空港 エアロシールド

※大分空港に設置されているエアロシールド(写真赤枠)

CT室内 エアロシールド

※CT室内に設置されているエアロシールド(写真赤枠)

介護施設 エアロシールド

※介護施設に設置されているエアロシールド(写真赤枠)

会社を継いだ経緯

インタビューに現れた2代目である木原寿彦会長はまだ38歳、エネルギッシュに質問に答えてくれた。


同社は2006年、電機技術者であった父・木原倫文氏が創業した。そもそもなぜ空気清浄の必要性にたどり着いたのか。それは当時木原氏の祖父が入所していた施設で、肺炎にかかる方が多かったことに起因する。倫文氏は施設の空気をサンプリングし、検査会社に調べさせた。すると、免疫力が低下している高齢者が肺炎になりやすい空気環境であることが分かった。


「当時、医療業界、医療従事者は、高齢者が肺炎になってしまうのはよくあることで、空気環境に関しても、目に見えないところなので疑問を持っていませんでした。これはまずいなと思いました」


世の中に空気清浄機なるものはあまたあれど、調べてもなかなか実空間の空気中の細菌を除去できるというエビデンスがないことがわかった。局所的な実験上でのデータばかりで、人がいる現実環境でのデータはなかった。


「これは私たちがやるしかないな。医療従事者じゃなくても多くの命を救えるかもしれない」

木原寿彦氏

当時、セブン‐イレブン・ジャパンに勤め始めて3年目だった木原氏は、家業に戻る事を決意する。

 

使命感を持って迷わず飛び込んだものの、その後の悪戦苦闘は想像以上だった。

一から始めたビジネス

今の紫外線による空気清浄機のプロトタイプは既に父が作っていた。しかし、事業化はまだまだ課題だらけ。


なにしろ、商品はあっても、保証書すらなかったことに愕然とする。むろん事務書類関係も揃っていなかった。すべて一から木原氏が作ることになった。


資金繰りも大変だった。


「銀行には毎月、借り入れの返済をしなくてはいけない。お金は出て行くばかりで、とにかく早く商品を売らなきゃ、と焦っていました」


しかし営業も容易ではなかった。細菌やウイルス、空気など目に見えないものにどのように意識を向けるべきなのか、相手に理解してもらうことが難しかった。


「飛び込み営業しかなかったわけです。それこそ25歳の聞いたことも無い会社の若造が、いきなり介護施設に行っても『お前、誰?』という状況からスタートしたので、すごく苦しかったですね」


門前払いの連続。しかし、それが木原氏を強くした。どうしたら相手に信用されるのか。


「客観的に自分を振り返りました。第一声は?立ち居振る舞いは?信用されるような顔か?自分自身をどうブランド化するか考え抜きました」


さらに木原氏は、顧客が抱えていそうな問題や悩みを調べてから訪問するようにした。製品をただ売りに行くのではなく、いわば環境コンサルティングのようなビジネスモデルを期せずして模索していたのだ。


「まずはお客さまの話を先に聞くわけです。例えば、掃除が行き届いてないところだったら人手不足で困っているのかな、と想像する。だとしたら、もし感染症が起きたら大変な事になるわけで、(そこに相手が気づいたら)私の話も聞いてもらえるのだな、と気づきました」


販売第一号は介護施設だった。


「製品うんぬんより、あなたがそう言うなら買うよ、そう言って買ってくれました。涙が出ました」


ようやく信頼の結果が出た。気づくと営業を始めてから半年経っていた。


製品を売るだけではなくて環境衛生全体のコンサルティングまでするんだ、という気概が初めて顧客に評価された瞬間だった。


次に木原氏が進めたのは、エビデンスの積み重ねだ。


なにしろ当時、リアルな居住環境における浮遊菌検査のデータはなかった。そこで空気をサンプリングする機器により採取した菌を培養する実証試験を第三者研究機関に依頼、「実空間における浮遊菌減少率が89.6%」との結果を得た。エアロシールドの効果が可視化されたのだ。

導入施設における実空間での結果

写真)導入施設における実空間での結果

大分大学工学部応用化学科監修の元、調査・エアーサンプラーを導入施設で使用して、浮遊菌を捕集・培養した結果

1 導入医療施設の実空間における検査結果/平成23年4月20日実施

(左:4月20日18時05分・右:4月21日10時05分)

2 導入保育施設の実空間における検査結果/平成26年10月18日実施

(左:10月18日9時30分・右:10月20日9時)

出典)エアロシールド株式会社

顧客のところに行ったら、エアロシールドを置かせてもらい、その前後に空気をサンプリングして環境測定する、といったこともやった。随分と手間とコストがかかることをやったものだ。


「僕らみたいな体力のない会社には厳しかったですが、こういうことをやるしか突破口がありませんでした。逆にこうした積み重ねが自分たちのノウハウになりましたし、信用していただく切り口にもなりました」


今後は、溜めたノウハウのデータ化に取り組みたい、と木原氏は言う。

エアロシールドの強み

先に述べたように紫外線を使ってウイルスを抑制すると宣伝する空気清浄機はあまた世に出ている。エアロシールドはそれらの機器と何が違うのか。


簡単にいうと、紫外線を人がいる空間で照射していることだ。多くの機器は本体内部のフィルターに紫外線を照射している。


「機械本体の中で紫外線殺菌するものはありますが、機械の中を通過している空気がその時間の中で全部殺菌されるかというと実は難しいのです。なぜなら、菌やウイルスが不活化するためには、空間の空気を全て取り込み、数秒から数分紫外線を照射しなくてはいけないからです」


だからエアロシールドは、特殊なルーバー(仕切り板)で紫外線の水平照射を行い、天井付近に紫外線ゾーンを形成する。紫外線は人体に直接当たると害を及ぼすが、要は当たらなければ良いのだ。ある意味逆転の発想と言えるだろう。

エアロシールドの仕組み

図)エアロシールドの仕組み

出典)エアロシールド株式会社

「これまでも紫外線の殺菌灯はありましたが、夜間点灯など人がいない時に使用されていました。ウイルスに感染するのは人がいる時なので、人がいる間に空気環境対策を実施することに意味があるのです」


当然、似たような製品を売り出す企業は出てきた。しかし、木原氏は動じなかった。


「要は環境についてコンサルティングができるかどうかです。お客さまと接点が持てたら、必ず僕らはそこで選んでいただけると思います」

海外展開へ

エアロシールド社は富士通ゼネラルの資本を受け入れた。背景には危機感があった。


「コロナ禍で、もっと経営のスピードを上げなければいけないと思ったのです。というのは、効果がないのに効果があるといっている製品や、安全面が担保されていない製品がたくさん出回っているからです」

エアロシールドの製造過程における組み立てライン

写真)製造過程における組み立てライン

提供)エアロシールド株式会社

エアロシールド社は紫外線が人に当たらないように高さ2.1メートル以上に設置工事を行うが、そうしたことをせずに商品を売りっぱなしの業者もあるという。それでは安全性が担保できない。


「PRがうまいというだけで市場が粗悪な商品に席巻されると、困るのは消費者ですから」


もう一つの理由が、富士通ゼネラルの海外ネットワークだ。同社は海外の売り上げが全体の7割近くを占める。


「コロナ禍で需要が高まっている時にちゃんとしたエビデンスがある商品を世の中にスピード感をもって広めていくとなった時に、パートナーとして一番よかったのが彼らですね」


当然、多くの提携提案があったが、エアロシールドを世界に広めていくのに最適なパートナーだったと木原氏は言う。

結婚で変わった人生観

木原氏が会社に入ってから最初の7、8年は債務超過が続いた。


「怖かったですね。でも諦めが悪いというか。応援してくれる人達を裏切れないという気持ちの方が強かったです」


単年度収支で黒字になるまで10年かかった。きれいなターニングポイントなどなかった。


「嬉しかったですね。ようやくここまできたかって感じでしたね。こんなに真剣にやって10年なんだ、ちんたらやっていたら多分もう潰れてますよ」


そして2年前、木原氏は所帯を持った。36歳になっていた。1歳のお子さんがいる。


「子どもが出来て考え方が変わるとは聞いていたものの、本当に変わりました。違うものですね。子どもってこんなに可愛いものかと」


親になって改めて会社の使命を再認識しているという。


「この事業を始めてからずっと、みんなにちょっとした思いやりの選択肢を持ってほしい。家族を持った今では、空気環境対策をインフラにしなければいけない、と強く思うようになりました」

今後のビジネス展開

富士通ゼネラルとの提携で世界展開の布石は打った。まずは、欧州、北米、インドなどの市場をターゲットに考えている。その先には中国も見据える。


それだけではない。


「まずは、消費者がちゃんと理解していた上で買えるような商品にしたいと思います」


背景には、世の中の「売らんかな」の風潮への強い懸念がある。それは今後の展開にも関わっている。


「今までのやり方にこだわるよりも、感染対策について正しいことを啓発していくことが僕の使命です」

エアロシールド株式会社 木原寿彦氏

世の中の本質が正しく捉えられていないことをちゃんと本質的に考えていきたいと語る木原氏。


「本質的な心身の健康につながる知識を消費者が理解していくことで、ライフスタイルにはいろんな選択肢があるんですよということを提案できたらいいなと思いますね」



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