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沖縄独自の文化の価値向上や社会課題解決をITの力で押し進め、DX(デジタルトランスフォーメーション)を牽引する株式会社okicom。単なるIT企業の事業領域の枠に囚われない挑戦的なビジネスを、先頭に立ち引っ張る常務取締役・小渡晋治氏に話を聞いた。
沖縄のIT企業、okicom。もともと沖縄県内を中心とした経済圏で、ソフトウェアの開発やネットワーク構築、県外のベンダーが開発した商品の展開やメンテナンスを担ってきた。
特に建設業向けのITソリューションの提供や、自社開発のGIS(Geographic Information System:地理情報システム)を活用したソフトウェアの自治体への提供は売上の8割を占め、他には福祉や教育、エンターテインメント分野では石垣島のサザンゲートブリッジのイルミネーションとプロジェクションマッピングを行うなど、業容は実に幅広い。
「沖縄県内のIT企業はニアショア開発(注1)が多いが、うちは全く異なる動きをしている」
と小渡氏は強調した。
「ITの力を使い、沖縄のカルチャーを纏った高付加価値な商品・サービスを創出する」
okicomの強みは、IT企業の枠にとらわれない事業展開だ。
「沖縄県の地域資源に対しIT活用/DXを促し、古くなった産業構造のアップデートを行うことで持続可能な状態を作ることに力を入れている」
どういうことか。
例えば、沖縄黒糖を使用したイタリアのチョコレートを開発する事業者に対して、「琉球紅型(びんがた)」という染め伝統工芸の職人を引き合わせ、紅型柄のパッケージをプロデュースしている。地元の伝統工芸のモチーフを使ってパッケージングすることで、ストーリー性を高め、商品の付加価値を上げたのだ。
中でも興味深かったのは、「かりゆしウェア」のアパレルビジネスだ。沖縄では、県知事から銀行職員までビジネスの場面で着用されているかりゆしだが、なぜこれを題材としたのか。
「観光客が多い沖縄だが、せいぜい2~3泊しかしない客が多い。かりゆしウェアは当然沖縄でしか着ないため、(観光客が)家に持って帰っても結局“箪笥の肥やし”になってしまう。だったら沖縄滞在中にシェアリングベースで、かりゆしウェアを楽しんでもらおう、と」
そう考えたのには訳がある。
「今の経済は大量生産・消費・廃棄のリニア型だが、なるべくごみを出さず環境負荷をなくすという循環型経済にしたかった」
okicomは、さとうきびの搾りかす(バガス)を活用して繊維・生地の生産開発を行い、アップサイクルかりゆしウェアの開発を行う株式会社Rinnovationと連携し、「循環経済型ビジネス構築推進コンソーシアム」を立ち上げ、「循環経済型かりゆしウェア事業モデル創出プロジェクト」を推進している。
写真)アップサイクルかりゆしウェア
アパレルは世界で二番目に環境負荷が高いといわれている。さとうきびの搾りかす(バガス)を使用し、最終的に炭にしてさとうきびの畑に土壌改良という形で戻す、という循環モデルを構築しようとしているのだ。
図)循環型のかりゆしウェアのバリューチェーン概略図
こうした循環を証明するにはトレーサビリティ(追跡可能性)が重要だ。okicomはこのトレーサビリティの重要性に着目。バリューチェーンの全てのプロセスにおいてトレーサビリティを記録し、どれくらい循環しているのか、何着分のかりゆしウェアを無駄にせずに済んだのか、どのような農家や職人が製作に関わっているのか、など服にまつわる物語やデータを「見える化」しようとしている。これにより消費者と工芸職人との関わりや、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の服を着ているというコミュニティを作ることも期待できる、と付け加えた。
沖縄県には4兆円弱のGDPがあるが、観光はその内最大の割合を占める。びんがたの例のように、あらゆる商品の付加価値を上げることで消費金額を上げ、沖縄にある地域商材やカルチャー、文化が途切れないように、デジタルを活用しながら展開を進めることを新規事業企画部が行っている。
これまでにない発想ではないか。
okicomは2017年から漁業分野にも携わっている。実は日本で消費されている「モズク」95%以上が沖縄産で、その約9割が養殖ものだ。okicomは、養殖「モズク」の畑を、空からドローンで撮影している。モズクは海の中で生産者ごとに区画整理がされている。
【モズクの収穫 ドローン撮影(動画)】
コロナ前までは需要超過状態が継続する中、供給の増減で価格の変動が激しかったため、漁民や納品先の安定化という課題があった。そこでokicomはドローン空撮と環境データ、生産者情報を組み合わせ、画像認識やAIを活用して収量予測システムの開発に取り組んでいる。
これまで生産者の経験と勘に頼っていた分野がDXにより劇的に変わろうとしている。
写真)モズク養殖筏
出典)okicom
本来なら東京2020オリンピック・パラリンピックで観光需要もうなぎ登りだったはずのこの夏。okicomも大きく煽りを受けているのではないか。
小渡氏は「(対面が難しいため)営業のし辛さはある」としながらも、コロナ禍を経験して「中小企業の経営者の中で最優先課題ではなかったIT化が、補助金を活用しながら盛り上がっている。上手くビジネスを作ることで、業績(向上)や地域貢献が同時に進められる」と現状を肯定的に分析した。
今後、GIGAスクール(注2)や5Gなど、大きなITインフラ投資が続く。そうしたニーズを踏まえると、悲観することはない。これまで沖縄県内では観光や航空が人気の就職先だったが、コロナを機にokicomのようなIT企業もより意識の高い新卒学生の採用がし易くなったという。
「コロナの影響で5年後、10年後に起きることが予想されていた事象が今起きている」
ワークスタイルにも変化が生じ、実際にokicomでも今年は県外の学生の応募が増えた。
「地方の企業にとっては大きなチャンスなのではないか」
一方で、地方の中小企業がポテンシャルの高いエンジニアを採用するのはまだまだ難しい。そのため、コラボレーションベースで事業を展開していく、という。「(IT化を進める上で)なくてはならないパートナーという存在を目指したい」と展望を述べた。
先行き不透明な時代だが、小渡氏はokicomの今後をこう見据える。
「DXに関しては、公的機関を含む全産業に関わるテーマだ。ITはインフラ化しており、ITが他産業に対して貢献できることは大きい。既存事業を大事にしながら、次の展開を進める」
一方で、okicomは山積する沖縄の課題を解決する役割を担うためにも、引き続き社員教育に力を入れたい、と経営上の重点事項を示した。
okicomは日本オリベッティ株式会社 那覇営業所の沖縄撤退を機に小渡氏の父が設立した。最後に、小渡氏自身は事業承継についてどう考えているのか。
小渡氏は「バトンを渡す側も渡される側もどのように歩み寄るか、が重要だ」と述べた。実際にファミリービジネスを行う中では「大企業にはない、ファミリービジネスならではの距離感や熱量は面白い」と感じている。
創業者である父は、強いリーダーシップで40年の社歴を重ねてきた。経営者のこだわりを社員に理解・共感してもらい、ワンチームとして団結できる状況をどう作るか。古参の社員からの創業者への信頼は厚い。小渡氏もこの時間を掛けて作り上げられてきた社風をリスペクトしている。
「面白いことへのチャレンジ」。ワクワク感を重視する風土がある、というokicom。地方のIT企業でありながら、一次産業から三次産業まで行う事業の幅広さや、沖縄に貢献するという目標を持った経営方針には驚きしかない。フィールドが県内に止まらず、海外に広がっていくのを見るのが楽しみだ。
小渡氏がメンターを務める「アトツギ U34」(一般社団法人ベンチャー型事業承継)は こちらから
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