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経営のヒント

社員全員がリモートワークの環境でユーザー視点のサービスを!
株式会社ZAICO 代表取締役 田村 壽英 氏

  • 後継者
  • 新規ビジネス

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クラウド型の在庫管理ソフト「ZAICO」で「モノの管理」の注目を集める新進のベンチャー。社員全員がリモートワークというユニークな体制で、ユーザー視点に立った製品を開発し続けている。新時代の組織、承継のあり方を株式会社ZAICO 代表取締役の田村壽英氏に聞いた。

株式会社ZAICO 代表取締役 田村 壽英 氏
株式会社ZAICO
代表取締役 田村壽英氏(たむら・としひで)

1983年生まれ。山形県米沢市出身。東京工業大学卒業後、システム開発会社に就職。金融機関の基幹システムを開発するかたわら、実家である田村倉庫(山形県)をIT面からバックアップする。その後クラウド会計ソフトを開発するfreeeに入社し、SaaS型クラウドサービスの開発、運用に携わる。実家の倉庫業の効率化に寄与すべく、個人的に在庫管理ソフトを開発し始め、本格的にサービスとして提供すべく独立。2016年に株式会社ZAICOを創業した。

実家の倉庫業をIT面からバックアップ
明確になったユーザー像から新ソフトが見えた

スマートフォンから操作できるクラウド型の在庫管理ソフト「ZAICO」を開発・販売する株式会社ZAICO。新進のスタートアップながら、代表の田村壽英氏は倉庫業を営む家に育った2代目でもある。大学卒業後はシステム開発会社に就職してITスキルを磨くかたわら、実家の倉庫業をIT面から支えていたという。

「実家の倉庫は『管理』といってもアナログなものです。Excelを使っていたらまだいい方で、倉庫番のメモで済ませる局面も少なくありませんでした。そんな体制ではトラブル時の対応も後手に回り、顧客満足度も下がってしまう。私も経営的にジリ貧の会社を継ぐわけにはいきません。IT面から深く関わり、経営を盛りたてていこうと思ったのです」

そこで田村氏は「スマート在庫管理」を開発した。これは「ZAICO」の前身になるソフトだが、あくまで集客をねらった「営業ツール」として開発したもの。使いやすい管理ソフトを無料で配布したら、実家の倉庫を利用するお客様が増えるかもしれない…モノの状態、流れを「正確に、そして簡単に」把握できるソフト「ZAICO」誕生までは、まだ少しの時間が必要だった。

在庫管理ソフトのブラッシュアップを続ける中、田村氏はクラウド会計ソフトを開発するベンチャーのfreee株式会社に転職する。ここでクラウドを基盤にした製品の開発、プロダクトマネジメントについてキャリアを積み、多くの知見を得たという。

「freeeが手がけていたソフトは誰でも使いやすく、初見でも扱えるものでした。一方、在庫管理ソフトはというと、ある程度のITスキルがなければ使いこなせないものばかり。そこで私の脳裏に浮かんだのは、山形の倉庫で働く従業員の姿です。

いくら機能が充実していても、現場で使えなければ意味がありません。50代のおじさんがワンタッチで操作でき、ストレスなく使える。そんなソフトでなければ普及はしないでしょう。できるだけ簡単に、直感的に操作できるソフトとは…? 考え抜いて仕様を突き詰めるうち、ZAICOの原型ができあがっていきました」

試行錯誤を重ねるうち、新たな在庫管理ソフトの形が見えてきた。「スマート在庫管理」は、月額課金制を採用していたことから、本格的にリリースしても安定した収入のメドが立つ。ライフスタイルの変化もあった。結婚して子どもが生まれ、家庭で過ごす時間を増やしたかった。そんな背景もあり、田村氏は起業を決意する。

新世代のクラウド型在庫管理ソフトをキラーコンテンツにすべく、こうして株式会社ZAICOは始動した。

在庫管理の効率化、省力化を推し進め
業務に注力できる体制を支援していく

在庫管理ソフト「ZAICO」は、2019年8月現在でユーザー数が8万7000以上。英語版、ロシア語版をリリースしたこともあり、海外ユーザーも急増しているという。「ZAICO」の優位性は2点。無料版から始められるという導入のしやすさ。そして、スマホからバーコード・QRコードを読み取るだけで、入出庫をスピーディーに入力できるという簡便さだ。

「簡単入力」にフォーカスしたことで、操作もデザインもシンプルになった。機能を拡張したい場合や既存の在庫管理システムを使用したい場合も、外部ソフトとスムーズに連携する仕様も備えた。高機能で尖らせるのではなく、あくまでユーザー視点に立ち、使いやすさ、利便性を追求し続ける。

「お客様の目線に立って製品を開発すべく、私たちはユーザーの声の収集に力を入れてきました。スタッフは入社から3か月、カスタマーサポートに集中的に携わってもらいますし、お客様の現場に出てユーザーにヒアリングをするという機会も設けています」

「これらの仕組みは、ちょっとした機能を追加するときに違いとして現れます。現場に出た経験があれば、『ここにボタンがあったら、手袋で覆われて使いにくいかもしれない』といった配慮が生まれるでしょう。エンジニアが積極的に現場の声を聞き出し、お客様に触れていく。こうして、ソフトにも深みが出せるのです」

倉庫の現場にお邪魔し、使い勝手をインタビューできるのは、ユーザーとの密な関係性があってこそ。カスタマーサポートへの問い合わせに真摯に対応し、ソフトの使用感についてやり取りを重ねることで、スタッフとユーザーの密な関係性を醸成しているという。

「在庫管理というのはもともと生産性には寄与しない業務です、しかし会計上では必要ですし、欠品を防ぐためには絶対にしなければならない。そこで在庫管理の効率を上げ、業務に本来の力を注げるお手伝いをするのが『ZAICO』なのです。お客様が本質的な作業に、よりフォーカスできる体制を作ること。それが私たちの目指すところです」

社員全員がリモートワークという体制で
新たな事業承継のかたちを模索していく

株式会社ZAICOの拠点は伊豆大島だが、12名の社員は東京、千葉、山形、神奈川、長野、岡山…全国に散らばっており、全員がリモートワークというユニークな体制を取っている。場所に縛られることのない自由な働き方は、会社にどのようなメリットをもたらしているのだろうか。

「地方でも十分な通信環境が構築できて、テレビ会議用のサービス、緻密にプロジェクトの進捗を共有できるタスク管理ソフトもある。高度なテクノロジーが私たちのリモートワークを支えています。もともと、エンジニアやプログラマーは集中して黙々と仕事に臨める環境を希望する人が多いんです。リモートワークがストレスなくできる環境が整うのであれば、活用しない手はありません。勤務地が自由という点にひかれ、参画してくる優秀な人材も増えてきました」

顔を合わせたコミュニケーションがなくても意思を共有し、業務を円滑に進められるのだろうか? そんな問いに「対面の仕事環境と比べても遜色はないし、むしろそれ以上にうまく機能する面もある」と田村氏は答えた。

リモートワークはコミュニケーションに甘えることがありません。曖昧な意思共有だったり、何となく伝わっているだろう……といった『以心伝心』はあり得ないからです。必然的に、タスク管理ツール上で達成目標、ねらいを明文化するようになります。対面のなさは仕事上の制約に思われるかもしれませんが、『曖昧な仕事の進め方が通用しない』という点では格好の環境とも言えます」

もちろん、対面でのコミュニケーションが生む一体感、連帯感も無視していない。展示会などのイベントを利用し、メンバーが対面する機会も定期的に設けている。採用の際には十分な試用期間を取り、メンバーがリモートワークに支障なく、またZAICOのカルチャーにフィットしているかどうかを慎重に見極めていく。

「リモートワークをうまく機能させるためには、一部の取り組みにとどめないことが大切だと感じています。一部のメンバーのみがリモートで働くのではなく、社長をはじめ全員がトライする。そうして初めてフラットな環境が実現します。真の意味で機能させたいのであれば、働き方の一形態ではなく、会社全体の仕組みとして考えた方が良いのではないでしょうか」

新しい組織のあり方を目指すZAICOだが、もともとは田村氏の家業である田村倉庫から分社化して生まれた会社でもある。田村氏は、組織論を模索する中で得た気付きを企業承継にも生かしていきたい、と将来を展望する。

「田村倉庫を創業した父も60代後半になりました。まだまだ元気で社長業に励んでいますが、会社として次代を見据える時期に差しかかっているのは確かです。リモートワークがここまで機能することが分かった今、新しい継ぎ方ができないか、思索を重ねている最中です。

山形本社には実務者に構えてもらい、私がリモートで社長業を進めるという形もあるでしょうし、山形と東京、その他の都市をフットワーク軽く回りながら業務を進めていく多拠点ビジネスも可能性があるかもしれません。テクノロジーを活用し、知恵を絞る――その先に、新たな時代に合った、私らしい承継のあり方が見えてくると思っています」