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「働き方改革は中小企業にビッグチャンス」
株式会社ワーク・ライフバランス
代表取締役 小室 淑恵 氏

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株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役 小室淑恵氏

株式会社ワーク・ライフバランス https://work-life-b.co.jp/ は、働き方を根本から改革するコンサルティング会社。「ワーク・ライフバランス」という言葉も耳新しい2006年に創業し、1000社以上に「働き方改革コンサルティング」を提供し、残業を激減させながらも業績を向上させてきた。創業当時の理念は時代とともに変わったのか。代表取締役小室淑恵氏に改めて話を聞いた。


ワーク・ライフバランスという言葉がまだ市民権を得ていない2010年代初め、筆者は小室氏に何回かインタビューしたことがある。その後社会が少しずつ長時間労働是正に動き出したが、政府主導の「働き方改革」が始動したのは2019年4月のことだった。


今では、多くの企業が当たり前のように働き方改革に取り組むようになった。長年、この問題に取り組んできた小室氏にとって、感無量なのではないか?そう聞いてみたら、小室氏は、「やっと動いたが、なぜもっと早く変われなかったのか、ちょっとした手遅れ感がある」と言う。


小室氏は、改革のタイムリミットとして、団塊ジュニア世代の女性が出産期を終える2020年ごろを想定していた。人口のボリュームゾーンである世代が出産期を終えるまでに、迷わず出産できる環境を整えねばいけなかったのだ。


「こんなに追い込まれないと気づかない、動けない国なのだと失望というか、忸怩(じくじ)たる思いだ。しかしながら、労働基準法70年の歴史で初めて、労働時間の上下が設定され、2019年の春に施行というところまでたどりつけて本当によかった」と述懐した。

「働き方改革」のカギ

近年、企業の意識はどの程度改善しているのだろうか?


「各企業のトップのコミットする度合いが非常に大きくなってきた」と小室氏。従来型の評価形態は、「期間あたり生産性」という、月末や年度末までの積み上げた業績の量を競うもの。この方法を続ける限り、時間外労働は決してなくならない。本当は「時間当たり生産性」に評価を変えなくてはならないが、これはこれまでなかなか聞き入れられなかったという。


「経営者がメンタル疾患もしくは過労死という最悪の事態を招くような働き方を助長しているのが今の『期間あたり生産性』の評価形態なんだと気づき始め、やっと課題感が上がってきた」。より高い成果をあげるつもりで長時間労働をしていた結果、過労自殺やコンプライアンス違反になっては、元も子もない。


働き方改革のキーワードは、「時間当たりの生産性」と「チームワーク」


「時間当たりの生産性」が軽視され、時間外労働をする人しか生き残れない環境では、イノベーションをもたらす多様性が失われる。また、担当者以外に情報が共有されない働き方では、チームでの成果を上げることは難しい。


株式会社ワーク・ライフバランスは、自ら、全社員残業ゼロ・有給取得100%を実現し、その上で増収増益を続けている。


そんな同社には、「朝メール・夜メール(通称、朝夜メール)」、「カエル会議」という働き方を見直す為のツールがある。


「朝夜メール」(https://work-life-b.co.jp/service/tools.html)は、出社時に1日の業務予定を立て、終業時にそれを振り返る仕組みだ。コメント欄を活用し、ワークとライフ両方について情報を共有する。時間自律性とチームワークを高めるために有効だという。時間自律性とは、自分の仕事の重要度、緊急度、所要時間を見込んで、1日の中でデザインする力のことをいう。

朝夜メール

「育児・介護事情以外にも、子どもが障害を持っているケースや、がん治療と仕事の両立、介護の始まりかけとか、不妊治療など、それぞれの社員にさまざまなライフ(生活)もある。お互いの生活を配慮しながら、仕事をチームとして進めることができる」。


単にワークとライフをバランスさせるということ以上に、組織の中でのやりがいや達成感を向上させる改革だ。


また小室氏は、新しいことやチャレンジングなことを職場で言っても、馬鹿にされたり否定されたりしない、「心理的安全性の高さ」が重要だという。

組織の成功循環モデル

その心理的安全性の高い職場を作るために有効なのが、「カエル会議」だ。


手順はこうだ。3分間、しゃべらずに全員で自分が職場の課題だと思うことを付箋に書き、それを順番に貼っていく。この書くときに「3分」という時間制限を設けることも、意見表明を促すポイントだ。重複した意見は、賛成票として貼っていく。


「カエル会議」(https://work-life-b.co.jp/service/consulting.html)では、「若い方や立場の弱い方の付箋1枚も全て平等に扱われ、他人に左右されないで自分の考えを出せる」メリットがある。

カエル会議

「否定ではなく前向きな提案なんだということをお互いに分かると、無駄な仕事をどんどん発見し、これはやめてみようとか、今までにないことを決定し続行することができるチームになる」。

中小企業と働き方改革

中小企業にとって、働き方改革への取り組みは負担ではないのだろうか?


「今年は中小企業にとって分かれ目の年になる」と小室氏は断言する。


今年の春に施行された働き方改革関連法案について、中小企業経営者の多くは、来年まで適用されない、と安堵している。


しかし、中小企業が何より苦労しているのは人材獲得のはずだ。大企業が法律に対応して一斉に働き方改革をしたことによって就職先を選ぶ人からの見え方は、「働きやすい大企業と、従来の古い働き方の中小企業」となってしまっている。実は働き方を見直した三重県の54名が働く調剤薬局では採用エントリーが5倍になり、業績も140%にアップした。150名が働く新潟の製造業でも、現在の残業時間は月平均一人1.1時間というところまで働き方改革をしたことで、採用には現在全く困っていない。


取り組み始めてからずっと業績は上がり続けているし、男性の育児休業取得率も100%になった。さらに中小企業にとって事業承継も重要なテーマだと思うが、次世代が家業を継ぎたがらない最も大きな要因はその働き方にあると言われている。働き方改革によって最も事業にプラスになるのは、実は中小企業なのだ、と小室氏は話す。

女性の評価法がカギ

中小企業が人材を確保するためには、女性が働きやすい職場を作ることが必須だ。必要なのは時短や育休の制度整備だけでなく、「育休中の評価」だという。


「入社してから昇進昇格ポイントを貯めていく会社は、育休中のポイントは0。同期が次々に昇進昇格しているときに自分は全く昇進がない。2人産んだら大幅に遅れるので、育児中の人のキャリアは横ばいになってしまう。」


これを解決する手法として、休んでいる期間の評価は同期の平均点がつくという制度を提案している。これなら育児休業をモチベーションダウンすることなく安心して取ることが出来る。

女性起業家たちへのメッセージ

では、これから事業を始めようという起業家は、どのようなことに注意したらよいだろうか。


小室氏は「新しい柔軟な働き方の魅力でいい人材を獲得すること」と「無理をしすぎないこと」を挙げた。


前者は優秀な人材を取ることがビジネスの成否を決めるため。後者についてはこう語る。


「自分にとって育児・介護などいろんな事情があるのと同じように社員にも事情がある。だから、まず自分自身が決して24時間型の働き方を示さないこと。時間あたりの生産性の高さで手本を見せることだ」。


最後に、今後の同社の展望を聞いた。


「私たちは、どうやって社会を変えるかを一番に考えている。攻めていかなくてはいけないのが、医療と学校、そして、霞ヶ関、永田町だ。ここが変わらないと、日本の働き方は根本的には変わらない」。


「現在、全国の教育委員会と提携しコンサルティングをしている。子どもの環境を変えていかないと働き方改革はできない。決められた時間割に従って、集団で一律に動けと言われて、時間自律性が育つはずがない」。


「来年にかけて力を入れるのは医療だ。医師に行った調査では、なんと4%の医師は毎日自殺を考えていると回答しているほどの過労に追い込まれている。実は民間の企業が長時間労働だと、明日朝一の会議が休めないから時間外診療に行って薬だけもらって出社するという受診が増えてしまう。こうした連鎖が医師の長時間労働にもつながっている」。


「霞ヶ関、永田町は残業の震源地。大きな企業が長時間労働になる原点が霞ヶ関からのオーダーで、それがそのまま子会社、孫会社に渡っていく」。


こうした試みに共鳴してくれる政治家は徐々に増えている。


「政治家の答弁のための官僚レク(レクチャー)は対面ではなく、ウェブで聞いても何も問題ない話だ。(小泉)進次郎衆議院議員が厚労省の官僚レクはウェブで受ける試みをはじめた。国会期間に、翌日の大臣答弁のために深夜まで資料を作成し、それを早朝に大臣にレクチャーすることが官僚の膨大な残業を引き起こしていて、なんと一度の国会につき官僚の残業代は20億円かかっている。国会のありかたも見直さなければ」。


「霞ヶ関には、『ホワイト官僚宣言』をしてもらっている」。


「法律が一個変わるだけで社会は変わらない。企業・霞が関・永田町・医療・学校、全方位に本気で働きかけることによって、後戻りしない社会にしたいと思っている」。


中小企業こそ働き方改革に今すぐ取り組むべきだ、との小室氏の言葉は重い。ましてそれが事業の継続性や承継にも影響が大きいとなればなおさらだ。発想を変えれば、中小企業にとって大きなチャンスともいえるのではないだろうか?




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