インボイス制度導入でどうなる? 税務調査の方針と留意すべきポイント
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小学1年生からの幼なじみと起業したのは高校を卒業して3日後のこと。34歳にして16年の経営キャリアを持つ吉岡諒氏は、6,200社のデジタルマーケティング支援をした顧客基盤を活かしてM&A仲介サービスをスタートさせた。SNSをフル活用して情報を発信し、クラウドサービスで契約締結を進行。平均3カ月という驚異のスピード感、そして高い成約率を実現させている。吉岡氏が展開する新感覚のM&Aはどのような意義を持ち、いかなる可能性を持っているのか。コロナ禍でも積極的に情報を発信し、成約実績を築く吉岡氏に聞いた。
2019年10月からM&Aの支援を手がけ、成約は17件。売り手企業からの相談が約400件、買い手企業からの相談は約1,000件と、株式会社ウィルゲートのM&A支援事業は好スタートを切った。同社は2006年の設立以来、記事作成代行サービス「サグーワークス」やオンライン編集チーム構築サービス「エディトル」を立ち上げ、大手出版社と連携してメディアを運営。コンテンツマーケティング事業で規模を拡大してきた。新たに加わったM&A支援事業は主力事業の顧客基盤を生かしたもの。同社COOを務める吉岡諒氏がリードし、目覚ましい実績を挙げている。
「M&Aをカジュアルなものにし、20~30代の若い経営者にも広めていきたい。そんな思いが原点にあります。起業、経営はゴールのないマラソンのようなものと捉えられがちです。一度始めたら走り続けるしかないようでは、経営者の方々のハッピーな将来像にはつながらないでしょう。時には自分の手掛けた事業に区切りをつけ、新しい事業に挑戦するためのM&Aという選択肢があっていい」
起業家が育ちにくいと言われる日本だが、メルカリを起業した山田進太郎氏のようなシリアルアントレプレナー(連続起業家)も増えてきた。
「起業家のM&Aの選択肢を増やすことで、ベンチャー市場もさらに盛り上がるだろう」
それが吉岡氏の考えだ。昨今はコロナ禍もあり、飲食業などでは苦境に陥る企業も少なくない。企業再生が市場の活性化に直結するM&Aには、大きな意義がある。
「当社も売買を含め5度のM&Aを行ってきました。私自身、大きなトラブルによる苦境に陥った事業を売却することでウィルゲートを存続でき、自分たちが救われたという思いがあります。M&Aに恩義を感じているからこそ、自らも貢献し、役に立っていきたい。そんな考えが根底にありますね」
株式会社ウィルゲートの創業からの軌跡が記されている
ウィルゲートのM&A事業は「領域特化」「完全成功報酬体系」「独自の経営者ネットワーク」という特徴を持っている。まず、ウィルゲートが事業の軸足を置くIT・Web領域にフォーカスし、売り手・買い手を募る。吉岡氏をはじめITやWeb領域での経験豊富な同社スタッフが収益モデル、ビジネススキームを熟知していることは大きなメリットになる。かくして売り手と買い手のマッチングはスピードアップし、スムーズな成約につながっている。
「完全成功報酬体系」を掲げ、着手金、中間マージンは取らないうえに、成約金額1億円以下という大手が着手しづらい規模の案件にも真摯(しんし)に応える。報酬額をきめ細かく設定し、フットワーク軽く対応するので、時には「うちは手数料が見合わないので、ウィルゲートさんにお願いできないか」と、同業他社から紹介が舞い込むこともある。
そして、最大の強みが、吉岡氏の実績を生かした「独自の経営者ネットワーク」である。16年の経営キャリアで、名刺交換は1万8,000人以上、Twitterのフォロワーは1万8,000人以上。そして、Facebookを通して9,300人以上とつながる。吉岡氏だけで5,000人の経営者と繋がっているという。
「名刺を交換し、ただあいさつの量を重ねてきたわけではありません。私はデジタルマーケティング支援が主業務ですから、相手のビジネスモデルを深く理解し、顧客ターゲットを把握した上でご提案することを3,000社以上に行ってきました。この事業理解があってこそ初めて、M&Aのマッチングにつなげることができているのです」
ウィルゲートのM&A支援事業では、マッチングの手法として、6,200社の顧客基盤や吉岡氏自身のコネクションによるメールリスト、1,000社の買い主リスト、Facebookという情報発信方法を3つ持っているが、最速でマッチングするのは何と言ってもFacebookだという。
「売り主に許可を取った上で情報開示レベルを抑えた上でFacebookに『こういった業界の売却案件があります』と投稿しています。1投稿で3~30件ほどの引き合いがありますが、他の仲介会社なら数カ月を要するところ、私たちは2日ほどで買収意欲がある買い手を30社も集められたことがありました。これがM&A成立の大幅な時短につながるのは言うまでもありません」
M&Aは一般的に買い手への打診数に対して成約率が3%程度と言われるが、ウィルゲートは約10%という極めて高い成約率をたたき出している。IT・Web領域に特化しているからなせる業であり、売り主・買い主のニーズをしっかり把握し、適切なマッチングを実現できているからこそである。
Facebookで経営者とダイレクトにやり取りを行うため、スピードも速い。クラウドの電子契約サービスを活用することで秘密保持契約も最短数時間で締結できる。平均で3~4カ月、最速では1カ月半で成約。同業他社が6カ月~1年というスパンで進めるところを、圧倒的なスピード感で差別化を実現している。
コロナ禍に見舞われた2020年も、吉岡氏は経営者とコンタクトを重ねており、意欲的に情報を発信。経営者ネットワークの拡充、整備に余念がない。
「コロナ禍ではむしろ生産性と効率は格段に向上しました。面談はリモートになり、オンラインのセミナーでは地方の経営者にご参加いただく機会が増えたからです。私は1営業日に平均7アポイント、月に140件以上のミーティングで社外の人とアクセスしています。コロナ前は対面が前提ですから、月に50件がせいぜいでしたが、現在は毎月1,000名が当社のオンラインセミナーにご参加くださいます。オンラインですから東京以外の経営者が積極的に参加できていて、ネットワークの量、質はさらに進んでいます」
このネットワークを生かし、地方の伝統ある企業、2代目や3代目が承継した企業からのM&Aの相談も増えてきた。IT・Web領域に特化してきたウィルゲートM&Aだが、今後は時代に即した新たなかたちの事業承継も視野に入る。
「M&Aというと株式譲渡をして事業を手放すというイメージがあるかもしれませんが、新しい形が生まれつつあるように思います。たとえば、いくつかある事業のうちのひとつを売却して資金を生み、本業に集中して事業活性化を図ったり、IT、Web系の経営人材が欲しいという理由で買収を検討したいという相談も増えてきました」
利益剰余金を積み重ね、無借金経営できた老舗企業がデジタルシフトを考え、M&Aに新規事業への活路を見いだそうとする動きなどもあるという。
「伝統工芸などを手がける地方企業の技術資産にベンチャー企業が着目するケースも増えています。成約に至った例はまだありませんが、私たちにとって新たなチャレンジが結実する日も遠くはないでしょう」
吉岡氏が先導する中、ウィルゲートでM&Aを進めるメンバーは6名。今後はデジタル変革を進めながら効率性を高めると同時に案件を増やし、次代のM&Aを確立していきたい、と前を向く。
「経営者の方々にとってM&Aという選択肢をもっと当たり前のものにしていきたい。それが私たちの思いです。ベンチャー企業や地方の伝統ある企業、志ある後継ぎのいる企業など、さらなる成長を求める経営者、組織を応援していければと考えています。IT・Web事業に特化したM&A仲介を起点に、可能性が広がり、私たちの事業が、広く世の中の役に立っていければうれしいですね」
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