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経営のヒント

まっとうな経営の原理原則を突き詰めたら、
お仕着せでない、自社開発のシステムが一番だった
株式会社上間フードアンドライフ 代表取締役社長
上間喜壽氏

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  • 新規ビジネス
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巨額の負債を抱えたマイナスの逆境で事業を承継し、沖縄ビジネスシーンで存在感を発揮する若手事業家の旗手へ。ITをはじめテクノロジーをフルに活用し、V字回復を果たした軌跡を株式会社上間フードアンドライフ代表取締役社長の上間喜壽氏に聞く。

株式会社上間フードアンドライフ 代表取締役社長 上間喜壽
株式会社上間フードアンドライフ
代表取締役社長 上間喜壽(うえま・よしかず)
1985年生まれ。沖縄県うるま市出身。「上間弁当天ぷら店」の2代目として2009年家業を引継ぎ、社長に就任。2億円の負債を完済し、10年間で年商7億円にまで成長させた。経営、会計、システムを理解したうえで、自社で使いやすい会計管理システムを構築する。経営支援クラウドシステム「mango」を開発するなどウェブ事業のU&Iの経営も行う。

丼勘定から脱却し、キャッシュフローを回していく
ITによる仕組みづくりがブレイクスルーになった

2億円の負債を前に途方に暮れていた24歳――上間喜壽氏が家業を継いだのは、大学を卒業して沖縄に帰った直後のことだった。

「上間弁当天ぷら店」を主要事業とする会社は、当時の売上が1億6000万円、従業員は中高年を主体とする20名弱という陣容。しかし、承継から10年を経た今、売り上げは約7億円に達する勢いで、従業員も80名以上という規模に拡大している。

巨額の負債を抱えたマイナスの逆境から立ち上がり、沖縄ビジネスシーンで存在感を発揮する若手事業家の旗手へ。ITをはじめテクノロジーをフルに活用し、V字回復を果たした軌跡を上間氏に聞く。

「えっ、これだけ?承継前につけられていた帳簿を開いて、僕は目を疑いました。売上・仕入・利益……項目がたった3つだけだったからです。これが会計?と驚きました。何よりも注力すべきは売り上げを伸ばすこと。業績は後からついてくる。昔はそれでもよかった

かもしれません。しかし、今の経営では、原価率をはじめとする経営の数字を可視化できないのは問題があるのではないか?僕はそう考えたのです」

「しかし、経営学部で学んだ僕も、実際にビジネスに携わった経験はもちろんありません。経営の現場で試行錯誤しながらフィード

バックし、書籍を読んで知識を身につけていく。地道な繰り返しを続けるうち、丼勘定から脱却し、キャッシュフローを回していくことの大切さを痛感していったのです」

まず、上間氏が活路を見いだしたのがマーケティングだ。血縁のつながりが非常に強い沖縄社会では、親戚一同が集まる法事イベントが多い。そこで提供されるのは、100~200人単位の法事料理だ。

「たまたま一本の注文を受けたことから潜在的なマーケットを意識することになりました。のれんを出してアピールし、チラシを作って、こつこつとポスティング。目に見えて効果が現れ、注文を多数獲得できるようになりました。市場規模はさほどではありませんし、当日注文への対応など、僕たちのフットワークの軽さは大手事業者にはできない相談です。フットワーク軽くサービスが提供できる僕たちのような存在が、ぴたりとニッチ市場にハマりました」

大口案件をこなして実績を重ねるうちに認知度も高まり、現場の生産や配達などのオペレーションも磨かれていくという好循環。苦境で家業を継いだ上間氏にブレイクスルーの糸口が見えた。

スピード感ある週次会計をクラウドサービスが支援する
タイムリーな打ち手を打つための基盤づくりとは

法事料理にフォーカスすることで、経営改善の糸口が見えた。そこで、上間氏は受注のシステム化に着手する。目指したのは、業務フローの改善である。

お客さまから入った注文が製造現場に伝えられ、指定された種類・数量の弁当や天ぷらが製造され、届け先に配達されていく。それがケータリングの流れだ。しかし、上間弁当天ぷら店では、顧客との最初の接点になる受注管理にトラブルの種があった。

「入った注文は手書きで広告の裏紙にメモし、束ねて現場に伝えていたので、注文が散逸したり、漏れ、抜けがあったりは当たり前。時には揚げ物を揚げるフライヤーに受注メモが落ち、油で揚げてしまった、なんてことも。こんな体制では大口の受注をこなしていくことはできません。いかにして効率よく、漏れなく管理していくか。課題解決というよりも必要最低限の“手段”として、ITを活用した仕組みづくりに着手したのです」

紙帳票からの脱却を目指す上間氏は、表計算ソフトを活用し、各仕事場の製造量管理、受注一貫生産をまとめていたが、細かな改善、機能追加を重ねるうち、それは上間氏自身にしかわからない特殊な管理ツールになっていたからだ。

そこで、懇意にしていた企業に依頼し、受注管理をシステム化。さらに、POSシステムも独自の知見を取り入れて開発する。業務の拡大も軌道に乗り、ITを活用した業務効率化が急務になっていた。

「法事料理への選択と集中により、店舗展開をスタートさせるようになった頃のことですね。店舗を増やしたい。だけど、業績の改善を目指す途上だから出店コストをできるだけ抑えたい。それが僕たちの本音でした」

「しかし、中食産業で使い勝手の良いPOSシステムは、業界を見渡してもなかなか見当たらないのが現状だったのです。僕たちの業務に合ったPOSレジシステムを運用していくうち、会計の自動化、つまりITを活用した経理業務の仕組み化を模索していくようになります。経営の意思決定をスピーディーに行うためには、これは必然とも言える選択でした」

上間氏は1週間単位で売り上げ、粗利益、固定費、利益を管理する週次会計を採用。経営のスピードアップを目指していた。この経理スタイルには、当時次々に登場していたクラウド会計サービスがマッチする。自社の経営状況をリアルタイムに把握できるサービスとスピード会計は、当然ながら親和性が高い。

「採用したのは、クラウド会計サービスの『会計 freee』です。このサービスなら、会計の管理機能を活用しながら、わが社のデータと連携させ、ユーザーにとって使いやすいシステムにできると思ったのです。銀行側との接続も容易で、リアルタイム性を重んじた思想、仕様は僕たちの方針ともフィットしました」

「これまでのように、20日を過ぎた月末近くになってようやく数字を把握していては、経営にとって効果的な対処は難しいでしょう。僕たちが進める週次会計では3日もあれば経営数字が把握できます。だからこそ、タイムリーに次のアクションが取れる。同業種の中で非常に速い成長ができているのはスピード感ある経営です。それを可能にするのは、当社のシステムと絶妙に連携したクラウド会計サービスに他なりません」

テクノロジーの本質は人間の能力の拡張にある――
信念をもとにITを活用し、さらなる飛躍を目指す

スピード感あふれる経営をクラウド会計サービスがアシストする。しかし、これはクラウド会計という先端ITサービスありきではない。

経営に紐付く数字をスピーディーに把握し、最良の打ち手を検討する。それは「会計のための会計」ではなく、収益にいかに結び付けていくかを考える管理会計の方法論だ。
「ITを入れたら経営がうまくいくか。数字が良くなっていくか。そんなわけはありません。数字を把握していくという明確な姿勢、丼勘定から脱却して進んでいくという気概がなければ、クラウド会計を導入しても効果は生まれないでしょう。クラウド会計サービスのようなITの活用は、あくまで手段でしかありません。大切なのは、自社の経営にどんな問題があり、何のために会計を自動化するのか。その意識、意図を持つことではないでしょうか。
少々手厳しいかもしれませんが、財務三表を理解し、経営判断ができるようになっていなければ話にならないのではないでしょうか」

そこで上間氏が重んじるのが理念経営だ。負債2億円からの経営を立て直す過程では先代からの古参スタッフとも顔を突き合わせてコミュニケーションをとり、危機感を共有してきた。この決断が、逆境からの事業承継に寄与した、と上間氏は振り返る。

「今までと全く違う経営変革ができたのは、僕たちの会社はギリギリの危機的な状況だったからということもあります。抵抗するスタッフの意見を丁寧にケアしていたら会社が潰れてしまいますから。チームとして社内をまとめ、承継した事業を軌道に乗せることができたのは経営に関する数字をオープンにし、会社の危機感を共有してもらったからです」

企業の行き先という理念を定める。そして理念からビジョンに展開し、経営に落とし込んでいく。その丁寧なプロセスがなければ、一連の事業承継も進められなかった、と上間氏は振り返る。

「とはいえ、まだ途上です。現状がベストかと問われたら、答えはノー。少子高齢化で労働力不足がさらに進んでいく近未来を見据えたら、ITによる仕組みづくり、さらなる効率化は重みを増す一方でしょう。テクノロジーの本質は人間の能力の拡張にある――僕はそう考えています。今まで2人でやっていたことが1人でこなせるようになったら、社員の労働条件、報酬もさらに良いものにできます。そのためにも、みんなにはITという武器を渡さなければ。生身のからだでは、今まで以上の働きはできませんからね」

スピード感ある理念経営を進めるうち、沖縄のスタートアップ界隈のセミナーに登壇する機会も増えた。人口の自然増、年間の観光客が1000万人以上など、良い条件が揃い、浮揚を続ける沖縄経済。しかし、上間氏には危機感もある。

「日本全体の人口が減少して市場が縮小する中、景気の良い沖縄に本土から大企業が押し寄せてきています。大手コンビニチェーンが沖縄初出店というのを、ただのニューストピックにしてはいけないでしょう。大企業が資本力を背景に乗り込んできたとき、地元企業が駆逐されるのは目に見えています。どうやって生き残るか。ローカルブランドらしさを追求しつつ、沖縄という地の利を生かして、発展を続けるアジアへの海外進出も視野に入れています」

家業の「食」をベースにしながら、「沖縄の文化を守り、伝え、発展させていく」というミッションの達成へ。先端ITという武器を携え、上間氏の奮闘は続く。