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経営のヒント

「時代を先取り、人が目を付けないところに参入する」株式会社島田商店3代目代表取締役社長 嶋田淳氏

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近年、環境問題に大きな関心が寄せられている。東京墨田区、創業90年を迎えた株式会社島田商店は、環境保全に特化した薬品の製品販売など、環境事業で急成長を遂げている。熱い情熱をもった若き3代目社長嶋田淳氏と、妻奈生子さんを訪ねた。

(聞き手: 安倍宏行 ジャーナリスト ”Japan In-depth”編集長)
 

だるまの原料及び皮革用塗料からスタートした島田商店。先代から環境事業に注力し始め、現在はそれが主力となっている。今、時代はSDGsが注目され、どの企業も環境経営に注力しなくてはならなくなってきている。まさに先見の明があったと言えよう。様々な化学製品を販売、運搬、納入まですべて自社で行っているのが島田商店の強み。嶋田社長に今の経営の課題とこれからのビジョンを聞いた。

株式会社島田商店3代目代表取締役社長 嶋田淳氏

嶋田:今は少量多品種の時代です。看板商品にプールの殺菌消毒材がありますが、一つの例として都内の学校プールは屋上にあって、1つ20キロもある商品を屋上まで何十本も運ぶ作業を当社で請け負うことを条件にご注文頂いています。他がやらないことをやる、というのが追い風になっていますね。

何十年も前から薬品のデパートを目指してきたという島田商店。商品の数で言えばライバルは見当たらないという。今後どんな分野に注力していくのだろうか。

嶋田:色々な事業を展開しています。環境事業は水と土壌と空気。この8年間で当社の売り上げ2位になったのが空気関連です。大気汚染防止法で、空気を汚さないために使われるものが伸びてきており、今後10~20年間は伸びしろのある分野です。空気はあまり表に出ない分野。窒素酸化物(NOx:ノックス)は酸性雨と光化学スモッグの原因になるので法律がどんどん厳しくなってきています。その1つが自家発電。東日本大震災が起きて、緊急に電力がないと困るので自家発電が急激に増え、その後電力の値上げでさらに増えました。病院や高層ビル、ショッピングセンターをはじめ、冷凍食品・ビール・乳業など、菌を扱っている会社は、非常用自家発電を今では常備電源として使っています。そういうところが弊社の顧客になっています。

株式会社島田商店3代目代表取締役社長 嶋田淳氏

自家発電はCO2だけでなく、NOxなどの大気汚染物資質を排出するので、その除去に島田商店の化学薬品が必要だ。空気関連ビジネスは東日本大震災の1年前に始めていたことも功を奏した。

そればかりでない。トラックのディーゼルエンジンは、NOx・PM法に規制されている。現在中型以上のディーゼルトラックは140万台以上走っているが、全てのメーカーのクリーンディーゼルエンジンのトラックには「尿素SCRシステム」という装置が搭載されている。このシステムの原理はNOxをアンモニア(NH3)と化学反応させることで窒素と水に分解し排出するもので、自動車用高品位尿素水を使用する。

島田商店はまさにその自動車用尿素水を製造・供給もしている。現在「尿素SCRシステム」の搭載率は30%だというから、まだまだ成長の可能性は大きい。これに目を付けたところもすごい。

株式会社島田商店3代目代表取締役社長 嶋田淳氏

嶋田:NOx除去用の液体尿素はアクセルを踏むとガスに噴射される仕組みです。ガソリンの3%くらいの消費量ですね。ここの工場を9年前に購入した時に、新規事業をやろうということで色々な企業さんにプレゼンテーションをしてもらった結果、尿素が熱い!ということが分かりそこから始めました。

こればかりではない。嶋田氏の目の付け所はあっと驚くようなものが多い。もうひとつ、2年前に始めたものが「エンバーミング」用薬剤の供給だ。「エンバーミング:embalming」とは、遺体の消毒や保存処理をしたり、必要に応じて修復したりして長期保存を可能にする技術である。遺体衛生保全ともいう。

実は、日本では首都圏のみならず都市部で火葬場が不足気味だ。遺体の保存にこれまではドライアイスなどを使用していたが、エンバーミングという技法が開発されたことによって、長時間保存できるようになった。その薬剤を扱おうと思いつく嶋田氏に凄さを感じる。

株式会社島田商店3代目代表取締役社長 嶋田淳氏

嶋田:それまで日本に輸入されていたのはアメリカのDodge Co.(ダッヂ)という会社の製品だけでした。我々はそのライバル会社でカナダのEckels(エッケルス)という会社と提携して、シェアは現在50%ほどになっています。

嶋田:去年亡くなった日本人のご遺体は135万人。2040年には年間165万人になると予想しています。しかし、火葬場が急激に増えることは考えにくいので待たなくてはいけない。処置が必要なご遺体が増えるという状況もそうですし、何といっても残されたご遺族に安心、安全を提供するためにこの事業に参画しています。

これから伸びると予想されている新規事業について伺ってみた。高付加価値除菌剤がそれだという。塩素系のような薬品臭が無く、低刺激、脱色しない、広範囲の細菌類・ウィルスに対応可能なPHMBという成分を使用した製品群だ。これまで同社はBtoBの商品が多かった中、この商品ではBtoC向けに展開していくのが狙いとのこと。

嶋田:「おもてなしのプロが使う無臭除菌スプレー」がその一つで、3か月間で爆発的に売れました。成分はポリヘキサメチレンビグアナイド(PHMB)というもの。自衛隊の被災地の仮設の温泉にも適しています。分解しない成分なため、1回入れておけば効果は長期間持続し、薬品臭もない。また、皮膚刺激もないので、ご高齢者やお子さまにも快適に入浴してもらえるのが特徴です。特に災害地や被災地の疲れた方々に一時の安らぎを提供することを目指しています。

しかし、製品化への道は平坦ではなかったようだ。何しろ塩素を主力商品としていたわけだから、代替商品を開発・販売しようという社長の考えに社内は猛反発。しかし、自腹でパンフレットを作って営業に回るなど一人で汗をかいた結果、今があると笑う。結果を出せば自ずとついてくることを説明してくれました。

株式会社島田商店3代目代表取締役社長 嶋田淳氏

ここで奥さまの話を聞こう。嶋田氏にとって奥さまの存在はどんなものなのか聞いてみた。

嶋田:会社にいるときは社長ですが、道を歩いていればただの1人の人だということを気づかせてくれる存在ですね(笑)。家では食器も洗いますし洗濯もします。小さいお山の大将でいるのもいいけれど、一歩引いて自分を見なさい、と言われているような気がします。

仕事をしていく上でいい影響を奥さまから受けたことはあるのだろうか?

嶋田:彼女は気にしない性格ですね。社員や近隣の方との関係など私は色々悩んでしまうのですが、「そんなに考えすぎなくていいじゃないの?」と、我に返る瞬間を与えてくれます。

インタビューでは奥さまの奈生子さんにも直接お話を伺うことができた。奈生子さんは香川県出身。飲食店を父亡き後に営んでいた母と嶋田さんが先に知り合ったそうです。娘にはこういう人が合うのではないかとお母さまが思われたことがきっかけとなり、紹介されたそうです。実際に奈生子さんと話してみて、気取ってない方だなと好感を持ったという。

経営にどの位携わっているのか聞いてみると、全く関わっていないとの答えが返ってきた。

株式会社島田商店3代目代表取締役社長 嶋田淳氏の妻 奈生子さん

奈生子さん:邪魔かな、と思うので。あえて関わらないようにしています。でも夫の聞き役にはなろうとしていますね。否定せず、意見もなるべくせず、いいんじゃない?という感じで (笑)。 繁忙期やトラブルのあった時などは「ただいま」の声で分かるんです。そういう時は夜ご飯の後に、お酒でも飲む?という感じで話を聞いたりします。

将来的に伴侶として事業承継する可能性もゼロではないだろう。お子さまが小さいときに万が一夫に何かあったらどうするのか?経営者の妻として率直な気持ちを聞いてみた。

奈生子さん:考えることはもちろんありますよ。この人死んじゃったらどうするのだろう、とか。お父さまもお年なので、もう一回社長やってください、とうわけにもいかないでしょうし。それに先代のやってきたこととは全然違うことを彼が進めてきたというのもありますので。

実際に企業経営の妻は夫に何かあったら誰にまず相談するのだろうか?そんな疑問に奈生子さんはこう語った。

株式会社島田商店3代目代表取締役社長 嶋田淳氏の妻 奈生子さん

奈生子さん:彼の周りで普段アドバイスをしてくださっている方に、まず相談すると思いますね。中小企業の奥さま同志のつながりというのは意外とないのです。墨田区の中小企業は家族経営が多いので奥さまが会社に入られている方が多いし。ちょっと私とは立場が違う感じがあるのです。逆に女性経営者とお話した方が楽ですね。

墨田区は女性経営者が多いという。お付き合いしている女性経営者から色んな刺激を受けることが多いと奈生子さんは話してくれた。

奈生子さん:女性経営者の方はフットワークが軽くて、パワフルで女性らしさ、しなやかさ、気配り・心配りもできて、男性のいいところと女性のいいところを兼ね備えているので、話していて本当に楽しい。

まだまだ子育てに忙しそうな奈生子さんだが、これからもそうした地元の経営者のネットワークには参加したいという。

株式会社島田商店3代目代表取締役社長 嶋田淳氏の妻 奈生子さん

日々新しいアイデアを生み出しながら新規市場開拓にまい進する夫。その夫のストレスを和らげつつ、会社の周りの人とのつながりを大切にする奈生子さん。日本の経済を支える中小企業の底力は、存外、そんな夫婦の日常にあるような気がした。