中小企業経営者の資産運用② 実施時のポイントとリスク管理
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女性たちが、夫や父親、先代の経営者からある日突きつけられた事業承継という大仕事を、どのように取り組み、乗り越えてきたのか? そして現在に至るまでの経営者の取り組みを座談会という形で語り合っていただきました。 3回目は経営者にとって苦悩が尽きない「お金」の話です。
アイキャンディ株式会社 代表取締役
福森 加苗氏
https://eye-candy.co.jp/
WEB 制作、広告デザイン会社/資本金 2000 万円/従業員数 20人
1993年設立。2007年先代の創業社長から事業承継され、代表取締役に就任。
2008年社名変更、2009年自社ビル建設、社屋移転。
株式会社テイ製作所 代表取締役 田中 和江氏
https://www.teiseisaku.co.jp/
株紙器抜型製作、強靭ボード製ディスプレイスタンド設計製作/資本金 500万円/従業員数 9人
1992年創業。2016年法人化し、代表取締役社長に就任。2018年本社、工場移転。
株式会社茨城ケミカル 代表取締役
大和田 美佳氏
業務用洗剤や衛生管理用品の販売卸、衛生管理のコンサル業務/資本金 1000万円/従業員数 7人
1970年創業。2007年父親である先代社長の死去に伴い、母親が社長に。その後2010年事業承継し、代表取締役社長に就任。
大和田 経営している中で、お金でこんなに苦労したとかってありますか?
福森 事業を引き継いだときに、前社長が社屋を作るタイミングだったので、結局、私が保証人になったことかな(笑)。でも、その時に経営者をやっていくんだという覚悟ができましたね。土地を買って、新社屋を建てたので融資の金額が大きいじゃないですか。「あれ?連帯保証人って私?」って、ハンコを押す手が震えましたね。
田中 私は、会社を法人化したときに、父が今まで出していた利益が、一気に私の借金になったのにはびっくりしました。そりゃそうですよね。でも父がした借金も私の借金になるのも驚きでした。だから「お父さん、これ何とか勘弁してくれない?」と言ったら「いや、ダメだ」って。うそみたいですが、この10年間は一体何だったんだっていうくらい、今コツコツ、お父さんに返済っていう形で(笑)返しています。
大和田 偉いですね~。私はビジネススクールに通ったことがあったので、書面上B/SとP/Lは見られるんです。でも実感が湧かない。ただ、これとこれを足したらこれになって、「ふーん、減価償却ね」みたいな。言葉は知ってるけれど、実際に置き換えたときは、まったく理解できなかった。だから最初は苦労しましたね。でも「決算書は社長の通信簿だ」って何かで聞いたことがあったので、私の成績表か……良くないと嫌だよねって思いながら、これ削れ、あれ削れ、こうしたら見栄えよくなるよね、みたいなのを手探りでやりました。
田中 何年くらいかけて?
大和田 2~3年ですね。たまたま新聞で見た、経産省と県が行う事業承継者向けセミナーに数回参加しました。それと顧問税理士さんを呼んで財務諸表を見ながら「これはどういうこと?あれはどういうこと?」ってしつこく全部、聞きました。税理士さんも父の時代からの“なあなあ”の付き合いだったんで、「そんなことを聞かれるのは初めて。逆に知りませんでした」みたいな状態。でも、やりながら覚えていって、分からないとネットで調べる。あとは知り合いの経営者に聞いていました。
田中 そうそう。私の会社の現預金が1千万円を切ったときがあって、さすがに「あ、これはまずい」と。それでお父さんに「支払いを少し待って」と言ったら、「待たない!」と(笑)。「えー、どういうこと」と思いながらも、また考え方を変えるチャンスだと思ったんです。私は人より早く親孝行をさせてもらっているんだって考えることにしようって。親が死んでから後悔する人がよくいるけど、私は絶対後悔しないぞ!と思いました。今は笑顔で「はい、お父さん。返済」と言って渡しています。「ありがとう」って喜んでくれているのでいいのかなと。
福森 基本的に、頑張れば何とかなると思う性格なのですが、どうしようもなかったのは、東日本大震災の時です。紙がない、インクはない。パチンコ業界は自粛もあり、売上が1/3にまで落ち込みました。みんなで「何する?」「暇だね」って。停電になるし、パソコンも起動しない。みんなの頭もシャットダウン(笑)。そこからデザインだけでなく、やれる仕事はなんでもやりました。女性活用の講師をやり、女性用トイレの施工をやってくれと言われれば受け、ミステリーショッパーを頼まれれば出かけていき、その時に新しい事業がどんどん生まれましたね。
田中 そうですよね。やっぱり会社はもうからないとダメだと思うんです。だからうちは社員に財務諸表を全部見せています。パートさんでも会社の現預金がいくらあるか、営業利益、経常利益がいくらか全部わかる。そこから何%が分配金として賞与になると。それを毎月オープンにする。長期の借金や会長への返済も全部。パートさんでも利益が出たらどれくらい決算賞与が分配されるか知っているから、社員にハッパかけて、「決算賞与に向けて、頑張るぞ!」なんて大きいポスターみたいなのを貼ったりしている。売上目標を自ら作っているのを見ると「あ、これは見せたかいがあるな」って。
福森 おもしろいですね。
田中 ないときはない。でもあるときはみんなで分配していこうって。これはモチベーションが劇的に変わりましたね。
大和田 財務諸表をフルオープンにすると、給料を上げるときはよいですが、逆に下げたときのモチベーションとか、役員の報酬ってどうなのか?と思われないかとか、いろいろ難しくはないですか?
田中 賞与はそのときの利益で上下しますよ。でもそれが明確になっているから、これは仕方がないって納得してくれます。見えないから、もやもやするんです。社長を疑ったりね。でも全部見えてしまえば、そんなこともまったくなくなりました。
大和田 見せたくても見せられないものもある(笑)
田中 ほとんどの経営者って見せてないらしいんですけど、見せている会社の社員は一緒に考えてくれるようになるようですよ。だって、主体的に働くってどういうことなの?こういうことだよって数字で見えるようにしておけば、よいので。やっぱりお金って大事だから、その決め方は難しい。だから私は、リーダーに全部お任せしています。
福森 そうなんですね。
田中 賞与の数字が全部出るんです。その数字をリーダーに渡しています。それがメンバーにも見えているので、あとは彼らが分配する。決算賞与は全員、均等配分。夏と冬は、リーダーたちにやってもらう。分配するつらさもリーダーたちは分かる。すっごい悩んでるんですよ、今きっと。
福森 すごいなって思う。なぜなら、わが社も結構、公開してるんですよ。だけどみんな興味がないみたいなんです。ガラス張りなので、誰がいくらの給料をもらってるかも全員が知ってますけど、そこまでよっしゃ!ってならないのは、ルール作りが足りないんだなって今、聞いてて感じました。女性ばかりだからかな?
田中 いや、女性のほうがお金にシビアですよ。
福森 そうですか。やり方が悪いのでしょうね。
田中 例えばそれが分配につながってますかね?
福森 そこですよね。
田中 そこだと思うんですよ。
福森 利益が出たら、みんなのボーナス積立を毎月やってるから、これが成り立ったら払えるからねって言っても、そんなに興味が湧かない。
田中 うちは全然ダメなとき、例えば、新社屋を建てたばかりのときは利益が全然出なくて、その前の年の1/6くらいしか賞与が払えなかった。金額の差が激しく大きいですよね、そのくらいあからさまに利益が出たら分配するっていうやりかたなので、自然と興味が出ちゃうみたいです。
福森 そこの仕組みがすごいなって思いました。
大和田 社長の給料も全部見えるようにしているんですか?
田中 そうですよ。何か覚悟できないですか?見せちゃうって。
大和田 うーん、主人もいるし、それもちょっと。
田中 あー。ありますね。
大和田 夫婦でこれだけもらってんのかーって思われると何かこう嫌だなって。ただ、見せてもいいようには実はきちんとローデータは作っています。人件費、保険と経費、粗利を全部ひとりひとり出すようにしています。
田中 おーすごい。
大和田 人件費、社会保険、経費、担当エリアの粗利が全部わかるようになっている。それを見るとうちの主人は役員なんですけど、売上比率を見るとバランスが取れていて、やっぱり稼いでいるし、仕事も多くしてるのは明白なんです。何か言われたらこれ出せるって思いながら。だけど、そこまで出すのもなっていう感じです。だから給料配分は間違ってないなと思いながら、それをどこまで出していいのかなって。だからすごいなと思って。
福森 以前、男性社員がいた頃に「これがみんなのボーナスです」と金額の公開をしたら、それで辞めていきましたよ。男のプライドですかね?男性のほうがしょげるんだってその時に思いました。すべてを公開することが良いことかどうなのかと思いながら、でも競い合って欲しいと言うことで出してはいましたが、最近は辞めました。社員のモチベーションを上げるその秘訣をぜひお聞きしたい。分配率にも興味があります。だからこの後、お二人を飲みに誘おうかと思っています。
大和田 裏話を聞きたい(笑)細かく。やっぱりそれって経営者同士で飲んだときにしか出ない話なのかもしれませんね。
田中 はい。お手柔らかにお願いします。
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