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経営のヒント

「事業には大義が必要」
エム・テックス 創業者 代表取締役社長 曽田 浩義 氏

  • 新規ビジネス

この記事は7分で読めます

今回訪問したのは「ナノファイバー」を主力商品としている、エム・テックス株式会社。私たちは埼玉県岩槻市に向かった。


ナノ(nano)」とは10億分の1を表す言葉。どの位かというと、地球の直径に対して、1円玉くらいの大きさだ。ファイバー(繊維)で言えば極限まで細いことを表す。1 ナノメートル (nm)は10億分の1メートル(m)。1nmは髪の毛の太さの約10万分の1にあたる。

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写真)ナノファイバーの細さ
出典)エム・テックス

その超極細繊維「ナノファイバー(商品名:マジックファイバー)」の量産に成功したのがエム・テックスの曽田浩義社長だ。この道一筋かと思いきや、その経歴は少々変わっている。


某大手メーカーに入社し、システム開発などに携わっていた曽田氏。その後、エリア放送・データ放送・館内共聴向け放送送出機などの製造・販売する企業に転職した。そこまでナノファイバーとは無関係な仕事をしていた。


しかし、たまたま仕事でナノファイバーの関係者と関わりを持つ。その魅力に取りつかれた曽田氏、自分たちで製造販売することを思い立ち独立する。そうなったら行動は早い。前の職場からエンジニアをかき集め、共に会社を立ち上げた。全員、ずぶの素人状態。しかし、それがかえって奇跡を起こす要因となる。

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ナノファイバー量産に成功

ナノファイバーの可能性は30年ほど前からわかっていた。しかし、一向に商品化されなかったのは、一にも二にも、コストがかかること、生産の際に爆発事故等の危険を伴うこと、大量生産が不可能であることによる。


高電圧をかけて製造する従来の「ESD(Electrospray Deposition Method)方式」と呼ばれる製造法がネックだったのだ。しかし、曽田社長をはじめとするエンジニアたちが風穴をあけることになる。


それはわずか3年前。従来の製造法にとらわれない彼らは、材料を熱で溶かして液体化し、空気と混ぜてナノ単位の繊維を作る新製法を編み出す。

「え?こんなに簡単なの?というほど単純な仕組みです。それまではESD方式に固執していたので、素人で常識も何もない我々だからこそ出来たのでしょうね」と曽田氏は振り返る。

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この新製法により、1時間になんと30kgもの製造を可能にし、圧倒的な効率化を実現した。従来のように高電圧をかける必要がないため、事故の危険も軽減された他、電力も節約でき、環境にも優しい製法となった。また、素材にはリサイクル材料を使用するなど、SDGsへの貢献にも意欲的だ。

驚異の性能

エム・テックスのナノファイバー、商品名「マジックファイバー」は、その名の通り魔法のような信じられない性能を持つ。


それが、油を吸収する力だ。


「マジックファイバー」は、従来の油吸着材に比べ、約5倍以上の量の油を吸着する。当たり前だが、吸着後の廃棄ごみの量も5分の1以下に減る。これは画期的なことだ。実際に国内の油流出事故現場でも大活躍したという。紹介しよう。


記憶に新しいのは、2019年に起きた九州地方の豪雨被害だ。佐賀県大町町(おおまちちょう)で浸水した鉄工所から大量の油が漏れ出た。テレビでその被害を報じるニュースを見た曽田氏はすぐに行動した。


「石油を扱う施設がある自治体では必ず油吸着材のストックがあるんです。でもそれでは足りなくて、町が困っていることをニュースで知り、即座に町に連絡しました。」


九州の代理店にあった在庫をかき集めて送った。その後、町から防衛省に話がいき、国の要請で大町町への吸着材提供を行ったという。自衛隊の特例で4度にわたり自衛隊機を飛ばし、計18万枚の油吸着材を被災地に送り届けた。このニュースを見た人も多いのではないか。

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写真)自衛隊機にマジックファイバーを積み込む様子
提供)エム・テックス


現場に救援に入った自衛隊員も町役場の人も目をむいた。その信じられない「マジックファイバー」の性能に。


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写真)佐賀県大町町のおける油除去作業の様子
提供)エム・テックス


油除去の経験が豊富な自衛隊員は、2週間程度ですべての油除去作業が終わったことに、「こんなに早く済むなんて!」と驚きの声を上げた。町役場の人は、油除去後、土壌汚染がほとんどなかったことに「信じられない」とあっけにとられた。近隣の農地に油が流れ込んで、土の総入れ替えを覚悟していたという。それが、後日検査した結果、なんと汚染はほとんどなかった。

「マジックファイバー」驚異の性能

油吸着材の従来品は、吸い取ることは吸い取るが、持ち上げると油が垂れてしまうのが当たり前だった。しかも水面に浮かぶ油膜は吸着できないなど、効率が悪かった。さらに水も同時に吸うので、すぐ引き上げないと沈んで流れていってしまう。その結果、吸い取った油を再び川や海に放出してしまうという、二次災害の可能性も指摘されていた


それを防ぐために作業者は片時も目を離せず、一度に複数枚の吸着剤を使わなければ行けない、等の課題があった。取り切れない油が要因となり、環境破壊にもつながっていた。


しかし「マジックファイバー」は、水は一切通さず、油のみ吸収する。そして一度吸収した油は垂らさないという性能を持つ。


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百聞は一見にしかず、だ。水に浮いた油を「マジックファイバー」が吸着する実験を見た。すると驚いたことに吸い取った油を従来品はぼたぼた垂らすのに、「マジックファイバー」は一滴も漏らさないではないか。

動画(吸着力実験):https://youtu.be/EO7e2lpyWjQ

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動画(保持力実験):https://youtu.be/EfL1ZFimdiM

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油流出による海洋汚染は至あらゆる所で起きている。日本初のナノファイバー技術が、今、世界中から注目を集めている。


無論、家庭における料理用油の処理も格段に楽になる。同社の民生用油吸着材、その名も「ベルサイユ(「採油」)のわた」。なんとも洒落の効いたネーミングだが、その実力は推して知るべしだ。油の処理に困っていた家庭でも重宝するだろう。

動画(「ベルサイユのわた」実験): https://youtu.be/ruGiEpNY4ZM

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写真)家庭用油吸着材「ベルサイユのわた」パッケージ
提供)エム・テックス

ナノファイバーの可能性

昨今の気候変動により異常気象、自然災害は増え続けている。日本でも大雨による水害被害が立て続けに起きているが、ナノファイバーの材料を変えて、水を吸収するようにしたら、床上浸水するような場面で大活躍するだろう。


その他、ナノファイバーの水耕栽培への応用が実験中だ。水を通さないのに空気は通すので水が腐りにくい、というナノファイバー特有の性能により、高額な設備投資を抑えられるのだ。イチゴ、ニンニク、レタス、キノコ等の栽培に応用できるという。アフリカなど極端に水が少ない場所での水耕栽培への利用も期待され、飢餓の撲滅にも貢献しそうだ。


さらに、食物が腐敗する原因のエチレンガスを吸収する作用があるため、花や果物を包装するだけで、鮮度を保つことが可能だ。物流や食生活にも革命をもたらすことになるだろう。


また、現下の新型ウイルス対策で活躍するマスクやフィルターなど、医療用途が期待されている。それ以外には、飛行機・車の吸音材、アパレル用品等、その用途は無限大であり、国内外を含め数々の企業から業務提携の話が舞い込んでいる。

「エム・テックス」社の持続可能性

今後の事業の継続性について、曽田社長は、ひとつの事業領域に固執せず幅広くアメーバ状に広げたい、と語る。油吸着材以外のほとんどの製品はパートナー企業と組んでやっている。そのわけを聞いた。

「自社だけでやれば儲けは大きいですが、自分たちの技術が、必要とされているところへいかに早く供給できるか、そのスピードが重要だと思っています。」


様々な企業と提携することで技術が広がり、より多くの人の生活改善に貢献することが期待できる、と考えているのだ。

また、曽田氏が最も大切にしているものがある。それが「大義」だ。日本はベンチャー企業が育ちにくい。ナノファイバーのように研究開発に多大なコストと時間を要しブランド力がものを言う分野は、ベンチャー向きではない。


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「そんな中で我々が生き残っているのは、大義がしっかりしていたからだと思っています。それに共感してついてきてくれる会社がある。そこの理念は崩したくないので、これからも大義を貫いていきたいですね。」


取引も金額ではなく同じ意識を共有していただけるかで選んでいると曽田氏。それが事業の継続性につながると信じているからだ。最後に後継についての考えを聞いた。


「後継者ですか?それについて考えることはまだあまりないですが、一部の部下には、利益と大義が両立することの重要性を常日頃話しているので、仮に明日私がぽっくりいっても、何とかなると思いますよ(笑)」


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