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夢はエンタメ、AIの力で教習所業界を塗り変えること
見えている未来にむけ、大変革のかじを切り続ける
ミナミホールディングス株式会社 代表取締役社長 江上 喜朗氏

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1956年に祖父が福岡で創業した南福岡自動車学校、通称ミナミは、九州でダントツの入校者数を誇る自動車教習所だった。しかし少子化の波を受け、90年代をピークに右肩下がりの売り上げが続いていた。その事業を30歳で引き継いだ江上喜朗氏は、人が驚くような経営の“変身”を自ら仕掛け、既存の教習所運営はもちろん、新しい事業を次々に立ち上げては、軌道に乗せている。「ポジションが人を育てる」が信条の3代目社長が手掛ける経営改革や人創りの極意を聞いてみた。

教育のエンタメ化とコーチング教習が
新しいビジネス価値を生み出した

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現在のミナミホールディングスの主な事業は、やはり自動車学校の運営である。しかしその講習方法や運転教習は、生徒を楽しませようというサービス精神に溢れている。

「どうせ免許を取るなら楽しい時間にして、この教習所に来てよかったと思ってもらえる学校にしたかったのです。自分の原体験からしても大好きな先生の科目ほど成績が上がる。だから教習を面白いと思ってもらえれば、学習意欲が高まるはずだと思いました」

 

10年前、会社を引き継いだ時に感じた社員たちの意欲のなさや、十年一日変化のない教え方を一方的にしてきた教習事業に江上氏は、「このままではいけない」と強い危機感を覚えた

「その時に、自分のやるべき明確なビジョンと正しい方向性がはっきり見えました。体ひとつで会社を建て直すという意思表明のために、まず自分が『かめライダー』に変身して出勤すると宣言したのです」

 

自らを広告塔として宣伝に努める姿に、大半の従業員が会社の将来を憂い、陰口を言いながら辞めていった。

「自分が社員でもきっと辞めますもん。でも会社を変えていきたいと本気で議論して、同じ方向性で頑張ろうと言ってくれる社員が残ってくれた。面白いことをやっていきたいというメッセージに共感する新入社員も入りました」

 

まず手始めに学科や技能教習をエンタメ化しようと動いた。

「学科教習に、クイズ形式で交通ルールを学べる『DON!DON!ドライブ』というCGアニメを制作して導入したり、脳トレ形式のビデオを流したり、運転教習をしようとするとかめライダーから突然指令が来て、その指示通りにドライブする『かめ★ドラ』という路上教習があったりと楽しみながら学べるような工夫を凝らしました」

 

その結果、教習生アンケートの満足度が上がり、口コミでその面白さが広がると2014年まで下がり続けていた業績が、増収増益となり現在も右肩上がりを続けている。

「難しいコンテンツをエンタメ化させて楽しく教わるのが主流になるのは、『うんこドリル』のヒットなどを見ても明らかでした。また1対1で教える教習は、コーチングのセンスが必要なのもわかり切っていました」

 

今では、この経営手法を教えてほしい、『DON!DON!ドライブ』を使いたい、指導員の採用相談にのってほしいという自動車学校からの問い合わせが増え、それに応える形でコンサルティング事業や安全運転教育事業が広がりを見せている

「目の前の壁を一つ乗り越えたら、次につながって、それに懸命に取り組んでいたら、また別の事業へと成長が続いています」

突然の心筋梗塞で緊急手術
家業を継ぎ、静養するはずが…

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「いつかは、会社を継ぐのかなとは思っていました」

しかしその日は、突然やってきた。勤めていた会社の先輩とベンチャー企業を立ち上げた29歳のとき、渋谷の歩道橋を上っていた時に突然気絶してしまった。

「サッカーを続けていたこともあり体力には自信があったので、まさか自分が心筋梗塞にかかっていたとは思いませんでした」

 

倒れたときには病名が特定できず、4件目の病院でトレッドミル心電図検査を行うと、冠動脈が詰まっているのがはっきりとわかった。

「すぐに入院して心臓カテーテル手術を受けました。父が上京し看病してくれましたね」

 

治療はできたが、原因がわからないまま、ストレス度の高いベンチャー経営を諦めて家業の手伝いをすることになった。

「30歳までは、いろいろな経験をしなさいと言ってくれていた父から、ちょうどよいタイミングだと家業を引き継ぎました

 

しかし、江上氏の激しい経営改革路線を見て、父は「会社をつぶす気か」と大反対した。が、逆に株を譲らないなら会社を継がない、辞めると対立して、最後は自分の主張を通し抜いた。

「これから事業承継する方に言いたいのは、親の言うことを信じてはいけないということ。もちろん土台を築いてくれたことには感謝をしなくちゃいけない。でもすごいスピードで時代が変わっている今、ズルズル事業を延命させる親のやり方は断ち切らないと。親の言うことの全く逆をやるくらいじゃないと経営できません

 

だが、たんかを切った以上は成功させなくてはいけない。しかし、従業員の大半が辞めたことで、新しい教習生の申し込みを断らざるを得ず、売り上げは落ち込んだ。

「だからいわんこっちゃない」

面と向かって親や周囲に批判された時には、眠れない夜が続き、髪の毛が抜けた。精神的にだいぶきつい状態が続いた。

「強烈に改革しようと動かしたら、強烈なマイナス効果が出てしまった(笑)」

社員の力を発揮できる組織作り
会社は、場づくりをすればよい

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忘れられないのは、2015年4月1日の朝礼だ。

「新しいビジョンに共感してくれたメンバーが15人入社したんです。それまで何を問いかけても砂漠に水をまいている感じだったのが、面白ければ笑うし、あいさつの声も張るという良い反応が返ってきたんです。これは全然違う!この方向で組織を強くしていけば大丈夫だと手応えを感じました」

 

それをきっかけに、社内の雰囲気がどんどん変化し、「教えるのが好きな人」「プログラミングができる人」「動画を面白く作れる人」「採用が好きな人」など、得意なもの、やりたいことに自分の腕が発揮できる組織に変えていった。

「好きで楽しいことだから、自然とよい仕事をしてくれる。会社はその人の長所を最大化する場を作ればよいのです。そうすれば人のパフォーマンスは最大化します」

 

若い先生の教習する姿を見ていて、ドローン教習を思いついた。

「この人たち、教える技術が上手いから、なんでも教えられるなあと思って。学校の空き空間を利用して、ドローン教室を始めました。これからもっとニーズがあると思います」

 

今や日本だけではなく、社員の活躍の場は海外にまで広がっている。

「カンボジアやウガンダに自動車学校を開校しました。そこで日本語学校やハイヤー事業も始まっています。これらは、現地で異文化をものともせずに飛び込んでくれた社員のおかげです」

技能教習のAI化を全国に広め
業界の常識を塗り替える

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学科教習を変えてきた自負があるので、次は技能教習のAI化を目指している。

「指導員が隣に乗らなくてもしっかり教習ができるシステムを開発中です」

この仕組みを全国にリースして、教習所業界の常識を全部塗り替えたい。

「ほぼ完成しているんですが、法律改正が必要になってくるのでそれが重い課題です」

 

これも自動運転を実験する大学教授に学校を貸したことから、新規事業のアイデアが生まれた。

良い人に出会う運にとても恵まれているんですよ。そんな時は、生煮えで粗いアイデアでもいいから、思ったら口に出して、その人に言ってみることですね。そうすれば、きっとアドバイスや助けをくれますよ」

 

技術と技術の掛け合わせで決まっている未来があると考えている。今のところAIについては自分がいちばん会社でわかっているつもりだ。

「頭のいい研究者と議論したりすると、俺ってアホだなってへこみますけど、いつでも案件のボールは自分で持っていたいなとは思っています」

 

現状を変革することを考えたり、手掛けているときが一番ワクワクするし、モチベーションが上がる。

「エンタメとAIの力で業界を塗り替えようと考え始めると寝ずにずっと仕事できますよ」

 

自分のことを鈍感で人でなしだから経営改革ができたのだと自嘲する。親の顔色をうかがっていては、時代に取り残されるばかりだと。

 

だがキャッシュフローの心配をしなくてもよい今の状況を作ってくれた父には、やはり恩義を感じている。が、大きくぶつかって以来、あまり会話をすることもなくなった。

「最近、それが自分の次の課題だなと考えています。あまりに感情的になりすぎていたかもしれません」

次に手掛ける改革は、AIの力が及ばない自分の気持ちの変革なのかもしれない。


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