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事業継続と生命保険活用戦略後継者の属性と「税務・法務」から見た万全の備え

  • 税制・財務
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この記事は6分で読めます

本記事は、事業承継および相続関連を専門とする、税理士法人レディング代表税理士・木下勇人氏が、2025年12月時点の最新の税制や実務に基づき執筆したものです。

中小企業の事業継続(BCP)と事業承継対策は、単なる資金繰りの問題ではなく、非上場株式の「適正な評価」と「円滑な移転」という税務・法務の論点と密接に結びついています。経営者に万が一の事態が発生した場合、事業の根幹を揺るがすのは、「相続税の納税資金不足」と「株式分散による経営の不安定化」です。
特に、経営者ご自身が連帯保証人となっている銀行借入金(個人保証リスク)や、事業ノウハウの集中(キーパーソンリスク)に対し、法人向け生命保険は、保障によって確実に資金を準備できるうえ、税務上の特徴を活かすことで、事業計画に役立つ有効な選択肢となりえます。
本稿では、相続・事業承継対策の専門家として、後継者の属性に応じた生命保険の具体的な活用スキーム(下記、図表1参照)と、その税務上の位置づけを解説いたします。

1 経営者不在による「事業中断リスク」の税務・法務的本質

経営者に万が一の事態が発生した場合、事業は即座に以下の複合的なリスクに直面します。これらはすべて、後継体制への移行を困難にする深刻な課題です。

  1. 資金繰りの硬直化と個人保証リスク
    経営者(被相続人)の相続発生に伴い経営者が金融機関に対して負う個人保証(連帯保証債務)は相続人に相続されます。この個人保証を解除するためには、多額の保証解除資金や担保の差し替えが必要となり、事業資金とは別に緊急資金が必要となります。
  2. 非上場株式の評価と納税資金不足
    自社株は相続財産評価額が高額になりやすく、その大半が現金化できない絵に描いた餅であるため、多額の相続税納税資金が不足します。この納税期限は原則として10ヶ月以内と短期間です。2024年11月の会計検査院からの指摘により、自社株評価が上昇する税制改正リスクが残りますので、注意が必要です。
  3. 経営権の分散(ガバナンスの危機)
    経営者が保有していた自社株は相続財産となり、複数の相続人間で遺産分割の対象となります。株式が分散すると、後継者による迅速な意思決定ができなくなり、結果的に事業運営が停滞します。

生命保険は、この「緊急資金需要」「納税資金需要」「株式集中」という税務・法務の核心的課題に対し、非課税枠(相続税)や事業保障のしくみを活用しつつ、最速で現金を供給する役割を果たします。

2 親族内承継における生命保険の具体的な活用スキーム

家族が後継者となる場合、後継者が自社株を集中して取得しつつ、相続税の納税、及び、他の相続人との間の円満な遺産分割とが最大の焦点となります。

必要な準備の焦点

  • 相続税の納税資金
    評価額が高額になりやすい自社株や事業用資産にかかる相続税を、事業を承継する後継者が確実に納税するための現金が必要です。
  • 自社株の代償分割資金
    後継者が自社株を集中取得する代わりに、他の非後継者である妻やその他の子に対して支払う代償金(現金)を準備します。特に遺留分侵害額請求に備え、現金を準備することが必須です。特に自社株については、相続税における評価額よりも、遺留分計算における評価額の方が高くなるリスクがありますので注意が必要です。

事業継続のための生命保険活用

リスク 契約形態 契約者・保険料負担者 被保険者 保険金受取人
相続リスク 個人 経営者 経営者 相続人
(後継者)
退職金・弔慰金リスク 法人 法人 経営者 法人
自社株
借入金・運転資金

1. 相続リスク

このような契約形態の生命保険では、相続税の非課税枠(500万円×法定相続人数)を活用した現金を確保することが可能となります。また、このような形態の生命保険金(死亡保険金)は受取人固有の財産として、遺産分割や遺留分の対象から除外されます(1965年2月2日最高裁判決)。そのため、非課税枠以上の生命保険に加入することも検討の余地が残ります。ただし、このような契約形態において重要なのは、受取人を事業後継者にしておくことになります。なぜならば、資金が必要なのは事業後継者となるためです。

2. 退職金・弔慰金リスク

経営者の相続発生に伴い法人が受け取った保険金で、経営者への退職金・弔慰金を支払い、法人の損金(役員退職慰労金)として処理します。手厚い退職金原資を確保しつつ、その一部を後継者の納税原資として活用します。ここで注意が必要なのは、死亡退職金の受取人を後継者にできるよう、社内の役員退職慰労金規程における該当条項を修正しておくことになります。

3. 自社株

後継者が相続する自社株を買い取るための財源確保としても利用できます。後継者は死亡保険金の受取人として設定しておくべきことは解説済みですが、自社株評価が高騰していれば、相続税の納税資金や自社株の代償分割資金が不足する可能性が非常に高くなります。そこで、相続した自社株を会社に買い取ってもらう手法(自己株式(金庫株)の取得)により、相続後に現金を手にすることができます。

4. 借入金・運転資金

上記3とは別に、借入金返済や運転資金確保のため、事業継続(BCP)の観点から法人保険を締結しておく必要があります。経営者に相続が発生する場合、上記2の死亡退職金を先に思い浮かべてしまうかもしれませんが、事業継続(BCP)の観点からは、優先順位として法人に入る保険金はこちらの用途が先んじることはしっかりと認識しておきましょう。

3 生命保険が力を発揮する具体的な税務・財務的場面

生命保険は、事業承継のゴールだけでなく、その準備期間中やその他の経営リスク対策においても、税務的な役割を果たします。

税務的役割

活用場面 役割と税務・財務的使途
個人保証の解除・解消資金 経営者死亡時の保険金を借入金の一括返済に充てることで、個人保証を確実に解除し、新経営陣の財務的負担を軽減します。金融機関との信用関係維持に不可欠です。
緊急運転資金・損益補填 経営者不在による売上減少や事業混乱期における固定費を賄う「繋ぎ資金」。保険金は益金(収益)計上されますが、同時に発生する事業損失の損金と相殺し、納税額を安定させる効果も期待できます。
役員退職慰労金・弔慰金の準備 功労ある経営者への退職金・弔慰金として保険金を充当。弔慰金には相続税の非課税枠(業務上の死亡:給与の3年分、業務外の死亡:給与の半年分)があり、節税しながら現金を遺族に残すことが可能です。保険料の処理によっては損金算入も可能です。

4 生命保険は「事業承継における戦略的な現金化ツール」

生命保険の真価は、経営者に万が一のことがあった際に、貴社が直面する最大の課題(相続税、代償金、株式買取)に対して、最も税効率の高い方法で、必要なタイミングで、確実に現金を供給する点にあります。
生命保険を組み込むことで、親族承継では遺留分対策と円滑な納税を、実現するための強固な財務基盤が築かれます。
事業継続計画(BCP)と、後継者の属性、そして最新の税制を踏まえた最適な保険活用戦略について、具体的なシミュレーションとプランニングを通じて、貴社の永続的な発展を共に確かなものにしていきましょう。

木下勇人氏

【著者】

木下 勇人(きのした ゆうと)

税理士法人レディング代表税理士 事業承継・生前対策(法人)担当


南山大学経営学部卒業。2003年から監査法人トーマツ名古屋事務所に入所後、2008年公認会計士、税理士登録。同年公認会計士木下事務所(現 木下勇人公認会計士事務所)、木下勇人税理士事務所を開設。2009年名古屋にて税理士法人レディングを設立し、代表税理士に就任。2019年東京事務所開設、2021年つくば事務所開設。

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