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事業承継

社員のため、女性のため、そして静岡のため絆を紡ぐ
株式会社山崎製作所 代表取締役 山崎 かおり 氏

  • 女性経営者
  • 後継者
  • 地方創生

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精密板金加工の町工場を創業社長である父から、娘である山崎かおり氏が事業承継して11年が経つ。一度は倒産の危機にあった山崎製作所を多角的に進化させた原動力は、板金の現場も営業も会社経営の経験もないのに、「絶対に会社をつぶさない」と誓ったその一念にある。山崎氏は、医療機器製造を柱に、自社製品開発に取り組む「三代目板金屋」を率いて有名ブランドと協業したり、女性経営者を支援する団体「A・NE・GO」を立ち上げたりされてきた。その視線は自社の事業だけではなく、その先を見つめていた。

「会社をもっていかれてしまう」
その父のさみしさに気がつけなかった

1967年創業の山崎製作所はリーマンショックのころ、そのあおりを受けて売り上げが激減し、雇用調整金や特別融資などを利用してなんとか操業を続けていた。当時の社長である父親は体調が思わしくなく、会社に週に一度顔を出すかどうかという状態だった。

 

「私が18年間経理を見てきましたから、父がそろそろ会社を畳もうと思っているのは肌で感じていました。でも小さいころから親しんできた職人さんの生活を守りたいという気持ちが沸いてきたんです。だから本当はやりたくはなかったけれど、この赤字の会社を守るのは私しかいない。ここで私がやめたら会社は終わってしまうと思い定め、継がせてほしいと切り出しました」

 

最初は山崎氏の申し出を喜んでいた父だったが、「女にできる業界じゃない。俺の代で終わらせる」と言いはじめた。そして「俺の会社だ。好きにはさせない」とすったもんだが始まった。そうなると父と娘はお互いに意地になり、言い争いが絶えない日々が続いた。

 

「そんな時に経営者の会合で知り合った父と同じ年くらいの社長さんが、ふと会社を訪ねてきてくれたんです。思わず泣き崩れてしまいました」

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その人は「お父さんの気持ちがわかるかい?」と諭してくれた。「いくら実の娘でも、創業者のお父さんからしたら会社を持っていかれてしまうさみしさがある。とにかくさみしいものなんだよ」と。

 

「それからは、父の気持ちもわかろうと努めて話すようになりました。するとそのうちに、だんだんと打ち解けられたのです。やはり私も慢心していましたね。私が会社をやってあげるのよって。だから気がついた自分が変わるしかないと悟りました」

 

創業社長がワンマン経営者だったことも幸いして、古くからの職人さんたちは、娘である2代目社長に反目することなく、「仕方ないね」と言いながらついてきてくれた。そして、いよいよ工場の大改革が始まった。

作業工程を見直し、2年でV字回復
風土改革も手掛け、自社製品の製造販売へ

まずは、外部の専門家や金融機関などあらゆる力を借りて作業工程の分析をし、社員全員から聞き取りを行った。そこから見えてきたのは、累積赤字の遠因である無駄の多い工程やどんぶり勘定の取引内容などだった。

 

「現場の意見を大事にしなくてはと考えていました。熟練さんを大事にし、社長や幹部だけで方針決定したり、上からものを言うことは、絶対にしないと決めました。分析結果を見ながらみんなで相談し、了解を得ながら、どうしていくのが一番よいかを考えた中で工程を大改革するという案も生まれ、全員が納得しながら進めていきました」

 

社長になって初めての大きな決断、借入れをしたのもこの時だ。

「行政の外郭団体の方が、赤字の会社が新しい機械を導入する必要性と熱意を聞いてくれ、審査を通してくれました。でも借金するのは最初は怖くて、眠れない日々が続きました。もともと経理担当ですし、借金が嫌いなタイプですから」

しかし、分析をした結果「うちの会社は、ここで借入れをしてでも改革をしなければ、後がない」と覚悟が定まった。後ろを見ながら仕事はできない。絶対に成功させてやると。

 

幸いなことに2年後には黒字転換を果たすことが出来た。

「今まで、どれだけ工程の無駄が多い工場だったのか(笑)!」

もうひとつよかったのは、取引先が広がったことだ。

「もともと父の代に、売り上げの8割を占める大口の取引先が倒産し、会社業態を変えました。小ロット多品種の取引を始め、さまざまなお客様とのお付き合いができ、工程を変えたことで、さらに広がりを見せたのです」

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営業場面では、経験の浅さからとんでもない仕事を受注して、現場の職人さんたちに多大なる迷惑をかけるという失敗もした。

「そのころ、ちょうどホームページを開設し、そこで社長ブログを立ち上げたんです。自分の素直な気持ちを素人目線で書いていったところ、ブログやホームページを見たお客さまから新規の仕事依頼がくるようになったのです。そこで、新しい営業方法として情報発信に力を入れていきました」

 

情報を発信することで、営業開拓が出来るという一つの鉱脈を見つけたのだ。そして東京の展示会に出品する中で、自社開発のインテリアやアクセサリーを製造販売する「三代目板金屋」のプロジェクトが誕生していった。

熟練工の技術と最新デザインの相乗効果で
高品質と評価される「かんざし」が誕生

「三代目板金屋」を始めるにあたっては女性採用を増やし、新商品開発の糸口を探るために、女性の暮らし方や価値観を研究するところから取り組んだ。その過程で板金屋のルーツを遡ってみると、彫金職人のかんざしづくりにいきあたる。

 

「金属の塊を火に当て、柔らかくし、たたいて削って成型をする。これを現代の板金技術で作ってみようと思いました」

 

おしゃれが好きで、買い物が好きな女性たちに選ばれるデザインと品質、そして手触りの良い本物のかんざしを求めて、女性メンバーと職人たちが何回もやりとりを重ねていった。

「他のかんざしにない価値にこだわり、曲線が美しく、輝きの変わらない“一生もの”のかんざしを作りました」

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展示会では、世界的ブランドとの協業や東京の百貨店での販路が開かれた。

「誰もが知るブランドと組んだり、丁寧な商品作りをしていくことで、商品を購入していただいたお客さまから直接お手紙やメールで感謝の言葉が届くようになりました。これをみんなに共有すると、やはりとてもうれしいのだと思います。また楽しくやりがいを持って、良い商品づくりに取り組んでくれています」

 

メディアでも取り上げられるようになり、それを見た家族や親せきから「すごいね」と声を掛けられる。それが黙々と仕事をする職人たちもうれしかったようだ。

今まで縁の下の力持ちだった人たちにも光があたって、本当によかったと思います」

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「三代目板金屋」https://www.bankin-ya.jp/

 

「三代目板金屋」が手掛けるかんざしは、毎日使っても輝きはそのまま。最後の仕上げ加工は手触りを左右するので、特にこだわっている。

女性経営者の悩みは、先輩が解決!
前進あるのみと背中を押す

2020年4月、静岡県内の女性の事業承継や起業を支援するための経営者団体「A・NE・GO」が設立された。その代表を務めるのが山崎氏だ。

 

「工場の人材が育ってきてくれて最近かなり対外的な仕事ができるようになってきました。また、多くの方からこんな人がいるから相談に乗ってやってほしい、会ってやってくれというお話を頂くのですが、そういう方向けに専門的な窓口が必要だと考えていました」

 

経営者というとまだまだ男性が多い中、「A・NE・GO」は事業承継を体験したさまざまな業種の女性社長や自ら起業した女性経営者が集っている。同じ境遇の女性経営者や事業承継者が気軽に相談したり、情報交換できる場所だ。

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静岡県女性経営者団体「A・NE・GO」 https://anego-shizuoka.com/

「今思えばなんていう事はないのですが、私も事業を引き継いだばかりの時は、経営者の会合に子どもの世話をしていて遅れて怒られたり、その後の懇親会に最後まで付き合わないから人脈が広がらないのかと落ち込んだり、自分を卑下していました」

 

女性には女性ならではの経営の悩みや、家事や育児とのせめぎあいなど多くの問題が横たわる。が、それを誰に相談したらいいのかさえわからない。これからは、女性経営者がそんな無駄なことで悩まないですむようにしたいという。

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「周りは男性社長がほとんどで、みんなすごく立派に見えるんですよ。でもね、私は途中から開き直ったの。前進しながら、強い経営者になればいいんです。最初から強い人なんていません。そうすれば女性だからこその経営ができる日がくる。だからそんなに悩まなくても大丈夫

 

山崎製作所はコロナ禍で、新工場建設の契約をすんでのところで撤回した。新工場は静岡県の産業の発信拠点にと考えていた。

「判断に迷ったら、厳しい意見を聞こうと決めています。私にとってはそれが顧問税理士の先生。今回も悩んで飛び込んだら、やめとけ、もうちょっと待てと言われ、やめました」

 

ここで立ち止まる山崎氏ではない。IT会社と組み静岡県全体の産業を盛り上げるためのECモール「しずパレ」立ち上げに舵を切りなおした。

 

「静岡にはお茶だけでなく、日本一の特産品がたくさんあります。バラの花、水産加工品、医療関係機器、あげればきりがない。ありすぎて今まではぼやけてしまったけれども、全体をブランディングしなおして、全国に静岡を売っていこうと考えています」

 

民間を集結してECサイトを通じて静岡の名品をお客さまに届けようと考えている。各方面に声がけをしたところ、賛同の声や一緒にやりたいという企業が次々に集まっているという。保守的と言われる静岡の産業の山を動かすのは、山崎氏をはじめとする女性たちの視点と粘り強さなのかもしれない。





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