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経営のヒント

「鍵はスマート農業」

もりやま園株式会社 代表取締役 森山聡彦氏(下)


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テキカカシードル誕生

シードルとはいわずとしれたサイダーの語源。フランス語がシードル(Cidre)で英語だとサイダー(Cider)だ。同じものだが、明治時代に日本に入ってきたアルコール飲料であるシードルが、いつしか日本では炭酸飲料のサイダーとして広まったというわけだ。

 

森山氏が目を付けたのは「摘果で間引かれる未成熟果(テキカカ)」だ。これまでただ廃棄されていた。(「テキカカ」はもりやま園株式会社が商標登録した、摘果した果実を表す造語)

法人設立2年前、2013年の10月のこと、森山氏はフランスのシードル街道を見学する機会に恵まれた。現地の農園を訪れて驚いた。なんと摘果りんごくらいの小さな青いりんごをシードルにしているではないか。しかも、渋くて苦くて甘くもなく、とてもこのまま食べられたものではなかった。

写真)摘果されたりんごの未成熟果(テキカカ)

森山氏提供)

「それまで渋くて苦い摘果りんごがシードルの原料になるとは思いもしませんでしたが、実はおいしいシードルを作る要件をほぼかね備えていることを確信したんです」。

 

摘果りんごはタンニンを多く含む。そのため、本場のシードルの苦味、渋み、酸味を再現してくれることがわかった。これまで他社のシードルは成熟した実で作られてきたため、甘めで渋みとは無縁だった。

 

これこそ大人の味だ!そう思った森山氏は、摘果りんごを原料とした「テキカカシードル」で、弘前市商工会青年部のビジネスアイデアコンテストで準グランプリを獲得。前年の「リンゴ農家のためのクラウドシステム(Adam)」に引き続き、2年連続で準グランプリ受賞となった。

 

その後、さまざまな補助金と融資を活用し、およそ1億円の資金を調達、2017年10月にテキカカシードル工場が完成、2018年2月1日、「テキカカシードル」をお披露目し、全国発売を開始した。

 

今では当たり前になったが、当時の国産クラフトシードルといえば緑色や透明のシャンパンボトルを使っていた。あえて茶色の330mlのクラフトビール瓶を選んだのは、米国オレゴン州・ポートランドで人気のハードサイダーに習い、食事に合うビールの代替飲料をアピールしてのことだ。

 

当時まだシードルすら認知されていない日本で、シードルのコンセプトを打ち出すのは、やや時代を先取りしすぎていた。そのため初年度は顧客開拓に苦戦したが、次第に全国メディアにも取り上げられるようになり、2年目からはあらゆる賞を総なめにした。

 

【2019年 ジャパンシードルアワード2019 日本部門 大賞】受賞

【2020年 第21回全国果樹技術・経営コンクール】農林水産大臣賞受賞

【料理王国100選 2021年版】認定

【2022年 経済産業省DXセレクション】審査員特別賞受賞

【2023年5月発行 NIKKEIプラス1なんでもランキング】サンドイッチに合う国産シードル第1位

 

「今までこういう味わいのシードルはありませんでした。甘くなくて食事に合い、飲みやすい。ビールが苦手な人でも飲んでもらえるものになりました」。

 

ハードリカーが敬遠される中、さわやかなフレーバーのシードルの需要がバーなどに広がっているという。

写真)テキカカシードル 6種類飲み比べセット

2019年にはノンアルコールのアップルソーダも追加。その後次々と新フレーバーをリリースし、テキカカシリーズのラインナップは7種類にまで増えた。今や年間売上高は昨年度で3,000万円を超えた。今期は4,200万円を目標にしている。5,000万円を超えたら、第2工場の建設も見据えなくてはならない。その時期はそう遠くなさそうだ。

 

「(摘果りんごという)今まで価値がゼロだったものが、売り上げとして立つようになったので、すごく助かりますね」。

 

まさに企業理念②「マイナスをプラスにする」が実現したわけだ。

スマート農業

森山氏は無駄な作業を省くことで労働生産性を上げた。摘果など間引いて地面に落とすだけでは利益を生まない作業を収穫行為に転換し、労働生産性を向上させた。

 

そして、さらに機械化を積極的に進めている。

 

ひとつは「光センサー付き連続選果機」の導入だ。2つのセンサーが、色味、サイズ、糖度、褐変(内部障害)、蜜入り(熟度がすすみ甘味成分が果肉に蓄積された状態)などのデータを総合判定するという優れモノだ。

 

今まで正社員でも難しかった選果作業が、アルバイトでもできるようになり、お客さんに対して、品種別にどんな等級とサイズのりんごが、どのくらいの在庫があり、どのぐらいのリードタイムで納品できるか、提案できるようになった。これが大きかった。

光センサー付き連続選果機

森山氏提供)


「それからですよ。1年目で売り上げが倍、2年目で売り上げ3倍になりました。それまで本業の生果売り上げが年1600万円ぐらいだったものが今や4000万円ですから」。

 

自動選果機導入は果樹の法人経営では必須と言えるほど画期的な効果をもたらした。

 

次に導入したのは「無人草刈りロボット」だ。自律走行しながら雑草を刈る。ロボット掃除機のように、電池が切れそうになったら自動的に充電器に戻る。

 

現在、4台稼働し、農園全体の2割程度、2.1ヘクタールの面積を刈っているが、年内に8台に増やし、全体の半分近くの4ヘクタールに広げるという。また積雪期間以外は24時間稼働させることで、木の幹を食害し枯死させる野ネズミを物理的に排除する効果も得られ、まさに一石二鳥だ。

 

これまでの取り組みで労働生産性を2倍にまで引き上げることに成功した。しかし目標は3倍以上、まだまだ不十分だ。

高密植栽培

森山氏が今取り組んでいるのは、「高密植栽培」。下の写真を見ていただこう。なにやら細いポールが約1メートル間隔で立っており、リンゴの木が植えられている。潅水は地中に埋めてあるパイプと、ポールとポールの間に這わせたパイプから供給される仕組みだ。

従来の約10倍の密度で木を植えるこの栽培方法は、光利用効率が増すため、面積当たり収量が4~5倍に増えるという。何よりも一人前になるのに10年かかるといわれる整枝剪定技術が不要になる。

 

一方、4月頃に出芽を促進するため芽傷をつけたり、伸びた枝を下垂誘引したりする作業が必要だが、それはアルバイトでもできる。そして、ヨーロッパなどで実用化されているコンベアー付き自走高所収穫作業機の導入に最も適している。

 

これにより手作業では避けられなかった押し傷やはしごの昇り降り、手かごとコンテナ運搬から脱却できる。機械メーカーによると収穫効率は手作業の2.2倍になるという。森山氏はこれらが整備されると労働生産性3倍以上の目標は達成可能と目論んでいる。

 

一方、高密植栽培用の木は根の張りが浅く幹が細いため、強風などに弱い。そのため、ポールとワイヤーで支えねばならない。さらに初期投資がかさむことも課題となっている。

年間1,000億円産業を守れ

森山氏がより効率的なりんご作りにチャレンジする背景には、年約1,000億円と言われる青森県内のりんご産業の将来に対する危機感がある。

 

「1,000億円産業を支えている年齢層が75歳以上の後期高齢者で、ほとんど後継者がいません。放置すると県内の加工業や梱包資材を製造する2次産業、流通、販売、輸送を営む3次産業にまで波及し、青森県全体の暮らしを先細りにさせてしまうのです」。

森山氏はそれを阻止し、廃業農家の受け皿となれるよう規模拡大に備えなければならないと説く。

「労働生産性を3、4倍に改善して、正社員の平均年収400万円以上を確保できる経営モデルを確立し、規模を拡大しなければなりません。高齢化のスピードに負けないぐらいの速さで会社を成長させなければと思っています」。

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これまで自己資金と補助金と融資だけで会社を維持してきた森山氏。しかし、今後は従来と桁が違う資金調達が必要だという。

 

「誰にでも堂々と見せられる収支計算書を作ることと、社員一人ひとりに気を配り、いきいきと仕事ができる労働環境を整えることが、スポンサーになってくれる人への一番の説得材料になると考えています」。

事業経営のリスクと承継

森山氏はまだ51歳。働き盛りだ。実は今年1月、体調を少し崩したことがあった。大したことはなかったが、思うところがあった。

 

「万が一の時に次の代表が決まるまで誰に代行頼むか、そういうことを決めとかないとダメな年齢になったな、と実感しています。いつまでも40代と違いますもんね」。

 

会社では法定の労災保険の他にも、火災保険、収入保険、自動車共済、生産物賠償責任保険など一通りは入っている。社長個人の生命保険も。

 

「一番の保険は資産形成だと思っています。例えば不動産とかですね」。

 

一方自身の事業承継については。長男は今中学3年生。

 

「息子も(家の仕事を)やらなきゃだめだと思っているのだろうなとは思いますが、あんまり縛りたくはないですね。やりたいことがあればやっていいよと言いたいのですが」と話す。

 

自身もお父さんお母さんの背中を見て育ち、いまこうして農業イノベーションのど真ん中にいる。自分の息子がその夢を継いでくれるのを一番望んでいるのは森山氏自身かもしれない。

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