制度を活用する企業が急増!企業版「ふるさと納税」のしくみとメリット
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山口県下関市で40年にわたりタクシー事業を営む山口第一交通グループで代表を務める坂田敬次郎氏は、デジタルを活用して乗合タクシー配車を手軽にできるシステムを作ろうと、2018年IT会社を設立した。地方だからこそ生まれるタクシー事業の新たな収益のアイデアを次々と形にし、顕在化する課題を解決しようとしている。その新規事業が生まれる背景を聞いてみた。
タクシー業界は、市場規模が半減し、乗務員が平均年齢60歳以上となり減り続けるという大きな課題を抱えている。その反面、乗合タクシーの利用率は急激に伸びている。その成長性に着目した坂田氏は、テクノロジーの力でもっと手軽に乗合タクシーを使ってもらおうとシステム開発に着手した。
「地方では赤字路線バスの撤退が続き、住民の足として小回りの利く乗合タクシーの利用が増えています」
しかし、その運用には多くの手間がかかっていた。
「前日の夕方までに電話で受けた複数のお客さまの行き先を、夜になって残っているメンバーでルート策定を考え、地図に書き込み、翌朝乗務員に紙で渡して配車していました。人の手でやるので、効率が悪く残業代がかさみ、採算が取れませんでした」
そこでこの予約、ルート策定、配車、ルート地図の配信といった一連の作業をシステム化することを考えた。大企業が作った同じようなシステムはあったが、利用料金が高くて自社だけではとても負担できない。
「地方の乗合タクシーは必要不可欠なインフラになると確信していましたし、今後タクシー市場を大きくするためにも乗合サービスは必須なので、小さい会社でも使えるシステムを作って外販しようと思いました」
こうして開発したAI乗合乗車システム「Noruuu」(ノル―)は、利用者の予約情報をAIがリアルタイムに自動計算し、最適なルートを判断して配車を行えるシステムだ。
「2019年から見よう見まねで開発を始めたのですが、最初は手探り状態でした。プロトタイプを乗務員に使ってもらって、使い勝手などの意見をフィードバックしながら作り上げていきました」
今では、山口県が行う「観光型MaaS事業」のアプリ開発も受託し、複数の移動手段を最適に組み合わせ、検索から予約、決済までを一括で行えるアプリ開発も行っている。
「誰でも気軽に外出したり、移動できる世の中にしたいのです。地方の足として、観光振興の一翼として、企業の送迎の足として利用してくれたらうれしいです」
坂田氏は大学卒業後、東京のコンサルティング会社に就職した。
「いつかは山口に戻って会社を引き継ごうと思っていましたので、逆算してどういう職種がいいのかを考え、中小企業向けに経営コンサルティングを行う会社を選びました」
その後ファンド系のコンサルティング会社で仕事をしていたころ、東京で郷里の同級生から言われた一言が背中を押した。
「早く会社を辞めて、昔のように破天荒に新しいことに取り組め。そのために経営者になれと強く言われ、30歳も超えたことだし家業に戻ろうと決意しました」
そう後押しをしたのは、大手ベンダーに勤めるSEの毛利有貴氏だった。その彼を口説き落として入社させ、家業に戻ると同時に株式会社REAというシステム会社を立ち上げてしまった。
「優秀な開発者を確保するためにREAは東京で立ち上げました。でもAI乗合乗車システムを開発するのだけが目的ではなく、交通事業者むけの業務改善をテクノロジーで実現する会社にしようと考えました」
AI乗合乗車システム「Noruuu」を開発して、タクシー事業全体の売り上げを上げていきながら、これを横展開し、交通事業者の悩みを解決する新しい事業として独り立ちさせたいと考えた。
「地方のタクシー会社の抱える問題は共通していますから、このソフトウエアを広く販売することで、新しいタクシー事業の成功モデルを全国に広められます。そしてその先の問題解決も請け負い、グループ全体で大きく成長したいと思ったのです」
本格的に家業に戻るまえにも、山口第一交通の定例会議に出席したり、タクシー業務の現場を見に行ったりもしていた。
「このままでは会社の成長に限りがあるし、何か新しいことをやらねばと漠然と考えていました」
母親が社長を務める会社に専務取締役として入ったはいいが、少しは理解しているつもりだったタクシー業界が全く違うものだと気が付くのに時間はかからなかった。
「頭で知っているのと、自分で経験してみるのでは雲泥の差がありました。そんな状態で、乗務員や従業員からきちんと信頼を得るのは大変なことだと痛感しました」
そこで2019年、自ら二種免許を取得してタクシー運転手として乗務をしてみた。
「そこで一気に従業員との距離が縮まり、この専務大丈夫なのかなというみんなの不安感が払しょくされたように思います」
自分の中でも何かが吹っ切れた瞬間だったという。
「ドライバーをやってみて、こんなに人に感謝をされる仕事ってほかになかなか、ないと思いました」
地方の高齢化は進み、免許を返納したお年寄りがタクシーを生活の足として使っている現実を目の当たりにした。
「ドアtoドアのタクシーでないと生活できない人にとって、タクシーは生活必需品なのです。だから心からありがとうって言ってくれる」
このようにして坂田氏は自分がやろうとしている方向性を社員にきちんと共感してもらいながら、2021年1月、代表取締役に就任しグループ事業を全面的に引き継いだ。
AI乗合乗車システム「Noruuu」は、日本経済新聞社主催『スタ★アトピッチJAPAN』第3回の中国四国ブロックでエヌエヌ生命賞を受賞し、決勝大会にまで進んだ。
「今、拠点が9つあるので年始にまわり切れず、1年間の方針発表を映像にして配信しています。それを見た金融機関の方が共感して、あのピッチに推薦してくれたのです」
坂田氏は今、もう一つ先の未来を見据えて新たな事業に取り組んでいる。
「もともとバブル期に会社で住居用不動産や商業施設を保有していました。当初はそこに住む人や店舗が呼ぶタクシーはうちの会社になればいいという思いだったと聞いています」
しかし、ドライバーを経験した坂田氏は、タクシー会社ならではの不動産事業の取り組みができると気が付いた。
「不動産事業には、土地や物件の仕入れがつきものです。その仕入れ情報をタクシーの中で得られるのです」
高齢者の方を送迎しているとその方の生活の様子や状況がよくわかるおしゃべりが展開されることがままある。
「来月から施設に入るので自宅を売りたいとか、家を息子に引き渡したんだとかいう通常では知りえない不動産の源流情報を聞くことができるのです」
普通の不動産会社でも知りえないこの情報をいち早くキャッチし、不動産事業者につないだり、物件を取得しよい住宅を建てることができるのだ。
「タクシーと不動産の相乗効果は計り知れない可能性があると考えて力を入れています」
2030年には100億円企業になるのを目指そうと目標を掲げている。
「山口の中小企業でもIPOを目指せるんだというところを見せて、業界にイノベーションを起こしたいですね」
お客さまの声をお聞かせください。
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