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事業承継

「タオルでしあわせを届けたい」
株式会社丹後  丹後 博文 氏、丹後 佳代 氏

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この記事は8分で読めます

愛媛県今治市で5年前に廃業予定だったタオル工場を引き継ぎ、今や自社ブランド「OLSIA(オルシア)」が大手百貨店で常設販売を行うまでに成長した株式会社丹後。

 

不動産業と保険代理店を経営する傍ら、それまで全く経験のなかったタオル工場の経営に挑戦した代表取締役社長の丹後博文氏と妻の丹後佳代氏に話を聞いた。

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廃業寸前のタオル工場を引き継ぐ

愛媛といえばみかん。今治といえばタオル。誰でもそう連想するだろう。今回訪れた株式会社丹後、最初は老舗のタオル会社かと思っていたらまだ創業5年だという。それなのにタオル業界に新風を吹き込む注目株だというのだから、これは話を聞かねば、と一路今治に向かった。

 

社長の博文氏の本業は不動産と保険の販売。父から引き継いだ事業を夫婦で営んでいた。

 

そこに一つの転機が訪れる。取引先のタオル会社の社長がつぶやいた。

 

「後継者もいないし、廃業しようと思っているんだ」

 

何かが博文氏の中ではじけた。未知の領域に挑戦しようという意欲が頭をもたげてきたのだ。

 

「この会社を自分が継ごう!」

 

実はこのタオル会社、かろうじて1社だけ取引先があった。しかし、肝心のその1社は既に離れてしまっていた。普通だったら到底買う決断は出来ない案件だ。

 

「不動産があるうえに従業員がいる状態で引き取って、しかも取引先がない。ゼロからじゃなくてマイナスからのスタートだよ。そんな苦労をする必要はない。やめとき」

 

その社長はそう言った。

 

その時博文氏は思わず口走った。

 

「やります!」と。

 

「私は逆にその社長の優しさに心打たれてしまったのです」

 

妻の佳代さんに聞いてみた。何故、こんな無謀な夫の決断に賛成したのか、と。

 

「ずっと悩んでいるのは側で見ていて分かりましたから・・・。そこまでやりたいのならやってみたらいいじゃない。そう思って賛成しました」

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二人は当時をそう振り返る。

 

今治の伝統産業であるタオル製造はじわじわと衰退しつつあった。敢えて火中の栗を拾ったのは、「地元に恩返ししたい」という強い思いからだったが、その時はどんな未来が待ち受けているか知るよしもなかった。

引き継いでからは苦労の連続

タオル工場の経営はまさにいばらの道だった。半年もの間、仕事が全くない。資金はどんどん流出していく。しかし、7人の職人の生活を支えなければならない。悶々とする日々が続いた。

 

ハンディもあった。引き継いだ会社は業界団体の品質基準に合格した商品のみに与えられる「今治タオルブランド商品認定マーク」を使用することができなかった。

必死に探した取引先は「認定マークがないなら取引はできないよ」とにべもなかった。

 

この逆境が2人の事業欲に火をつけた。よし、やってやろうじゃないか。

 

まず専念したのが新製品の開発だ。2人にとってラッキーだったのは熟練工が辞めないで会社に残ってくれていたことだ。

 

全くのど素人の2人。だからこそ「突拍子もないアイデア」が次々と湧く。それを職人達がなんとか形にしてくれる。そんな試行錯誤が続いた。

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妻の佳代氏も博文氏も、今治生まれ今治育ち。2人とも関西の大学に入り、向こうでたまたま知り合って、地元に帰ってきた。

 

なにしろこの会社、販路がない。営業未経験の佳代氏は、販路開拓のためスーツケースにタオルを詰め込んで、百貨店を回った。始めはほとんど満足に話を聞いてもらえなかった。

 

「バイヤーさんに聞かれるんですよね。『他と何が違うの』と。全く答えることができませんでした」

 

「自分たちのタオルの何が良いのかちゃんと伝えられるようになりたい」

 

そう思い、PRの勉強も始めた。それからの佳代氏の奮闘ぶりがすごかった。

 

まず、ターゲット層を明確にした。子育てに奮闘する30~40代の女性だ。

 

そうと決まったら取材してもらおう!

 

日経ウーマンの「問い合わせ」欄にメールした。

 

するとどうだろう。本当に編集部から連絡が来たのだ。

 

「取材に行きます」

 

「後から(編集者に)『こんなところに取材依頼を送ってくる人はいないですよ』と言われました(笑)」

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まさに無手勝流。何も分からないからこそできたといえる。

 

この取材をきっかけに佳代氏は「日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019」を受賞。そうそうたる他のメンバーと共に株式会社丹後の文字が紙面を飾った。

 

これが他のメディアに知られるきっかけとなった。以来、女性誌だけでなく新聞にも取り上げられ、「OLSIA」の知名度は爆発的に上がっていった。

 

ちなみに、「OLSIA」というブランドには、「しあわせを織りなすタオル」という意味を込めた。

 

気がつけば各地の催事場に引っ張りだこ。今年3月からはついに東京の百貨店でOLSIAの常設販売をスタートさせた。満を持して開発した最高級ラインアップは既に大手企業から引き合いがあるという。取材班も触れてみたが、その手触りはまさに異次元!2人の品質へのこだわりを感ぜずにはいられない。

 

「いくら田舎で良いものを作っていても、それを世の中に発信できなければ誰にも知られぬまま終わってしまう。職人さんたちが持っている技術の素晴らしさを伝えるのが私の仕事です」

タオルを通じて幸せを届けたい

「タオルでしあわせを届けたい」

 

そう語る博文氏と佳代氏。

 

佳代氏は自身の経験から、子育てに奮闘する女性たちを応援したいと強く思っている。

 

「子育てをしているママは働いていないこともあって、お金を使うことを躊躇してしまう。タオルだったら自分のためだけではなく、家族のために買うことができる。それで家族を幸せにできたらママも幸せになれる」

 

まさにママの発想だ。

 

職人たちが手間暇を掛けて織りなす「OLSIA」のタオルはママたちにとって決して安い買い物ではないが、その品質の高さから売り上げは順調だ。

 

「以前、催事場で商品を購入してくださった方が『子どもがOLSIAのタオルを放してくれないのです。自分の分がどうしても欲しくて、家族会議で、追加で買ってもいいよ、ということになりました』と期間中にもう一度足を運んでくれました」

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嬉しそうにそう佳代氏は語った。

 

「今後は『タオルが欲しい』ではなくて、『OLSIAのタオルが欲しい』と言っていただけるブランドに育てたい」

 

タオルを通じた幸せの輪は従業員にも広がっている。

 

それまで社名がメディアで紹介されたり、自分たちのタオルが売られている姿を目にしたりすることはなかった。雑誌にモデルさんがタオルと一緒に写っているページをみて

 

「うちの製品、こんなにカッコよかったんだ!」

 

と驚くやら喜ぶやら。

 

この道40年のベテラン職人さんが、去年の忘年会でつぶやいた一言が忘れられない。

 

「若い新入社員が入ってきて工場がどんどん変わっていく姿を間近で見られた。この5年間、まるでドラマみたいやった。工場を引き継いでくれてありがとう」

今後の展望

廃業寸前から5年間で大きな飛躍を遂げた丹後。博文氏はいつかはと海外にも目を向ける。

 

「今治から幸せのバトンを本州、全国、そして海外にも届けていきたい」

 

2人には、地元の産業に貢献したいという共通の思いがある。

 

「若者がここで働きたいと思う会社になったらなと思います」と佳代氏。

 

博文氏は緊急事態宣言中も、赤字覚悟でタオル工場を動かし続けた。

 

「休業している方が楽でしたが、外注先や縫製屋で働く若い実習生には助成金が出ないので、ここは自分たちが歯を食いしばり赤字覚悟で仕事を続けることで、地域への恩返しになると思いました」

 

「出来ることは限られています。が、1人が2人、2人が3人と風を吹かせることができたら、社会や皆の未来を変えることができるかもしれない。だから自分にできることをしていきたいと考えています」

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事業承継

事業承継については自身の経験から「身内だからということでなく、やりたいと思っている人に承継してほしい」と博文氏は語る。

 

「時間がないなかで必死に仕事に取り組む妻の姿を見て、娘は『タオルやりたい』と言っています。それ自体は嬉しいですが、娘に絶対に継いでと言うつもりはありません」

 

父から不動産業、保険代理店を引き継いで実感したのは信用の大切さだという。

 

「事業を継いでいく中で大変なことはたくさんありましたが、祖父と父が築いてきた信用のおかげで事業が展開していくことがたくさんありました。信用は自分一人の力でどうにかなるものではなく、繋がって連なっていくのだなと今になって感じています」

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保険の役割

父から譲り受けた保険代理店を経営する博文氏は保険についてどう考えているのだろうか。

 

「保険は未来へのパスポート」と博文氏は語る。

 

「ゼロから何かを進める時、リスクがあると及び腰になってしまいますよね。保険というパスポートがあれば、未知の国に行ってみようという気持ちになる。一歩前に進んでみようと思える」。

 

博文氏と佳代氏。今日も前を向いて走り続ける。「OLSIA」ブランドと共に。

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