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事業承継

快適におしゃれを楽しむ気持ちに寄り添い
女性の「困った」を見過ごさない
有限会社 Futaba 代表取締役 荒川 国子 氏

  • 40-50代
  • 九州・沖縄
  • 女性経営者
  • 後継者
  • 地方創生
  • 新規ビジネス

この記事は8分で読めます

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創業72年の老舗美容院の3代目として、佐賀を拠点に美容室やホテル内の美容・貸衣装店などを幅広く手掛けている荒川国子氏。大学院博士課程中にがん患者と出会い、医療用のウイッグ(かつら)を自ら研究、開発することになった。「髪は女の命」。だから髪のことで悲しんだり、不快に感じたり、不満がある女性たちを見過ごせない。すべてはお客さまの「ありがとう」の言葉と笑顔のため、どんな問題も解決しようと人に教えを乞い、会い、動き、海外へ飛び、大企業とも渡り合いながら、皆が快適で安心して笑顔になれる美容院経営の形を追い求め、商品開発を進めてきた。

経理にまったく関わらないまま
経営者になるのが唯一の不安だった

1948年、荒川氏のお母さまを含めた三姉妹が佐賀で創業した美容室は、地域の人々に親しまれて発展。結婚式の貸衣装や美粧、テレビ局のメイクなど、手掛ける事業の範囲がどんどん広くなっていった。

「高校を卒業し、親の美容院で働きながら資格を取りました。進学したい気持ちもありましたが、親が望んだので一生懸命働いていましたね」

 

三姉妹の子どものひとりであるいとこが2代目となり経営を継いだが、美容師の資格をもっていなかったこともあり、2012年に「自分にはもう限界なので3代目をやってほしい」と頼まれた。

「事業承継したときに唯一不安だったのは、お金周りを自分が見なくてはいけなくなったことでした。帳簿も付けたことがないし、自分に経理がわかるのかなと」

わからないことがあったら、わかる人を探して、すぐに会いに行き、教えを乞う。今も変わらない荒川氏の基本姿勢だ。

 

「佐賀は住んでいる人の良さ、情報の取りやすさでは恵まれた土地柄だと思います。商工会議所もすぐ近くにありますし、事業を受け継いだときは中小企業診断士協会に行って、うちの会社の経営は健全なのか、何の経費を削ればよいのかを聞きに行きました。取引先の金融機関など色々なところに相談してはアドバイスをもらい、助けていただきました」

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子育てをしながらも、働くこと
学ぶことをあきらめきれなかった

当時はいとこが会社を経営し、荒川氏はホテル等の婚礼部門を担当していた。自分が38歳、子ども1歳、そして美容を始めて20年経った時に佐賀女子短期大学にメイクコースが新設されたと聞き、もう一度学びたいと通い始めた。

「そこでメイクと福祉の資格を取得しました。花嫁化粧に使用する水化粧の顔色に悩んでいた時に、西洋画における肌色、顔色の美しさに魅了され、その後、研究のために佐賀大学西洋画に編入しました」

 

子どもは、週2日程佐賀市のファミリーサポートママ制度を利用し、保育園のお迎え、食事、入浴をお願いした。それ以外の日は、なかなか時間内にお迎えに行けないこともあった。

「最後まで残っているうちの子を同じ保育園に通う子どものお母さんが一緒に連れて帰ってくれるようになりました。彼女は看護師で介護の会社を経営していました」

 

仕事が終わってから子どもを迎えに行き、食事まで世話をしてくれるような人だった。

「私の親や叔母叔父など毎月1人は救急車で運ばれるような状況になり、親たちの看護、介護、子どもだけでなく私まで家族のようにお世話になっていました」

 

ある日、こんなにお世話になっていながら、実はどうしても勉強がしたくて大学に通っている事、さらに大学院に行き美容を医療ケアに生かすために研究が続けたいと打ち明けた。

 

「彼女も今の仕事をさらに探求していきたいということで、2人で佐賀大学医学部の大学院医学系研究科へ進むことになったのです。私はこれまで本当に回りの方々にサポートされてきました。ですからご恩返しのためにも、もっと人の役に立つことをこれからもしたいと思っています」

 

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この世にない快適なウイッグを
自分の手で作ってみよう 

大学院の修士課程では認知機能低下高齢者への理容・美容行為の効果を研究していた。その後、博士課程中に女性特有のがん患者さんの脱毛について支援しようという気持ちが芽生えてきた。

「髪は女の命だと思います。ですから抗がん剤で脱毛してしまった女性たちに何か支援ができないかと佐賀県のがん患者会に顔を出して聞き取りをすることから始めました」

 

当初は他社ウィッグを使って患者さんの支援を始めたが、既製品がなかなか頭に合わない方もいた。それが合わないとオーダーすることになり、高額で納期もかかる。合わないウイッグにがっかりして帰る背中を見送ることに耐えられなかった。

 

「主人にこぼしたら、『じゃあ、自分で作ったら』と言われて、え?作れるの?ということから開発が始まりました

 

まず県庁を訪ねアドバイスをもらい、中国に飛んで一緒に工場を見て回ったが、なかなか理想とするウイッグを作ってくれる工場が見つからない。4回目の中国訪問でようやく見つかり試行錯誤が始まった。

 

「主人の勧めで、佐賀県地域産業支援センターの中にあるベンチャー交流ネットワークの会員になっていました。そこで、商品のブランディングや知財の大切さを教わりました」

 

ようやく製造にこぎつけたこのウィッグを固定するには、留め金具やノリ、テープ、ネットを被る方法がある。この従来からの方法に患者さんが悩んでいるのを知り、新しい固定方法を開発しようと考えた。

「新しいものつくりに挑戦している企業に出会い、オリジナルのインナーキャップを使用した固定方法を生み出すために、モニターさんの声を聞き、工場に伺い、何度も技術者の方と相談し、独自の編み方で製品を作り上げていきました」

 

ウイッグができインナーキャップが完成し、ほっとひといきと思った矢先、また別の「困った」という声が耳に入ってきた。

「ウイッグがあれば安心して患者さんが過ごせると思っていたのですが、ウイッグをつけない時にかぶる帽子の縫い目が痛いというのです」

 

今度は蒸れない、ずれない、痛くない帽子「TWO-LEAFキャップ」の開発に取り組むことになった。

「これは患者さんへ向けた美容師からのエールだと思っています」 

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病気の副作用で脱毛しても
脱毛前と同じ生活をして欲しい

がん患者さんのウィッグや帽子は、ただかぶればいいというものではない。

不安な気持ちが安心感へと変わる心が大切なのです。脱毛後にも安心して行くことができる美容室、美容師の存在は大きいと思います」

そこで患者さんのハートケアができる場として、安心して試着できる個室もつくった。

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がん患者さんの支援を始めたころ、スタッフに患者さん用のウィッグや帽子のお手入れなどの指導はしても、なぜ開発に関わるのかという話はしなかった。

「私が言うと上からの命令のようになってしまいます。でも自分で感じてくれればそれはよりお客さまにきちんとした形で届くと思ったのです。最近はスタッフの知り合いの患者さんやがんを患われたお客さまに喜ばれる機会が増えて、こわごわだったスタッフに新しいやりがいが生まれ、人が育ってきてくれているのがうれしいですね」

 

いつも髪をカットしていたスタッフにウイッグのお手入れもしてもらえたお客さまから「あなたなら安心」という言葉をかけられたスタッフが感動し、ウイッグで支援するということの意味がようやくわかったと言ってくれたそう。

 

「患者さんは病気になると一時期ですが行動が制限され、心配や不安な気持ちが大きくなります。そんなときに自髪がなくても美容院に行けるということが、気持ちの上でとても重要だと思っています」

 

今後NPOを立ち上げて、患者さんを一緒に支援してくれる美容や理容に関わる方や病院関係、薬品メーカーやアパレルなどの企業や個人の方を募集していきたいと考えている。

女性経営者にもっと広く出会い、
悩みを解消し、共に成長していきたい

会員になっている佐賀県ベンチャー交流ネットワークの女性部会では、女性の経営者をもっと育てていこうという目標をもって、例会を開いている。

「そこで女性社長.netさんに協力を仰ぎ、佐賀の女性経営者を育てていこう、こんな支援機関があると広く知っていただく機会を作りました」

 

荒川氏も女性社長.netが運営するJ300アワード※に応募し、「後継ぎウーマン賞」を受賞した。

「何かの仕事を始めたい、事業を引き継ぎたいと思っている女性たちには、年齢も今いる状況もお金も関係なく、まずはスタートしてみてほしいと思います。そしていろいろな方に自分の夢を語り、相談していくと必ず少しずつかなう方向が見つかるものだということを伝えたいですね」

 

この受賞をきっかけに佐賀だけでなく全国の女性経営者の方々と情報交換ができるのが楽しみだという。

「これからこのウイッグやインナーキャップなどの良さをもっと全国に広めたい。どうやればよいのかぜひアドバイスをいただきたいと思って、楽しみにしています。そして、もしお互い困ったことや悩みがあったら、まずはこの場に来て話しをしましょうと若い女性経営者には伝えたいと思っています」

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夫の司さん(左)は、佐賀県ベンチャー交流ネットワークの会長を務めながら、食や観光軸で佐賀県の発展に寄与している。Futabaを切り盛りする荒川氏の知恵袋でもある

 


※J300アワード https://j300award.wixsite.com/2020

 女性社長.net  http://joseishacho.net/




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