父が築き守ってきたプロテック 「人のために」の理念を貫きたい プロテック株式会社 代表取締役 小松 麻衣氏
- 40-50代
- 北海道・東北
- 女性経営者
- 後継者
2020年10月24日(土)、『私、社長を継ぎました ~ 事業承継経験者に聞く、承継の心構え~』と題したオンラインイベントが、国内最大級の女性経営者データベースサイト「女性社長.net」を運営する株式会社コラボラボと、エヌエヌ生命保険株式会社の共同で開催されました。
前経営者からの事業承継経験がある女性経営者として、株式会社山崎製作所 代表取締役社長 山崎かおりさんと株式会社茨城ケミカル 代表取締役 大和田美佳さんをお迎えし、株式会社コラボラボ 代表取締役 横田響子さんとエヌエヌ生命カスタマーエクスペリエンス部 部長 小橋秀司がファシリテーターを務め、女性ならではの事業承継の話などをお聞きしました。
山崎 かおり(やまざき かおり)
株式会社山崎製作所 代表取締役社長
大学卒業後、起業。中国雑貨の個人輸入を始めた。その後、一般企業でOL(総務部人事課)を経て家業へ。
1991年より、父が創業した株式会社山崎製作所に入社し、2009年に父から事業承継し代表となる。1男1女の母
事業継承の経緯:
リーマンショックのあおりを受けて売り上げが激減し、雇用調整金や特別融資などを利用してなんとか操業を続けていたが、当時の社長である父親は体調が思わしくなく、会社に週に一度顔を出すかどうかという状態だった。「この赤字の会社を守るのは私しかいない、ここで私がやめたら会社は終わってしまうと」思い定め、会社を継がせて欲しいと切り出し、2009年に事業承継
大和田 美佳(おおわだ みか)
株式会社茨城ケミカル 代表取締役
大学卒業後、株式会社リクルート入社。情報誌の企画営業を経て出産。育児休暇後、部門人事でダイバーシティ活用を推進する。2007年に父親である先代の社長の死去に伴い、実家に戻り、株式会社茨城ケミカルに入社。その後2010年に事業継承し、代表取締役に就任。業務用洗剤や衛生管理用品の販売、衛生管理のコンサルティング業務を行う
事業継承の経緯:
2007年父親が突然の死去。会社の取締役であった母が、とても自分では会社経営はできないから戻ってきてほしいとのことで実家に戻り、株式会社茨城ケミカルに入社。父の死去に伴い、一旦母が代表取締役に就いていたが、2010年に事業承継
横田さん(以下、横田) まずは自己紹介をお願いします。
山崎さん(以下、山崎) 静岡県静岡市清水区で、精密機械板金加工業を営んでいます。11年前、創業者の父から事業承継をしました。港町で育ち結婚し、子どもは、一男一女。長女はうちの会社に勤め、長男は別の製造業で修業をしています。
大和田さん(以下、大和田) 茨城県ひたちなか市で飲食店やホテル、病院で使う業務用の洗剤などを扱う会社を経営しています。12年前に父が突然亡くなり、会社を継いだ母を助けるために、主人と子どもと一緒に戻り、経営を継ぎました。山崎さんと同じで、長男と長女がいまして、高校生と中学生です。
横田 今日は事業承継の経緯や女性が承継した場合の3大お悩み事。お金まわり、人間関係、メンタルについて伺えたらと思います。山崎さんは自らお父様に継ぐと伝えたとか。
山崎 平成3年から経理を手伝おうと会社に入ったのですが、経営は人ごとでした。リーマンショック時に状況が悪化して、父が廃業を考え始めた時から会社のことを真剣に考えるようになりました。こんな赤字の会社を継ぐ人は誰もいないし、社員は私が小さなころ一緒に遊んでくれた人ばかり。会社を支えてくれたこうした人たちの生活はどうなるんだろうと、いろいろ悩み、社内を見て自分がやるしかないと覚悟を決め、父に話をしました。
横田 どういう風に声をかけたのですか?
山崎 「お話があるんですけど」と社長室を訪れ「この会社をやっていこうと思う」と伝えました。最初父は、「本当か?」と大変喜びましたが、時間がたつと女にできるはずがないと大反対するように。社内は年上の男性ばかりだったので、心配したのでしょうが、お互い意地の張り合いになってしまいました。
横田 和解はどうやって?
山崎 あるとき創業経験のある経営者の方と知り合い、事業承継する創業者の気持ちを教えていただき、だんだん父の気持ちが理解できるようになりました。それから少しずつ心を寄せていき、ようやく分かり合えたことで、自社株とか、土地の問題とかをクリアにし、事業承継できました。
横田 大和田さんはお母さまから呼び戻されたそうですが、どういうタイミングでバトンタッチされたのでしょうか?
大和田 母が経理を担うなか父が突然亡くなったので、必然的に母が社長になるしかなかったんです。でもやはり男性中心の業界なのでうまくいかない。母は、お金の流れは分かりますが経営はわからないし、ましてや機器の取り付けなどできない。銀行や取引先に対しての折衝もできなくなり、私に声がかかりました。
横田 事業承継は、男性が継ぐのがまだ当たり前と思われている中で、今は女性の承継者が増えていますが、計画的承継と、突然の承継では、どちらが多いのでしょうか?
小橋 計画的承継のほうが多いイメージがありますが、女性の後継者に限ると、予期しないケースで事業承継する配偶者や娘さんが非常に多いと思います。しかし、まだまだ世の中にはそういう方々に向けたサポートやネットワークがありません。今はまだ男性経営者が多いのですが高齢化し、跡を継ぐ方がいない状況です。そんな時に先代社長の気持ちや従業員のことを助けたいという強い気持ちを持たれるのは、配偶者や娘さんというケースが非常に多いのです。
横田 女性の事業承継は、準備不足の中で始まるからこそ支援が必要だと考えています。その中で、3大悩みのひとつ人間関係についてお聞かせいただけますか?
大和田 社員はまさか娘が戻ってくるとは思っていなかったと思います。古参の社員は、自分が社長になれると思っていたので、反発してなかなか情報をくれない。「突然来て何がわかるんだ、まして女だろう!」と。仕方がないですし、もともと信頼関係も構築されていないので、会社の中は、針のむしろ。しばらくはその中で会社経営する状態でした。
山崎 私も番頭のような工場長と、最初はうまく話ができませんでした。社内で話をするときには、上から目線ではなく相談するというスタンスで全員とコミュニケーションを取っていたのですが、工場長とはうまくいかなかった。経理担当で技術は何もわからない「お姉ちゃん」と呼ばれていた私が突然社長になったんですからね。当たり前です。そんな中研修を受け、私がもっと工場長のいいところを見ればよいと気が付きました。それを毎日していたら、かわいい人だなと思えるようになってきて、ある日「現場は俺に任せればいいんだよ」と一言ボソッと言われて、とてもうれしかった。そこからは、うまく行くようになりました。
横田 メンタル面で一番しんどい時には、どんな風に解消したり、誰に相談していますか?
山崎 私は何も知らなかったので、いろいろな方に素直にそのままをお話ししながら、今の経営状況やお金の相談を持ち掛けました。そうすると、金融関係、行政の外郭団体の方、税理士さんなど、いろいろな方がだんだん味方になってくれたんです。それから同じように悩んでいる中小企業の経営者とも悩みを話します。そして家族には、何でも相談をしています。
大和田 社長は孤独だと私は思います。社長でありながら、母であり、妻であり、主人も会社にいる。朝から晩まで一緒ですから、いろいろな悩み事があっても、家に持ち帰りたくないと主人も言います。だからパソコン相手に自分で考えるしかなかった。今は専門分野ごとに相談相手を選び、子どものことならママ友に、会社のことなら同じような先輩経営者に相談しています。
山崎 男性社長たちは、お酒を飲みながら、きずなを深めていくじゃないですか。なので、「2次会まで行かないと、心開いて話できないから、行かなきゃだめだよ」といわれて、最初は無理して出ていました。でも今では別にお酒を飲まなくても、女性経営者はいろいろなつながりを作れると、みんなに言っているんです。
小橋 そういうお付き合いの席をお断りしたいけど断っていいのか、どう断れば角が立たないのかという悩みを、みなさん同じようにもっていますね。
大和田 はじめは一通りいろいろな会合に顔を出してみて、行きたくなければ「子ども」を言い訳にして逃げています。今は、子どもに影響しないよう優先順位を付けて、出るのは月に2~3回とルールを決めて。主人が割と協力的なので、やってこられました。
山崎 例えばお酒が好きじゃない女性社長がそれらを全部断っても、女性なりのやり方で、人とのつながりを作れると思うので、あまり気にしなくてもいいと思います。
横田 承継にまつわるお金について伺いたいと思います。自社株や相続、金融機関との取引など、どういうことに直面されたのでしょうか?
山崎 私の場合は、準備期間が一年くらいあったので、その間に事業承継の専門家に相談をしました。ちょうどリーマンショックで自社株評価が下がり、ここで相続したほうがいいと、父との間にも入ってもらいました。また、銀行や行政の外郭団体の方を自分の味方につけるというのも大事です。私は経理をやっていたので、会社のお金のことをある程度分かっていると理解してもらえました。「こういう風に会社を変えていきたい」と情熱をもって説明をしたときに、「数字は赤字だけれども、あなたの目を信じます」と融資をしていただいたこともあります。
大和田 設備投資がない分、銀行の借り入れはそんなに多額ではなかったですね。自社株に関しては、父から母に相続し、母から私へということで、毎年少しずつ贈与の形で税理士さんに任せて相続しています。会社員時代に財務会計だけは勉強したので、どうしたら決算書が良くなるかと考え、そのために社長の給料を減らしたりもしました。決算書は社長の通信簿だと思います。金融機関からの見え方などは、知り合いや銀行に勤めている友人に教えてもらったり、面白そうな税理士さんを見つけたら、話を聞いて味方になってもらいました。
横田 今後、家族や自分が継ぐかもしれない、これからどう事業承継の話をすればいいのかという方も多いと思うのですが、そんな方々に向けて、「これだけはしておいたほうがいいよ」というアドバイスはありますか。
大和田 私は、最初社長たるもの、偉そうにしなくてはと思っていたんです。特に女性だからなめられないようにというのもあって。「そんなの知ってますよ」という雰囲気を出しながら、金融機関や社員に接していました。するとその方と距離感が出て、結局何にもいいことがない。別に格好をつけたり偉そうにすることが社長ではなく、わからないと素直に聞くのが、一番だと今は思います。わからないことだらけで困ると思いますが、ネットで下調べをしつつ、ここがというところは、素直に人に聞いたほうがいいなと思います。
山崎 私は事業承継する前に、経営者の勉強会に10カ月くらい通いました。各地でやっていると思いますから、そういうところを探して、経営の悩み等々を話せるような仲間を作ったり、勉強すると自信にもつながるんじゃないかと思います。ものは知らないし、力はない、社員も外部の取引先も私を女だからという目で見ていたかもしれません。でもある時から吹っ切って、全然気にしないようにして、自分らしくやろうと開き直ったら、すごく楽になりましたね。前に進みながら強くなっていくというキーワードを、心に持ちながら経営していただけたらと思います。
横田 山崎さんは、女性に特化して事業承継支援をする「A・NE・GO」という団体を、立ち上げられました。特に女性を支援する意義はなんでしょうか。
山崎 自分の経験から、最初の段階でいろいろ悩みが出て、壁にぶち当たると思っています。特に女性の場合は、経営や事業承継の勉強をしてない人も多いし、女性特有の課題にも直面する。そんなときに、同じ経験をしてきた私たち8名が、心に寄り添いながら、経験者をメンターとして付けて、支援する団体が必要だと考えたのです。
小橋 後継者の方々が、フェイスtoフェイスでつながれるような場というのは、本当に重要だと思います。今、静岡には「A・NE・GO」がありますが、これが全国どこにいてもそういう場があるという機会を作っていくことが今後もっとできればと思っています。
今思えばもっと素直に人に相談したり、虚勢を張らずに経営に取り組めたら、もっと楽だったろうと言いながら、乗り越えてきたからこその説得力ある経験談を、お二人から聞くことができました。
これから事業承継される皆さまには、イベント中にご紹介した女性の事業承継を支援する団体「A・NE・GO」など素敵なメンターに相談したり出会える場があります。エヌエヌ生命では、今回のようなイベントや当社独自のサービスを通して、事業承継した女性の皆さまや承継を予定している方々に適切にサポートの手が行き届き承継に関する不安や悩みの解決の一助となれるよう、これからも取り組んでまいります。
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