制度を活用する企業が急増!企業版「ふるさと納税」のしくみとメリット
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新型コロナの影響を受け、仕方なく店を畳む飲食店が増えている。ニューノーマルな生活が摸索される今、事業継続のための決断の重みが日増しに大きくなっている。その中で、市場で人気の「九州パンケーキ」を幅広く展開している株式会社一平ホールディングス代表取締役社長の村岡浩司氏に話を聞いた。
写真)九州パンケーキ
提供)株式会社一平ホールディングス
一平ホールディングスの主力商品、「九州パンケーキ」とはどんなものなのだろう?調べてみると、このパンケーキミックス、こだわりがすごい。まず、九州の小麦と雑穀が原材料だ。ホームページに曰く、
「風味豊かな大分県産小麦をはじめとして、宮崎県綾町で農薬を使わずに育てられた合鴨農法の発芽玄米、長崎県雲仙のもちきび、佐賀県の胚芽押麦、熊本県と福岡県からは稲作の源流である古代米の黒米と赤米、鹿児島県の肥沃な大地で育てられたうるち米を使用」しているという。
図)「九州パンケーキ」原材料について
それだけではない、砂糖には「沖縄県・鹿児島県産のサトウキビ原料を100%使用し、アルミフリー膨張剤を使用。乳化剤・香料・加工澱粉は一切使用していない」という。
その「九州パンケーキ」に希少な九州産バターミルクパウダーを混ぜたものが「九州パンケーキバターミルク」だ。「バターの風味と豊かなコク!」というコピーを読まずしても、よだれが出そうだ。
写真)「九州パンケーキ」「九州パンケーキバターミルク」
出典)九州パンケーキについて
様々なブランドが激しい競争を繰り広げる中、生き残るのはそう簡単ではないだろう。しかし、九州パンケーキは地元の人々に支持され続けているという。その理由を村岡氏は、「シンプルに美味しいかどうか」と明快に語る。
「今の時代、ブランドの背景やストーリーはSNSを通じて伝わっていく。“東京で流行らせてから全国展開”というこれまでの方程式を取らずとも、地方の中小企業が世界で戦える時代になってきた」
そう村岡氏は分析する。
一平ホールディングスも新型コロナ感染症拡大の影響をもろに受けた。
一時的に売り上げがゼロになるなど、地を這うような思いをしたと村岡氏は述懐する。しかし、驚くことに焦りはなかったという。
そのわけを聞いて納得した。そう、宮崎県は10年前、口蹄疫を経験していたのだ。
写真)口蹄疫にかかった家畜を埋却する作業の様子
「1回通った道なので、次のフェーズがどうなるのか分かった。非常事態宣言が出ると、まず売上が落ち、その後感染者数の数字が大きくなるにつれ、この状態がずっと終わらないのではないかという不安、それから疑心暗鬼が生まれる」
そうした過去の辛い経験があるからこそ、今回は冷静にとらえることができたという。
そのコロナ禍にあっても村岡氏は新商品開発の手は休めなかった。仕事は全てオンラインで行い、その結果、様々なプロジェクトを契約までこぎつけたという。
決して手を休めない。村岡氏の真骨頂がそこにある。
「良かったもの、良くなかったもの、消えるもの、生まれるものと、自分の中で一つ一つ丁寧に仕分けしていった」結果、「事業方針や戦略は変わらないが、戦術が変わった」という。
たとえば、販売ではいち早くオンライン販売サイトを作った。一方、対面せざるを得ないレストランは「冬眠(休業)」を決めた。
その過程で気づいたことがある。
「地元に愛されている老舗は、立地が悪くてもびくともしていない」
すなわち、「(商品に)ブレない物語があること、それをしっかり伝えてくれるパートナーがいること」
が大事だと悟ったのだ。
写真)九州パンケーキKitchen
提供)株式会社一平ホールディングス
パートナーの存在。そう、九州パンケーキの海外展開は既に始まっている。現在、台湾、シンガポールで販売しており、近々北京にも進出するという。
「中国は10億人の胃袋。北京は九州からの直行便はなく未開の地だが、中国は大きなマーケットになると思う」
まずは北京、その先、中国全土を睨んでいる。村岡氏が商品名に「九州」と付けていることからも、九州への思い入れがうかがえる。「九州」をブランドとしてとらえているのだ。
「全国的に生産力が落ちている中で、九州の生産力はキープされている。『九州アイランド』を1つのブランドアイコンとして世界中に広げ、最終的には“世界が憧れる九州”を作るというのが我々の経営ビジョンだ」
村岡はそう言い切った。
「九州アイランド」という概念についてさらに詳しく聞いてみた。村岡氏が「九州アイランド」という概念を意識し始めたのは「九州パンケーキ」を作り始めてからだという。九州は人口約1300万人。その中で、経済圏は十分につくれると村岡氏は言う。
「九州をひとつの島と捉え、農業資源や工業技術、人間の魅力などを掛け合わせながら(ブランドを)創っていく」
その上で村岡氏は、九州を起点とした巨大な経済圏をにらんでいる。
「福岡を起点として2時間以内の移動圏を見てみると、実は世界最大の経済圏になる」
出典)九州経済国際化推進機構
たしかに、九州の貿易輸出国全体の6割がアジアだ(経済産業省九州経済産業局より)。また、九州は日本の食料供給地ともいえるほど、多種多様な産業品目を有する。「九州アイランド」の“豊かなものづくり”が狙う、巨大なアジア市場が見えてくる。
グラフ)産業別にみた全国に占める九州のシェア(平成28年度)
出所)内閣府 県民経済生産より 九州農政局作成
図)九州産野菜の出荷先(平成30年)
出典)農林水産省統計部「青果物卸売市場統計」より九州農政局作成
「これから九州の農業資源や伝統技術、優れた加工技術などを掛け合わせ、我々のイノベーションアイディアで新しいものづくりをやっていく」
「九州アイランド」と言うコンセプトを掲げていることからわかるように村岡氏は、「産地と共に歩む」ことが一番重要だという。
初回わずか500kgの生産からスタートした九州パンケーキは、この8年間で年間約100t まで拡大した。驚いたことにその間、産地との買収価格交渉は一度もしたことがないと言う。通常の商慣習から考えればありえない行動に見えるが、村岡氏は、「これが当たり前のハッピーサイクルだ」と言う。
「ハッピーサイクル」とは?
「我々の買取量が増えれば増えるほど、生産者は儲かる。これまで日本では、増産するから価格を下げろと生産地と交渉してきた。その結果が、作れば作るほど儲からない構造だ」
村岡氏はそれを変えなくてはいけないと言う。全国一律価格というこれまでの商慣習とは真逆な革命的スタイルだ。
村岡氏が父親から事業を承継したとき、父は病の末期だった。28歳で前の商売に失敗し、その後、家業の寿司屋「一平寿司」に職人として板場に入った。32歳でカフェをやるまでいつも一緒だった父親。反発や考え方の乖離はもちろんあったという。
その後村岡氏は、ビジネスを現在の形にまで発展させてきたわけだが、その間自分は相談する相手がいなくて苦労してきたと述懐する。だからこそ、若い経営者の力になってあげたい、という気持ちが強いという。
自分の事業承継について聞くと、極めてシンプルで、かつドライな答えが返ってきた。
「事業承継とは、事業を承継することだ。その時に最適な人間に承継させる。事業を成長させる時、資本と経営を分離させていくかも知れないし、今後5年で判断していく」
写真)村岡浩司氏
提供)株式会社一平ホールディングス
村岡氏は、「アトツギ U34」(一般社団法人ベンチャー型事業承継)のメンターでもある。これから起業する人や事業を承継する人に対しては、「自分の持ち場」が大事だと話しているという。
「九州という島を閉じて、九州ブランドのバリューを上げたうえで、どこで解放性を作るかを考えることが大事だ。解放性とはマーケット設定、すなわちグローバルだ。これからは、どの単位で閉じるのか、どこをマーケットとするのか、を両輪として、バランス良く考えないといけない」
「ひとつのミスが大きく生死を分ける時代だ。中小企業が元気にならないと国が元気にならない。私も中小企業の経営者の1人なので使命感を持ってやらなければ」
そう村岡氏は決意を語った。
※アトツギU34はアトツギファーストに生まれ変わりました。
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