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エヌエヌ生命プレミアレポート

約40年ぶりに相続法が改正! 

スムーズな事業承継のカギは遺留分に配慮した遺言

  • 税制・財務
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この記事は7分で読めます

 2018年7月13日に、改正民法(相続法)が公布されました。経営者の方の相続や事業承継にはさまざまな困難が伴いますが、今回の改正によって承継のリスクが軽減した部分があります。そのうちの一つが「自筆証書遺言の作成ルールの緩和」で、この改正は2019年1月13日から施行されます。今回は、事業承継に大きな影響を及ぼす遺言と遺留分について、改正のポイントと対処法を解説してみました。

1 なぜ、相続法が改正されることになったのか

今回の民法(相続に関するルール)の改正は、約40 年ぶりの改正になります。遺言と遺留分の改正内容を見る前に、改正へと至る経緯について触れておきます。

① 家督相続制度から平等な相続へ

民法が創設された明治以来の日本においては、法律上の婚姻関係にある夫婦とその子どもで構成される家族の在り方を前提として、長男がその家督、すなわち全ての財産を相続する「家督相続制度」がとられました。その後、第二次大戦を経ての数回にわたる法改正において、家督相続制度は廃止されて子は均等の相続分を持ち、配偶者の相続分も認められて現行水準まで引き上げられてきたのです。

② 非嫡出子の相続分に関する違憲判決

民法が創設された明治以来の日本においては、法律上の婚姻関係にある夫婦とその子どもで構成される家族の在り方を前提として、長男がその家督、すなわち全ての財産を相続する「家督相続制度」がとられました。その後、第二次大戦を経ての数回にわたる法改正において、家督相続制度は廃止されて子は均等の相続分を持ち、配偶者の相続分も認められて現行水準まで引き上げられてきたのです。

③ 今回の相続法改正は「配偶者の保護」を重視

この判決を受けて、与党内でも法律上の婚姻の重要性や家族の在り方などについて、多様な議論が交わされました。その中で、結婚していない男女の間に生まれた子の相続分が増えれば、結果として、「亡くなった方の配偶者の取り分が減ってしまうこと」、「高齢化社会の日本において、残される配偶者も高齢であることが多く、遺産に頼らざるを得ない場合が多いこと」などが指摘されました。


そこで、相続における配偶者の保護を強化すべきとの問題提起がなされ、今回の改正に至ったのです。具体的には、配偶者が住居に住み続ける権利が規定されるなど、配偶者の保護という色彩が強く打ち出されています。


以上の経緯で行われる改正と併せて、従来から相続の現場において使い勝手が悪い、弊害が多いと指摘されていた他の論点についても整理されることになりました。そのうちの一つが、事業承継において重要な役割を果たす遺言にまつわる規定の改正です。

2 遺言は大切な家族に残す思いやり

はじめに、事業承継対策における遺言の位置付けを確認しましょう。新聞や各種のメディアで、「中小企業経営者の高齢化」、「事業承継に向けた早期・計画的な準備」という言葉を多く見かけるようになりました。これらのキーワードは、中小企業庁の「事業承継ガイドライン」(2016年12月)で繰り返し強調しているものです。


では、「早期・計画的な準備」とは、具体的にどのような取り組みを指すのか、考えてみましょう。

① 最も有効な「生前実現型」の承継

事業承継対策としては、経営者が元気なうちに後継者へ事業を承継し、後継者の経営を見守っていくという「生前実現型」と言われる対策が最も有効であると指摘されています。つまり、株式などの事業用資産も、経営権も、経営者の生前に、後継者に完全に移転するということです。

② 万が一に備える「生前準備型」対策のカギは遺言

事業承継対策としては、経営者が元気なうちに後継者へ事業を承継し、後継者の経営を見守っていくという「生前実現型」と言われる対策が最も有効であると指摘されています。つまり、株式などの事業用資産も、経営権も、経営者の生前に、後継者に完全に移転するということです。


「生前実現型」にはバトンタッチの時期の見極めや税金面の課題があり、適切な時期に承継できないことも少なくありません。そのような場合、「生前実現型」を模索しつつも、万が一に備えてスムーズにバトンタッチできるような対策を立てておく必要があります。これを「生前準備型」と呼び、その最も基本的な手法が遺言の作成です。


遺言がない場合、オーナー企業の株式を後継者が十分に取得できなかったり、その他の財産の分け方で残された家族が揉めることになったり、という可能性があります。家族の仲がどれほど良くても、各人の思い入れの食い違いや、意思疎通のすれ違いによって、トラブルになる可能性は否定できません。大切な家族をそんなトラブルに巻き込まないために、最後の思いやりを「遺言」という形で残してみてはいかがでしょうか。

3 自筆証書遺言の作成ルール緩和は 2019年1月13日から適用!

遺言を作成するというと、どんな方法をイメージされるでしょうか。遺言の書かれた便箋が封筒に入れられて、タンスや金庫に大切に保管されているもの。または、公証役場で作るもの、といったイメージでしょうか。

① 自筆証書遺言は作りやすいが間違うリスクも

遺言の作成にはいくつかの方法がありますが、代表的なものは、公正証書遺言と自筆証書遺言の二つです。図表1に、それぞれの特徴をまとめてみました。


これらのうち、自分で作成する自筆証書遺言は、第三者に知られずに自分で作れますので、作成のハードルは低いといえます。しかし、全て手書きしなければならないため間違う可能性もあり、作成自体に労力がかかることや、民法上の形式的なルールを守れずに無効なものになってしまう可能性があるといったリスクもあります。

② 自筆証書遺言の作成ルールが緩和!

そこで今回の改正においては、自筆証書遺言について、作成方法を一部簡単にするルール緩和と、法務局での保管制度の創設が行われることになったのです。


まず、作成方法については、従来は、遺言の全体を手書きで作成しなければなりませんでした。これが、遺言の末尾に添付する財産目録については、ワープロで作成したり、登記簿謄本や預金通帳のコピーを添付したりしてもよい、というルールに変わります。


これと同時に、法務局で自筆証書遺言を保管してくれる制度も創設されることになりました。預けておけば、本人が亡くなるまでしっかり保管してくれることはもちろん、遺言を預ける際には、法務局の職員が遺言書を見て、形式的な不備がないか確認してくれるというサービス付きです。  これらの改正によって、自筆証書遺言がさらに作りやすくなり、形式的な不備によって無効になってしまうリスクもかなり低下することでしょう。

4 「遺留分減殺請求権」見直しで株式分散リスクは軽減!

遺言を作成する際に注意をしていただきたいのは、民法に定められている遺留分という制度についてです。


遺留分とは、相続財産のうち、相続人に最低限保障されている部分のことを言い、具体的な割合の例は次ページ図表2のとおりです。

① 強すぎる遺留分減殺請求権が事業承継の障害に

この事例では、次男は妻と長男に対して、遺留分を侵害されている500万円について、その侵害分を取り戻す「遺留分減殺請求権」という権利を行使できます。


この権利は非常に強いため、妻が相続した自宅と長男が相続した株式のうち一定割合は、自動的に次男のものになってしまうのです。自宅やオーナー企業の株式が共有状態になると、勝手に処分できなくなり、その分け方を相続人全員で協議する必要も出てきますので、遺産分割が大変になります。


亡くなった方(先代社長)が、次男の遺留分に配慮していなかったために、残された家族が困ってしまうのでは本末転倒です。遺言を作成する場合には、遺留分に配慮した内容にするよう注意しましょう。

② 遺留分減殺請求権の見直しで株式分散リスクが低減!

さて、今回の改正では、「遺留分減殺請求権」という強すぎる権利について見直しが行われました。従来は、上記のとおり、次男の遺留分侵害の原因となった自宅や株式については、自動的に次男との共有となっていましたが、改正法では、このような効果は発生しないことになりました。代わりに、妻と長男は、遺留分を侵害する金額の金銭を、それぞれ次男に支払う義務を負うことにされたのです。


特に事業承継の場面で、遺留分の侵害による株式の分散は大きなリスクと考えられてきましたが、この点が見直されたことは大きな意義があると思います。ただし、遺言作成時に遺留分に配慮しなければ、残された家族を困らせてしまうことには変わりありませんので、ご注意ください。


自ら築き上げてきた事業や財産を、誰にどう残し、どう使ってもらうのか。事業承継・相続対策は、これらを考えることから始まります。そして、生前に行う最低限の準備として、遺言を作成する際には、方式を間違えないように、遺留分を侵害しないように気を付けましょう。


今回ご紹介した点を含む多くの改正点については、今後約2年の間に、順次施行されていきます。新しい制度では、遺言は作りやすくなり、遺留分によるリスクも小さくなりますので、これらをしっかり活用して、次世代に思いやりをつないでいきましょう。

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伊藤 良太弁護士

著 者
伊藤 良太(いとう りょうた)
ベイス法律事務所代表、弁護士

1984年 岐阜県生まれ
2007年 早稲田大学法学部卒業
2010年 早稲田大学大学院法務研究科修了
司法試験合格
2011年 最高裁判所司法研修所修了(新第64期)
2012年 弁護士登録
2012年 経済産業省中小企業庁事業環境部財務課採用(課長補佐)

事業承継関連背策(平成27年経営承継円滑化法改正、平成28年事業承継ガイドライン、平成29年度改正<事業承継税制>)の立案・執行等を担当
2017年 ベイス法律事務所 設立(第二東京弁護士会所属)
事業承継を中心として、労務・契約問題などの中小企業法務に取り組みつつ、セミナー講師、執筆活動も積極的に行っている。

この記事は、エヌエヌ生命プレミアレポート2018年11月号からの転載です。 この記事に記載されている法令や制度などは2018年11月作成時のものです。

法令・通達等の公表により、将来的には制度の内容が変更となる場合がありますのでご注意ください。

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