インボイス制度導入でどうなる? 税務調査の方針と留意すべきポイント
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中小企業から大企業まで様々な会社の経営者を取材しているシンクタンク・ソフィアバンク代表を務める藤沢久美氏。新型コロナウイルスの影響で企業を取り巻く環境が激変する中、これから中小企業に求められる変革にはどのようなものがあるのか聞いた。
「人口の少ない地方の企業のダメージは特に大きい」と藤沢氏は指摘する。その上で指摘するのは「リモートワークへの移行の遅れ」だ。
5月15日発表の東京商工リサーチのレポートを見ると、全国で4月中にリモートワークに移行した中小企業は5割にとどまる。つまり、リモートワークをしようにも、ネット環境などが整ってない企業が半数もある、ということだ。
また、中小企業庁によると、1万人以下の規模の企業のうち、4割は建設・製造業、残りは運輸・小売・宿泊だが、これらの業種はリモートワークが出来ないか、もしくは今回の休業要請の対象に入っている。状況は極めて厳しいと言わざるを得ないという。
Jリーグの理事も務めている藤沢氏は、中小企業の最たるものとして、Jリーグのクラブを挙げた。クラブは全国に56あり、スポンサーの数は全部で約30万社に上るが、ほとんどが中小零細か個人商店だという。来年もスポンサーとしてついてくれるかどうか、わからない状況だ。
クラブは自分たちでスポンサーをつなぎとめるか、新たに探さねばならないわけだが、実状は・・・
「営業するといっても、『Zoomって何だ?』とか、『リモートで営業なんて失礼だろう』などと言われるケースもあります」
まず、そうしたトップのマインドセットから変えねばならないのだが、それは容易なことではない。
とはいえ、中小企業も座して死を待つわけにはいかない。藤沢氏が次に指摘したのは、中小企業の財務の問題だ。
2011年の東日本大震災の時、東日本大震災事業者再生支援機構という国の銀行の役員をしていた藤沢氏は、被災した中小企業の債務を整理し、新たな長期的な貸し出しを行うと共に、事業を見直す業務を担当していた。その時に、中小企業の深刻な問題に気付いたという。
「中小企業の最大の問題は、平時に財務諸表が綺麗になっていないことなのです」
つまり、売り上げなどを財務諸表に正確に記載していない企業が一定数ある、ということだ。
「今回、売り上げが去年と比べ半分になった企業を対象とした補助金がありましたが、売り上げを低く申告していた企業は申請ができない状況になったのです」
基本中の基本だが、日ごろから財務処理をきちんとしておくことが今後より一層重要になってくると藤沢氏は指摘した。
次に藤沢氏が指摘したのは、キャッシュフローだ。
「少なくとも3か月分くらいのキャッシュを確保しておくか、金融機関
といざという時コミットメントラインについて話し合える環境を作っておくことが重要です。それが難しければ、保険にしっかり入っておくことです」
当たり前ではあるが、それが出来ていない中小企業が多いことに藤沢氏は警鐘を鳴らす。
また、事業面において重要なのはICT化、と藤沢氏は明確だ。
「新型コロナ以前にそもそも中小企業は効率化を進めておくべきでした。今回のように外に仕事に出ることができない時、重要となるのはICT化と業務プロセスの効率化です」
大企業などでは当たり前になりつつあるリモートワークだが、中小企業こそICT化を進めて、小回りの利く経営をすべきだとの指摘だ。
人事面では「兼業人材」が必要だと藤沢氏は言う。
「他の会社でも働いていいことにしておけばよいのです。いざ自社で仕事がなくなった、という時、従業員を他社に貸し出すことができます。そうすれば、給与を負担しなくてすむわけです」
従来の働き方とは180度発想を変えた、フレキシブルな働き方を提唱する。
「また、大企業やベンチャーと人材交流の契約を結んでおけば、今回のような時、ITに強い人を呼ぶことができるかもしれません。そうすれば、マーケティング力や事業効率力のアップにつながります」
実際にプラットフォーマーと呼ばれる国内大手ECサイト運営企業や大手地銀が地方自治体や中小企業に人を出しているという。中小企業も普段から、他の企業や自治内などと人材交流をしておくべきだと藤沢氏は述べた。
他にも藤沢氏は、「取引先の地域分散」や、「他地域の同業者との交流」なども有事には有効だとした。結局、緊急事態時に如何に生き残るかは、平時にどれだけ備えをしていたかに尽きるということなのだろう。
保険会社の役割は何か起きた時に保険金を支払うことだが、そのビジネス・スタイルも変わっていくべきだ、と藤沢氏は述べる。
「保険会社は、平時から最悪の場合どんなことが起こりうるかケーススタディを提示し、リスクヘッジ方法を教える事が求められるのではないでしょうか。つまり、コンサル料が保険料になる、という形です」
中小企業にとって、リスクのイメージができないと、平時に保険を買うことに抵抗感が少なからずあろう。しかし、今回明らかになったように、大事なことは平時から最悪の事態のリスクに備えておくことなのだ。そこに保険会社の役割があると藤沢氏は説く。
緊急事態宣言が解除され、東京都でも「東京アラート」が解除された。JR東日本の山手線新宿駅や品川駅の様子を見ていると、通勤するサラリーマンの姿がかなり戻ってきている。
こうした様子を見て藤沢氏は、変わっていく必要のある大企業がすぐ元に戻ってしまう、と懸念を示す。一方で、それは中小企業にとって人材確保のチャンスでもあるという。
「生産性の低い大企業が残るのは、中小企業にとっては逆にチャンスなのです」
何故か。
「リモートワークの経験をした都市部の人たちが、リモートで働けるなら環境のよいところで子どもを育てたい、と考えるかもしれない。そうすると、地方に人材の流動が生まれます。これは中小企業にとって優秀な人材確保のチャンスになるでしょう」
事実、筆者も都市部で営業職として働いていていた人が、リモートワークでも実績は変わらなかったので会社と相談して地元に戻る決断をした、という話を聞いた。企業も従業員の多様な勤務スタイルを認めるようになってきたといえる。
新しい知識や柔軟性のない旧来型の経営者は変わるのが難しい。だとすれば、そうした経営者はせめて若い人が積極的にチャレンジできる環境を支援して欲しい、と藤沢氏は常日頃、経営者に向けて発信しているという。
「経営者の仕事は、ミッションやビジョンを明確な言葉で伝えることと、決断を下すことの2つです」
会社が何を目指しているのか、経営者が明確に言葉にすることが重要だという。自由にやっていいよ、というだけでは若い人は何をやっていいか分からない。
「これから経営者は今まで以上に決断力が求められます。決断の責任が重くなっているのです」
ウィズコロナ、アフターコロナのビジネス環境を考えた時、これからの変化がどうなっていくのか、アンテナを高くして、自分の業界以外の話も聞く必要があると藤沢氏は強調する。
「しゃがんでいれば嵐が過ぎ去るわけではない。じっとして溺れるのを待つのではなく、自力で海面に這い上がっていく必要があります」
最後に女性の事業承継について。女性経営者に必要なスキルを問うと、これまで聞いたことのある答えとは少し違った答えが返ってきた。
取材中の藤沢氏
©️藤沢久美
「女性の経営者には視野の広さが必要です」
経営者の娘はお嬢様として大事に育てられており、言えば誰かがやってくれる環境であることが多く、視野が狭まりがちだという。
視野を広げる大切さに男性、女性関係ないが、特に女性に求められると藤沢氏は指摘する。
「まずは視野を広げる、マインドセットを大きくすることが大事です。そうすれば基本的なスキルはついてくる。今は女性のコミュニケーション力やしなやかさが必要な時代です。企業を親の代より大きくする可能性はありますよ」。
お客さまの声をお聞かせください。
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