インボイス制度導入でどうなる? 税務調査の方針と留意すべきポイント
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株式会社神林堂は明治13年創業。大阪名物「粟おこし」一筋で商売してきたが時代の流れで商品が売れなくなった。そこから心機一転、社長自ら新商品を開発、ネット販売に乗り出した。それが今や、大手ECサイトで「グルメ大賞」3回受賞、レビュー総数23,000件超、そして総合評価4.5という金字塔を打ち立てた。5代目で代表取締役の岸本憲明氏の挑戦を聞きに大阪に飛んだ。
(聞き手: 安倍宏行 ジャーナリスト ”Japan In-depth”編集長)
大阪駅の隣、福島駅に降り立ち駅近の神林堂を探すも見当たらず。あたりを歩き回ると小さな工場のような引き戸に神林堂と書いてある。おそるおそるベルを鳴らすと、Tシャツ姿の男性が二階から降りてきた。何を隠そう、この人が岸本憲明社長だった。
大手ECサイトで売り上げNo.1のクッキー製造工場というから、さぞかし大規模だろうと思っていたが、中をのぞくとクッキーを焼く職人さんが2人、梱包をする人が1名いるだけ。正直、なんだか拍子抜けしてしまった。
「粟おこし」といっても若い人は余りピンとこないかもしれない。昔はお菓子の定番、特に土産物に喜ばれた。当時は新幹線もなく、どこに行くにも時間がかかる。日持ちがして手軽に持ち運べる「粟おこし」は大阪の土産物としてぴったりだったのだ。
創業139年。明治、大正と神林堂は絶好調で昭和になり5代目は生まれた。その岸本氏、なんと小学3,4年生くらいの時には「粟おこし」に見切りをつけていたというから恐れ入る。
「そのころもうだめになるだろうな、と言う感覚はありましたね。自分自身がケーキのほうが粟おこしよりおいしいなというのが素直にありましたんで。(笑)」
上は姉2人、末っ子で長男。生まれたときから家を継ぐことを運命づけられた岸本氏。親戚筋から大番頭さんから、色んな人が亡くなる前に全員「後、頼むわ」と頼んでいったという。しかし岸本氏は「この商売に先ないな」と思い男子校の理科系に進んだ。なのに、大学卒業後はそのまま家業を継いだ。その後、バブルが来た。
しかし、その好景気は長くは続かなかった。バブル崩壊だ。「結論言いますとバブルがはじけた段階で、これはあかんと思いました。前から思っていたように、本業、もうあかんわと思って。」
そこからが岸本氏の本領発揮だ。突然ひらめいた。
「昔から漠然と思っていたことをやりだしました。これからはペットと女性とお年寄りと健康だ、と。」
岸本氏のすごいところはその先見性だ。父親がかつて大阪の北部郊外、千里ニュータウンに移り住んだという。そうした人達が年を取り、今また神林堂のある福島駅近くの高層マンションに続々戻ってきているという。遠くのニュータウンより大阪の隣の駅が便利でええ、ということだ。
「俯瞰する感覚というんでしょうか、社会全体を見渡して時間軸を掛け合わせると未来が見えてくるんですよ。」
マンション住まい、核家族化、少子化で、お土産を向こう三軒両隣に上げる、という昔ながらの風習は廃れるだろう。老人二人だけでは寂しいからペットを飼い、餌や補助食品にも金をかけるようになるだろう。高齢になればみな健康に気をかけるようになる・・・そんな未来が岸本氏には見えていたという。
神林堂という老舗の名前は残し、ペットフードとペットのおやつ、それに健康志向のお菓子を作ることにした。無論、粟おこし一辺倒だった職人さんらは反発する。「そんなもん作れるか」と。そこで岸本氏は1から見よう見まねで、休みの日に会社来て、試作品を作り、ペットフードとおからクッキーを完成させた。今から18年前のことだ。その頃はある大手ECサイトの黎明期、岸本氏はe-コマースという未知の領域に足を踏み入れた。2006年頃の話だという。
「まず販売0が3ヶ月続いた。1個も売れない。その時はまだ広告費をかけるという発想すらなかったんです。4か月目にようやく1個売れたと思ったら同業の社長さんだったんですよ。(苦笑)」
出店するECサイトの仕組みを研究した。結論は「評価レビュー」の数と「売り上げ」が大事ということ。それで「総合ランキング」が決まるのだ。そこで初めて10万円の広告を打ってみた。すると・・・いきなり2週間で50万円の売り上げが立った。広告の威力を知った岸本氏はさらに広告を打った。時には100万円使ったこともある。
ただ一つこだわったことがあるという。それは「適正価格」を貫いたこと。品質に自信があるからこそ出来たといえる。それが結果的にお客様の信頼を勝ち取ることにつながる、そう信じてやってきた。そしてついに「お菓子・スイーツ部門」で「総合ランキング1位」を獲得した。
今岸本氏が取り組んでいるのは、同業のお菓子、食品メーカーとの健康に特化したコラボ商品を神林堂が出店する大手ECサイトで販売することだ。1からネットで売りはじめるより、総合ランキング1位の神林堂のサイトで売る方がはるかに効率がいいのは明らかだ。というか、今から出店すると、どうしても何千ページも後ろからのスタートになるので神林堂のランクにたどり着くことは不可能、と岸本氏は断じる。
「今僕がやってる取り組みが、うちのページ、使ってくださいと同業者に言うことです。1から出店しても、絶対1位は取れないですよ、うちとコラボしてうちで売って、リアルでも売りはったらどうや、と話してます。」
神林堂のサイトでも売れ、かつリアル店舗でも「大手ECサイト1位」と書いて商品を売ることが出来るのは大きなメリットだ。神林堂には手数料収入が入る。
これからも大手ECサイトで様々なコラボ商品を開発し販売を伸ばしていく、と意気込む岸本氏。通販部門での詳細なデータ分析によると今の年商を20倍にまで増やすことは理論上可能だという。もはやお菓子の製造というより、お菓子の企画・宣伝・販売まですべて行うコンサルティング会社か商社の様相を呈している。
大きく業容を変えて成長し続ける神林堂。それでも先祖への感謝の念は忘れていない。
「堂々と創業明治13年と安心感を謳わせていただけていることには非常に感謝してますね。創業139年企業であるということですよね。」
岸本氏はそう語ったが、その目は未来しか見ていない。きっと10年、20年先を今も俯瞰して見ているのだろう。
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