インボイス制度導入でどうなる? 税務調査の方針と留意すべきポイント
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埼玉県春日部市で米菓を中心に、お菓子の製造・販売を手掛ける三州製菓株式会社。オリジナリティ溢れる新商品を次々に開発するほか、時代に先駆けて働き方改革を進めてきた2代目代表取締役社長斉之平伸一氏に話を聞いた。
創業当初から、オリジナリティにこだわってきた三州製菓。他では作れないお菓子を作るため、製造機械は内製化、他社とのスピーディーな共同開発でヒット商品をとばしまくっているという。
そんな老舗お菓子メーカーの創業家2代目と聞き、どんな社長が登場するのだろう、とわくわくしながら待っていたら、意外にも現れたのは物静かな紳士だった。
2020年は新型コロナの影響を受けなかった企業は無いに等しいだろう。三州製菓とてその例外ではないはず。しかし、斉之平氏は「ピンチをチャンスに変える前向きの姿勢が大切」と言う。
今年7月には、「デュラム・セモリナ」小麦粉100%使用の本格パスタ生地をフライした新感覚菓子『ネジ∞ネジ おいしさギュッ!とフライドパスタスナック』(「旨味トマト味」と「香ばしえび塩味」の2種類)を全国のスーパー・ドラッグストアにて発売した。試食したが確かにこれは新感覚スナック。左党の筆者も手が止まらない。
写真)『ネジ∞ネジ おいしさギュッ!とフライドパスタスナック』「旨味トマト味」
出典)三州製菓
コロナ禍の中、どうしてこんな新商品が開発出来るのか。まずはその質問からぶつけてみた。
新型コロナウイルスによって食品製造業は軒並み大きな打撃を受けたはず。コロナ禍が起こる前、小売店での店頭販売が順調だったという三州製菓の場合はどうだったのか。
「一番大変だったのは緊急事態宣言の時。スーパーマーケットを除いて大型ショッピング施設やデパートが全て閉鎖してしまったのは大きな痛手だった」と振り返る。つまり瞬間的に販路が消えたのだ。
想像するにかなりの窮地だったろう。しかし、斉之平氏は動じなかった。
「全国スーパーマーケット協会の機関紙に自社の製品を取り上げた記事を掲載してもらった。さらにスーパーマーケットを紹介してもらうことで販路を拡大させた。コロナ禍で厳しい状況の中、新しい顧客を開拓し、ネット通販も一生懸命やろうということになった」
つまり、自ら陣頭指揮を執って販路拡大に乗り出したのだ。この機動力はどうだ。
結果、インターネット通販の売り上げが一気に伸びた。
ピンチをチャンスに変えた。そう言うのは簡単だ。しかし、実行するのが簡単でないことは容易に分かる。
コロナによる業績への影響について斉之平氏は「回復に時間はかかる。しかし、コロナによる影響は一過性のものだ」と動じない。
それにはわけがある。
「40歳の時に社長に就任して今72歳。32年間社長を務めている。その間にリーマンショックがあり、東日本大震災があった。そういうものを経験しているから、景気後退が来てもどうすべきか分かっている」
経験が長ければいいのか。とはいえないだろう。それは次の言葉を聞いてわかった。
「一時的な問題と構造的な問題を見極めないといけない。ビジネスモデルさえしっかりしていれば、景気の波が来てもそれを乗り越えられる」
好調な企業ほど成功体験から脱却できず、結果、凋落する例は枚挙にいとまが無い。経営者として求められるのは、目の前の困難な局面をどう捉え、どう評価するか、その「眼力」だろう。
先に紹介したスナック菓子だけはない。三州製菓の真骨頂はその商品開発力にある。一言でいえば、「機動的な共同開発」だ。
「共同開発は三州製菓の基本方針だ。メーカーだけで開発すると消費者ニーズから遊離したものになってしまう。だから、マーケット志向でかつ、消費者の視点でモノを見ることを大事にしている」
つまり、徹底して消費者目線なのだ。聞けば斉之平氏、時間があればお菓子売り場をそぞろ歩くのが趣味だとか。さもありなん。どんなお菓子やスナックが今人気なのか、どんな味がいま消費者に好まれているのか・・・自分の目で見ないと気が済まない。それがヒット商品を生む原動力となっているとみた。
そして三州製菓は品質管理に関しても業界の最先端を走っている。第69回埼玉県食品衛生表彰式で、埼玉県知事から表彰を受けたことで実証済み。事実、その取り組みは徹底している。
「不正表示や品質不良による回収はこれまで一度もない。製造現場から販売に至るまで、そしてパートナーを含め、全員が品質管理の重要性を理解している」
これまた言うは易く行うは難し、だ。工業製品並みに品質管理を徹底しているところは、斉之平氏が品質マネジメントシステムで知られるパナソニック出身ならではではないか。
様々なヒット商品の開発の裏には同社の女性社員の存在がある。
「男女共同参画社会づくり功労者」として内閣総理大臣から表彰されるなど、三州製菓は働き方改革の最先端を走る。斉之平氏が働き方改革に乗り出したきっかけを聞くと、教育現場と職場における女性活躍のギャップだった、と意外な答えが返ってきた。
埼玉県教育委員会の活動に携わり様々な学校を視察した斉之平氏。教育現場のおける女子生徒の活躍ぶりを目の当たりにした。
「高校に行くと成績は女子生徒の方が男子生徒より上。生徒会などの課外活動もしっかり取り組んでいるし、私が話をしている時一番前に座って、熱心に聞いているのは女子生徒だった」
三州製菓でもかつては、男女差別が色濃く残っていたという。男性社員には大事な仕事を任せる一方、女性社員は同じ学歴でもタイプ打ち、コピー取りなどの単純作業ばかりをさせられていた。「女性はどうせ辞めるから教育しても無駄だ」とばかり、女性社員への教育はほとんどされていなかった。
「世界でも最高レベルの教育を受けているにもかかわらず、女性が職場で活躍できないのはもったいない。もっと活躍してもらいたい」という強い思いが斉之平氏を突き動かした。
社長就任後、斉之平氏は社内に新たな委員会を作って男女共同参画を推進した。「出産育児を経ても、キャリアを継続させるためにはどうしたら良いのか」社員で知恵を出し合い、議論を重ねた。
「例えば、子供の具合が悪いときにすぐ帰れる体制を取るために『一人三役』という制度を始めた。1人がメインの仕事以外に2つ応援ができるレベルのスキルを担うことで、何かあった時に他の人がカバーすることができる」
三州製菓が生み出したこの『一人三役』制度は、埼玉県内の他の企業でも次々と広がった。こうした働き方改革によって、女性社員の活躍の場が広がったことは会社に大きな利益をもたらした。例えば、ヒット商品「パスタスナック」は女性社員が中心となって企画したものだ。
「うちにお菓子を買いに来る90%以上は女性。企画会議の際は、女性が発言をしやすい様に男性は沈黙する『発言禁止タイム』を設けて、商品や味について女性が自由に意見できる時間を作っていた」
現在、三州製菓での管理職の女性比率は41%を誇る。全国平均が1割程度に留まっているのに比べれば、驚異的な高さだ。
事業承継を行う際に、後継者に残したい最も重要なものは何か。
「財産は使えばなくなる。しかし、経営の知恵は使えば使うほど、磨かれて深まる」
斉之平氏はそう断言する。既に後継は身内に決めている。幼少のころから、「社長になる!」と言っていたこと、実際に会社に入ってその能力を評価したからだという。
斉之平氏が特に大事にしているのが、埼玉県深谷市出身、近代日本経済の父とも呼ばれる、渋沢栄一の「義理両全」という言葉。通された部屋にも渋沢栄一の言葉が額に入れられて壁に掛かっていた。
「どんな時にも、社会貢献と事業の利益の両方を全うする」という考え方だ。
渋沢栄一は様々な事業を手がける傍ら、生活困窮者への支援に熱心に取り組んでいた。斉之平氏もこれに習って、会社経営を行う傍ら児童養護施設の運営に関わっている。約150人の子どもたちと、85人くらいの職員。24時間365日正月も含めてお世話をしているという。
「利益だけを追求すると世界にとって、無くてもいい企業になってしまう。私も渋沢栄一のように社会貢献と事業の両方に取り組んでいきたい」
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