インボイス制度導入でどうなる? 税務調査の方針と留意すべきポイント
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中小企業が直面しているリスクに「景気の腰折れ」があります。緩やかな景気回復が続く日本経済ですが、来年2019年10月の消費増税、2020年にはオリンピックが控えます。エコノミスト高橋進氏に話を聞きました。
(聞き手: 安倍宏行 ジャーナリスト ”Japan In-depth”編集長)
安倍:アベノミクスもそろそろ6年目に入ります。景気の循環理論からいけば、そろそろ効果が剥落してきてもおかしくないと思います。特に2019年、オリンピックの前から景気後退局面が来るのではないかという見通しもありますが。
高橋:そもそも今回の景気を循環だけで考えていいのでしょうか。今回、息の長い景気回復で非常にゆっくり回復しています。だから加熱もしない代わりに落ちないということなんだろうと思います。そういう意味で循環的にもうそろそろという考え方がいいのか疑問があります。
安倍政権が出来た時はデフレ脱却と経済再生の2つ掲げてやってきて、今デフレはまだ脱却できていませんが、景気はそんなに落ち込まないようになってきました。したがって循環的に落ちるんじゃないかということをそんなに懸念する必要はないのではないでしょうか。
ただ、過去安倍政権丸5年以上やってきて一つはっきりしているのは、消費税の引き上げで景気が相当悪くなったということです。これは間違いありません。今回もオリンピックの前に消費税の引き上げが予定されているのでその時が一つ危ないですね。もう一つはオリンピックの年は、インフラ建設の需要がオリンピックの手前で終わりますが、インバウンドだとか観光収入が膨らむので(よいとして)、むしろ怖いのはオリンピック後ではないかと思います。
そういう意味で言うと19年、20年と消費税引き上げによるマイナスがあります。一方で、20年はオリンピックによるプラス効果があるもの、21年になるとそれが剥落してきます。日本は先進国型のオリンピックなので、ブラジルみたいに新興国の国威発揚型のオリンピックではありません。ですから、オリンピックの後にドンと景気が落ち込むということはないと思いますが、それでもやはり需要が剥げる危険性はあります。安倍政権としては、これから2、3年の景気変動をどうならすかを十分意識してやっています。景気腰折れということは私はないと思います。
安倍:そういう中で政府が「Society5.0(ソサエティ5.0)」というのを提唱しています。財界トップも非常に期待感を示して、戦略分野の集中と選択と言っています。その点は高橋さんどのように考えてらっしゃいますか。
高橋:特定の産業だとか事業分野が非常に有望だから戦略的に育成するという話は昔からあると思いますが、今進行しているITとかAI革命というのは必ずしもそうではなくて、日本の製造業、あるいは産業全体の構造をガラッと変えてしまう、あるいは就業構造まで変えてしまう流れではないでしょうか。
これは決して日本だけで起きていることではなく、世界中で起きつつあることだと思います。新しいITやAIの技術とビックデータが組み合わさることによって新しい分野が生まれてきます。それは必ずしも既存の産業と全く一緒ではありません。例えば、既存の運転技術にIT、AIの技術と地形などのビッグデータを組み合わせて自動運転ができますね。でも自動運転の仕組みなり活動を支えるのは誰かと言うと自動車会社に限らないわけです。電気自動車になればますます他の産業が参入してくる可能性があります。もっと切羽詰まったところで言うと、フィンテックですね。従来は資金のやり取りは銀行がやっていたことですが、これからはスマホ1台あれば誰でもできてしまう。IT、AIが進んでいくと、既存の縦割りの産業構造が全部壊れていって、横串を刺したような産業が生まれてきます。
既にAmazonやGoogleをみていると、彼らはどんな業種に分類すべきなのかわかりません。Amazonは確かに流通を担っているかもしれません。では小売業だけなのかというと必ずしもそうではありません。卸でもない、物流でもない、一方では膨大に持っているコンピュータシステムを使ってクラウドビジネスもやっています。そうすると情報処理産業なのか。結局、AmazonやGoogleは既存の産業の縦割りの枠に入れることはできないですよね。
結局、顧客と結ぶサービスのプラットフォームを持っている人たちがいろんな業種を握る構造になっていくと、既存の産業構造だとか、就業構造を前提にしてモノを考えても始まらないのではないでしょうか。したがって私は戦略的に重要な分野ということではなくて、新しい流れを日本の強みがある産業全てに適用していくことが”Society 5.0”であると思います。だから全ての分野でそれができないと勝てないのではないでしょうか。逆に言うと、全ての分野にチャンスがあります。
安倍:そうですね。チャンスがあるし、チャンスを生かさなければならないですね。
高橋:もともとネットのデータを集めるのに非常に強いGoogleやAmazonがどんどん大きくなっているから日本の産業は相当危機感を持っています。一方で日本とドイツの産業の強みは、製造業の現場にネットには載っていない大量のデータが蓄えられていることです。あるいはそこで働いている人たちの頭の中にいろんな知識や知恵、ノウハウが詰まっています。その情報をITとかAIでデータ化してそれを基にして競争力をつけていけば対抗できます。日本とドイツはもともと製造業の現場が非常に強いのでそこを上手く生かせれば、まだまだ世界で競争できます。必ずしもAmazonやGoogleに負けるわけではないと思います。
象徴的に言われることですが、世界で工場の中で働いている人はワーカーだが、日本やドイツで現場で働いている人たちはワーカーというよりはむしろエンジニアです。一人ひとりがどうやって付加価値をつけるかとか、どうやって改善していくかということを考えながら仕事をしてきました。そういう人たちにIT武装させれば、日本は勝てるのではないでしょうか。ですから日本は製造業をまだ捨ててはいけないわけで、戦略分野として考えなくてはいけません。
そうは言ってもIT、AIが進んでいくと非常にビジネスとして大きくなるだろうといわれている分野が実はいくつかあります。それが医療とか介護、あるいはバイオなんかの創薬の分野です。日本は高齢化社会と言われているが実は高齢化に関わるデータが沢山あるしこれからも蓄積されていくので、このデータを上手く使ってAI技術を活用できれば、まさに日本の将来の戦略分野になっていくのではないかと私は思います。
B to Cだけで言うとかなり遅れている部分はあるかもしれません。しかし例えば、B to B。製造業だとか企業同士の取引には ネットには載っていないデータや情報が沢山詰まっているわけです。そこをIoT化してちゃんと繋げていければ、まだまだ日本にも勝機はあります。
安倍:結局、情報ですよね。ビッグデータを処理して新たな、付加価値があるサービスを生み出していけるかということなんですね。
その2に続く
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