インボイス制度導入でどうなる? 税務調査の方針と留意すべきポイント
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今回話を聞いたのは、株式会社三菱総合研究所理事長・小宮山宏氏。東京大学第28代総長、科学技術振興機構低炭素社会戦略センター長、プラチナ構想ネットワーク会長などの経歴を持つ。「激変の時代」に起こすべき変革を語った。
「今から2050年」までを「激変の時代」と位置付ける小宮山氏。人々の価値観と産業構造が大きく変化していると説明した。
まず、人々の価値観の変化として、「モノを欲する時代の終わり」を指摘した。モノを欲する時代は、自動車の保有が飽和状態に達した頃、すでに終わったという。労働力の機械化による労働時間の減少や、健康寿命の増進により、「人間は自由な時間を得る」。「どうやって楽しみつつ生きていくかという、ギリシャの貴族(の時代)に戻る」。
つまり、人々は「自己実現」により価値を置くようになるという。「健康や安全などが新たな価値となる。自動車を持ちたいという話から、よりクオリティーの高いもの。自己実現を助けるようなビジネスがこれから必要になってくる」。
中小企業にとって産業構造の変化は最大の関心事だろう。
小宮山氏は、戦後に日本経済を支えてきた、“大企業に中小下請け企業が連なる構造”の終焉を指摘する。再生可能エネルギーが主力となり、車も建物もスクラップとして再利用されるようになって、化石資源や金属資源は座礁資産(編集部注:Stranded Asset=市場環境や社会環境が激変することにより、価値が大きく毀損する資産のこと)となる。既存の事業形態は成り立たなくなるというのだ。
では、この変化の波を乗り越え新しい時代に適合する、新しいビジネスとは何か。
小宮山氏は、激変の時代にも変わらない価値があると指摘する。それは「生物資源」、例えば「食物」や「木材」だ。そこで小宮山氏は、「近代林業」「木造都市」「バイオマス」をキーワードに、森林開発に注目している。
これまで林業は死にゆく産業と見られてきた。しかし、小宮山氏の考えは明快だ。
「林業が現状のままでは、日本は3分の2の土地を捨てることになる」
確かに日本の国土のほとんどは森林だ。
小宮山氏は、森林をうまく活用すれば「自然を維持しつつ、生物資源を自給することが十分可能」だという。
現在、林業が停滞産業であることは事実だ。「伐採したら新たに植林するわけだが、植える苗木がない」。需要が少なく、生産に利益が見込めないからだ。そこで小宮山氏らは、苗木の工場建設に動いた。現在、住友林業が拠出した工場設備とノウハウをもとに、地元の人たちが苗木の生産にあたっているという。将来的には、苗木の植え付けにドローンを活用する技術なども導入される見通しだという。林業にもDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が来た、ということだ。
伐採した木のうち、材木として取引されるのは一部だ。残りは木質チップとしてバイオマス燃料となる。高値で売れるのはもちろん材木だ。しかし、良質な木材ばかりの土地を選んで買わずとも、大規模化と効率的な資源運用によって十分収益性を高めることができると小宮山氏は言う。比較的安価な雑木林から燃料となる木質チップを製造すれば、灯油と同程度の価格評価ができる。つまり、十分ビジネスとしてペイする、という考え方だ。
とはいえ、森林は所有者の権利関係が複雑で、そう簡単に開発できないという問題が指摘されてきたはず。
小宮山氏はこの問題にも解決の糸口が見えてきたと指摘する。土地の「虫食い」の問題が法律的に解決したからだ。「虫食い」とは、持ち主が不明なため木を伐採できない土地のことだ。2018年、農林水産省林野庁が森林経営管理法(森林経営管理制度)を整備し、伐採権と所有権を分離したことで、先が見えてきたのだ。
小宮山氏の森林開発構想の特徴は、収益性だけではない。木材の持続可能な活用という長期的計画である点だ。小宮山氏は「いま一番リサイクルされやすいのは家の材木」と見る。
2019年に改正建築基準法が施行され、防火規制が緩和・合理化され、木造建築建設の機運が高まった。
「国産材が今の4倍くらいの生産量になって、4階建てくらいまでの建物を木造化し、50年サイクルで新しい木に入れ替える。古い木はバイオマスとして利用すればいい」
木材は光合成で大気中のCO2を炭素の形で固定している。 そのため、木材は「炭素の貯蔵庫」とも呼ばれている。
伐採した木が50年間は炭素を固定し、最終的に全部バイオマスとして利用されるという循環型社会を作りたいと小宮山氏。
「これが実現すれば今の日本のCO2発生量の7%を毎年減らすことができる」。
まさに「カーボンニュートラル」を目指す我が国の方向性に合致することになる。
小宮山氏は、(石炭・石油・天然ガスや鉄鉱石などの)地下資源を利用していた人間の活動や経済が変わり、それに応じて地方も中小企業も変わらざるをえない、と語る。
では、どのように変わっていくべきなのか。
「自分の地域・自分の足元にもっとフォーカスすることと多様性がカギとなる」
江戸時代や明治時代は、「江戸(東京)に出て頑張りなさい、故郷のことは気にしなくていいんだよ」と親は言ってきた。しかし、その時代は終わった。
「まだ意識としては変わっていないのではないか。今でも極端な一極集中で、東京ばかりが良くなっている。しかし、『素敵な田舎』は、ある。あるということは作れるということだ」。
田舎の『素敵さ』は、魅力ある人、豊かな自然だ。田舎が変革をとげるためには、硬直した関係性や考え方を打ち砕く必要がある。
その為には「よそ者、若者、馬鹿者」が必要だと小宮山氏は説く。
「よそ者が入ることが重要だ。そのためにはビジネスを作らないといけない。だから中小企業が重要なのだ」。
地方創生のための新しいビジネスとは何か。「結局、再生可能エネルギー、近代一次産業、観光、人財養成の教育、健康、そしてこれらのためのインフラだろう」。
そこで小宮山氏ら三菱総合研究所が提案するのが「逆参勤交代」だ。
逆参勤交代とは、都市部企業の社員が地方で期間限定型リモートワークを行い、働き方改革と地方創生の同時実現を目指す構想だ。
個人のワークライフバランス、企業の健康経営、地方創生のローカルイノベーション・ビジネス、人材育成、シニア社員のセカンドキャリア、そして地方での担い手と関係人口の増加、ミニオフィスや住宅需要といった社員・企業・公共の三方一両得をもたらすことが期待される。
(引用:三菱総合研究所 プラチナ社会研究会「逆参勤交代構想」)
この構想を実現すれば、人材と地方の間に「ウィン・ウィン」の関係が築けるという。
まず、人材の「働き方」に関する志向にマッチする。
小宮山氏は、参加者に若者が多いことに驚いたという。若者が東京を離れて働くことを好むのは、新型コロナウイルスに影響を受けたばかりではない。生活実感に基づく課題認識・解決の力を身につけられるという、プロジェクトの魅力が大きな理由の一つであろう。
「若者は確かに安定志向だけれど、就職を考えるときの最大の関心事として、仕事をさせてもらえるところ、仕事をすれば自分に何かが身に付くところに人気がある。お茶汲みみたいな下積みをやらせないということだ。若者は人生100年時代に大企業に勤めても、安定なんかしないとわかっている」。
コロナに始まり、コロナに明け暮れた2020年。小宮山氏の話は多くの示唆に富んでいる。
2021年は、中小企業にとって新たなチャレンジの年になる。
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