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経営のヒント

日本の製造業を変える原動力に

「一般社団法人ものづくりなでしこ」

渡邊弘子 代表理事

  • 製造業
  • 女性経営者
  • 後継者
  • 相続

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日本全国のものづくり産業の経営を担う女性たちとそれを目指す女性が、日々互いに研鑽しながらものづくりの未来について考え、実行していくことを目的とする団体があるという。「一般社団法人ものづくりなでしこ」(以下、「ものづくりなでしこ」)がそれだ。

女性の柔軟な発想を活用した販売戦略や広報など、様々な視点からものづくり界の発展に尽くすという理念を打ち出している。同法人の代表理事 渡邊弘子 氏に話を聞いた。


設立のきっかけ

渡邊氏は最初アパレルメーカーに勤務していたが、後に父が創業した富士電子工業株式会社(大阪府八尾市)に入社し、一営業マンとして勤め始め、2008年には同社の社長に就任した。リーマンショックが起きるわずか数か月前だ。主な事業は、高周波誘導加熱(IH)を利用した熱処理設備の製造販売。2016年に経済産業省の「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選定されている。

そもそも、日本における女性経営者の比率は極端に少ない。全国116万社を対象にした調査だと、2020年4月時点でわずか8%帝国データバンク調べ)しかいない。製造業はさらに少ない5.3%で、下から数えて2番目だ。


そうした中生まれた「ものづくりなでしこ」の設立は2012年。女性経営者たちをグループ化したら、面白い化学反応が起きるのでは、と考えた経済産業省の女性官僚から声をかけられたことがきっかけだった。最初は12,3人の女性社長と社長を目指す女性が集まった。

「なでしこ」というネーミングは、当時、社会を熱狂の渦に巻き込んだ女子サッカー日本代表「なでしこジャパン」から取った。ものづくり界の女子日本代表を志したわけだ。


「でも、女性社長は圧倒的に少なくて、100人社長がいたら女性は1人いるかいないか。ですから女性社長を集めても大した数にはならないのです」

ある時、製造業の社長が「俺、この活動応援するから!」と言ってくれた。その社長は自分の名刺に「ものづくりなでしこサポーター」という肩書きも入れていた。


こうした応援団=サポーターに声をかけたら人の輪が広がってちゃんとした組織になるのでは、と思うに至った渡邊氏。現在の組織を作った。「なでしこ会員」は既に経営者になっている人。そして、「BOURGEON(ブルジェオン)会員」。ブルジェオンとはフランス語で「つぼみ」を意味し、これから経営者を目指す人たちだ。この2つの会員は全て女性のみ。そして、3つ目が「サポーター会員」である。ものづくりなでしこの活動に共鳴した人々だ。法人会員と個人会員がおり、全部合わせて現在約180名にまで増えた。応援してくれる経営者の中には、娘を後継者に、と考える人も出てきたという。


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(エヌエヌ生命保険本社にて撮影)

もともと女性社長候補を応援する目的で生まれた「ものづくりなでしこ」。この5年でブルジェオン会員から6人の社長が誕生した。


「みなさんファミリービジネスですが、娘さんの承継が早まりました。『ものづくりなでしこ』にこんな先輩たちがいるのなら(娘も)安心だ、と先代が思って下さったようで」

「私たちの世代は苦しい思いをしてきた人が多いのです。その苦労を飛び越えることができるように支援したいと思ってやってきたので、少しは彼女たちの背中を押せたのかな」

「ものづくりなでしこ」には様々な業種から会員が参加している。彼ら男性社長の意識も徐々に変化してきている。


「うちの姪っこもいけるんじゃないか」とか、「娘の方が経営に向いているかもな」そんなことをおっしゃる社長さんも増えてきました、と渡邊氏。「ものづくりなでしこ」はその目的を着実に達成し始めている。

「ものづくりなでしこ」の活動

この5年、渡邊代表理事は、工場見学会や勉強会の開催に力を入れてきた。「ものづくりなでしこ」の見学会は受け入れ先にも大人気だ。何しろ大挙して女性社長が訪ねてくるのだからインパクトは大だ。

 

「質問も技術的な工程についてとか、専門的なものが多く、先方も結構おもしろがってくれますね」

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(エヌエヌ生命保険本社にて撮影)

勉強会では、ICT化やBCP(事業継続計画)をどうするのか、といった実務的な問題を学んでいるという。サポーター会員には税理士、弁護士、司法書士らがいるので、彼らが講師になってくれるのはありがたい。

 

今日のコロナ禍において、ほとんどの企業は大きなダメージを受けた。

「ものづくりなでしこ」は会員企業にどのようなアドバイスをしてきたのか?

 

下請け企業の場合は、親会社やお客さまとの価格交渉の仕方などを伝授したという。また、秘密保持契約書の作り方など、基本的な実務のアドバイスをすることもある。経済産業省や内閣府、厚労省とネットワークがあるのも強みだ。知財の問題、下請法関連などで知恵を借りることができる。

 

一方、子どもがいる女性社長は、妻も母も経営者もやらなくては、というプレッシャーに晒されている。「ものづくりなでしこ」では先輩社長が、「なんでもかんでも抱えこんだらつぶれてしまうよ。お金で解決できることはそうしたらいい」と若手に話している。心理的なハードルを取り去ってあげるわけだ。実はそうしたアドバイスがなにより重要なのではないだろうか。

富士電子工業の社長として

渡邊氏の事業についても聞いた。コロナ禍の以前から富士電子工業は、IoTを活用した「予防保全」を収益の柱に育てている。取引先企業に納入した設備の「異常発生の傾向を掴む」ビジネスモデルだ。温度や電流値の傾向から、異常が起きるかどうか事前にわかる。ラインが止まるような大きなトラブルになる前に設備更新の提案などが出来るわけだ。こちらとしても急なトラブルで土日や深夜に修理に行かずともすむ。

 

また、コロナ禍でスローダウンしている生産ラインの更新提案も再開したいと渡邊氏は意気込む。材料から製造までトータルで設備を入れ替えれば、大幅なコストダウンと生産性向上が図れる、と売り込むのだ。富士電子工業としても収益性が高いビジネスだ。眼はすでにアフターコロナに向いている。

 

不確実性が高まっている時代だからこそ研究開発に力を入れるのが渡邊流だ。現場に足を運び、開発担当の若い社員一人一人に明るくはっぱをかける。その姿を見て、間違いなくこれから製造業を担う女性たちのロールモデルとなるだろうと思った。

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(写真:富士電子工業株式会社本社工場 ⓒ経営ペディア)

事業承継について


中小企業にとって、事業承継はいつの時代も難しい問題だ。儲かっているところにはそれなりの悩みがある。相続税が膨れ上がっているからだ。ほかにも、お金がなくて困っている、お客さまと交渉出来ないで困っている会社もあれば、今の仕事一本で続けていくのは無理だという会社もある。また、事業承継したくても相手がいない、というところもある。

そういう悩みを相談したいとき、「ものづくりなでしこ」のサポーターに、投資関係の会社が入っているのは会員にとって心強い。

 

渡邊氏自身の承継についても聞いた。

 

「息子がやる気になってくれればそれが一番いいのかな、とは思うけれども、親が押し付けるものでもないし・・・」と話す。今は知り合いの製造業の会社の社長さんに預けている。

 

従業員から後継者を選ぶといっても、経営者の目線と彼らのそれは大きく異なる。

 

「経営を面白がれないとやれないと思います。足元だけ見ていてもだめ、ずっと先を見てないと。儲かってなくても投資するとか従業員目線ではできない」

 

と、きっぱり。リーマンショック後、収益が一気に悪化した時に研究開発投資を断行したのは渡邊氏だった。承継問題は今後も渡邊氏にとって課題であり続ける。



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(エヌエヌ生命保険本社にて撮影)



女性が働きやすい職場は「ものづくり」を変える


富士電子工業では、小3以下の子どもがいる人、妊娠中の人、第3親等以内に要介護者がいる人はいつでも30分単位で、遅く来たり、早く帰宅したり、または、中抜けしてもよい、という制度をとっている。その時間分は給料から差し引くが、その都度決まった時間帯の有給休暇を使用せずとも、各自の事情に合わせた働き方が可能だ。実はこの制度を最も多く利用したのは男性社員だ。この制度が発足してから離職する人はいなくなったという。大企業にはない発想だ。働き方を柔軟にすることがいかに大事かわかる。毎月の子ども手当も第1子1万円、第2子1万2千円、第3子以降1万5千円を、子どもが大学生でも大学院生でも、学生である限り出している。

 

女性社長の発想は男性にはないフレキシブルさがある。しかし、フレキシブルであることが、今の時代、「強さ」につながる。「ものづくりなでしこ」は、サポーターを巻き込んで、明日の製造業を担う女性たちの背中を押し続けるだろう。日本の「ものづくり」の火は決して消えない。そんな思いを抱いて、大阪・八尾市の富士電子工業を後にした。


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(エヌエヌ生命保険本社にて撮影)





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