インボイス制度導入でどうなる? 税務調査の方針と留意すべきポイント
- 税制・財務
- 専門家に聞く
この記事は6分で読めます
「すみません、おたくの工場の屋根を貸してくれませんか?太陽光パネルをタダで設置します。賃料も払います」
そんなことをいきなり言われたら誰だってびっくりするだろう。しかし、そんなビジネスモデルが今、大きな注目を集めている。
「佐賀県でアフリカの商売しているのは私ぐらいでしょう。いや、多分九州中探しても他にいないかもね」
そう笑うのは株式会社川口スチール工業の3代目社長川口信弘氏。
今回訪問した同社は佐賀県鳥栖市にある。福岡空港から車で高速を使えば30分かからない。ここは元々国鉄(現JR九州)の町。今は物流の要衝だ。大型トラックがひっきりなしに行き交う。
もともと川口スチール工業は金属屋根の設計・施工が本業だった。途中から太陽光発電事業に参入したが、「Luz-Solar(ラズ・ソーラー)」という、超軽量太陽光発電システムを開発してから風向きが変わった。
もともと工場などに多いスレート屋根、折板屋根は重量物を載せることができない。従来型のガラスタイプの太陽電池に比べ、「Luz-Solar」に使われているフィルム型アモルファス太陽電池は厚さで30分の1、質量で6分の1と圧倒的に薄くて軽い。設置後の重量は前者が約20㎏/㎡なのに対し、なんと約9kg/㎡と半分以下、太陽光発電システムを屋根に補強することなく設置が可能になったのだ。
写真)フィルム型アモルファス太陽電池
出典)川口スチール工業
その川口氏が現在力を注いでいるのが、PPA(Power Purchase Agreement)事業だ。電気事業者と発電事業者の間で結ぶ「電力販売契約」のことだ。「第三者保有モデル屋根貸し太陽光事業」と呼ばれるその仕組みは、川口氏が立ち上げた一般社団法人「GOOD ON ROOFS(グッド・オン・ルーフス)」が資本参加した「GOOD ON ROOFSエナジー株式会社」が、太陽光発電設備を無償で設置する代わりに、発電した電気を事業者が購入する、というものである。初期投資や運用負担なしに再生可能エネルギーを使うことができる。
さて本題はここからだ。
実はこの事業の仕組みは、単なる太陽光発電事業のそれではない。背後に「アフリカの電化を推進する」という大きな社会課題があるのだ。
どういうことか。
アフリカの人口合計は10億7800万人(2018年)、しかし、電化率平均は約25%にとどまる(2016年)。川口氏は、実際の感覚は10%以下だと言う。
協賛企業(屋根のオーナー)は、屋根貸しで受け取る賃料や売電収入の一部を一般社団法人「GOOD ON ROOFS」に寄付する。そのお金はアフリカの国々の学校の屋根の太陽光パネル設置に使われ、夜間の教室を照らし、子どもたちの学習時間を創る。さらには、充電式ランタンに蓄電し、自宅に持ち帰ることも計画している。電気が通ってない自宅に明かりをともすことが、子どもたちにとって学校に通うインセンティブになる。素晴らしい仕組みではないか。
図)「GOOD ON ROOFS」のミッションは「日本国内での再生可能エネルギー普及とアフリカなど途上国の電化率向上に貢献する事を目指すこと」だ。
出典)「GOOD ON ROOFS」
川口氏が何故アフリカに興味を持ち始めたのか。不思議に思う人もいるだろう。話は遡る。
川口氏がまだ中学2年生の時だ。父親にがんが見つかった。家業を継ぐ気はなかったものの、16才でよその会社に弟子入り、23才で家業に戻ってきた。会社は金属屋根の設計施工。ゼネコンのサブコン、下請けをやり、規模はだんだん拡大していった。屋根業界ではそこそこ大きな規模になったが、価格競争が激化。これでは潰れる、と考えた。
そんな時、京都議定書の話をテレビで見た川口氏。「そうか、太陽光発電だ!」そう閃いて再エネ事業に参入することになった。しかし、同社の軽量太陽光発電システムはまだ高額だった。そこで目を付けたのがアジアだ。まずはミャンマー。とあるミャンマー人との出会いでとんとん拍子に話は進んだが、やはり価格がネックに。日本製は高く、競争力がなかった。しかもアジア諸国にはすでに中国企業が進出していた。
そこで諦めないのが氏の真骨頂だ。「アジアがダメなら次はアフリカだ!」ウガンダで農業をやっている人と出会う。早速現地に飛ぶ。次はギニア友好協会の人と知り合って、ギニアにも行く。行動力は半端ないのだが、どうもビジネスに結びつかない。普通はここでいい加減諦めるところだろう。
しかし、川口氏は違った。今度はNECの元アフリカ部長と出会う。この人が、アフリカ協会の会長で元国連政府代表部大使の大島賢三氏を紹介してくれた。ちなみにこの大島氏は現在一般社団法人「GOOD ON ROOFS」の代表理事になっている。
そしてついに、ナイジェリアで日本国政府のODA(政府開発援助)が決まった。ここから潮目が変わる。次から次へとアフリカ各国から問い合わせが来るようになった。しかし、ここで考えた。政府頼みだとスピード感が出ない。民間の仕組みでどうにかできないか・・・
日本の企業は今、CSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)活動を推進しようとしている。企業が、社会課題に取り組むことで社会的価値を創造し、その結果、経済的な価値も創造する、このトレンドをつかもう!そう気づいた川口氏。
「日本国内で発電した電気で得た利益をアフリカに持っていく。つまり、民間企業のお金を持ち込み、外務省のODAでレバレッジをきかせて、10倍くらいの規模にして事業がやれないかと考えました」
そして、「GOOD ON ROOFS」が誕生した。今年で3年目に入る。プロジェクトは着々と進化を続けている。その概要を紹介しよう。
Basic Plan
太陽光パネルや電灯などを寄付し、学校の電化を行う。
Development Plan1
太陽光パネルやバッテリー、USBハブや充電式ランタンを寄付し、学校を充電ステーションにする。
Development Plan2
太陽光パネルやバッテリー、リースアップした中古の電子黒板を寄付し、動画や通信を活用して質の高い教育を提供する。
実に練りに練られた仕組みではないか。
今や、民間、学者、元官僚、そうそうたるメンバーが「GOOD ON ROOFS」の中に入り、プロジェクトを応援している。どの人も川口氏の情熱に打たれて参画したものだ。
今や、企業はSDG(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)経営を求められる時代になった。「GOOD ON ROOFS」の提唱する仕組みは、多くの企業にとって魅力的なものに映るに違いない。
日本のお金がアフリカの電化に使われる。一昔前だったら奇想天外だと思われたアイデアが、今ものすごいスピードで動き始めている。
「ちょっと屋根のぼってみます?」自社工場の屋根に誘われて我々も上った。そこにはさらなる性能を求めて実験中の新型太陽電池がずらっと並んでいた。
「屋根を借りて電気をつくり、途上国にもあかりをともす」
「この『SDGsアクションブック さが』という小冊子に『GOOD ON ROOFS』のプロジェクトが紹介されているんですよ」
川口氏は嬉しそうに笑った。この冊子は、佐賀県の全ての中学・高校に配られているという。
お客さまの声をお聞かせください。
この記事は・・・