インボイス制度導入でどうなる? 税務調査の方針と留意すべきポイント
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SNSを見ていて目に飛び込んできた一本の動画。思わずクリックすると流れてきたものは、なんと「事業承継」に関するラップ動画だった。制作は「独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)」(注1)。お堅い組織にしては随分思い切ったPR施策ではないか。
(出典)事業引き継ぎポータルサイト スペシャルムービー「ヒキツGO!」
中小機構とは、経済産業省中小企業庁が所管しており、中小企業の支援全般を行う政策実施機関。取材班は早速、担当者に話を聞きに向かった。 迎えてくれたのは中小機構の事業承継・引継ぎ支援センター企画役有木克昌さん。早速、ラップ動画制作の背景を聞いた。
(聞き手: 安倍宏行 ジャーナリスト ”Japan In-depth”編集長)
「今、機構全体が動画を使って広く知ってもらおうと話しており、海外展開など動画を通じて配信しています。そもそもは理事長から『380万人の経営者の方に中小機構の名前は本当に知られているのか?』との問題提起があったのです。」
「今はネットで拡散する時代。60歳とか70歳の経営者もそうですが、その方たちの家族や若い方が動画を見ますよね。事業承継とか海外展開とかに関する私たちの動画を見て子どもたちがお父さんに話すと思うのです。将来、事業を承継する若い世代にもアプローチをしていくべきではないか、と言うことで動画を取り入れました。」
でも、何故ラップ?
「普通の動画を流しても仕方がない、”突き抜けるようなもの”を作ったらどうか、ということでこれになりました。」
中小企業経営者の高齢化は深刻だ。中小企業経営者の年齢分布を見てみると、年々高齢化しているのがよくわかる。(図1)今後10年の間に約245万人が70歳を超える。そしてそのうちの127万人が後継者未定だという。
(図1)中小企業の経営者年齢の分布
(出典)平成28年度 (株)帝国データバンクの企業概要ファイルを再編加工
この深刻な事態を前に、中小機構はどのような活動をしているのだろうか?
「やはり最後は経営者の方が自ら決めていただかないと、国がいくら施策を打っても効果がありません。ですから、早めに事業承継の必要性に気づいていただくと言う取り組みを行っています。」 中小機構は、「プッシュ型事業承継支援高度化事業」という取り組みを行っている。まずは事業承継の”掘り起こし”をしよう、ということだ。事務局を立てて47都道府県に国の事業として人をつけ、事業承継に悩んでいる高齢の経営者の企業に気づきを与えて、必要であれば専門家が支援をするという取り組みだ。相談件数と成約件数は着実に増えている。(図2・図3)
(図2)相談社数 平成29年度 事業引継ぎ支援センターの実績(全国)
(図3)事業引継ぎ件数 平成29年度 事業引継ぎ支援センターの実績(全国)
(図2,3出典)事業承継に関する最新動向について 平成30年5月(独立行政法人中小企業基盤整備機構 中小企業事業引継ぎ支援全国本部)
「事業承継はあまり表に出して欲しくないと言う方もいらっしゃいます。特にM&Aを考えている場合などは知られたくないのです。誰にも相談できないという人もいますし、自分で抱え込んでしまうケースもあります。」
こうしたことから、中小機構では調査会社が持っているデータで対象となりうる中小企業を選び、ダイレクトメールなどで「事業承継は大丈夫ですか?」と呼びかけているのだという。地道な作業だ。
一方、地元の信用金庫などとの連携もクローズアップされてきているという。ただでさえ人口減少社会である。もし中小企業が廃業すれば、金融機関はさらに顧客を失う。企業の存続は死活問題なのだ。
「地方銀行とか大きなところはやっていますが、最近では地方の信用金庫も事業承継を業務としてやり始めています。地方の金融機関や商工会議所などに事業承継の相談があった時、私どもの税理士や専門家に繋いでくれるよう、PRをしています。」
中小機構が様々な対策を打ち、事業承継の支援を行っていることが分かった。しかし、なにより大切なのは経営者自身の気づきではないだろうか。
注1)独立行政法人中小企業基盤整備機構
中小企業総合事業団、地域振興整備公団、産業基盤整備基金の3特殊法人を統合し、中小企業振興のための施策を総合的に実施する機関として2004年に設立
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