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事業承継における種類株式の上手な活用法

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この記事は5分で読めます

株主が会社に対して求めることは多種多様になってきていますが、種類株式はそれに応えるために活用されています。会社法上、認められている種類株式は9種類ですが、事業承継において活用されることの多い種類株式は、「配当優先株式」「無議決権株式」「拒否権付株式」の3つ。今回は、これら3つの株式を用いてスムーズな事業承継を行う手法を紹介します。

1 株主の多様な要望に応える種類株式

株式は、共益権として議決権を行使し経営に加わる権利と、自益権として得られた剰余金や残余財産の分配を受ける権利の2つに分けられます。会社は、その議決権や剰余金の分配を受ける権利等を株式ごとに取り決めた種類株式を発行することができます。


その会社が普通株式のみ発行している場合、すべての株主は等しく取り扱われます。一方、種類株式発行会社となると、種類株主ごとに取扱いが変わってきます。  株主が会社に対して求めることは多種多様になってきています。会社は、その多様な要望を持つ株主とともに経営を行っていく必要があり、それに応えるべく種類株式が活用されています。  ただし、必要以上に多くの種類の株式を発行すると、事務処理手続きを煩雑にするだけでなく、会社の経営を複雑にし、非効率になってしまいます。そのため種類株式の発行には、弁護士、税理士等の専門家も交えて慎重に話し合う必要があります。

2 種類株式の類型

会社法上、認められている種類株式は、以下の9種類となります(図表1)


これら9種類の株式を組み合わせて、その会社独自の株式を発行することができますから、種類株式の活用により、多くの利害関係者の要望に応えることが可能となります。

図表1

3 事業承継における種類株式の活用法


事業承継において活用されることの多い種類株式は、配当優先株式、無議決権株式、拒否権付株式ではないでしょうか。活用の方法としては、①従業員持株会を運営する場合、②拒否権付株式を利用した株式の移管をする場合などが代表的です。


活用例① 配当優先無議決権株式を活用した従業員持株会の運営

  • ・従業員のモチベーション向上に効果
    中小企業においては、従業員のモチベーション強化のため、従業員持株会の活用がよく行われています。しかし、従業員へ会社の議決権を渡すことに抵抗がある現経営者も多いと思われます。
    このような場合、会社が配当優先株式と無議決権株式を合わせた「配当優先無議決権株式」を発行し、これを従業員持株会に付与することで問題を解決することができます(図表2)。従業員は、議決権はないが優先的に配当を受けることができる株式を保有することができ、モチベーションの向上につながります。
    なお、会社の状況により、現経営者の株式を配当優先無議決権株式に変え、従業員持株会に付与するケースもあります。
  • ・1株あたりの株価が下がることで事業承継にもメリット
     事業承継における効果としては、結果的に1株あたりの株価が下がることが挙げられます。
    株式価額の計算は、会社全体の価値を、普通株式、配当優先無議決権株式を合わせた総発行済株式数で除して、1株あたりの単価を算出することで行います。したがって、発行済株式数が増えれば、その分1株あたりの単価が低くなります。
    事業承継は、議決権のある株式の承継を行えばよく、副次的に、引き継ぐべき株式価値総額が減少し、負担が軽減されることになります。
図表2

活用例② 拒否権付株式を利用した株式の移管

  • 拒否権付株式以外の株式を後継者に渡すケース
    事業承継において、拒否権付株式を発行する事例も多くあります。拒否権付株式を発行することで、たとえば株主総会及び取締役会のすべての決議について、拒否権付株式の株主の意見を最後に確認しないと決議ができないようにすることも可能になります。
    拒否権付株式以外の株式を後継者に渡し、株式の大部分を後継者に移してもなお、会社の実権を現経営者が保有し続けることができます。
  • 民事信託で同様の効果を得るケース
    また、事業承継で拒否権付株式を活用するのと同じように、民事信託の活用により事業承継対応をすることも最近よく見られます。図表3のように、後継者に株式を移管し、後継者が委託者兼受益者になり、現経営者が受託者になる信託契約を結びます。結果、拒否権付株式の場合と同じように、株式の大部分を後継者に移してもなお、会社の実権を現経営者が保持することができます。
  • 株式の価値が上昇する前に後継者へ株式を移管
    これらの場合、株式の価値が上昇する前に後継者へ株式を移管しておくことで、スムーズな事業承継対応を行うことができます。
    なお、拒否権付株式自体の相続時の評価は普通株式の評価と同様となっており、現経営者の相続時まで少数拒否権付株式を保有していたとしても相続税に与える影響は大きくないものと考えられます。 拒否権付株式による事業承継は、普通株式を持っている後継者が会社経営の主導権を握り、現経営者が承認する意味合いで拒否権を持つのに対し、民事信託は普通株式を持っている後継者は経営に関わらず、あくまでも受託者である現経営者が主導となって会社経営を行うことになります。各会社の特徴にあった方法を検討することが大切です。

◇      ◇

上記の例以外でも、種類株式は事業承継だけでなく、さまざまな場面で活用されています。各会社における役員、株主、ステークホルダーの状況によって最善な方法は変わってきます。種類株式を活用する際は、専門家を交えて慎重に、かつ柔軟に検討することをお勧めします。

図表3

山川 直人

著 者
山川 直人(やまかわ なおひと)
税理士
税理士法人 山田&パートナーズ
タックスマネジメント部
シニアマネージャー

新卒として、一般事業会社に営業職として入社する。

その後、税理士法人 山田&パートナーズに入社、法人・資産税第2部に所属。主に、法人税申告業務、個人所得税申告業務、相続税申告業務に従事。

みずほ証券 ウェルスマネジメント部に出向し、富裕層、会社オーナーのコンサルティング業務を担当。

出向後は、タックスマネジメント部に所属し、主に、法人決算サポート、相続対応コンサルティング、事業承継コンサルティング業務を行う。

この記事は、エヌエヌ生命プレミアレポート2019年5月号からの転載です。 この記事に記載されている法令や制度などは2019年4月作成時のものです。

法令・通達等の公表により、将来的には制度の内容が変更となる場合がありますのでご注意ください。

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