インボイス制度導入でどうなる? 税務調査の方針と留意すべきポイント
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中小企業の「社長夫人戦力化」に特化したセミナー「社長夫人経営塾」を主宰して16年。福岡県福岡市の株式会社アローフィールド代表取締役社長の矢野千寿氏は社長夫人こそ会社経営で重要な役割を担うと説く。話を聞くべく福岡へ飛んだ。
(聞き手: 安倍宏行 ジャーナリスト ”Japan In-depth”編集長)
社長夫人経営塾を開設した経緯や女性経営者に指導しようと思い立った動機を早速矢野氏に尋ねた。
矢野氏:昭和62年から平成3年まで4年間、税理士事務所にいました。その後、バブルが崩壊した際にこのままでは中小企業は必ず行き詰まると思いました。売り上げ至上主義の経営が崩れて多くの中小企業は先が見えない状況でした。何とか中小企業を救わねば!と思って、50才目前で独立しました。創業してから10年が経った際に行った講演の中で以下の図を発表しました。「幸せのリンゴの樹」というものです。
図)「幸せのリンゴの樹」
©株式会社アローフィールド
「幸せのリンゴの樹」とは、経営基盤の再構築の体系を示している。樹の幹には「経営理念」と「方針」が描かれており、また地面の下には樹が大きく根っこを張っている。「根っこ」は土壌の中にある「人生理念」、「人材育成」、「制度・管理」、「計数管理」を吸い上げ、それらが木の幹たる「経営理念・方針」の滋養となっていく。そうして初めて樹の枝葉が生い茂るというのだ。「根っこ」があるから「幹」がある。だからこそ、土壌の改善が重要なのだと矢野氏は説く。
矢野氏:誰も着眼しないのですが、しっかりとした根っこが生えていないと良い幹も枝葉も育ちません。多くの社長は攻めることばかり考えていて、根の育つ「土壌」の改良に思いが至っていない。根っこが出来ていないから、何かあるとビル(=会社)はグラグラするのです。
矢野氏は「根っこ」を育てるのは、社長ではなくナンバー2の役目だという。社長補佐のような立ち位置の人がすべきこと、という意味だ。しかしそれだけ優れた人材はそうそういない、と矢野氏は指摘する。だからこそ、人生を共にする社長夫人を経営のパートナーとして育てなければならない、という発想に至ったというのだ。そしてついに平成14年「社長夫人革新講座」を開講した。
では、その「根っこ」の中身を矢野氏に解説してもらおう。
矢野氏:大事なのは「人生理念」です。多くの社長さんは「経営理念」をよく口にされます。しかし、経営理念を話す前に、社長として様々な思いや価値観、使命感があるはずです。それが私の言う「人生理念」です。この「人生理念」と「経営理念」が乖離していると絶対に経営はうまく行きません。社長の個人的価値観、すなわち「人生理念」を「経営理念」にどう繋いでいくかが大事なのです。
その「人生理念」を社長は奥さまと共有するように育成する役割として「社長夫人経営塾」を行っているのだ。では、社長夫人を戦力にするためにどのような指導をしているのだろうか?
矢野氏:まず「社長夫人革新講座」という講座を受けてもらいます。社長夫人が経営面でパートナーになるためには、「人生理念」を共有することが大事だと説きます。そこまで意識のレベルを上げていくことから始まります。社長は「攻めの経営」、社長夫人は「守りの経営」とお互いの役割を明確にすることの重要性を学びます。つまり社長夫人の意識改革と実務能力の向上を図るのです。
社長夫人は、経営を真剣に学ぶことで社長の「奥さん・女房」という意識から脱皮するのだという。組織に生きる人間としての意識が生まれる。すると、社員から存在が認められるようになる。塾の卒業生の成果を矢野氏に披露してもらった。
こうした成功例は枚挙に暇がない。これだけ成果を出しているなら千客万来なのではないだろうか。現状はそう甘くはないようだ。
順調に社長夫人の啓発に邁進しているように見える経営塾。課題はないのだろうか?
矢野氏:セミナーに参加する社長夫人はまだまだ少ないので、正直、人を集めるのが大変です。問題の1つは、元々社長夫人は経営を学ぶ意識がないということがあります。2つ目は、多くの中小企業の社長自身が決算書を正しく読めないケースがあり、結果、どんぶり勘定で経営していることです。そもそも社長夫人を経営のパートナーとして見ていないのです。
そうした中、新たな流れが出てきたと矢野氏は言う。
矢野氏:ある時、売上200億円位の車の部品製造会社の社長夫人が「社長夫人革新講座」に参加されました。全くの専業主婦で決算書も見たことが無かった方だったので、なぜ「社長夫人革新講座」に参加されたのか聞いたところ、実は夫の社長自身に勧められて参加したというのです。以前私が講師として招かれ講演を行った際に、それを聞いてとても感動したとのことでした。今その社長夫人は監査役になり、立派にやっていらっしゃる。今はホールディングスの代表を務めています。
これまでは、男性社長は「うちの家内はそこまで勉強なんかしなくていい」と考える人が多かったが、最近は、男性の意識も少しずつ変わってきたようだ、と矢野氏は言う。「私にも男性の社長さんのファンが増えてきたみたいですね」と笑った。
その上で矢野氏は今後の課題についてこう話した。
矢野氏:社長夫人の役割や存在価値は絶対に大きいはずなのに、男性社会がまだそこを認めようとしていないということでしょうか。社長夫人の存在を認めていない現実があります。
社長夫人にとって勉強する場がない、というのは深刻な問題だろう。夫である社長と考え方が一致しないことから、社長からも社員からも理解されず、社内に居場所がない、と悩んでいる人は多い。 相談する場もない、勉強する場もない。社長夫人をそうした悩みから救いたい、という気持ちが矢野氏を突き動かしている。その答えが「社長夫人革新講座」であり、その卒業生が経営の悩みを解決する為にさらに学び、意見交換する場が「知新塾」だ。
矢野氏:私は男性尊重論者なのですよ。社長夫人を育てるのは社長夫人のためではなく、社長のため。社長のために社長夫人をサポートするのです。社長夫人には、女性の持っているものを最大限に生かしていって欲しい。男性にないものを女性が持っているし、女性にないものを男性がもっている。これはしっかり伝えていきたいです。
男性と女性はお互いの役割がある。夫人の役割がものすごく大事。日本社会は夫人を軽視していると本当に思います。男性には夫人が自分を超えていくことへの怖さがあるのかもしれません。私どもは「経営見える化実践塾」というものも開催していますが、そこには社長も一緒に参加できるようにしています。夫人の価値に気付いてもらうために。
矢野氏は社長夫人の価値を世の中にもっと広めたいと力強く語った。社長夫人を育てることで社長の最大の力強いパートナーが生まれる。そうした信念からだろう。
中小企業を取り巻く環境は決して楽観視できるものではない。そうした中、社長夫人の戦力化の試みは多くの中小企業経営者にとって無視してはいけない重要な経営課題の一つだと感じた。
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