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相続問題にも活用!ADRでの解決具体例:申立て~実際の話し合いまで

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この記事は7分で読めます

中小企業経営においては法律が絡む問題が発生することもあります。そんな法律問題の新しい問題解決の方法を、一般社団法人家族のためのADR推進協会 小泉道子代表理事にシリーズで解説いただきます。


前回のコラムでAさんの事例をご紹介しましたが、様々な理由で紛糾し始めた遺産分割協議は、親族だけで話合いをまとめるのはなかなか難しかったりします。


今回のコラムでは、再度Aさんのご家族に登場していただき、ADRを利用した際の解決の流れを具体的にご紹介したいと思います。

ADRを利用した具体的な解決

1.申立て(申し込み)

顧問弁護士が頭を悩ませて作った分割案でしたが、二男は到底納得できず、家庭裁判所に遺留分減殺請求もしくは遺産分割調停を申し立てることを考えました。


しかし、ネットで色々調べるうちに「ADR(裁判外紛争解手続き)」という制度があることが分かりました。二男は、相続問題を扱っているADR機関に相談に行き、その場で申立書を記載の上、申立料も支払いました。

ADRお勧めポイント1 申立てのハードルが低い

ADRの機関では申立てのハードルを下げるため、申立書に記載しなければならない項目をシンプルにしたり、添付書類を必要最小限にとどめるなど、様々な工夫をしています。

ハードル

二男はとにかく手続きを急いでほしいと担当者に伝えました。二男にしてもこの問題を長引かせることは、父が大切にしていた会社に悪影響を及ぼすことを理解していましたし、そんなことは望んでいなかったからです。


担当者からは「一両日中に相手方にご連絡をいたしますので、こちらから連絡を送る前に、『仲裁を申し込んだので、書類が届くと思います。目を通していただき、是非、応じてほしい。』旨のご連絡をお願いできますか。その方が相手方の受け止めがソフトだと思いますので」と言われました。 二男はこれを聞き、ADRは争いの場でないことを再認識し、相続問題が早期にそして、穏やかに解決されるよう願いました。

ADRお勧めポイント2

裁判所や弁護士からいきなり手紙が届いたとき、どんな気持ちになるか知っていますか。手紙の文面は事務的で冷たいただけでなく、犯罪者にされたような気がしたり、宣戦布告をされているように思ったりします。気持ちはこわばり、食欲もなくなり、何も手につかなくなる、そんなことが起こったりします。


そのため、ADRの各機関では、相手方となる人が穏やかに受け止めてくれるよう様々な工夫をします。事例のように、本人から事前に連絡を入れておいてもらうのも工夫の一つです。

コンタクト

2 ADR機関による相手方への連絡

一方、二男からそのような連絡を受けた顧問弁護士は驚きましたが、「ADRという方法があったか」と眼からウロコの思いでした。そして何より、二男が争いたいわけではないことが伝わってきましたので、長男と相談の上、ADRによる調停を受けることにしました。実は、事業用資産が二男と共有状態になっていることで、会社の運営に支障をきたし始めており、長男としても早期解決の必要があったからです。


しかもADR機関から送られてきた書面をよく読んでみると、平日の夜間や休日の利用も可能と記載されていました。また、出向くことが難しければ、スカイプで話合いに参加してもよいとも書かれていました。

ADRお勧めポイント3 利便性

ADRは、利便性を追求することで、話合いに参加する敷居を下げる努力をしています。そのため、ほとんどのADR機関で夜間や休日の利用が可能なのです。

また、遠方に住んでいる場合のみではなく、忙しくて移動の時間を捻出できない、相手と顔を合わせたくないなど、様々な事情で出向くことができなくても、スカイプやテレビ電話などを利用して話し合うことができます。

利便性

3 相手方からの回答

長男と顧問弁護士はADRには応じるけれども、話合いの期日は休日にしてほしい旨を伝えました。その後、一両日中に話合いの期日が決定しました。二男の申立てから話合いの期日が決まるまでたった2週間しか経過していませんでした。

ADRお勧めポイント4 進行が早い

裁判所での手続きは、何かと長くなりがちです。申立てをしたいけれど、そのための書類集めなどに時間がかかり、やっと申し立てても、そこから初回の期日までさらに時間がかかります。


この点、ADRの手続きは早期解決を目標としていますので、申立てから最初の話合いまでの期間が短くなるように工夫されています。

速度

4 実際の話合い

いよいよ話合いの日がやってきました。長男も二男も一堂に会し、まずは、仲介役に入ってくれる「調停者」から以下のような説明が行われました。「話合いの方法に難しいルールなどはありません。ただ、穏やかに話をするためにも、相手が話しているときは最後まで聞きましょう。」

ADRお勧めポイント5 同席が基本

対立関係にある相手との同席に消極的な人や、言い争いになってしまうのではと懸念される人がいます。しかし、第三者が仲裁として間に入ることで、劇的にその場での関係性が安定します。


また、「相手の話に被せてしゃべらない」という小学生のような約束事一つで、話合いを穏便に進めることもできます。このように調停者は、いろいろな技術やノウハウを駆使し、同席での話合いを上手に進めていきます。

同席

結局、3か月の間に6回の話合いがもたれました。その話合いの中で明らかになったのは、二男の「想い」でした。


二男は父の遺言の内容を聞き、これまでの頑張りが否定されたように感じ、父から見捨てられたような気がしたのでした。


あんなに父や会社のために頑張ってきたのに、大好きな父に認められたくて必死にやってきたのに、父は長男しか必要としなかった。二男はそう受け取ったというのです。


顧問弁護士は、父が二男にも大きな感謝と期待の気持ちを持っていたこと、だからこそ最後までどちらに継がせるかを迷っていたことを知っています。


そのため、顧問弁護士からは、遺言書には書ききれなかった父の思いが伝えられ、また、これから二男にどういう形で経営に加わってほしいかという相談が持ち掛けられました。


こういったやりとりの中で二男は、遺留分にこだわるわけではなく、自分としても会社の運営を第一に考えたいと発言するようになり、最終的には長男が次期経営者として困らないような遺産分割が実現しました。

ADRお勧めポイント6 むやみに争わない

なるべく争いを避け、穏やかな解決を目指すところがADRの最大のお勧めポイントです。対立する当事者双方が、お互いの利益を最大にするために話し合ったとしても、問題は紛糾するばかりです。


ADRでは問題を全体的に捉え、目の前にある問題を解決するべく、双方が話し合うという視点で進められます。もちろん、自分の主張をすることがスタートにはなりますが、その主張に折り合いをつけていく作業がADRなのです。

争わない

まとめ

遺産分割協議の困難さは、財産の額や相続人の人数で決まるものではありません。一番重要なのは「気持ち」や「納得」です。


自分の相続分が他の共同相続人より少なかったとしても、その分割方法が合理的で納得いくものであれば争いにはなりません。反対にどんなに多くの遺産を相続しても、自分が不当に扱われたり、損をしていると感じてしまうと合意できなくなります。


そのため、遺産分割が「争いのステージ」に上がってしまうことは一番残念な状況であり、なるべく穏やかに話合うことこそが問題解決の糸口なのです。


「お金と血」が絡む争いほどこじれる争いはありません。このコラムを読んでくださっている方の中に「まだ何も相続対策をしていない」という方がおられましたら、残される家族のためにも、対策や準備を進めていただければと思います。


残念ながら、先代の相続でもめている、もしくはもめそうだという方がおられましたら、ADRを活用しての解決をお勧めいたします。



小泉 道子

 著者
家族のためのADRセンター
センター長 小泉 道子

家庭裁判所で15年勤務した後、民間の仲裁機関「家族のためのADRセンター」を設立。離婚や相続といった親族問題を専門に取り扱っている。 モットーは、「親族問題こそ、穏やかに解決!」




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