中小企業経営者の資産運用① 余剰資金を資産運用に活用する理由
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障がい者雇用の法定雇用率2.2%の未達成率はなんと54%(義務づけられた企業およそ10万社のうち)に上る。障がい者がいきいきと働くことのできる社会の実現を掲げ、革新的なサービスを提供している株式会社アクティベートラボ。今回、自ら障がいがある代表取締役 増本裕司 氏に話を聞いた。
増本氏は右半身麻痺、身体障害者等級2級の重度の障がい者である。これは先天的なものではなく、2009年に起きた脳出血によるものであった。
当時日々の激務で身体を酷使していた増本氏。職場で突然倒れ、気が付いたら病院のベッドの上だった。話せない、ベッドから起き上がれない、ご飯を食べるのもままならない状態に愕然とした。
そこから4年間、必死のリハビリ生活が続いた。その間、「障がい者をしこたま見てきた」と増本氏は言う。
「精神障害も、発達障害も。身体障害も。その実体験があって、それを分かってほしいという思いが今の仕事につながっている」。
リハビリ生活を終え、増本氏は再就職の場を探した。しかし面接で開口一番聞かれる質問は決まっていた。
「通勤出来ますか?」
がそれだ。
「『何ができるか』とか『何をやってきたか』とかは聞いてくれないんです。私は運転出来るのですが電車通勤ができない。それを言うと、その段階で断られてしまいました」。
60社受けて決まったのはアルバイトたった1件のみ。惨憺たる状況だった。そして、ようやく採用が決まったその職場で衝撃的な一言を直属の上司にかけられた。
「増本さんはいるだけでいいよ」。
心無い言葉に「自分には存在価値がないんだ・・・」そう思いつめた増本氏は本気で自殺を考えた。
「僕のような人は一体どう過ごしているのだろう?」
ふとそんな思いが増本氏の心をよぎった。
しかし、右半身麻痺という同じような症状の人と出会う場はなかなかない。「だったら、自分で作ればいい!」そう考えた増本氏。2015年に株式会社アクティベートラボを立ち上げた。
まずは、障がい者の情報共有プラットホームである「OpenGate(オープンゲート)」を開発した。それは、文字ではなく絵で障がいの程度を伝えるシステムだ。
そもそも、障害者手帳の「障害部位の分類」は、「上半身」、「下半身」しかなかった。この区分けだと、右半身麻痺でも「重度」と捉えられてしまう。
「それなら、どこに障がいがあるのか、図で示せればいいじゃないか」、そう閃いた。
全身の部位を細かく分類したイラストを作成し、「ブイくん」と名付けた。これで自分の障がいを明確に伝えることができる。「障がいの可視化」に成功した瞬間だった。
写真)ブイくん(特許取得済み)
提供)アクティベートラボ
「ブイくん」は、「OpenGate」のトップページに設置した。するとどうだろう。「ブイくん」を見た人が、次から次へと自分のウィークポイントをクリックしていくではないか!
増本氏は自分が健常者の頃は、障がい者は自分の障がいを明らかにしたくないものだと思いこんでいた。しかしそれは大きな間違いだった。
「障がい者になって分かったことは、自分を含め、障害を明らかにしたい人が多いということでした」。
見た目には分からなくても自分には障害がある、ということを伝えたい人はたくさんいることに気づいた増本氏。「OpenGate」は、障がい者にとって、情報共有だけでなく、「気持ちのステップアップ」の場になっていることを実感しているという。
その後、1つの転機が訪れた。
他業種とのコラボだ。
大手家電量販店であるビックカメラが、増本氏たちに、障がい者に受け入れられる商品開発に手を貸してほしい、と言ってきたのだ。通常販売している商品を障がい者目線でレビューするというものであった。
増本氏らが「それならこの商品だ!」と思ったのは何だったのか?
答えは「捕虫器」。
何故か?増本氏が説明してくれた。
「我々は蚊を両手で叩くことができないんです。僕のように右半身麻痺だと、顔の右側に蚊が止まっていても気づかないので、やたら刺されてしまう。顔が虫に食われてパンパンに腫れてしまうことだってあるんです」。
だから捕虫器があると便利なのだ。増本氏は、「右半身麻痺や右手がない人に嬉しい」とコメントを付けた。売り上げは大幅に伸びた。
「わざわざ障がい者のために商品を作るのではなく、視点を変えることで既存の商品が障がい者にも便利に使うことができる。それに気づけただけでも大きかったですね」。
増本氏はそう語る。
「障がい者のために」ではなく「障がい者にも使える」というアプローチだった。
障害を持つ増本氏が実際に「使ってみたら便利でした!」と発信することで説得力が生まれるし、嫌悪感なく情報がすっと障がい者の中に入るのだという。
こうした異業種とのコラボ以外にも重要な取り組みが進行中だ。それが、「障がい者雇用の改革」である。
なかなか増えない障がい者雇用の現場では、雇う側と雇われる側の間に、ニーズのミスマッチがある。増本氏自身、面接では障害について話すだけで終わり、ということがほとんどだった。
「面接を”できないことのPR”の場ではなく、”できることのPRの場”にしたかったのです」。
そうした思いから、増本氏は自ら企業の面接に同席している。障がい者にできることを代弁するという新たなサービスを生み出したのだ。
それをアクティベートラボでは「障がい者翻訳」と呼んでいる。面接に来た障がい者がどのような能力を持ち、どう組織に貢献できるのか。それを引き出し、雇う側に伝えるのだ。
法定雇用率に達していない某大手企業の中には、年間約7,000万円の罰則金を求められるケースもある。そんな企業に対し増本氏はこうアドバイスする。
「とりあえず雇わなきゃいけないということで障がい者を雇用して、いい人材とマッチングできるわけないですよね?それこそリスクなんです」と。
障がい者が最も社会に貢献していると実感できるのはやはり働いている瞬間だ。そして働けば旅行等の娯楽を楽しみたくなるのは当然のことだ。しかし近くの目的地に行こうにも健常者が使える移動手段と障がい者が使えるそれとでは異なる。地図一つを取っても障がい者が使える道を示してはくれない。
アクティベートラボの次なる目標は、障がい娯楽を含め、障がい者にとっての新しいマーケットを創ることだ。障がい者のニーズを理解している同社だからことできることがある。
障がい者は世界中にいる。マーケットを、日本だけではなく、世界に向けて拡げていきたいと増本氏は目を輝かせる。キーワードは「グローバル」だ。
「もともと起業しようなんて思ったわけじゃないんです。自分の欲しかったものをただ単純に追及していったら、みんなの想いも一緒だったんです」。
日本も世界も、障がい者も健常者も関係なく活躍できれる社会になればいい。増本氏とアクティベートラボのみんなの瞳がそう語っていた。
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