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経営のヒント

「高年齢者雇用」の新しい仕組みが必要!

今後求められる70歳までの就業確保と企業としての対応

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この記事は6分で読めます

”1.2021年4月に、法改正により70歳までの就業機会確保が努力義務化_2.公務員の定年も2023年度より引き上げが始まり、2031年4月には65歳定年に_3.今後は70歳までを見通した上での職務設計と現役世代のキャリアパス整備が重要_4.同一労働同一賃金や各種法改正を踏まえた高齢者の賃金設計が求められる_5.高齢者雇用の推進を後押しする助成金制度の活用も要検討”

2021年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行され、従来の65歳までの雇用確保に加え、70歳までの就業機会確保の努力義務が求められるようになりました。そこで本稿では、この法改正の概要と、今後求められる高年齢者雇用の在り方についてお伝えします。

1 高年齢者雇用安定法の改正内容

(1) 従来の65歳までの高年齢者雇用確保措置の内容と現状

高年齢者雇用に関しては、高年齢者雇用安定法に基づき、これまで以下の2点の対応が企業に求められています

”1.60歳未満の定年禁止(高齢者雇用安定法8条)_2.65歳までの雇用確保措置(同法9条)_定年を65歳未満に定めている事業主は、原則として希望者全員を対象として、以下のいずれかの高齢者雇用確保措置を講じなければならない。_A)65歳までの定年引上げ_B)定年制の廃止_C)65歳までの継続雇用制度の導入”

この法律が施行されて以降、わが国の高年齢者雇用は着実に進展し、2020(令和2)年度の調査では、実に99.9%の企業において高年齢者雇用確保措置が講じられています。

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(2) 今回努力義務化された70歳就業機会確保措置

2021年4月に高年齢者雇用安定法が改正され、70歳までの就業機会確保の努力義務が課せられました。ここで誤解してはならないのは、従来の65歳までの雇用確保措置については特に変更がないということです。

 

図表2「今回の70歳就業機会確保の位置づけ」がそのイメージとなりますが、高齢者雇用は3階建ての家に例えると分かりやすいでしょう。従来の高齢者雇用は2階建ての家でした。1階は60歳定年の現役世代、そして2階が65歳までの雇用機会確保義務だったのです。今回の法改正では、この2階までは一切変更することなく、70歳までの就業機会確保の努力義務という3階が増設されました。


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その3階部分に該当する65歳から70歳までの就業機会確保ですが、その対応においては以下の5つの選択肢が設けられています(図表3)。

”65歳から70歳までの就業機会確保への対応_1.70歳までの定年引上げ_2.定年制の廃止_3.70歳までの継続雇用制度の導入※特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む_4.70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入_5.70歳まで継続的に事業主が実施する社会貢献事業等に従事できる制度の導入”

このうち、①から③までは、65歳までの雇用確保措置と同じ内容が並んでいます。ただし、③の継続雇用制度については、その対象範囲の拡大が行われています。65歳までの雇用確保措置においては、継続雇用を行う事業主は、定年前に雇用されていた事業主(自社)もしくは、自社と資本的・人的関係等があるグループ企業(親会社、子会社など。「特殊関係事業主」と呼ばれる)とされていましたが、65歳以降については、これらに加え、資本的・人的関係等が存在しない他の事業主で雇用される場合であっても、就業機会確保措置が講じられたとされることになりました。

 

さらには、④⑤の選択肢が追加されています。これらは「創業支援等措置」と呼ばれ、雇用ではなく、業務委託契約に基づき就業機会の確保を行う新たな選択肢となります。65歳以降の就業については、多様な働き方が求められ、また一律に雇用とすることは企業の大きな負担にもなることから、このような選択肢が設けられています。

2 高年齢者を雇用するメリットと留意点

(1) 中小企業にとって高年齢者を雇用するメリットと留意点は

少子化による労働力人口の減少が続く中、今後は多くの企業が人材確保難に陥ると予想されています。今回のコロナ禍において、飲食・旅行などの業界は大打撃を受け、有効求人倍率も急落しましたが、昨年夏頃には1倍を割り込むことさえなく下げ止まり、既に有効求人倍率は上昇を始めています。これでワクチン接種率が高まり、経済活動が本格的に再開してくると、多くの企業が深刻な求人難に陥ることは確実な状況です。それだけに高年齢者活用などにより人員を確保することは、事業継続における重要なテーマとなっています。

 

しかし、現実を見ると、高年齢者雇用はその企業の業種や業務内容によっては悩みの種であることも少なくありません。具体的には、体力が求められるような職種、若者向けの商材を扱うような企業などでは、人事担当者がその配置や処遇に頭を悩ましているケースがよく見られます。そうしたケースでは、これまでの経験を活かし、後輩指導や重要顧客のサポートなどの業務を担当してもらうということが理想的ではありますが、すべての対象者について、そのような職務を設定することは難しいというのが現実ではないかと思います。

 

一方で、ビルメンテナンス、警備、介護など、高齢者を積極的に雇用し、活用しようとする業種も存在することから、今後の生涯現役時代においては、そうした業種間の失業なき労働移動の仕組みも求められることになるでしょう。その意味では、40代・50代のうちから、従業員に自らのキャリアを考えさせる場を用意することも企業としては重要な取り組みであると言えます。また高年齢者雇用が難しい企業であれば、積極的に兼業副業などの柔軟な働き方を認めるなどして、従業員のキャリアチェンジが円滑に進むような環境整備を行っておくことも、ある意味で誠実な対応ではないかと考えられます。

 

(2) 高年齢者雇用に関する助成金

高年齢者雇用は重要な政策であることから、複数の助成金制度が設けられていますが、その中でも今年もっとも注目を集めているのが「65歳超雇用推進助成金」です。

 

65歳超雇用推進助成金は、65歳以上への定年引上げや高年齢者の雇用管理制度の整備等を行う事業主に対して支給される助成金であり、今回の法改正の対応を進める際に活用できます。例えば、一定の要件を満たしたうえで定年を70歳に引き上げる場合には、60歳以上の従業員数により120万~160万円が支給されます。

 

また新規で高年齢者を雇用する場合には、特定求職者雇用開発助成金などの助成金が用意されています。

 

こうした助成金に関する情報は厚生労働省のホームページなどで入手できますので、確認をお薦めします。もっとも助成金制度は、受給額以上の負担(人件費増など)が必ず発生しますので、短期的な受給額だけで判断するのではなく、継続的にその制度を運用できるかという視点で慎重に判断いただくことが肝要です。

3 高年齢者雇用の仕組み作り

高年齢者雇用は文字通り、転換期にあります。というのも、従来は60歳定年後、処遇を大幅に引き下げたうえで、65歳まで継続雇用するということが一般的に行われていましたが、その前提となる環境や法制度が近年、大きく変わってきているからです。

 

具体的には図表4「高年齢者雇用を取り巻く環境の変化」にまとめましたが、現在の多くの企業の高齢者雇用の仕組みは、60歳定年制を前提に設計されています。今後、この定年自体が65歳に延長され、さらには70歳までの就業を確保しなければならない時代になっていきます。当然に人件費は増加しますが、高年齢者にも一定範囲で同一賃金同一労働が適用されることから、今後、処遇減を巡る紛争が増加し、その対応が急務となるでしょう。

 

こうした環境を受け、高年齢者雇用に関しては、雇用の在り方、賃金設計共に新しい時代に対応した仕組みにバージョンアップすることが求められます。若手従業員からすれば、高年齢者雇用の拡大は自らの給与が上がらない原因のように映り、不満の原因となることさえあります。そうした現実を踏まえ、全体最適での制度構築と運用が求められます。

”1.定年等に関する法改正_・70歳までの就業機会確保の努力義務化(将来的には措置義務化の可能性が高い)_・公務員の65歳定年制導入(将来的には民間企業への拡大が予想される)_2.人材確保_・少子化による労働力確保難の深刻化_3.賃金設計に関する各種制度の見直し_・定年再雇用者にかかる同一労働同一賃金の適用_・年金支給開始年齢の65歳への引上げ_・雇用保険高年齢雇用継続給付の支給率引下げ(2025年4月より支給率が最大15%から10%に引下げ)”

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【著者】

大津 章敬(おおつ あきのり)

社会保険労務士法人名南経営 代表社員(社会保険労務士)

従業員と企業の双方が「この会社で良かった」と思える環境を実現する人事労務コンサルタント。企業の人事制度整備・就業規則策定など人事労務環境整備が専門。愛知県社会保険労務士会では常任理事・研修部長として、会員社労士への教育研修の企画責任者を務めている。出版も積極的に行っており、「中小企業の『人事評価・賃金制度』つくり方・見直し方」(日本実業出版社)ほか18冊の著書を持つ。

この記事に記載されている法令や制度などは2021年6月時点のものです。

法令・通達等の公表により、将来的には制度の内容が変更となる場合がありますのでご注意ください。


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