インボイス制度導入でどうなる? 税務調査の方針と留意すべきポイント
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ITやシステム投資という言葉に不快感を持つ中小企業経営者は少なくありません。かつて、相当な資金を掛けたにもかかわらず、使い物にならなかったという嫌な思い出があるからです。
しかし、DX(デジタルトランスフォーション)は別物です。もちろん、デジタルやIT技術は使いますが、それは後の話。まず、大切なのはトランスフォーメーションなのです。つまり、企業や事業の形を変えることこそDXの本質です。
神奈川県小田原市のコイワイは従業員が関連会社を含めて150名ほどの鋳造会社です。自動車部品、特にエンジン部品に強く、国内ほとんどの自動車メーカーと取引しています。一見、変哲もない鋳造会社がなぜ、こうした大手一流メーカーと取引しているのか、それは小岩井豊己社長が2007年から果敢に会社と事業の形を変えてきたからです。当時の日本ではもちろんDXという言葉もありませんが、小岩井社長はひたすら生き残りを図り、鋳造のデジタル化を図ってきたのです。
伝統産業の鋳物のどこにデジタルが使えるのかと思うでしょうが、小岩井社長は砂型を革新しました。07年にドイツから高額なレーザー工法装置を導入、国内で初の3Dプリンターによる砂型づくりに成功しました。これによって納期が2週間から2~3日になりました。その後も、金属粉末を電子ビームで成型する3Dプリンターを導入、鋳造では難しかった複雑な形状の鋳物を可能にしたのです。しかも、砂型がデジタル化されることでベテラン職人の技が記録され再現性が高まり、取引先の要望に正確に応えられます(図表1)。
このレーザー工法が、今後業界に広がっていったら、鋳造という古来のビジネスモデルが一気に変わり、知らないうちに注文が消えていたという事態になりかねません。
これがDXなのです。いま、世界で起きていることは、DX化に成功した企業が一夜のうちに優位に立ち、しかも競合を圧倒するという現実です。中小企業にとっても対岸の火事ではなく、明日の朝に天地がひっくり返っている可能性もあるのです。
このように、DXはただのIT化と全く次元の違う話です。DXの目的はビジネスモデルを変えることにあり、その結果として業務プロセスも変革を求められます。同時に、変革の方針は顧客起点であること、つまり顧客の体験価値、満足度を向上させることです。これはコイワイのように伝統産業も例外ではありません。自社の合理化や利益率アップが狙いではないのです。
海外ではDXが生き残りのカギとなっていますが、日本ではまだ95%の企業がDXに取り組んでいないか、取り組み始めの状況です(経済産業省「DXレポート2 中間取りまとめ(概要)」令和2年12月28日)。しかし、「大手も始めていないのだから中小など先の話」というのは間違いです。中小企業こそDXに取り組むべきだし、実は取り組みやすいのです。
なぜなら、大手に比べて事業や組織が複雑ではないので着手しやすく、成果も出やすいからです。さらに経営者がリーダーシップを発揮すれば組織の舵を切りやすい。もちろん、社員や取引先などの反発があるかもしれませんが、やり切るという経営者の強い意志が何より成功の条件になります。
政府も企業のDX推進には力を入れており、2018年には経済産業省が日本企業のDXの実態と必要な施策を取りまとめた「DXレポート」を公開しています。
また、2021年度の税制改正で「DX投資促進税制」を創設しました。これは図表2にあるような条件の下、デジタル技術の新設・増設費用の一定額を控除する制度です。
ただし、優遇税制があるからDXを始めようというような安易な考え方ではまず成功は見込めません。例えば、パソコンを入れてリモートワークを始めることは決してDXとは言えないのです。
適用時期:2023年3月末期限であった「DX投資促進税制」は、2023年度税制改正において2025年3月末まで延長されました。(2024年3月追記)
DX導入にあたって、まず着手するべきことは、業務・事業の見直しと自社の強みの棚卸しです。今後、生き延びるために事業をどうしていきたいのか、あるいはどうするべきなのか、従来通りの顧客相手でいいのかを社員一体となって検討するとともに、自社が持つ技術力やノウハウの本質は何か見つめ直しましょう。意外と自分では自分の良さが見えないものです。必要に応じて取引先など社外にアンケートして自社を再発見するべきでしょう。
その上で、顧客や社会のために何ができるのか、何をしたいのか、自社の事業の目的を見定めて、最も効率的に目的を達成する業務プロセスを構築する。そこから、ようやくデジタルの出番で、ITやデジタル技術で代替できるプロセスを抽出し、システム構築します。
これらをまとめたものが図表3です。
なお、システムの構築にはさまざまな困難が伴いますが、よくある失敗パターンを掲げておきますのでご参照ください(図表4)。
システム構築にあたっては、外部のシステム会社を活用してもいいですが、基本的には社内で要件定義まではできるDX人材を養成します。やる気のある社員ならばベテラン、若手を問わず投資して育てましょう。経営者が考えるよりもやる気のある人材はいるものです。まずは、人選から始めてはいかがでしょうか。
【著者】
吉村 克己(よしむら かつみ)
ジャーナリスト
経済誌やオンラインメディアを舞台に、企業経営者(特に中小企業)、専門家などのインタビュー記事や経済・ITに関する記事を多数執筆。著書に『全員反対! だから売れる』(新潮社2004年)、『満身これ学究 古筆学の創始者、小松茂美の闘い』(文藝春秋2008年)、『大好きなニッポン、恥ずかしいニッポン』(マガジンハウス2011年)、『おっしゃん二代記』(コミー2018年)などがある。
この記事に記載されている法令や制度などは2021年4月20日時点のものです。
法令・通達等の公表により、将来的には制度の内容が変更となる場合がありますのでご注意ください。
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