インボイス制度導入でどうなる? 税務調査の方針と留意すべきポイント
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「ITで流通を変える」を標榜し、福岡を拠点に全国規模で小売、流通、IT事業を手がけるトライアルグループ。トライアルグループ会長の長男で、グループ企業「株式会社Retail AI」の代表取締役社長 永田洋幸氏は、IoTデバイスを取り入れた店舗設備の開発、ビッグデータを活用したマーケティングやサプライチェーンの効率化を進めている。
写真)トライアル長沼店
提供)株式会社Retail AI
Retail AIは九州地方を中心にIoT技術を導入した「スマートストア」化に向けた取り組みを進めてきたが、7月に関東地方で初めての「スマートストア」として『スーパーセンター トライアル長沼店』をリニューアルオープンさせた。
写真)トライアル長沼店 入口
提供)株式会社Retail AI
「スマートストア」といわれてもイメージがわかないかもしれない。従来の小売店舗と何が違うのか。デジタル技術を用い、店舗運営の効率化や顧客体験の向上を図る実店舗であり、レジ無し等を実現している。
写真)クイックゲート
提供)株式会社Retail AI
まず、店内には大量の小型カメラ「リテールAIカメラ」が設置されている。そのカメラで、利用客の店内動線や棚の前での行動、商品の売れ行きに関するデータを収集しているのだ。
写真)リテールAIカメラ
提供)株式会社Retail AI
また買い物カートにはタブレット端末が装着されている。その「スマートショッピングカート」を活用し、プリペイドカードの属性情報をベースに、利用客の店内行動を分析したAIが利用客に最適な商品を提案してくれる。プリペイドカードによるセルフレジ機能を搭載しているので、決済はタブレット上で完結。専用レーンを通過するだけで決済ができるのは嬉しい。
写真)スマートショッピングカート
提供)株式会社Retail AI
新型コロナウイルス感染症の拡大が止まらない中、予定より2か月ほど遅れてのリニューアルオープンとなった長沼店。初めてスマートストアを関東に出店させた手応えはどうなのだろうか?
永田氏は「良い滑り出しでスマートショッピングカートを含めたIoTデバイスなどの導入は進んでいる」と自信を示した。
「スマートショッピングカート利用率は35%ほど。40代以上のお客さまが全体の8割近くを占めています」
写真)カート スタート画面
提供)株式会社Retail AI
プリペイドカードを持ってスマートカートで決済する世代というと、毎日通ってくる主婦が多いからかもしれない。
「30代以下の若い世代の利用者が少ないのが課題ですが、30代以下の利用率だけを上げるのではなく、全世代での利用率を上げることが重要だと考えています」
資料)長沼店レジカート利用者年齢別構成
提供)株式会社Retail AI
永田氏はデータやAI技術を活用することで、流通業界の構造改革を図り社会課題を解決したり、新たな購買体験を通じて消費者の生活の質を向上させたりする、いわゆる「流通情報革命」を標榜している。
そして、小売・卸・流通・メーカー・冷蔵ショーケースメーカーが連携したリテール AIプラットフォームプロジェクト、「リアイル」を立ち上げた。トライアルが店舗とリテールAI技術、サントリー酒類と日本ハムがメーカー、日本アクセスが卸、フクシマガリレイが冷凍冷蔵ショーケース、ムロオが物流をそれぞれ担い、IoT/AIを活用しながら、流通業界全体の最適化に挑むという、業界注目の取り組みだ。
すでに成果は出始めている、と永田氏は自信を示す。そうした中での新型コロナ感染拡大だ。小売業への影響を懸念する声もあるが、ウィズコロナ時代の生活様式の変化は、永田氏が進める「流通情報革命」にとって、思いがけない追い風となっている。
写真)カート クーポン画面
提供)株式会社Retail AI
「ニューノーマルによってリテールDX(デジタルトランスフォーメーション)は『いつかやらなきゃいけない』という認識から『やらなければならない』という危機感へと変化しています。私たちがやってきたことが必要とされる環境が出来つつあると感じています」
IoTデバイスを駆使した情報収集がRetail AI最大の強みだが、ただデータを大量に集めるだけでなく、得られたデータをどのように売り上げに繋げるかが重要だと、永田氏は語る。
「例えば、お客さまの動線のデータを取っている企業は他にもありますが、そのデータから次に何をどうするのか、という落とし込みがものすごく大事です」
データから得られた知見を、欠品管理や商品の配置などに反映させていくというわけだ。
写真)AI棚欠品検知
提供)株式会社Retail AI
「常にトライアンドエラーの繰り返しなのです」
リテールAIカメラやスマートショッピングカートから得られる膨大なデータは、メーカーの新規商品開発にも応用されている。「リアイル」プロジェクトの一環として、メーカーの依頼を受けて、商品開発戦略に携わる機会も増えているという。
これまでメーカーは、新商品発売時には膨大な広告費を使っていた。しかし、Retail AIのデータを活用することで、商品の売れ行きを検証することが容易になる。その結果、商品開発のスピードを早めたり、消費者のニーズにより合った商品を開発できたりするようになるのだ。
新型コロナウイルスの感染拡大による生活様式の変化によって、小売業を取り巻く環境は大きく変化している。
「新型コロナの影響で人々の行動習慣が大きく変化したことで、既存のデータが全て使えなくなってしまいました。例えば『夏暑いとビールが売れる』といったこれまでの常識は、在宅での消費が中心となったことで覆されました」
写真)長沼店店内(AIカメラ有り)
提供)株式会社Retail AI
しかし、先行きの見えない状況だからこそ、Retail AIが集めるデータは事業戦略を考えるうえで有意義な材料になる、と永田氏は語る。
「すぐにデータが取れて、検証でき、現場に活かせる(体制)はニューノーマルにおいて極めて重要です。私たちもつねにスピード感をもって変化しなければならないと感じています」
「流通情報革命」を目指し、新たなプロジェクトを進める永田氏だが、事業承継についても先を見据えている。事業承継にあたって最も重要なことは何かを聞くと、「文化を大切にしたい」と即答した。
「重要なのは継承者を決めるのではなく誰でも継げる『文化』を社内に浸透させることだと思います」
写真)株式会社Retail AI 代表取締役社長 永田 洋幸 氏
提供)株式会社Retail AI
企業理念(ミッション・バリュー)も含めた企業の「文化」を経営陣だけでなく社員全員が理解できるよう、永田氏は普段から意識しているという。
「今のステークホルダーは配当金目的だけではないという状況にきています。ガバナンスをしっかりできる形を取らないと、事業の継承は思うようには進まないことを日々自覚しています」
最後に今後の取り組みについて聞いた。
「進めていきたいのは、AIカメラの導入を更に進めて、スマートショッピングカートの利用率をもっと上げ、生産性を上げていくことです。また他の小売会社に自社のシステムを提供する中で、満足度の高い結果を出していくことです」
写真)カート置場
提供)株式会社Retail AI
ライバル会社に自社のシステムを提供すれば、競合が激しくなるのでは?
その懸念を永田氏は一蹴する。
「まずはお客さまの顧客体験を変えなければならない」と信じているからだ。確かに、未だにほとんどの小売店がレジを使用している。私たち消費者も、スーパーはレジに並ぶもの、と思っている。
永田氏は、IoT/AI技術をリアル店舗に導入することを通して、スマートショッピングカートが実現するレジ無し等の新しい買い物体験を消費者に知ってもらうことが先決だと考えている。多くのスーパーがRetail AIのIoTシステムを採用すれば、消費者が変わることで、流通業界全体の構造が変わっていく流れになる。
また、別の観点からもレジを使った決済は、利用客と店員の接触が避けられないのに対して、「スマートショッピングカート」は手に取った商品をそのまま買い物袋に入れて持ち帰ることができるので、接触の機会を大幅に減らすことが出来る。
写真)ゲート
提供)株式会社Retail AI
「接触を減らすことができるという意味で、ニューノーマルに最適なショッピング体験だと思っているので、もっとお客さまに使って頂きたいですね」
「流通情報革命」が生み出す新しい購買体験。既にトライアルのスマートストアで実現している。
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